第 1話 TS転生
「お前さぁ、なんでこれが説明できねぇの?!」
「はい……、すみません……」
「すみません、じゃあ、ねーんだよ!!!てめえのバカ正直な行動のせいで会社に迷惑与えてんだろうが!!」
どこにでもいるような平凡な男が職場で上司の部長に怒られている。
男の前で声を張り上げている部長が部下へのパワハラで有名なのは、この職場では周知の事実だった。
部下を締め上げ、それで成果が出れば良し。成果がでなければ部下が無能だと周囲に言いふらす。最悪、その部長が
そうしてひとしきり怒られた男が自席に戻る頃には、シフト終了時間はとうに超えていた。
ここで終わればまだ幸せだったのかもしれない。自席に戻りかけたところ、指導の続きが待っていた。
「ちょっと!私にも何か言うことあるんじゃない!?」
「はい、課長……。申し訳ございませんでした……」
今度は直属の上司である課長になじられるのが始まった。この会社にはまだ少ない女性管理職であった。
時間の使い方が下手、男がしでかしてしまった失敗への再発防止策を考えろ、素直に言うことだけやればいいのではなく指示を先回りして考えろなどと一通りの説教が懇々と続く。
「はあ、もういいわ。戻りなさい」
「はい……」
男が自席に戻ろうとした際に課長がボソッとつぶやく。
「ったく、これだから童貞は」
パワハラにセクハラと男の精神は限界だった。
男は学校を卒業してから半年経った頃、地元のバス会社の事務職として夜勤もある不規則な生活をしていた。年上ばかりの運転手たちからは舐められ、上司には日々怒られ、精神的に追い詰められている状態が続いている。
素直さがこの男の良さではあったが、その能力が活かされる風土のある職場ではなかったし、そのこと自体が本人の運の無さを示していた。
怒られては気が沈み、怒られている間は仕事が進まないため、時間外勤務が多くなり、睡眠時間も思うように取れず、起きている間も疲れがとれていないため、集中が続かない。そして仕事も進まない、ミスも減らない。そんな負のスパイラルに陥っている状態だった。
また、仕事自体もミスが多く、達成感も充実感もないため、自信や自尊心が育たず、承認欲求も満たされず飢えている状態。うつ病の一歩手前、ギリギリの精神状態が続いていた。
「仕事いきたくねぇ……。ここで事故ったら仕事行かなくて済むよなぁ……」
これが電車通勤なら飛び込みも頭によぎっただろうが、あいにく職場までは自転車で通勤している身であった。当たり屋のごとく通勤ルートのトラックにぶつかりに行こうと何度も考えたが、痛そうだなあと実行に移せずにいる。
とある夜勤明けの帰宅後、男は閉めっぱなしのカーテンの隙間から朝日が差し込む自室に戻った。
「ただいま……」
1人でのアパート暮らしだ。別に返事が返ってくる誰かが待っているわけではない。単なる習慣である。
男は仕事着を脱いでシャワーを浴びる。もうしばらく浴槽に湯を張っていない。そういう余裕のある生活を送る気力はとっくに削がれていた。
就寝前に冷蔵庫から冷凍パスタを取り出して、包装を破いたら電子レンジに突っ込むだけの朝食を準備し始める。
そして、電子レンジの設定と同時にパソコンを起動した。テーブルの上に温まった朝食を置く頃にはゲームをするためのブラウザを立ち上げる。
「家に帰ってやることは悲しくもゲームのみ……。だけども唯一の楽しみなんだけどなぁ」
男のもはや唯一と言ってよい趣味であり、日課でもあることは学生の頃から細々と続けていたゲームをすることだった。それは『艦隊これくしょん ― 艦これ』である。
旧日本軍の駆逐艦や巡洋艦、戦艦などを擬人化した「
SNSの普及とも相まってユーザー同士で情報交換しあって攻略することが事実上の前提だったり、擬人化ソーシャルゲームとしては大ヒットしたりと界隈では有名作品である。
男は今日も今日とてゲーム進行に欠かせない資材確保のための「遠征回し」と「デイリー任務消化」のために艦これを起動した。
ちなみにこのゲームは立ち上げると、ほかのソシャゲでもよくある機能だが、メイン画面に遷移するといわゆるログインボイスが流れる。
『はーい。提督、待ってました! 軽巡夕張、今日も艦隊でスタンバってます!』
男が秘書艦に設定していた軽巡、夕張のボイスが暗い部屋に小さく響く。
「あー、こういうルーティンをやっている瞬間が一番落ち着くんだよなぁ……」
男は次々とデイリー任務を消化していく。
このゲームの基本的な遊び方は、ゲーム運営から与えられた任務などをクリアし、ゲーム内の艦娘で構成される艦隊を運用していくための資材を入手して、定期的に開催されるイベントに挑むことである。
そうして順番に日々の任務を処理していくと見慣れない任務項目が目に入る。
男は頭に疑問符を浮かべながらマウスをクリックして詳細を確認しようとする。
「暁の水平線に勝利を刻め?見たことの無い任務だな。こんなの攻略サイトでもあったか?ま、定期アップデートで追加されたんかな……」
男は少し怪しむもゲームのアップデートで新たに追加されたんだろうと納得し、夜勤明けの回らない頭で任務受諾を決定するために画面をクリックする。
次の瞬間、モニターから強烈な光が出て、部屋中を白色で照らす。
「うぁ!!眩し!!!なんだよ、これ!!」
男は視界が真っ白になり、そのまま眠りに着くように意識を手放した。
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「……、……。そ……。……!は……」
「……ろ、そ……ね、報……備、して……て」
「は…、……解です。久……ね!」
「はい。……不足です…ね。助か……」
耳が途切れ途切れで意味不明な会話をしている声を拾う。
男は明瞭でない頭でゲームの途中で眠さのあまり寝落ちしてしまったのかと考えていた。聞こえてくるのは理解できる会話でなかったが、だんだんと声が近くはっきりとしてくる。
そして、男は重いまぶたをようやく開くことができた。
「それに……上手……もの……」
「はい、この……の艦霊の再建造は……したと言っても……います」
「けっこうなことやな、……やつもおるけどな」
「できない艦……原因まではまだ解明できていません。それは課題です」
「ま、それはおいおい……、ん?おい、目ぇ覚ましてんでぇ、こいつ」
はっきりしてきた視界には、信じられない光景が広がっていた。
さっきまで画面の向こうにいたはずの
「あ、建造艦が覚醒しました!」
寝かされていたベッドから上半身を起こすと、ゲームでよく見るアイテム娘こと、
「気づきました?今の状態が認識できますか?航空母艦
「……、は……?」
自然と疑問が口から漏れていた。そしてその口からは男のノドから出るはずのない女性の高い声が無意識に出ている。
そう、先ほどまで男だと自認していたモノはゲームのキャラクターになっていた。
それもドイツ艦の「