シュトロームとの一件の日の夜。
指定された時間になったので、オーグの部屋へ向かった。
「お、来たか」
ゲートをくぐった先にオーグは机と茶菓子を用意して待っていた。
「オーグ」
「どうしたのだ?」
「用意してくれたのはいいけど、この量は……」
「どうせお前の話だからな。長くなると思って用意させておいた」
「……よくお分かりで」
やっぱり全てを見透かされているようで少しムカつく。
でも、否定できないので今は保留にしておこう。
とりあえず座るように促された席につき、話し始める。
「それで、メッシーナについてだったな」
オーグから話を切り出してくれた。
気を遣ってくれたのはありがたいのだが、一番最初にしておきたい話はオーグについて。
「それについても聞きたいことがあるんだけど、その前にオーグに聞きたいことがあるんだ。てか、今日話をしたかったのはこっちがメインなんだよ」
「そうか。やはり長くなりそうだな。茶菓子を用意したのは正解だったな。それで?私に何が聞きたいんだ?」
話を切り出しに何も気にするそぶりを見せずにいた。
俺は安心しつつも、話を始める。
前置きはいらないだろう。
「オーグって今回の魔人騒動、俺とシンの戦いを見ていてどう思った?」
「……どう思ったと聞かれても返答に困るな。まぁ、さすがは英雄の孫だなと思ったくらいだな」
オーグは少し言葉が詰まるも返答した。オーグは王太子としての教育を受けていたからか、反応を外に見せることはない。
原作である程度の知識があり、その場で反応を見たから気づけたのかもしれない。
「ほかに思うところがあったんじゃないのか?今少し言葉が詰まってたし。カートとシュトロームの一件の後、落ち込んでいたのは見ていれば分かる。何か思うところがあったんじゃないのか?」
「……」
ここにきてオーグは初めて動揺したように見える。
出会ってから1月ほどしか経ってないが、ここまで反応を見せたのは初めてだろう。
だが、その後の返答次第でこの話は終わりにするつもりだ。
オーグはなかなか他人に弱みを見せることはない。会ってまだ時間は経っていないが、少しくらいは頼って欲しいものだ。
これで答えを濁されるようなら話はここまで。
マリアのこと、シンの二つ名を提案して帰ろうかな。
「……確かにお前の言う通り、多少なりともショックは受けたさ。何もできなかった自分にな」
「オーグ……」
オーグは語り始めた。正直、弱気になってるオーグは初めて見るかもしれない。
俺は黙って話を聞く。
「だが、それはしょうがないことだ。私とお前たちとでは育った環境が違うからな。この差を埋めるのは無理だろう?」
オーグは自分に言い聞かせるように、先程見せていた表情を隠すようにそう言った。
だが、俺はオーグが成長するためにはそんな理由で諦めてはいけないと思う。
「諦めない方がいいと思うけど」
「いや、簡単に言うがそう簡単には」
「できるよ」
「は?」
「できる」
俺はオーグに言い聞かせるように言い、言葉をつづける。
「人間、悔しさをバネにしないと成長できないと思うんだよ。物事なんでもなーなーに過ごして、諦めてしまっては成長ができない。オーグが悔しいと思えたのは成長の見込みがある証拠だ。だから自分に何が出来なくて何が足りないのか、これから何をするべきなのか。これからの課題を明確にして、一つずつたてた課題を実行、達成していけば、成長に繋がる。大きな壁があっても、一段一段しっかり踏み上がっていけば、必ず越えられるし、辿り着ける。だから、しょうがないと思うんじゃなくて、次に繋がるように訓練しなきゃダメだと思うんだ」
「……………」
オーグは俺の言葉を聞き、少し思考する。
10秒ほど時間が経ち話し始める。
「ずいぶん臭いセリフを言うのだな」
「うっ、うるせーよ。」
「それともう少し要点を止めろ。話が長すぎる。」
「うるせーって言ってんだろ!」
俺の言葉を聞き、オーグは茶化すかのように話し始める。
「まー多少はこころに響かなくもなかった」
「多少ってなんだよ。てか、一言多いわ。」
「あの長ったらしい言葉はお前が言うと妙に説得力があるな、本か何かで読んだのか?」
「あの話は俺自身の実体験だ」
「規格外のお前からは想像できないな」
だめだ。これ以上話を続けても、オーグのペースで揶揄われる未来しか見えないわ。
こいつ、やり返しにきてやがる。
このままこの話を続けるのはぶが悪い。
早く話を終わらせて次の話をさせてもらおう。
「絶対防御って言われてるけど、実際のところは魔法を使える人なら誰でも使える障壁魔法だよ。俺はただ、それを誰よりも一つの魔法を研究、実験をして、磨き続けたんだよ。その結果がみんなから言われている絶対防御って言われてるだけで」
「それは何回も聞いているが、何故か信用できないんだよな」
「嘘じゃないよ!信用できないならじいちゃんやシンに聞けばいいよ」
「いやそこまで言うならそうなんだろうが、申し訳ないが信用し難いな。一体どんな訓練を積んでいたんだ?」
「俺には才能がなくてね。6歳になる頃にはシンとは天と地の差があったんだよ。攻撃魔法も岩にヒビを入れる程度、剣も体術も才能がない。幾ら努力しても一向に上達の兆しが見えなかったんだよ」
オーグは黙って俺の続けた言葉を聞く。
「子供っていうのはすごく単純でね。訓練してて唯一結果に現れたのが障壁魔法だけでね。理由はわからないけど、ある日から当時の俺は魔力制御の訓練と障壁魔法の研究を続けた。それを10年近くやり続けて今に至るってわけよ」
「……なるほど。それが絶対防御の秘密か」
「そう……」
「…………」
「いや、なんか言えよ。」
オーグは納得している表情をしているけど、何故か黙り込んでしまった。
いや、なんだよその反応、何か言えよ。
「すまない。素直にすごいと思っただけだ」
「そんな褒められるようなことじゃないよ。俺は散々シンとの差を一番近くで見せつけられ、挫折をあじあわされた。出来たんじゃなくて、自分の存在意義を見出すために縋り付いてただけだよ」
「なるほど。お前もシンの規格外がきっかけで非常識になってしまったのか」
「いや、何をどう解釈すればその答えにたどり着くんだよ!ああ、もう!この話は終わりだ。今後は訓練すれば十分戦えるようになる。がんばれオーグ!!」
「私としてはもう少しこの話を続けたかったんだがな」
オーグはニヤけながらそういう言ってきたが、やっぱりこのまま揶揄われ続けるのは嫌なので、話を断ち切る。
とりあえず話したいことは終わったし、そろそろ話の流れを変えようとするが。
「本当に助かった。悩んでいたことは本当だったからな。気が楽になった」
オーグは何かを思い付いたかのようにそう言ってまた少し口角を上げて、言葉を続けた。
「ここまで言ったんだ。協力はしてくれるんだろうな?」
「それはもちろん。でも、俺が言えること少ないと思うけど」
「それで構わない」
「わかった、協力するよ。いつから始める?」
「そうだな…………来週の朝からで頼む。私も王族としての公務もあるからな……週に2、3回で朝5時あたりで頼む」
「りょーかい。シンは誘う?」
「いや、黙っておいてくれ。あいつの驚いた顔が見てみたいからな。」
「本当オーグも大概だね」
「それはお前だろ」
そう言い、お互いに笑いあった。
オーグの見せた笑顔は先程の暗い表情はなか、何か吹っ切れたような、そんな心からの笑みに見えた。
オーグにとって俺とシンは対等な友人でいたいのだろう。
原作ではシンとオーグの差は埋まることはなかった。
俺が何を言えるかわからないが尽力はつくそう。
その後はシンの二つ名の提案、マリアについての相談をして家に帰宅した。