少年は魔法使いになった。   作:泥人形

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エクストリームハーツが楽しみになってきたので更新です。お腹が減ったので次の更新は一か月後だと思います。


アリサ・バニングスは敬愛すべき親戚である。

 まさか、アリサ・バニングスの話をする時が来るだなんて、夢にも思っていなかったのであるが、しかし、そのまさかが来てしまったのだから、いつも通りため息交じりに諦めて、語るしかないのであろう。

 なんて、そんなことを軽々しく口にしてしまえば「何よ? そんなにあたしの話がしたくないって訳?」などという、実に恐ろしい詰め方をされてしまうので、ここは語る機会をいただき、有難き幸せでございます……と、表面上はそう言っておこうと思う。

 初めて邂逅したその瞬間から、完全無欠な、天地がひっくり返っても、ここの関係がひっくり返るようなことはあり得ない上下関係を刻んできた、我が愛しくも疎ましい超遠縁な親戚のことを、思い出しながら。

 アリサ・バニングス。十七歳(今年で十八だったとは思うが、如何せん誕生日を忘れたので今が十七なのか、十八なのかが分からない)。高校三年生。大企業の経営者を親に持つ、いわゆるお嬢様。

 学力は非常に高く、身体能力も並以上。良く手入れされたミルキーブロンドヘア。真面目かつ、面倒見が良い。けれども苛烈。

 どこまでも真っすぐで、己が一度信じた道は大体譲らない──と、このように幾つかの、特別目立って見える要素をピックアップしてみたは良いものの、しかし、アリサ・バニングスという人間を表すには少々どころか、全く物足りないというものであった。

 いや、まあ、何だって、誰だってそうだとは思うのであるが、直接向き合わなければ、その人となりと言うのは分からないというものであった。

 無論、向き合ったからと言って、話し合ったからと言って、必ずしも分かるというものでも無いのであるが──こと、アリサ・バニングスについては、その心配はいらないと、少なくとも俺は思う。

 直接関わったことのある人であれば、ニュアンスくらいは伝わると思うのであるが、彼女ほど分かりやすい人も、そうはいない。

 だから、矛盾した物言いにはなってしまうのであるが、正直なところ、アリサ・バニングスについて語る必要はそこまでない。

 語るまでもなく、一度関わればある程度は分かってしまうのだから、当然だ。

 とはいえ、そのような手抜きじみたことをしでかしてしまえば、本当に俺が締め上げられてしまいかねないので、ここはひとつ、諦観にも近い気持ちで、丁寧に、隅から隅まで詳細を語るとしよう。

 気は進まないが、まあ、仕方ない。

 嫌というほどでもないのだから、早々に切り替えるとしよう。

 あわよくば、これで機嫌の一つでも取れることを期待して。

 アリサ・バニングス。太陽のような女。

 あの、どこまでも強く、自信に満ち溢れ、ともすれば自然と尊敬してしまうような、偉大なる我が親戚の姉の話をどうか、聞いていってほしい。

 

 

 

 

「纏くんって次の長期休暇、特に予定とか入ってる訳ないよね?」

「おっ、今日も絶好調ですね、()()()()

「露骨に距離を取られた!?」

 

 謝るから許してよ~、とふにゃふにゃ笑うのは、最早今更になっては当然というか、むしろこの人しかいないってくらい、なのはさんだった。

 最近は俺の扱いが随分とぞんざいになって来ているのでは、と俺の中で良く名前が挙がる、あのなのはさんである。

 丁寧に接してくれないと本当に、うっかり死んじゃうということを今度ちゃんと説明した方が良いのかもしれない。

 

「もしかして、予定とか入ってた?」

「ふっ、嘗めないでください。俺は一人遊びの達人ですよ? まぁ、何かするか……という予定で埋まりつくしています」

「つまり暇なんだね」

「はい……」

 

 通勤か通学以外で予定が埋まったことがほとんど無いことで有名な俺である。

 休日の主な過ごし方は睡眠と掃除。それからネットサーフィンとお料理だ。

 

「ん、でもちょうど良かったよ」

「え? 何が?」

「何がって言われると……都合が?」

「えぇ、もう嫌な予感しかしない……帰っても良いですか?」

「ダメです~。ほら、こっちのケーキあげるから、ね?」

 

 あーん、と言いながらフォークに突き刺したケーキを向けて来るなのはさんだった。

 普通に恥ずかしいからやめて欲しいのであるが、無視したら無視したで面倒なのでパクついておく。

 多分この人、俺を人じゃなくて小鳥か何かだと思ってるんだよな……。

 明らかに親鳥が雛鳥に飯を上げるテンションなんだよ。

 

「ん、ショートケーキも中々いけますね」

「でしょ? そっちのも欲しいなぁ」

「はいはい、分かってますよ」

 

 と、同じようにケーキを渡す。

 傍から見たら完全にバカップルのそれであるのだが、もう仕方がないだろう。

 何か……こうしないと不満げな目で見てくるのだ──と、今更ではあるが、場所はとある喫茶店である。

 つい先月オープンしたばかりであり、行ってみたいねと(なのはさんが)話していたのだが、偶然にもテキトーに入れた半休が被ったため、足を運んでいるという訳だった。

 まあ、ケーキ食ってご満悦ななのはさんを見るのは普通に眼福なので、ありがとうございますって感じである。

 

「では続きをどうぞ」

「あ、うん──もしかしたら、フェイトちゃんから聞いてるかもしれないんだけど、私もはやてちゃんもお休み取れたんだよね」

「おぉ、珍しい……。八神さんはともかく、なのはさんが休むだなんて」

「纏くんは私を働くロボットか何かだと思ってない?」

「なーんだ、自覚あったんで」

 

 ──すか。とまでは言えなかった。

 なのはさんが満面の笑みで俺を見ていたからである。

 ふー、やれやれ。

 今日が俺の命日らしいな。

 

「流石に殺しはしないよ!?」

「殺す寸前まではやるってことですか……!?」

「ちょっと厳しめの訓練入れてあげようかな? って思っただけですっ」

「えぇ……」

 

 それはただの死刑宣告って言うんだよ、とは言えなかった。

 流石に俺も命は惜しい。

 これ以上続けるのは危険だと判断し、話の先を促した。

 

「そうそう。それでね、私たち地球に帰るんだけど、纏くんも来ない?」

「なるほど。嫌です」

「早いな~。私の友達、紹介したかったのに」

「う、うわー……」

 

 出たよ、陽キャ特有の友人紹介。

 友達の友達同士なんだから仲良くできるっしょ? みたいな思考をナチュラルにできちゃってる辺り、種としての違いをひしひしと感じてしまう。

 そんなの気まずいだけに決まってるんだよな、主に俺の方が。

 俺のコミュ力を嘗めないでほしい。

 最近だとそうは見えないようなことが多いが、しかしそれは、なのはさん達のぶっ壊れたコミュ力に救われているだけで、俺自身は普通にただのコミュ障である。

 結局、一年経ったのに同期の友人が一人もいないことからも、それは伺えるであろう。

 仮に紹介されたとしても「あ、ど、ども……よろしゃす……」の一言で場の雰囲気を破壊する未来しか見えなかった。

 

「それに、なのはさん達の故郷って、同じ日本って言っても県とか違うし、泊まる所探すのとか面倒だから嫌ですよ」

「? 私の家に泊まっていけば良くない?」

「!? 何を言っているんですか!?」

「フェイトちゃんも泊まる予定だし、部屋もあるから大丈夫だよ?」

「そういう問題じゃねぇだろ……!」

 

 まず、ハラオウンさんと同じノリで俺を泊めようとするんじゃない。

 無警戒が過ぎるだろ、あらゆる方面に対して。

 もう少しお年頃の女の子であるということと、実家に男を泊めるということの意味をちゃんと考えて欲しかった。

 

「でも、私は纏くんのこと信用してるし……」

「え? 何それ嬉しい……」

「纏くんが女性を襲えるわけないもんね」

「え? 何それあんまり嬉しくない……」

 

 何か、絶妙に喜べない信頼を向けられていた。というかこれはもう、遠回しな罵倒じゃないか?

 確かに襲うとか、考えることすら不敬であると思っているが……。

 とはいえ、仮に付き合ってる男女だとしても、彼女の実家で彼女を襲うやつは結構ヤバそうなものである。

 もう少し理性を利かせた方が良いと思うな。

 

「お父さんとお母さんにも紹介したかったのになぁ」

「友人相手にしたいと思うことじゃなくない? 距離が近すぎるだろ」

「んー、どうだろう。こんなものじゃない? ユーノくんも、しばらく家にいたことあるし」

「え?」

 

 ……えっ、え!? マジで!?

 スクライアさん、そこまで踏み込んでおいて、あんなまごまごとしたこと言ってんの!?

 嘘でしょ……。

 スクライアさんは二度と俺に嘗めた口きかないでほしいな、と強く思った。

 

「あはは、まああの時のユーノくんは、フェレットだったけどね」

「フェレット……?」

「うん、私がユーノくんと出会った時、ユーノくんはフェレットだったんだよ」

「??????」

 

 平然と意味不明なことを言い始めるなのはさんであった。

 多分、疲れてるんだろうな。

 なのはさん、動物の癒し系動画とか良く見てるし、うっかり混ざっちゃったのかもしれない。

 しっかり休んで欲しいものである。

 人から動物になったり、動物から人になったりするのは、ザフィーラさんだけで充分だ。

 心優しい俺は、やんわりと話を元に戻すことにした。

 

「まあ、ここまで聞いた結論としても、やっぱり嫌ですね」

「……どうしても?」

「~~っ! か、可愛い顔しても無駄ですからね。俺の意思は揺るぎません」

「強情だなあ」

「いや、強情とかって話じゃないと思うんですけど……」

 

 もしかして俺の方がおかしいのか? と思いかけてしまうくらいには、可愛い目を向けて来るなのはさんであった。

 去年までの俺だったら、コロッと落ちていたことであろう。

 鍛えられたことに感謝するべきかどうかは、ちょっと分からないが……。

 とにかく、ただでさえ他人と知り合うことに拒否反応を示す俺が、友人(しかも上司!)の親と顔を合わせるとか、無理に決まっているのであった。

 そもそも、何を話せっつーんだよ。

 お宅の娘さんには会う度しばき倒されておりまして……とか言えば良いのか?

 その場で殴り殺されても文句言えないだろ。

 

「それじゃあ、聞き方を変えてあげます」

「過程を変えても結果は変わりませんからね?」

「どうしたら来てくれるの?」

「ちょっと変わり過ぎだろそれは」

 

 とんでもなく直截的な質問に変えられてしまい、ちょっと動揺してしまった。

 それはもう話の趣旨が変わって来ない? って感じである。

 だが、まあ……どうしたら、か。

 

「どうしても行きたくない、ですかね……」

「何がどうあっても?」

「そうですね……ミッドチルダが滅んで俺の実家も消し飛ぶくらいの事件が起きない限りは、行きたいとは思わないです」

「そ、そんなに!?」

「それくらいハードルが高いと思っていただきたい、ということです」

 

 そもそもの話であるが、以前、八神さんの家にお邪魔した時でさえ、心臓が本気で弾け飛ぶかと不安になったほどなのである。

 それが今度は実家って……。

 無理だろ。

 ちゃんと死ねるかどうかすら不安になって来るレベル。

 

「ホテルは私が探すし、お金を出すと言っても……?」

「何か執着が凄くない? そこまでされたら流石に申し訳なさが先立っちゃうんで……」

「むぅぅ~……うぅん……いや、そっか。やっぱりそうだよねぇ、それじゃあ、仕方ないね」

 

 となのはさんは少しの抵抗の後に、笑ってそう言った。

 意外──と、言うほどでもない。

 なのはさんは元より、あまり他人に無理強いはしない人だ。

 最近の雑な扱いで忘れがちであるが、基本的に優しくて、他人思いな人なのである。

 そんななのはさんが「はぁ」と小さくため息を吐いた。

 

「あーあ、纏くんと遊びたかったのになあ」

「うわーっ、急にそういうこと言い始めるのやめてくださいよ! 罪悪感が出てきちゃうでしょう!?」

「せっかくのお休みだし、色々考えてたのになあ」

「ぐぅぅぅぅ……!」

「フェイトちゃんとはやてちゃんとも、楽しみだねって話してたのになあ」

「ズルすぎる……! そこでその二人の名前も出してくるのは本当に卑怯……!」

「どうせお部屋でゴロゴロしてるだけだろうから、連れ出してあげようと思ったのになー」

「いやそれは普通に好きなんで、むしろ遠慮したいくらいですね」

 

 ゴロゴロするのも、ダラダラするのも大好きな俺であった。

 あの、「今日は何も無い日だ~」という休日特有の心地よさに身を委ねながら、無駄にネットを漂ったりするあの時間が、人に許された最も贅沢な時間の使い方だと、俺は思うのだ。

 何もしない、は悪いことではない。

 むしろ何もしないということ自体が、贅沢極まりないことなのだから。

 

「纏くん、そんなんだからヒモ志望って言われるんだよ……?」

「一番ヒモ志望だって思い込んじゃってるのは、なのはさんなんですけど……!?」

 

 ここらで専業主夫とはなんたるかを、懇切丁寧に説いてあげるべきかもしれない。

 俺にはその義務がある──いや、そんなことは全く無いんだけれども。

 俺のイメージをそろそろ塗り替えなくては、その内新しく入ってきた局員の子にすら「あっ、噂のヒモの……」とか言われかねない。

 既に、若干危ういのである。

 俺の評判を上げるためにも、定期的に「専業主夫とは何か」を語る日を設けた方が良いかもしれなかった。

 

「ま、ですが俺はそのくらいで屈しませんからね。連休はハラオウンさんと、八神さんと、それからお友達と仲良く楽しんできてください。あっ、でもお土産は欲しいですね……」

「そういうのは欲しいんだ」

「人から何かを無償で貰う、という事実がもう最高に嬉しいと思える人種ですからね、俺は。甲子園の土でも、その場で踊れるくらいには喜べますよ」

「何かすっごい嫌な言い方だ……」

 

 とか言いつつも、「仕方ないなぁ」と笑って言ってくれるなのはさんであった。

 これだから好きなんだよな、なのはさんのこと。

 大体において、甘やかしてくれる人間には好感度振り切れ気味で、自分でもどうかとは思うのであるが……。

 まあ、少なくとも連休明けに楽しみが出来たな、とそう思った──こともあったなぁ、等と思う。

 連休三日目。俺は家ではなく、屋敷にいた。

 いや、いいや。

 意味不明だろうから、もっと明確に、分かりやすく言うことにしよう。

 俺はミッドチルダにあるボロアパートではなく、地球の海鳴市とかいう所に住んでいる、親戚の屋敷にやってきていた。

 理由はある。しっかりとしたやつが──と言うと、何だか酷く重要で、俺の人生に関わってきそうな雰囲気になってしまうので、そうではないと言っておこう。

 では何なのか? と問われれば、俺が今、土下座の態勢に入っていることを鑑みれば、言うまでもないだろう。

 頭を下げた先にいる、アリサ・バニングス──アリサ姉さんが、頬杖を突きながら俺を見た。

 

「それで、何か言いたいことは?」

「ラインの通知を一人で999+まで溜めるのはやりすぎ。俺じゃなかったら引いてますよ」

「そこはまず、あたしに謝罪をするところでしょうがぁ!」

「ぎゃーっ! ごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

「まったく、毎日やり取りしてた相手が突然音信不通になって、一年も放っておかれたあたしの気持ちを、少しは慮ろうとは思わないの?」

「いや、正直俺のことなんてとっくに忘れてるものかと……」

「あんたはあたしをどれだけ薄情な人間だと思ってる訳……!?」

 

 忘れるわけないでしょう!? と怒髪冠を衝きながら、普通に嬉しいことを言ってくれるので、反省して良いのか笑顔になって良いのか分からなかった。

 というか、普通に嬉しくて満面の笑みになってしまい、鋭く頭を叩かれた。

 

「ちゃんと、説明くらいはしてくれるんでしょうね?」

「え? 親父か母ちゃんからは聞いてないんですか?」

「もちろん尋ねはしたわよ。でもね、どっちも、あんたの口から聞いてないなら、言えないって言うの」

 

 それでいて、心配するようなことにはなってないとか言うんだから、困っちゃったわよ、とアリサ姉さんは憤慨しつつも息を吐いた。

 心配からの行動なのは分かるのであるが、そのままストレートに怒りの感情に接続しないで欲しかったな、と切実に思う。

 いや、こればっかりは──というか、何だかんだ大体の場合において、俺が全部悪いのであるのだが……。

 ぶっちゃけ、魔導師の説明とか面倒過ぎだったのである。

 理解を得られるかどうかも微妙なところだったし、あまりの怠さにスマホはベッドに叩き込み、ミッドに出てきた俺なのであった。

 では何故、今更こんなことになっているのかと言えば、母ちゃんから鬼電を食らった結果、連休は実家に帰ることになったからである。

 その際に発掘したスマホを見てみたら、一日数件ペースでメッセージが飛んできていたのであった。

 震えたね、流石の俺も。主に怯え的な意味合いで。

 何をどう返答すれば良いのか、正解が全く分からず、取り敢えず「お疲れ様です!」と言ってる狐のスタンプを送ったところ、爆速で拉致られたという経緯だった。

 鬼電してきた割には満面の笑みで「いってらっしゃい」とか言ってきた辺り、多分母ちゃんも共犯なんだと思う。

 そもそもアリサ姉さん自体、母ちゃんの方の遠い親戚だから、多分というか絶対そう。

 とはいえ、説明か……。

 面倒くさいな……。

 よし。

 

「では単刀直入に、一言で言います」

「ん、良いわね。好きよ、分かりやすく伝えようとしてくれる、その姿勢だけは」

「実は俺、就職しました」

「へぇ、何になったの?」

「公務員です!」

「あら、やるじゃない。具体的には何やってるの?」

「魔法使いです!」

「は?」

「毎日犯罪者追いかけ回して、資料作成・まとめ・整理しながらも、時には教官にぶちのめされてます!」

「纏……あんた、やっぱり頭が壊れちゃったのね……」

「やっぱりって何だよ」

 

 心の底から哀れみの目を向けて来るアリサ姉さんであった。

 なのはさんと言い、アリサ姉さんと言い、俺の頭を密かに心配していた人が多すぎるだろ。

 正常だから。正常でこれだから。

 心配は時に人を傷つけるということを学んで欲しかった。

 本気で俺が可哀想になってくる。

 

「ここで敢えて言うんですけど、今の言葉には一つも嘘が含まれてませんからね」

「え? じゃあ本当なの? 本当に、魔法使い──あ、いや、えぇと、魔導師になったってこと?」

「そうそう、そういうこ……ん? ちょっと待って? 何か詳しくない?」

「公務員ってことは、管理局? に務めてるってことで良いのかしら」

「?? な、なに? 何で分かるのん……?」

「あー、だから返信無かったのか。あんた、ミッドチルダってとこに移住したのね?」

「いや、待て待て待て待て! 怖い怖い! 何でそんなに詳しいの!?」

 

 普通は知らないであろう情報で、そのご自慢の脳みそを混乱させてやるぜ、と思っていたのに完全に想定外である。

 え? 何この人……。怖いんだけど……。何で分かるの?

 俺の心の中読み取ったりとかした感じ?

 プライバシー侵害で訴えようかな。

 

「流石の私も、心の中までは読めないわよ……」

「そうでもないと説明がつかないんだけど……え? じゃあ本当に何なの?」

「……いるのよ。あたしの友達に、魔導師が」

「はぇ~……世間って狭い」

「ていうか、クラスメイトだったわ。三人とも」

「三人!?」

 

 三人て。

 おかしいだろ。

 人脈がめっちゃ広いアリサ姉さんなら、まあ一人くらいは……と納得できるところであったのだが、三人はちょっと納得しづらいというものであった。

 というか、ぶっちゃけ有り得ない。

 ただでさえ、地球出身の魔導師なんて希少だというのに──いや、いいや。

 なんか、極身近に、そんなケースがあったような気がするな……。

 クラスメイトってことは、同い年だよな? それはつまり、今は十七か、十八ってことだ。

 なるほど、ね。

 猛烈に嫌な予感がしてきたな。

 

「その三人って、一人は茶髪でやたらと芯が通っててかっこいい女性なのに、プライベートだと柔らかい雰囲気で優しい、如何にも年頃の普通の女の子ですみたいな面した凄まじい美少女じゃないですか?」

「うわっ、急に早口になるのやめなさい」

「もう一人は芸術品みたいな金髪かつ、紅い眼が特徴的な、普段は天然気味なのに決めるところはバシッと決めてくれる、カッコよさと可愛さを完璧に両立してる凄まじい美少女じゃないですか?」

「凄まじい美少女以外の例え、無いの?」

「そして最後の一人は茶髪のセミロングでおっとり物腰柔らかそうな雰囲気出してるのに、いざとなったら誰よりも頭が回って、口八丁手八丁で何事もどうにかしちゃう凄まじい美少女じゃないですか?」

「長い長い長い、長いのよ話が!」

 

 夢中になるとすぐペラペラ喋り出すんだから……とため息を吐きながら、パシパシと俺の頭を叩くアリサ姉さん。

 ほぼ確信はしていたのであるが、結果は如何に……!? という目を向ければ、若干──そこそこ顔を引き攣らせながら、アリサ姉さんは「そうよ」と頷いた。

 

「なのはと、フェイトと、はやて。三人とも、私の大切な友達よ。何? 知り合い?」

「一応、友人です」

「嘘、纏が友人……!?」

 

 信じられない! という顔で俺を見つめるアリサ姉さんだった。

 いや、ね。分かるよ、気持ちは。

 俺も一年前の俺に、友達出来たぜとか言ったら絶対同じ反応をするか、笑い飛ばして不貞寝すると思うもん。

 ある意味一番俺のこと良く分かってるよ、この親戚の姉。

 でも仮に、友人ですら無かったら今の俺の台詞、キモいで留まらずに怖いにまで達しちゃうから……。

 

「信じられないかもしれませんが、信じてください。主に俺ではなく、なのはさん達の友人・メイクパワーの方を……」

「ああ……確かに。そう見れば無理はない、かもしれないわね……」

「でしょう? まあ、なのはさんと友達になったのは三か月くらい前なんですけど」

「結構早かったわね」

「因みに八神さんは半年かからなかったくらいです」

「それは早すぎない!?」

 

 あの纏を、そんな短時間で攻略するだなんて……!? と目を見開かれてしまい、かなり複雑な気持ちになってしまう俺であった。

 攻略ってなんだよ。

 反論も否定も全くできず、ただかなり驚かれてちょっぴり傷つくだけの空間が出来上がってしまった。

 まあ、アリサ姉さんとこうして気軽に話せるようになったのも、中二の後半くらいからだったし、無理もない反応ではあるのだが。

 

「そして今の直属の上司はハラオウンさんです」

「え!? 噂の捻くれ可愛い面倒な部下ってあんたのことなの!?」

「それもう半分罵倒だろ」

 

 半分って言うか八割くらい罵倒だった。

 四捨五入すれば百パーセント罵倒である。

 紹介の仕方をミスり過ぎだろ。

 もうちょっとこう……あるじゃん。

 

「あんた、魔法の世界でもそこそこ優秀なのね……」

「いや、優秀って言うか、ありったけの時間注ぎ込んだ結果そう見える、みたいな話ですけどね」

 

 二徹くらいならデフォルトでいけるくらいには成長した俺であった。

 まあ、最近はシャマル先生にガチギレ説教されることが増えてきたので、徹夜は週一くらいでしかしなくなったのであるが。

 優しい人ほど怒る時は怖いというのは、大体本当である。

 

「ふぅん……。ま、何でも良いけど、微妙に怒りづらい事実が出てきたわね……」

「え? そうですか?」

「当たり前でしょ、流石に私だって、あんたが"魔法使いになりますとか言うのはめんどくせぇな……"って思ったことくらい分かるし、そう思うだけの理由だって分かるわよ。

 もちろん、言って欲しかった気持ちもあるけど……あまり、言いやすいことではないじゃない?」

「おぉ……」

 

 予想外にも──と言うのは甚だ失礼ではあるのだが、それでも実に温情のある対応をされてしまい、逆に困惑してしまった。

 俺が知ってるアリサ姉さんと比べると、ちょっと苛烈さが落ちてるな……。

 人間って、一年でここまで成長するんだ、としみじみと実感してしまう。

 

「あんたは成長……してなさそうだけどね」

「おい今絶対身長のこと言っただろ」

「いやねぇ、すーぐそうやって思い込むんだから。器の話よ、器」

 

 まあでも、身長に比例するのかもね、と小言で呟くアリサ姉さんであった。

 これ俺、はったおしても許されるだろ。

 

「ああ、でも、そういうところは成長……というか、変わったわね、纏」

「……? どういうところ?」

「あたしと話す時に、あんまり緊張しなくなったところよ。ラインならまだしも、直接顔合わせてる時とか、いっつも緊張気味だったじゃない?」

「あー……まあ、アリサ姉さん怒ると怖かったし……」

「怒らすあんたが悪いんでしょ!?」

 

 あたしが悪いみたいな言い方するんじゃないわよ! と叫ばれる。

 反論できるところが全く見当たらず、ただ奥歯を噛みしめるしかなかった。

 アリサ姉さんの怒られが発生した回数は、最早両手で数えきれない程であるが、しかし、理不尽さはいつだってない。

 そういう人だ。この人は。

 

「ま、でもそういうことなら、ちょうど良かったかもしれないわね」

「何が? ……いやちょっと待って! 何か嫌な予感がします、聞きたくない!」

「はぁ? 何よ急に……別に悪いニュースじゃないわよ?」

「本当に……?」

 

 疑い深く問いを重ねれば、「当然よ」と自信満々な顔を向けて来るアリサ姉さんだった。

 それでもなお十数秒ほど見つめておいたが、表情が崩れることはなかったので「まあ良いか」と続きを聞くことにした。

 

「この後なのはたち来る予定だから、あんたも来なさい」

「うわーっ! やっぱ悪いニュースなんじゃん!」

「何言ってんのよ、友達なんでしょ?」

「いやっ、それはそうなんですが……」

 

 そういう問題じゃないというか……。

 なのはさんからのお誘いを、頑固にも断ったばかりなのである。

 平然と「お土産よろ!」までした手前、会うのは酷く気まずかった。

 いやもう、気まずいとかいうレベルを超えて、絶対に会いたくないまである。

 今からでもミッドに帰りたい気持ちでいっぱいだ。

 

「相変わらず面倒臭いわね……四の五の言わずについてきなさい」

「嫌だと言ったら……?」

「あんたの部屋に全員で突撃するわ」

「是非ついていかせてもらいます」

「ん、よろしい」

 

 それじゃ、そろそろ来るし、行くわよ、と言うアリサ姉さんの背中を追う。

 この後対面した三人には驚きの声をいただくことになったのは、まあ、言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




各務ヶ原纏のヒミツ
 プライベート時のメッセージの返信は滅茶苦茶早い。
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