少年は魔法使いになった。   作:泥人形

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ぽぽりんご様よりとても恐ろしいなのはさんのイラストをいただいたので更新です。
イラストは一話の最後に置いておくので見ておくと幸せになれると思います。
次こそ次話の更新は一か月後です。


クロノ・ハラオウンは三人娘のお兄ちゃんである。

 クロノ・ハラオウンは時空管理局において、時空管理局提督兼、艦船アースラ艦長という肩書を与えられている──こうも馴染みのない上に、普通に噛みそうな小難しい単語に並ばれると、いっそその意味などどうでも良いように思えるが、しかし既に管理局の一員として数えられる側となった身としては、そうはいかないのが現実というものであった。

 これまで出会ってきた年若い上司。つまるところ、高町さんや八神さんとは違い、彼はミッドチルダ出身だという。

 人生の途中で何かしらのハプニングに遭い、魔導師の道を進んだのではなく、魔法の世界に生まれ、なるべくしてなったように魔導師を志した──いわゆる、一般的な魔導師。

 苗字が同じことからも分かるように、ハラオウンさんとは家族であるという。

 ここでいう家族とは、いわゆる夫婦といったものを指すのではなく、兄妹の意である。

 あまり大っぴらに語るべきではない──というと、どうにも後ろめたいことがあるように思えるが、決してそういうことではない──経歴を持つハラオウンさんと彼は当然ながら、生まれながらの兄妹ではない。

 俗に言う、義兄妹。

 ハラオウン提督の母親であり、元次元航行船艦長、現総務統括官であるリンディ・ハラオウンさんが、ハラオウンさんを引き取ることで、そうなったという。ハラオウンって単語が出てき過ぎだろ、国語の問題か?

 とはいえ、その仲が良好であるかと言われれば、未だに二人のことを良く知らない俺には答え兼ねることではあるが、まあ、良好なのではなかろうか。

 人付き合いがほとんどない俺でさえ、この二人が実は兄妹の枠を超えた仲なのではないかという噂が立っていたのを耳にしたことがあるほどだ──まあ、そんな話をすればハラオウン提督は「……フェイトは妹だぞ」などという、実に噂に尾ひれがつきまくりそうな返答をするのだが。

 それは明らかに脈がある時の返しなので、その意図がないのであればはっきりと否定した方が自分の為であるとアドバイスしてあげたくなったレベル。

 無論、目上の人にそのような気軽なことをするだなんて、俺には到底不可能であるのだが──ここまで言えば分かるとは思うが、ハラオウン提督は年上だ。

 一つしか違わなかった高町さん達とは違い、彼は今年で21歳。つまり、高町さんたちの五つ上で、俺の六つ上ということになる。

 今まで生きてきた中でも、特に関わることが無かった年齢の方だ。

 要するに、接し方がまるで分からない。

 ただでさえ、同年代の人間とすらまともに話すことが出来ていないのに、ここまで歳が離れた上司との関わり方など分かろうはずも無かった──更に言えば、彼は元執務官でもあるのだ。

 権力だけでなく、腕っぷしも滅茶苦茶にある。

 下手なこと言えば拳で黙らされかねない。

 

「と言っても、今ではもう、前線に出ることもないがね」

 

 現役を退いたも同然さ、とこれまた残念そうでも、嬉しそうでもなく、ただ純然たる事実としてハラオウン提督は言う──のだが、その実力は些かも衰えていないということは、誰もが知っていることだった。

 というか、見ればわかる。

 パッと見ながら、身体は研ぎ澄まされるように鍛え上げられており、バリアジャケットを纏う姿には二十代でありながらも貫禄がある──どころか、俺がまだ中学で「うっ……封印されし右眼が!」とかはしゃいでいた頃には、既にAAA+ランクの魔導師として、凶悪犯罪者等を相手に戦っていたというのだ。

 その実力は今でもエース級であるのだと、ハラオウンさんが言っていたことを思い出す。

 それを聞いた時、俺は「なるほど、やはり前線に出るよか昇格した方がこなすべき仕事量は減るのだな。そうでなければ昇格にここまで情熱を捧げまい。つまり、この人は俺と同じ働きたくないタイプの人間だ」と決めつけたのであるが、これはもう当然ながら大間違いであった。

 早とちりとかいうレベルの話ではない。

 ハラオウン提督はむしろ、俺のような不真面目な人間とはおよそ対極の人間だった──つまり、高町さん族だったという訳だ。

 管理局、高町さん族が多すぎるだろ。

 

 

 

 

 

 

 悪いニュースが、たくさんある。

 こういう場合はせめて一つか二つであるべきであり、同じだけ良いニュースもあって然るべきであるのだが、残念ながら世の中、悪いニュースというのはビックリするくらい溢れかえっているもので、個人に関するもののみ抽出してもそれは変わらなかった。

 あれもこれもと口に出し始めてしまえば、先に俺の喉が枯れてしまうので、ここは選び抜かれた極悪なニュースだけを紹介することにしよう。

 一つは、執務官補佐に配属されて早々、ハラオウンさんが単身出張することになったことだ。

 補佐という名前がついているにも拘わらず「ちょっとこの案件は纏には危険すぎるから」と普通にお留守番させられた件についてである。

 全然補佐できてねぇ。むしろ足手まといだった。

 とはいえ、別にそれ自体がショックという訳ではなかった。

 むしろ二人で出張となれば必然的に行動を共にすることが爆増するわけで、それを回避できたのは紛うことなき「良いニュース」であっただろう。

 それだけ、であればの話だが。

 まず一つ。お留守番とは言え、普通に仕事はあった──というか、留守番というのは要するに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのと同義であった。

 現役エリート執務官の業務を、だ。

 俺は多忙のあまり泣いた。

 仕事ってこんなに片付かないものなのか、とド深夜に慟哭して通話越しに高町さんに慰められた。また、「そういう時は私に連絡して良いんだよ!?」とハラオウンさんに怒られた。

 普通に迷惑だったと思うので高町さんには近い内に菓子折りでも持って感謝しに行くべきだろう。

 そして二つ。ハラオウンさんの出張が長引いた──決して、俺への嫌がらせという訳ではなく、単純に捜査が長引いたからであった。

 これにより、ハラオウンさんの帰還は更に三週間ほど延長となり、俺は多分ハラオウンさんが帰ってくる前に仕事に殺されるんだな、と覚悟をして遺書を(したた)めることを決めた。

 俺の死を以て、管理局の労働環境に一石を投じてやる──!

 

「そんな簡単に死ぬなんて言っちゃダメだよ!? 纏が死んだところで管理局の体制は今更変わらないんだし!」

「あんまり悲しいこと言わないでくれますか? 普通に落ち込む」

「ご、ごめんね……」

 

 でも事実だから、としょぼんとしたようにハラオウンさんが言う。

 定期連絡はメール等で良いのだが、ハラオウンさんの希望で画面あり通話となっていた。

 ハラオウンさん曰く、顔を見ると安心できるからとのことだ。

 あんたは俺の母ちゃんかよ。

 母ちゃんと言えば最近、「お盆は帰ってくるの?」とか「ご飯ちゃんと食べてる?」とかいうメッセージを良く送ってくるんだよな。

 普通に心に沁みるのでやめて欲しい。頼りたくなる。

 

「本当にごめんね……まさか、こんなに大きな案件に繋がってくるとは思わなくて」

「そこはハラオウンさんが謝ることじゃないでしょう。犯罪者が悪いに決まってるんですから──まあ、早く帰ってきてくれたら嬉しいのはそうですが」

「纏ってば、そんなに私が恋しいんだ~」

「前後の文脈くらいは読み取れよ……!」

 

 文字通り忙殺されそうだっつってんだろ!

 台パンするわけにはいかないので力の限り拳を握りしめた。

 そんな俺を、ハラオウンさんは微笑ましそうに眺めてから「ここで纏に良いニュースです!」と言った。

 

「流石にこれ以上、纏一人に任せるのは心苦しいから、今ある業務を片付けたら纏には研修に入ってもらうことにしました」

「研修、ですか?」

「うん、元々秋、冬あたりに予定はしていたんだけどね。事情が事情だから、都合つけて早めてもらったの。ふふーん、聞いて驚けっ。何と研修先では定時退社が義務付けられています!」

「!!? う、嘘だ……俺を騙そうとしている。管理局にそんな、ホワイトな場所がある訳……」

「この瞳が、嘘を吐いてるように見える?」

 

 キラッとハラオウンさんが深紅の瞳を輝かせる。

 相も変わらず、いつまでも見ていられそうな深みのある、美しい眼だ。

 宝石にするにはもったいないくらいの、人を惹き寄せる何かがある。

 

「ま、纏ぃ……そんなに見つめられると、恥ずかしいよ」

「ハラオウンさんが見ろって言ったんですけど……」

「そうだけど~……そうじゃないでしょ!?」

 

 頬を赤く染めて、俺を睨むハラオウンさん。

 これ、俺が悪いのか? そんな反応されると罪悪感と羞恥が一緒にやってきて土下座しそうになるのでやめて欲しい。

 ただでさえこの前「纏は土下座しすぎや……」と八神さんに注意されたのだ。

 俺的にはかなり控えめにしていたつもりなのでちょっとショックだった。

 

「もう、これだから纏は……」

「ちょっと回りくどい感じで罵倒するのはやめませんか? 俺が可哀想」

「纏のばか!」

「ストレートに罵倒しろって意味じゃねぇよ! ……まったく。それで、研修の話は本当なんですよね?」

「うん、本当だよ。明日からお願いしてる」

「急すぎだろ……」

 

 いや、ありがたくはあるんだけど。

 早ければ早いほど良いにも限度があるというものだった。

 一昨昨日(さきおととい)から今日までの俺が気合の三徹をキメていなければ、余裕綽々の面で今の話を聞いていられなかったであろう。

 まあ、そもそも毎日仕事の進捗をハラオウンさんには報告しているので、そこを考慮しての明日なのだろうが。

 自分の捜査をしつつも部下のスケジュールを調整するの、素直に尊敬出来てしまうな。

 

「えへへ、それほどでもないよ~」

「ま、謙遜するのは良いんですけど、最低限自分の健康も気遣ってくださいよ」

「大丈夫、任せて!」

 

 元気いっぱい、自信満々に言うハラオウンさん。

 不安だ。普通にハラオウンドリンク(俺命名。別名:健康破壊飲料)飲んでそう。

 アレ、普通にやめて欲しいんだよな……。

 本人が好んでいるからあんまり言いたくないし、言えないのだが。

 少なくともオススメしてくるのだけはやめて欲しい。毎度断り切れなくて完飲する羽目になってんだよ。

 

「そういう訳だから、明日から頑張ってね。詳細は後でメールしておくから」

「はい、分かりました。お願いします」

「研修の最後にはレポートの提出もお願いするからね」

「はいはい、その手のアレならもう手慣れたもんですよ」

「それもそっか。それじゃあ、また明日ね」

「はい、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 

 と、通話を切る。

 そう、おやすみなさい、だ。

 現時刻は夜の十一時五十分。

 明日というか、もう十分後であった。

 今日はもう泊まろう、と判断してシャワーを浴びた俺は、仮眠室で眠りについた──その、翌()

 

「さて、研修一日目にして遅刻とは、中々肝が太いじゃないか。言いたいことがあるなら聞くが?」

 

 と、怒っているのか全く分からないくらいの真顔で、クロノ・ハラオウン提督は言った。

 俺は無言でその場に膝をついた。

 

「本当にごめんなさいでした」

「僕はせめて言い訳くらいは聞いてやると言ったつもりだったんだが!?」

 

 

 

 

 

「まったく、そういうことなら先に言え。僕だって鬼じゃない、三日も徹夜していたなら昼出勤だって普通に認めたし、休暇だって許した」

「休……暇……?」

「どうした、もしかして休暇の意味が分からないのか!?」

 

 どうしてそんなになるまで働いたんだ! と俺を諫める姿は人とは思えなかった。

 というか、マジで神だと思った。後光とかさしてた。

 

「まったく、フェイトのやつにも、自分を基準にするのはやめろと言っていたんだがな……まあ良い。どうする? 今日はもう帰って休んでも良いぞ」

「いえ、久々に十時間以上寝たので、体力は有り余ってるので大丈夫です」

「そ、そうか……君がそう言うのなら、僕は構わないが──」

 

 あまり無理はするなよ、とハラオウン提督が言う。

 この人、本当に管理局なんかにいて良い人なのか? あまりにも聖人過ぎて崇めたくなってきた。

 しかし、こんなにも良い人かつ、滅茶苦茶偉い人に艦内の案内をされているのはどうにも違和感があるな──そう、案内である。

 お恥ずかしながら、俺は管理局の保有する次元航行船というやつに乗るのが初めてだったのだ。

 補佐とはいえ──いや、あちこちを飛び回る執務官の補佐であるからこそ、こういったものに乗った経験はあった方が良いとのことで、今回の研修が入ったという訳だ。

 まあ、流石のハラオウンさんも、ハラオウン提督がこうして自ら案内という雑用をするとは思わなかっただろうが。

 ハラオウン提督曰く、「聞きたいこともあるから」とのことだった。

 何だろう、尋問とかされるんだろうか。

 

「君は一体、僕を何だと思っているんだ」

「いえ、超聖人君子だとは思っているんですが、恐怖が先に立つというか……」

「それはそれでどうなんだ……?」

 

 どう、と言われるとまた回答に困る、微妙な感情だった。

 俺には基本的に上司は怖いものと認識してる節がある。

 

「まあ、そんなことよりも──そう。あまり聞くべきことではないとも思うんだが……三か月の研修は、どうだった?」

「…………それは、つまりハラオウンさんたちはどう? 元気してた? みたいな意図の質問ってことで良いですか?」

「……各務ヶ原執務官補佐。君はもしかして、エスパーの類だったりするのか?」

「えぇ……?」

 

 エスパーとかいる訳ねぇだろ、と思わず言いそうになったが魔法使いがいる世界だ。存在する可能性はまあまああった。

 というか、何故分からないと思ったのだろうか、この人は……。

 この三か月間で、俺は高町さん、ハラオウンさん、八神さんの三人がハラオウン提督とマブダチということは知っているのであった。

 あの人たち、デスクワーク中とか暇なのかやたらと雑談してくるんだよな。

 集中しろよ目の前の仕事によ! と思うが並列思考(マルチタスク)とかいうのを爆速で幾つもしているとのことだった。

 というと、並列思考そのものがあまりにも高い技術のように思えるが、実はそうでもない──なんて言えば、誰でも出来るのかと思われてしまうが、それはまた違う。

 そもそも並列思考自体が、魔導師には必須な技術であるところがあるのだ。

 否、あるいは「戦闘を行う可能性がある人」にとっては。

 だからまあ、魔導師にとってはそう珍しいことでもない。俺だって多少はしている。

 高町さん達はその数と、思考の回転数がまるで違うので最早別物と言ったところであるが。

 とにかく、そういった訳で俺は、ハラオウン提督のことは一方的にある程度は知っているのであった。

 かつて、野良魔導師であった高町さんと、初めて接触した管理局の魔導師も、当時執務官であったハラオウン提督だったという。

 要するに、高町さんが魔導師になった頃からの付き合いという訳だ。

 仲が良いのも当然と言ったところだろう。

 だから、互いの近況が気になるのもこれまた、当たり前というやつだった。

 ただでさえ、俺の目から見ても誰も彼もが多忙過ぎるほどに多忙なのだ。

 

「高町さんは相変わらず元気ですよ。毎日笑顔で研修生とか、局員をしばいてます」

「言い方がもう少しどうにかならないのか、君は……」

「これ以上はちょっと……」

 

 これでも個人的にはオブラートに包んだ言い方であった。

 もちろん、しばかれた後は良かった点と、悪かった点を言語化してくれるのでめちゃくちゃ為にはなるのだが。

 それはそれとして訓練はキツイ──まあ、きつくなければ意味がないものではあるのだが。

 俺は二度と受けたくないな、と思っていた。無論、誰の訓練であってもだが。

 

「ただ、人のことを考えすぎるきらいがあると思うので、疲れそうな生き方してるなとは思います」

「なのはは、優しいからな」

「優しすぎて怖いんですけどね」

 

 優しい女の子は本当にコロッと好きになってしまうので警戒していきたいところだった。

 

「ハラオウンさんは、まあご存知かとも思いますが、今は出張中です。食生活がマジで終わってますが、それ以外は概ね健康的なんじゃないですかね」

「ちょっと待て、終わってるというのはどういうことだ!?」

「いやなんかこう……」

 

 あの人はお腹さえ満たせれば取り敢えず良いか、みたいな思考してませんか? と言えばハラオウン提督は実に痛そうに頭を押さえて軽くため息を吐いた。

 明らかに「覚えがある……」みたいな反応だった。

 どうやら、ハラオウン提督の方でも何回か言及したことがあるようだった。

 見ての通り、まったく改善されていない時点で結果はお察しであるのだが。

 

「身体は、壊していなかったか?」

「そこはまあ。見ての通りと言うか、俺の百倍くらい毎日元気ですよ」

「そう、か。なら良かった……いや、良かったのか?」

 

 いっそ一度壊してしまった方があの人も学ぶのではないかとは思うが、しかしそれも願うのは何か違うだろ……と言った葛藤の表情だった。

 ハラオウン提督、意外と表情が顔に出る人だな。

 さっき真顔だったのも、本当に理由を聞いていただけで怒っていなかったのかもしれない。

 分かりづらい人すぎるだろ。

 

「八神さんについては……どうでしょう。かなり気苦労はしてそうだけど、振舞える程度には元気そうって感じですね。俺からしたら、ですけど」

「含みがある言い方だな」

「まあ、何というか……特別捜査官って、短期間であちこちの部署を飛び回るじゃないですか? たくさん人脈は作れそうだけど、気はあまり休まらないだろうなと思って」

 

 人間、帰ってくるべきところ──いわゆる、定位置といったものがあるのと無いのとでは、精神的余裕に差が出来るものだ。

 それはプライベートでも、仕事でも同じなのではないだろうか。

 俺だって、研修とは言え短期間に幾つかの部署を経験した訳だが、疲労の溜まり具合が凄まじかったのだ。

 知らない人とのコミュニケーションは、俺でなくても相応に疲れるものだと思う。

 だからその点、八神さんは上手いを通り越して達人の域だから尊敬できるというものであった。

 ただ、配属されたその日の内に飲み会に行くで~、みたいなノリはどうにかならないのだろうか。

 いや、おっさん相手に距離を縮めるには効果的なんだろうが……。

 あの手のおっさんは酒の席での説教で気持ちよくなれるらしいからな。親父も良く言っていた。

 

「とは言え、八神さんの場合は高町さんやハラオウンさんと違って、"今できる全てのことに手を出して全力を尽くす!"じゃなくて、かなり計画性があるタスクの積み方してるので、心配自体はいらない気がしますけどね」

「……君は、人を良く見ているんだな」

「そうでもないですよ。少し一緒にいたら分かる程度のことです」

「ふっ、君は捻くれたやつだな」

「くっ……ここでもそれか!」

 

 俺は何回これを否定しなければならないのだろうか、と思うと若干憂鬱だった。

 もしかして俺、本当に捻くれているのか……?

 心の中の高町さんに問いかけたら「各務ヶ原くんは捻くれ屋さんだよ」と返された。

 キレそう。

 

「君は、なのはのことが好きなのか?」

「!? どこの文脈読み取ったらそんなことが聞けるんですか!?」

「いや、普通に考えて好きではない人間をシームレスに出しはしないだろう」

 

 というより普通、脳内に人は住まわせないだろう……と言いたげな目線でハラオウン提督が言った。

 …………。

 マジでぐうの音も出ず、俺はただ奥歯を噛みしめた。

 今すぐ帰って布団に飛び込んで足バタバタしたい。

 これ絶対しばらくの間は寝る前に思い出して恥ずかしくなるやつだよ。

 あ~あ。

 ちょっと時間巻き戻ったりしないかな。

 

「っすー……反論良いですか?」

「面倒なやつだな……好きにしろ」

「っしゃ! まず第一に、俺は高町さんのことを滅茶苦茶可愛くて優しい人だとは思っていますが、別に好きという訳ではありません。いや、もちろん人としては好きなんですけどね?」

「物凄い早口だな、もう一回頼めるか?」

「くそっ、全然聞く気がないじゃねぇか!」

 

 ハラオウン提督は割合ニヤニヤとしていた。くそっ。ゆるせねぇ。

 

「そもそもですね、俺の好みは年上で高給取りで優しくて甘やかしてくれる上に養ってくれる女性なんですよ」

「君は今、これまでの発言の中で最も聞く耳を疑うようなことを言っていることが自覚出来ているか……?」

「好みは大体イコールで理想なんだから良いでしょうが……!」

 

 理想は高ければ高いほど良いって母ちゃんも言っていた。

 親父はいずれ妥協するんだからほどほどにしとけ、と真顔で言っていたが。

 俺は妥協しない。現実には屈しないぞ。

 

「一先ず、勝ち誇った顔でそんなことを言うのはやめたまえ……というか、それなら猶更、なのはは当てはまるんじゃないのか?」

「いや、高町さんは絶対に養ってくれないんでダメですね。仮に甘やかしてくれなくても、俺は養われたいんです」

「譲れないポイントが最低じゃないか……」

 

 最低と見るか、最高と見るかは人それぞれだなぁ、と思うことにした。

 俺としては、最悪高給取りでなくとも養ってくれればそれで良い。

 その辺も考慮して、中学時代に節約術はマスターしている。何なら今も最新情報を得ながら習得中だ。

 

「その情熱をもう少し他に向けられなかったのか、君は……」

「いやでも今、役立ってますからね。お陰で貯金良い感じですよ」

「世の中、何が役に立つか分かったものじゃないな」

「まったくです……。そういう訳で、総括すれば俺は多分ハラオウンさんが好みなんですよね」

「は?」

「え?」

 

 何? マジで怖い「は?」が飛び出てきたじゃん。

 室温が一段と下がった感じの一音だったんだけど。

 怖すぎる。色んな意味で震えてきた。

 俺は嚙みながらも声を絞り出した。

 

「ちょっと待ってください、早とちりはやめていただきたい! 俺は別にハラオウンさんが好みに当てはまるというだけで、別に好きという話はしてません!」

「それはフェイトが魅力的な女性ではない、と言いたいのか?」

「うわぁ! 面倒くさいお父さんみたいなこと言うのやめてくれますか!?」

 

 面倒なお父さんと言うよりは、文字通り面倒くさいお兄ちゃんと言った感じであるが。

 ハラオウン提督が「冗談だ」と笑みながら言ったので事なきを得たが、多分あの一瞬だけはガチだった。

 俺の危険感知センサーがビンビンに反応している。

 

「高給取りと言うのなら、はやてが一番そうであるとも思うがね」

「八神さんはダメですね、ほんのり養ってくれる気はしますが何か……怖い」

「そ、そうか……」

 

 ビックリするくらい軽蔑の目を向けられたが、まあ仕方がないことだろう。

 好みに当てはめたらこうなる、というだけで日常的にそういう目で高町さん達を見ている訳じゃ無い。

 というか、常にそんな目で見てたら流石に自己弁護すら不可能だ。

 諦めて自首とかした方が良い。

 

「……そういう、ハラオウン提督は好みの女性とかいないんですか?」

「何だ、藪から棒に」

「別に急ではないでしょう……!? 俺ばかりは不公平だと思うんですよ」

「君が勝手に言いだしただけだろう──それに、僕はもう結婚している」

「!!!?!?!?!??」

「何だその驚きようは!?」

 

 結婚してるのにハラオウンさんと噂が立ってるのヤバすぎだろ、と思った。

 いやまあ、そもそも噂なんてもの自体、信じるに値しないものであり、これは全面的に俺が悪いのであるが。

 つけていた真っ白な手袋を外し、ハラオウン提督が左手を見せてくれる。

 その薬指には、銀色の指輪がはまっていた。

 

「つい最近の話で、式はまだなんだがね」

「それは……何というか、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

 

 言って、実に柔らかな表情でハラオウン提督は指輪を撫でてから手袋を付け直す。

 それを見て、ああ、なるほど確かに邪推だった、と反省をした。

 正直なところ、俺はハラオウン提督は高町さん達の内、誰かが好きなんじゃないかなと思っていた──というのも、あの三人は贔屓目抜きにしても美少女だからである。

 その上、性格まで驚くほど出来ている。

 そんな彼女たちと、ハラオウン提督は幼い頃から一緒にいたというのだ。

 そんなの……好きになっちゃうじゃん……。好きになるに決まってるじゃん……。

 俺なら間違いなく好きになってフラれてる。

 

「エイミィと言ってね、年上の幼馴染なんだ」

「うわ、いきなりラノベ主人公みたいに見えてくる情報出てきた……」

 

 冷静に考えたら金髪美少女の義理の妹がいて、偶然美少女の天才魔導士と出会い、更には可愛い年上幼馴染までいるのはフィクションでしか許されない境遇だった。

 加えてハラオウン提督は俺の目から見てもイケメンだ。

 こんな存在が実在して良いのかよ……と思った。

 ただ、一つだけ分かったことがある。

 

「ハラオウン提督は、あの三人のお兄ちゃん的存在なんですね」

「……? 何だ、それは」

「ある種の保護者みたいなものなんだな、と思っただけです」

 

 まあ、冷静に考えたら、あの人たちまだ十六歳だからな。

 心配になる人がいるのは当然かもしれない。

 

「ふぅん……まあ良い。雑談もここまでにしよう、この先は訓練ルームだ」

「へぇ、艦内にもあるんですね。そういう場所」

「流石に、局にあるものと比べたら小振りだがね──さて、各務ヶ原執務官補佐」

「っ、はい!」

 

 突然、ピリッとした雰囲気を持つ言葉をハラオウン提督が放つ。

 思わず背筋が伸びた。

 

「折角だ──準備運動がてら、お相手願おうか?」

「え? い、嫌です……」

「ダメだ。フェイトからも見てやって欲しいと言われているからな、ほら、いくぞ」

「は!? 何それマジで聞いてなっ、いやっ……く、くそぅ!」

 

 ハラオウン提督の目力には勝てず、俺は渋々バリアジャケットに換装したのであった。

 結果はもちろん、惨敗も良いところ、といったところだった。

 

 

 

 

 

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