「ちょっとそこのメイド連れ! 止まりなさい!」
最近考え事が多いようですし、一度外に出てみてはいかがでしょうか? できればスターヴ・ヴェノムと一緒がよろしいかと。なんてハスキーさんに言われて二人で市街地エリアに出ていたら、突然何者かに呼び止められてしまった。
正直こういった手合いにあんまり関わりたくないけど、無視すれば何をされるかわかったものではないので一応返事をすることにする。
「俺か?」
「そーよあんたよあんた、関係ないドラゴンを女の子の姿にしてる悪趣味な野郎なんてあんたしか居ないでしょ」
「なっ……!」
俺に因縁をつけて来たのは、スラっとした高い身長に艶のある紫と緑の髪。そして全体的に落ち着いた緑色の服でコーディネートされた、色気のある男だった。もし普段見たのならば、少しくらいは視線を向けていたかもしれない。だが……。
初対面でめちゃくちゃ言ってくる、なんだこいつ!?
「なんで初対面のあんたにそこまで言われなきゃいけないんだよ」
「なんで、ですって? そりゃあねえ、決まってるわよ。あーしもスターヴ・ヴェノム使いですもの……可愛い可愛いスタヴェちゃんを女の子の姿になんかされちゃあ許せないわよねぇ!」
そんな理由で絡まれたのか……でもうちのスターヴ・ヴェノムは事故でこうなったんだし、仕方ないだろう。
でもこの様子じゃ説明したって聞いてくれそうにないしな、適当にあしらうしか……。
「じゃあ、俺にどうしろって言うんだよ。戻せって言われたって戻すことは」
「決闘よ」
「俺が勝てば引き下がってくれるんだな?」
「ただし! あーしが勝ったらあんたのスターヴ・ヴェノムは貰うわよ」
……は? こいつはなにを言ってるんだ?
しかし横に立つスターヴ・ヴェノムを見る目は真剣そのものだ、その圧に何か悪寒のようなものを感じ。一歩前に出て彼女を守るように前を遮る。
「そもそもアンティルールは規約で禁止されてるだろうがよ、仮にお前が勝ったとしても運営が黙ってないぞ」
「あらカッコイイ、弱小決闘者が竜を自分よりか弱い女の子にして。それを守って騎士様気取りかしら?」
「からかうなよ、あんたがなにを考えてるのか知らないけどこんな勝負受ける必要は……」
「いや、受けろ。決闘者よ」
「なんで!」
この男は正直不気味だし関わり合いになりたくないタイプだ、それにカードを奪われるんだったらそれこそ勝負を受ける必要はない。
それなのに、受けろと言うのか。この覇王眷竜は。
「こやつ、今我をか弱い女子と言ったな……許せんぞ、その不敬」
どうやらさっきのあいつの発言にカチンと来ていたらしい、だからと言ってここで冷静な判断ができなきゃ相手の思うツボに……。
「それと、こやつを弱いと言った事も気に入らぬ。我の決闘者だぞ? 弱いはずがなかろう」
……あー、うん。そうか、そこまで信頼されてるのか。こいつは俺が負けるわけがないと思っている。もしそうでなくても、勝って見せろと言っているのだ。
そこまで信頼されてるなら、応えないと決闘者じゃないよな。
「わかった、そのデュエル受けてやる」
「契約成立ね。じゃ、早速始めましょうか……融合使いアマリリスの力、あんたに見せてやるわ!」
「「決闘!」」
▽
「さあ、これであなたのライフは残り700。さらに盤面はゼロ、極めつけにはあーしのライフは満タンよ。もう諦めてスターヴ・ヴェノムを手放した方がいいんじゃないかしら? 無様晒したって後がつらいだけよ。騎士様?」
好き勝手言いやがって、そう言ってやりたかった。
だが事実、あまりにも無様な状況だった。どや顔して並べたドラゴンメイド達の盤面は多次元壊獣ラディアンとアルバスの烙印にスッカラカンにされ、代わりに相手の場には捕食植物キメラフレシア……そして、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが鎮座していた。そしてさらには伏せられた死魂融合が一枚。
融合使い、そしてスターヴ・ヴェノム使いを自称するのも納得の強さだ。
手札は一枚、残された望みはこのドローにかかっている。
本当に引けるのか……? でもどちらにせよ、ここでサレンダーしたってスターヴ・ヴェノムと一緒に戦えなくなる。それだけは嫌だ。
(全く情けないな、決闘者よ。デュエル前のあの威勢はどこへ行ったのやら)
スターヴ・ヴェノムのその発言に一言くらい言い返してやりたかったが、それもできない。情けないのは事実だからだ。
(我をこのような姿にした責任を取るのだろう? それまではしっかり守ってもらわねば困るのだがなぁ騎士様?)
騎士様、お前までそれを言うか。
ちょっとカチンときた。そんなに言われなくたってなあ。
そんなに言われなくたって、お前を守るし責任だって取ってやるよ!
(ほう、今のはちょっとカッコよかったぞ)
「うるせえやい! ドロー!」
引いたカードは……よし、これならいける!
「まずは手札の超天新龍・オッドアイズ・レボリューション・ドラゴンの効果を発動! このカードを墓地に捨てさらに500ポイントライフを支払う事によってデッキから覇王眷竜ダークヴルムをサーチする!」
ライフは残り200、だが準備は整った!
「俺は手札のオッドアイズ・フュージョンを発動! 自分の場にモンスターが存在せず相手の場にモンスターが二体以上存在する時、EXデッキのオッドアイズモンスターも二体まで素材にできる!」
「ならあーしは罠カード、死魂融合を発動! 墓地のダーリングコブラとドロソフィルム・ヒドラを裏側で除外して融合召喚! もう一輪咲きなさい、キメラフレシア!」
相手のスターヴ・ヴェノムの横からもう一体のキメラフレシアが出現する。ここまでは織り込み済みだ、まだ巻き返せる。
「俺はEXデッキの二体のオッドアイズモンスター。レイジングとリベリオンを素材に融合召喚! 現れろ、覇王眷竜スターヴ・ヴェノム!」
二体の虹彩竜によって生まれる融合の地場から、一人の女神は降り立った。メイドの姿だろうと俺の切り札、スターヴ・ヴェノムだ。
「ついに出たわね、あなたのスターヴ・ヴェノムが! メイド姿なのが不本意だけど対決と行こうじゃないの! さあ早く!」
アマリリスは随分と興奮した様子だ、だがしかし。
俺はそれに付き合ってやる気は毛頭ない。
「俺はスターヴ・ヴェノムの効果を発動! 墓地のレボリューションの効果をコピーする事で、相手のライフの半分の攻撃力を得る!」
「攻撃力6800……なんてデカさなの! これがあなたの本気なのね! かかってきなさいよ!」
目をキラキラと輝かせながらこちらとスターヴ・ヴェノムを交互に見てくるが、これからするのはお前が望む対決じゃ、ないんだけどな。
「さらにコピーした効果を発動! ライフを半分払って……俺のスターヴ・ヴェノム以外の全てのフィールドと墓地のカードを──デッキに戻す!」
「な……な、ななな、なんですってぇ!?」
「お花畑にはお帰り願おうか!」
フィールドはリセットされ、そして俺にはまだ通常召喚権が残っている。手札のダークヴルムを召喚し、ダイレクトアタックすれば勝ちだ。
「……あーしの負けよ、せめて一思いにどうぞ」
「なら遠慮なく、スターヴ・ヴェノムとダークヴルムでダイレクトアタック!」
……
「ギリギリであるがなんとか勝ったようだな、カッコイイ騎士様?」
「あーもうそれでからかうの本当に止めてくれ恥ずかしいから」
デュエル内容は確かに情けなかったかもだったけど、勝ったんだからからかうのは止めて欲しい、今めちゃくちゃ疲れてるんだし。
「いや、貴様がカッコよかったのは本当だぞ? 我を扱う主として、相応しい戦いであった」
褒めて遣わす、なんていいながら真剣な顔でこちらに向き直り、前にその小さな女の子に手を、握りこぶしにして突き出してくる。
「だからなんだ。我が元に戻るまで、まだまだよろしく頼むぞ。決闘者よ」
「おう、絶対元に戻してやるからな」
信頼の証としてスターヴ・ヴェノムから突き出された拳に、軽く自分の拳をコツンと、当ててやった。
▽
「もしもーし? お仕事、終わったわよ」
市街地エリアの一角にある人気のない路地裏、そこでアマリリスはコンソールに向かって話しかけていた。
「結果は?」
「んもう性急だこと、不正や違法ソフトの類は使われてなかったわ。ただのバグね。つまんない嘘ついてデュエルまでしたけど、あの子は放っておいてもいいんじゃないかしら?」
「そうか……ならば彼はリストから外すとしよう」
「あら? 結構簡単に信用するのね、あーし一応外部の人間なんだけど?」
「正々堂々とデュエルで確認したのだろう? であればお前を疑う要素はないはずだが」
「あ、そう。なんというか、あなたも大概デュエルバカよねぇ」
「そう褒めるな……照れるだろう」
褒めてないんだけどね、という言葉を飲み込んでナデシコはあははと笑って誤魔化した。
「ま、それじゃそういう事だから後よろしくね~。あーしは退勤しまーす」
アマリリスは一歩的に通話を切った後、一度伸びをしてから路地裏の闇へ消えていく。
「あの二人の事、個人的にはまだ見てなきゃいけないし、またちょっかいかけちゃおうかしら」