少年は魔法使いになった。   作:泥人形

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やっと春らしくなってきたので更新です。現実とかいうやつにボコボコにされ始めたので、次の更新は本当に一~二か月後くらいです。


アルフは規格外な使い魔である。

 使い魔アルフが、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと出会ったのは、今から十年以上も前のことらしい。

 あるいは、使い魔アルフが使い魔となったのが、十年以上も前のことである、と言った方が正確なのかもしれないのだが。

 運の悪いことに死病を患い、群れから追放されたことで、息絶えそうになっていた彼女は、運良くフェイト・テスタロッサ・ハラオウンに拾われ、契約を交わすことで、ただの狼から使い魔へと生まれ変わり、その命を落とさずに済んだのだという。

 先天的に魔導師としての才能を持っていた俺達や、初めからそのように設計されていた守護騎士達と、後天的に力を与えられたアルフさんとでは、ある意味対照的な存在と言えなくも無いのだけれども、結論から言ってしまえば、行きつく先は同じであった。

 というか、同じにならざるを得なかった──過程はどうあれ、魔導師としての力を得たという観点で見れば、俺のような魔導師と、アルフさんとでは全く違いは無いのだから。

 とは言うものの、使い魔として見た場合の彼女は、少々規格外ではあるのは確かである──本来、使い魔とはその場その場の消耗品のようなものだ。

 使い魔は言わば、魔導師の手によって、別の生き物に転生させられたようなものであり、以降は魔導師から常に魔力の提供を受けることで、生命活動を行う魔法生命体のことである。

 無論、どの使い魔も必要とする魔力は一定ではなく、その実力によって消費魔力は変わる。

 故にこそ、使い魔は非常時以外はただの魔力喰らいのニートでしかなく(無論、教育等を行えば、人並み以上の働きは見せてくれるだろうが、そのような暇がある魔導師は早々いない)、好んで長期的な契約を結ぶ魔導師と言うのは、探してもそうはいない。

 ましてや、アルフさんは軽く見積もってもランクA以上の実力を誇っているのだから、なおさらだ──と言ってしまえば、アルフさんには

 

「凄いのはあたしじゃなくて、フェイトの方だってば。その辺、勘違いしちゃあいけないよ」

 

 と、穏やかな声音と共に、ピシッと窘められてしまうのだが。

 確かにそれは尤もな指摘であり、俺としても頷くしかないところではあるのだが、しかし、魔導師とは魔力が高ければ高いほど、強いという訳ではない。

 そう言った意味で見ても、やはりアルフさんは規格外であると思わざるを得ないところではあった──まあ、そんな彼女はもう、戦線に立つことは無いのだが。

 

「あたしは確かに、フェイトを守る使い魔だけど、ずっと傍にいて守るばかりが、守り方じゃないだろう? それに、フェイトはもう充分強いしね」

 

 とのことであり、実のところ、直接アルフさんが戦っているところを俺は見たことすらないのであった。

 管理局に顔を出すこともそう多くはなく、基本的には海鳴市にある、ハラオウン提督の家でお手伝いさんをしているらしい。

 何だか、それはそれで色々とおかしいよな、と思わされてしまうのであるのだが……とにもかくにも、そういう規格外な存在が、使い魔アルフという女性である。

 

 

 

 

「おっ、来たねぇ。待ってたよ」

「えぇ……」

 

 待たれていた。

 ちょっくら小一時間ばかり、無限書庫で迷子をかましてしまい、スクライアさんにキレ倒された後に戻ってきたところ、アルフさんが「待ちかねたよ」と言わんばかりの雰囲気で、フェイトさんの椅子に腰かけていた。

 ワンピース姿の、ケモ耳ロリ──である。

 身近な幼女と言えば、制服を着たヴィータ戦技教官しかいないので、どこか新鮮だ。

 足は地面についておらず、ぶらぶらと揺らされており、非常に可愛らしい。

 

「何だい、そんな不満そうな顔をして。あたしとはそんなに会いたくなかったってのかい?」

「うん、まあ、そうですね」

「そこは! 否定! しなさいな!」

「ぐわーっ! ごめんなさい!」

 

 ピョーンと飛び跳ね、肩車の形になるようにのしかかって来るアルフさんだった。

 別に大して重くはないので、それ自体は構わないのだが、滅茶苦茶に俺の頭を振るのだけは勘弁してほしい。

 酔っちゃうからね、本当に。

 徹夜明けの俺の身体コンディションを嘗めないで欲しい。

 胃の中身くらいは今もう、平然と吐き出せるくらいである。

 

「うっ、絶対にやめておくれよ……掃除することになるの、あたしなんだから」

「いや誰のせいだと思ってんですか、誰の」

 

 当たり前みたいに被害者面しないでほしかった。

 どう見ても8:2くらいでアルフさんが悪いだろ。

 でももしそうなった場合、逃げるのではなくきちんと掃除をしてくれるつもりである辺り、やっぱ俺、この人のこと好きだな……と思うのであった。

 

「まったく、折角会いに来てあげたってのに、冷たい子だねぇ」

「会いに来たのは俺じゃなくて、フェイトさんでしょうが……」

「ん、まあ、いつもはね──でも今日は、本当の本当に、あんたに会いに来たんだよ」

「それはそれで不穏で嫌だ……どうです? 今なら帰してあげても良いですが」

「それはどっから目線の台詞なんだい!?」

 

 本当に帰るとでも思ってんのかい……とでも言わんばかりのアルフさんに、ポコポコと頭を叩かれる俺であった。

 俺としては、出来ればさっさと帰って欲しいところではあるのだが──別にアルフさんが嫌いという訳ではなく、単純に仕事が終わっていないからである。

 現在時刻、17:30。

 調子に乗って三つほど案件を引き受けてしまった結果、既に48時間くらいは寝ずに活動している俺であった。

 ここに戻ってくるのも、実に二日ぶりである。

 さっさと報告書を仕上げて眠りにつきたいという気持ちが、アルフさんに会えて嬉しいという気持ちを僅かに上回っていたとしても、ギリギリ許されることだろう。

 

「道理で覇気のない顔をしている訳だよ……仕方ないね、出直そうかい?」

「いや、何かじわじわと嬉しい気持ちの方が高まってきたので、是非ここにいてください」

「相変わらず面倒なのか、素直なのか分からない子だね……」

 

 でもそう言われると、気分は悪くないね、と言いつつ良し良しと頭を撫でてくれるアルフさんである。

 そういうのは別に求めていないから、さっさと降りてくんねぇかな……。

 話をしたいが、それはそれとして仕事は進めたい気持ちでいっぱいだった。

 いくらアルフさんがフェイトさんの使い魔とは言え、仕事の内容は気軽に洩らせるようなものでは無い。

 その辺をなあなあにしていたら、普通にフェイトさんから雷が落ちるので注意しなければならないところだ。

 いや、まあ、この部屋にちゃっかり入られていた時点で、機密も何もあったものでは無いと言えば、頷くしかないのであるのだが……。

 

「それで、俺への用って何なんですか?」

「あはは、そう身構えなくても良いよ。本当に大したことじゃないから──と言うと、余計緊張しそうだね、あんたの場合……」

「ん、中々俺への解像度も上がってきましたね。お陰で今にも足が震え出しそうですよ」

「いい加減、その情けないところは矯正した方が良いよ……」

 

 アルフさんがそう言いながら、トーンッと軽快に俺から飛び降り、再びフェイトさんの椅子へと着地する。

 どうやら俺の乗り心地はそこまで良くなかったらしい。

 あるいは、今にもガタガタと震えそうな俺に恐れをなしたか。

 まあ、どちらでも良いんだけど、と俺も自分の椅子へと座り直す。

 

「まあリラックスしなよ、ほら、差し入れにケーキも買ってきてあげたからさ」

「!! 俺はショートケーキが良いです!」

「言われなくても分かってるよ」

 

 はい、と箱から皿に移して渡してくれるアルフさん。

 これだけでここ三日ほど頑張った甲斐があるものだな、と思った。

 疲れている時の甘いものは脳に良く染みわたる。

 人から貰ったものであれば、なおさらだ。

 

「ふふ、今なら何でも答えますよ」

「そうかい? それなら早速本題なんだけど、フェイトとはどこまで進んだか教えてほしいんだよねぇ」

「は? 踏み込み方に遠慮が無さすぎる」

 

 いや、確かに何でも答えるとは言ったが……。

 それは少しばかり反則じゃないだろうか。

 しかも、進んだって……。

 そういう意味で捉えるのであれば、まず始まってすらいないというが正しいところだ。

 一歩踏み出すどころか、スタートラインにすら立っていないと言えるだろう。

 

「えぇ!? あんたら、付き合ってなかったのかい!?」

「逆に何を見聞きしたら、そんな勘違いするんだろうなって、真剣に考えさせられるところなんですけど……」

「いや、だって……フェイトったら、あんたの話ばかりするからさ」

「あの人いっつも俺の話してんな……」

 

 エリオといい、ルシエといい、フェイトさんは俺を便利な会話のネタとして使い過ぎだし、悉くこういった話をされることになるので、本当に勘弁してほしいところであった。

 嫌というか、答えづらい──というよりも、仮に明確な答えがあるのだとしたら、一番に言うべき相手はフェイトさんであり、決してその他の誰かでは無いだろう。

 このような場で、軽々しく口にできることでもない……まあ、それが分かっているのなら、さっさとハッキリしろという話でもあるのだが。

 それが出来ていないのだから、現状があるということも分かって欲しい限りである。

 

「……あんた、そういう顔も出来たんだねぇ」

「え……そんなに変な顔してましたか?」

「どちらかって言うと、真面目な顔? あたし、あんたのそういう顔って見たこと無かったからさ」

「嘘でしょ……俺ほど常に真面目な顔してるやつ、早々いませんよ」

「あたしはあんたほど、表情豊かな人に会ったこと無いけどねぇ」

 

 まあ、でも、とアルフさんは言葉を続ける。

 

「それならそれで、面白いことになってるってことじゃあないか」

「面白い要素一つも無かったと思うんですけど? なに満面の笑みになってるんですか」

「実際のとこ、どうなんだい? ほら、お姉さんに話してごらんよ」

「絡み方が酔っ払ったおっさんのそれすぎる……」

 

 辟易する俺の脇腹を、ウリウリと肘でついてくるアルフさんだった。

 これがアルフさんではなく、エリオあたりだったら襟でも掴んで放り投げてるレベルのウザさだった。

 というか、お姉さんって……。

 日本で言えば、まだ小学校すら卒業できない年齢のくせに、何を言っているんだって感じである。

 仮に大人バージョンになれたとしても、大体十六歳程度の姿だったはずだ。

 どう足掻いても、俺に向かってお姉さんを名乗るのは無理があるというものであった。

 

「だとしても、あたしの方が身長は上じゃないか」

「おっと、いつまでも俺のことをドチビだと思ってもらっちゃ困りますね」

「な、なんだって!?」

 

 苦節十七年(そろそろ十八年)にして、ついにあの幻の成長期、というやつが俺には到来しているらしかった。

 具体的な数字は分からないが、あのシャマル先生に「嘘でしょ……」という一言を漏らさせたくらいには、メキメキと身長を伸ばしている俺である。

 ゆっくりと椅子から立ち上がれば、アルフさんはふわっと、一瞬にして大人バージョンへと変身しなおした。

 幼女バージョンの方を見慣れているせいで、少しだけ別人に見えるなぁ、なんてことを思いながら背を比べ合う。

 

「……いや、やっぱりあたしの方が高くないかい?」

「く、くそぅ! 何かアルフさんデカすぎませんか!?」

「逆だよ、逆。あんたが小さすぎるのさ」

「ぐぅぅぅ……!」

 

 ギリギリとかではなく、あからさまにアルフさんの方が身長は高かった。

 正直、向かい合った瞬間から「あれ? 何かアルフさんの方が大きくない?」とは思ったのだが、あまりの威圧感に大きく見えるやつか……と断じたのは間違いだったらしい。

 種も仕掛けもなく、当然みたいに見下ろされる俺であった。

 

「さて、敗者たるあんたには、あたしの言うことを聞いてもらうとしようか」

「ちょっと? そんな約束した覚えは無いんですけど?」

「何言ってるんだい。古今東西、敗者は勝者の言うことを聞くものだって決まってるだろう?」

「なんて無法なことを言い出すんだ……」

 

 そんな野生でしか通用しなさそうなルール……いやこの人、元は狼だったな……。

 そう考えれば、意外と筋は通っているのかもしれなかった。そんな訳ないだろ人間社会を嘗めるなよ。

 

「フェイトはさ、とびっきり優しくて、良い子なんだ」

 

 誰もが知っているようなことを、敢えて改まった雰囲気でアルフさんが言った。

 思わず俺も、背筋が伸びる。

 

「──だから、泣かすような真似したら、許さないよ」

 

 どちらかと言えば、泣かされるのは俺の方であるのだが……。

 流石にそのような軽口を叩ける場面では無く、俺は静かに頷くのだった。

 

 

 

 

 

「あたしからはそれだけさ。邪魔したね」

 

 と、アルフさんが部屋を後にしたことに、内心ほっと息を吐く──というのも、よくよく思い返してもみれば、俺はフェイトさんを一度泣かせているのである。

 流石に過去のことについてはノーカンだとは思いたいが、だからと言って『いやぁ、実は俺、去年の冬頃にフェイトさんを号泣させてるんですよね、あはは!』などということを馬鹿正直に言える訳もなく、かと言って、あの絶妙に緊張感の漂う雰囲気に浸らされていたら、あまりの混乱で口走ってしまいそうだったのだ。

 ふー、やれやれ。

 命拾いしたぜ……と冷や汗をかきつつも報告書の作成に取り掛かる。

 アルフさんとの雑談(雑談という枠で括ってしまうには、あまりにも胃に悪すぎであったが)のせいで、何だかドッと疲れてしまい、もう帰りたい気持ちでいっぱいであるのだが、仕事というやつは寝てる間に、勝手に処理されるものでは無いので仕方がない。

 早いところ終わらせて、眠ってしまいところである──と、考えたところで、ふと思う。

 フェイトさん、どこに行っているんだ?

 今日のフェイトさんの予定は、一日いっぱいデスクワークだったと思うのだが……。

 まあ、良いか。

 別に、二、三日会えなかったからといって、死ぬという訳でもないし──

 

「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうよ? 纏!」

 

 と、思ったところで。

 如何にも『魔女です!』といったような帽子を被った我が上司が、部屋へと戻ってきたのであった。

 ……?

 

「フェイトさん、何やってんですか……?」

「え、えぇっと……魔女の仮装だよっ」

「……腕の良い精神科医、探しましょうね。俺も協力するので」

「別に仕事に病んで混乱しちゃってる訳じゃ無いからね!?」

 

 ちょっと見ない間に、我が上司がこんな姿に変貌しているとは露知らず、悲しいを通り越して怒りすら込み上げてくる俺であった。

 やはり、ハラオウンドリンクは禁止にすべきだったのだろうし、もっと仕事量を減らすべきだと強気に進言するべきだったのだろう。

 くっ……。補佐として、不甲斐ないばかりである。

 

「いくら何でも失礼過ぎだよ……纏、ハロウィンって知らないの?」

「ハロウィン……? あぁ、今日って三十一日でしたか」

「そういうこと。もしかしたら纏、今日も帰ってこれないのかなって、ソワソワしてたんだから」

「何それ可愛いな……」

 

 とはいえ、冷静に考えればハロウィンは、お菓子をカツアゲするか、好き放題に悪戯するか、という仕掛けた側が百パーセント有利なイベントである。

 そう考えると、俺をカモだと思っているのが何となく透けて見えてくるようだった。

 

「纏じゃないんだから、そこまで意地悪なこと考えてないよ……」

「まず俺の意地が悪いって認識を改めてみませんか? 俺が可哀想なので」

「それは事実だから無理……かな! それよりっ、トリックオアトリート、だよ。悪戯される準備は出来てる?」

「何で悪戯される前提なんですかね……。はい、これで良いですか?」

「あ、あれー!? どうして!?」

 

 にじり寄って来るフェイトさんの手のひらに、コロコロとチョコレートを落とせば驚愕の表情を浮かべるフェイトさんだった。

 何でこの人、俺がお菓子を持っていないと思っていたんだろうな。

 どうしても何も、普段からデスクに、チョコやらガムやらを備えていることくらい、知っていただろうに。

 相変わらず、変なところで抜けている人である。

 

「う、うぅ~……」

「涙目で睨まないでくださいよ……。何か悪いことした気分になってきちゃうでしょう」

「こんなに恥ずかしいことまでしたのに……」

 

 今更になって、顔を赤らめて俯くフェイトさんであった。

 どうやら、恥ずかしいことをしている自覚はあったらしい。

 ほんの少しも自覚が無かったらどうしようかと思っていたところだったので、俺としては一安心である。

 何で俺がこんなことを心配しなきゃならないんだろうな。

 

「……ね、ねぇ、纏」

「嫌です」

「まだ何も言ってないよ!?」

「いやもう、聞かなくても大体分かるんで……」

 

 内容が、ということではなく、良からぬことだろうな、ということが。

 むしろこのタイミングで、俺にとって益のある話が出てくるわけがないのであった。

 自衛は大切である。特にフェイトさん達に対してであれば、なおさら。

 

「と、トリックアンドトリート! とか、ダメ?」

「ルール違反にもほどがあるだろ……」

 

 ビックリするくらい欲に塗れすぎであった。悪戯へのモチベが高すぎるだろ。

 ここまで来ると、一体どこまで壮大な悪戯を用意していたのか、知りたいような知りたくないような、恐怖に近い感情を抱いてしまう。

 ハロウィン、恐ろしい行事である……。

 かつて日本に住んでいた時は、都会の民が街のど真ん中ではしゃぎ倒すだけの催しだと思っていたので、こうもテンプレートなことをする人が、まだこの世に存在したんだな、としみじみと思う。

 まあ、テンプレとは言え、それを見たのも初めてであるのだが。

 小学生の時は、仮装パーティーなんてものもあったらしいのだが、当然ながら誘われていなかった俺には縁のないイベントだった。

 悪戯したことも無ければ、お菓子を貰ったこともない人生を送ってきた人間である。

 こうして改めて思い返すと、少しだけ悲しくなるな……。

 

「ちょっと失礼しますね」

「あっ……ふふっ、纏も仮装したくなっちゃった?」

「別にそういう訳では無いですが……」

 

 いや、あるいは本当に、そういうことなのか?

 特別、仮装したいとか、したくないとかは考えていなかった──何せ、バリアジャケットがもう、ある種の仮装みたいなものなのだから。

 そう考えれば、これも必要なかったかもしれない……と思いつつも、フェイトさんから借りた帽子をかぶる。

 ふぅむ、意外と悪くはないかぶり心地だ。

 

「どうです? 似合いますか?」

「あははっ、うん。童話に出て来る怪しい魔法使いさんみたい」

「あんまり喜べない感想出てきたな……」

 

 というか、全く喜べない感想だった。

 怪しい魔法使いって何? 帽子をかぶっただけでそう言われるの、いつもの状態で既にそう見えなくもないってことじゃん……。

 あまりにも悲しすぎる事実が発覚してしまった瞬間であった。

 ただ、まあ、この場合に限っては好都合かもしれないのだが。

 

「それじゃあ、フェイトさん」

「うん? なーに?」

「トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃいますよ?」

「ふぇ──え、えぇ!?」

「なに驚いてるんですか……。フェイトさんが仕掛けてきたことでしょう」

「そ、そうだけど……それはズルいと思うな!?」

 

 顔を赤らめたまま、あたふたとし始めるフェイトさんである。

 ズルいかズルくないかと言われれば、若干審議が入りそうなものであるのだが、まあギリギリセーフだろう。

 帽子だけで仮装認定が入るのは、フェイトさん自身が実証済みである。

 というか、そこまで焦る必要も無いだろうに……。

 俺がデスクに色々と備えているように、フェイトさんだってそうしているのだから。

 

「えぇっと……えへへ。実は、お昼に全部食べちゃってて……」

「は? この前たくさん買ってきたじゃないですか──あっ、え? もしかしなくてもフェイトさん、俺がいなかった間、お菓子しかまともに食べてませんでしたね!?」

「だ、だってお手軽なんだもん……」

「可愛く言ってもダメですからね」

 

 ただでさえ、見ていれば見ているほど、不安になる食生活をしているフェイトさんなのである。

 平気で二食くらい抜いたりすることもあるので、本当に近いうちに、ぽっくり死んじゃいそうなのでやめて欲しい。

 今フェイトさんに倒れられたら、業務が全て俺に集中するか、あるいは他の執務官の下をたらい回しにされることになってしまうのだ。

 つまり、連鎖的に俺まで死ぬことになっちゃうんだよね。

 俺の今の健康的な生活は、ある意味フェイトさんの存在によって保たれているのである。

 

「へぇ~、纏はもう、私抜きじゃ生きられないんだ?」

「解釈の仕方に癖があり過ぎるだろ」

 

 しかも、敢えて言うのであれば、俺に昼食と、場合によっては夕食まで用意されているフェイトさんの方が、俺抜きでは生きられなさそうなものである。

 他人の充実した生活をこの手に握っていると考えると、微妙に優越感があるな、と思った。

 

「抱く感想が嫌らしすぎるよ……」

「喧しいですね、ハロウィン敗者は黙っててください」

「ハロウィン敗者ってなに!?」

「入念に準備しておいて、いざ実行したら何もかも上手くいかなかった、俺の目の前にいる人のことをそう呼びます」

「~~~っ!」

 

 再び涙目で睨むことで、抵抗して来るフェイトさんであった。

 まったく抵抗になっていないどころか、何をしても可愛いな……としか思わせられない辺り、フェイトさんの美人具合が分かるというものである。

 ふぅむ、しかし。

 悪戯か。

 いざ"これからします"となると、意外と何も思いつかないものだな、と思う。

 しかも、相手は職場の上司なのだ。

 下手なことをしたら、向こう数週間くらいは気まずいことになってしまうリスクがある以上、少々悩みどころであった。

 いや、まあ、フェイトさんは大体のことは笑って許してくれるだろうが……。

 そういうところに甘えすぎると、最低限のラインを踏み越えてしまいかねないところが、俺にはあるのだった。

 とはいえ、それも中学までの話であり、流石の俺も多少は成長したと思いたいところではあるのだが。

 それに、普段の仕返しとしても、ちょうど良い機会であるような気はするし。

 ここらで勇気を一つ、持ってみるのも良いだろう。

 

「纏……? 急に無言になられると、ちょっと怖いよ……?」

「フェイトさんにも恐怖の感情って備わってたんですね」

「纏は私を何だと思ってるのかな……!?」

「いや、いっつも躊躇とか無いじゃないですか……」

 

 極悪犯罪者相手でも物怖じしないフェイトさんである──まあ、それは局員としての経験が豊富であればあるほど、慣れるものなのかもしれないのだけれども。

 一先ず言えることは、怯えるフェイトさんはかなりレアだし可愛い、ということだけであった。

 怖がられるということに、嫌だなぁ、以外の感情を持つことってあるんだな、なんてことを思いながらもフェイトさんに歩み寄れば、後ずさってからソファへと尻餅をつくフェイトさんだった。

 

「や、優しくしてね……?」

「何を!? 脈絡がないのに、勘違いされそうなことを言い出すのはやめませんか!?」

 

 何だかいけないことをしている気分になってしまうので、本当にやめて欲しい。

 そんな俺の思いは届いたのか、届いてないのか分からないが、何故か意を決したようにギュッと目を瞑るフェイトさんだった。

 こっちまで緊張してきちゃうので、出来ればリラックスしてほしい──いや、この言い方だと何か、含みがありそうで嫌だな……。

 ただでさえ、この状態を誰かに見られでもしたら「部下が上司を襲おうとしている!」とでも思われそうなものなのである。

 微妙に勘違いとは言い切れないあたり、言い訳がしづらい状況だった。

 まあ、本当に襲いでもすれば、その瞬間返り討ちに遭うだろうが──こんなんでも、フェイトさんは管理局有数の実力者である。

 そんな彼女に、一体何をやっているんだと思わなくもないのだが……今更という話でもあった。

 せめて、手早く終わらせるとしよう。

 魔女帽子をフェイトさんに返しつつ、その影に隠れるように、耳へと息を吹きかけた。

 

「ひゃんっ!?」

「はい、終わりです。これに懲りたら、あんまり俺を揶揄わないようにして──」

 

 くださいね、と言おうとした。

 否、言いはしたのだ。確かに、口にはしたのだけれども、音になって届く前に、引き寄せられた。

 少しだけ不安定な体勢だっただけに、碌に抵抗も出来ずに、抱きしめられる。

 

「ふぇ、フェイトさん……?」

「だ、だめっ」

「?」

「離れちゃ、ダメ。私今、凄い顔してるから」

「えぇ……」

 

 そう言われると、逆に見たくなるのが人の性と言うものである。

 シンプルに離してほしくもあったので、身をよじってみたのだが、フェイトさんが悩まし気な声を上げるので断念せざるを得なかった。

 最近は随分と、物理的に距離が近いことが多くて困りものだ──いや、今回に関しては俺から詰めたようなものなのだけれども。

 

「ふふっ、やっぱり纏はズルだよ」

「今のどの辺に、ズルい要素あったんですかね……」

「ズルい要素しかなかったよ──纏はさ、もうちょっと自分が相手にしてることを、客観視すべきだと思うな」

「え、な、何かご不快にさせてしまいましたか……!?」

 

 突然始まった説教に、思わず怯えてしまう。

 意識してないところで相手の地雷を踏むスキルが発動してしまったか。

 

「ううん、そうじゃなくって……というか、纏の方からこんなに近づいてくれるのは、嬉しかったんだけどね」

「…………」

「でも、好意って種類があると思うから。勘違いってね、男子が女子にさせるものでもあるってことを、纏には分かって欲しいな」

 

 私だって、勘違いするんだよ──と、囁くようにフェイトさんが言う。

 ……まあ、何というか。

 その言葉の意味を、履き違えるほど俺も愚かではないし、鈍くはない。

 先程アルフさんと話した時にも思ったが、いい加減、答えは出すべきなのだろう。

 曖昧な関係性は意外と心地が良いものだと分かったが、いつまでも続いて良いものでは無いと思うから。

 

「それに、悪戯にしてはさっきのは、ちょっと弱すぎると思うな」

「悪戯にダメだしされることってあるんだ……」

「もう、ダメダメだよ──だから、腕を回して。私が抱きしめるだけだと、寂しいな」

「うっ……」

 

 少しだけの無言の抵抗の後に、諦めて腕を回す。

 大して距離は変わらないのに、それだけでフェイトさんが、グッと近くなったような気がした。

 

「ちゃんと考えてくれてるのは分かってるよ。でもね、私もいっぱい考えてるってことも、知って欲しいから……もう少しだけ、このままでいて」

 

 フェイトさんがそう言って、一層俺を抱きしめる。

 同じようにすれば、フェイトさんが少しだけ嬉しそうに笑みを零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フェイト・テスタロッサ・ハラオウンのヒミツ
 結果的に悪戯は成功した。
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