「さて、次です。装備を確認しましょうか。
えーと、前のデータと同じならBf109T改と副砲、それに機銃ですね」
「前のデータ?」
グラーフが思わず聞き返す。前の、とはどういうことだろうかと。
その疑問に対して
「グラーフさんはご自身が再建造艦だってことは鎮守府で言われていますよね?」
グラーフがうなづく。
「前のグラーフさんが使っていた装備などが書いてあるんです。龍驤さんが必要だと思ったんでしょう。あの人は根回し上手ですからね」
「なるほど……」
「まずは……、そうですね。副砲を撃ってみましょうか。
向こうに島が見えますか?その島を目掛けて撃ってください。誰も住んでいませんし、つい先ほどグラーフさんたちがここに来る前に私と
赤城がグラーフに艤装に4門ある砲で向こう1キロ以上先にある小島を目標として撃つよう指示する。
その小島はでこぼこで数えきれないほどクレーターが重なり合って荒れ果てていた。灌木や下草がまばらに生えているのみで艦霊たちによる演習の標的として使い倒されているのが遠目で分かる。この周辺が確かに艦霊たちの演習に利用されている証拠の一つでもあった。
「まあ、明後日の方向でなければ外したって大丈夫だよ。あたしも赤城も当てられるなんて期待しちゃいないさ。
艤装は動かせるだろ?ひとまず撃ってみなって」
グラーフは言われたとおり艤装を出した時の感覚を思い出しながら、腰回りの艤装についている砲を動かしてみる。
ただ、砲が動くことは動くが、肝心の砲口から何故か火が吹かない。しばらくの間、砲の角度が悪いのか、それとも動かしていると逆に安全装置か何かで撃てないのかなと待ってみたり、いろいろと試してみる。しかし、一向に艤装の副砲からは何も出てくれなかった。
赤城と隼鷹をいたずらに待たせても悪いので、あきらめて現状を報告して尋ねる。
「あの、すみません……。撃てないんですけど、どうすればいいですか?」
「撃てない?」
「はい……」
「では、その手に持っている機銃は撃てますか」
赤城が副砲がダメならとグラーフが右手に持っている機銃を指す。
だが、引き金を何度もガチガチと音を立て引いてみるが、弾が出ることはなかった。どこかに普通の銃と同じように安全装置のスイッチでも付いているのかと、機銃をぐるぐると回して確認するが、そういったものは見つからなかった。
いよいよ途方に暮れようとしているグラーフに隼鷹が再びアドバイスを言う。
「艤装の妖精に聞いてみたら?」
「妖精って何です?」
「背負っている艤装を動かしてくれている連中さ。ほら、その甲板の上にいるぜ」
グラーフが艤装の甲板を見ると手のひらサイズの2頭身の小人がいた。
1人―ヒトと数えてよいのかグラーフには分からなかったが―いて、腕組みして堂々としている妖精と呼ばれた存在がグラーフに声をかける。
『今の状態じゃ撃てないぞ』
今度は妖精という存在が現れた。そのことだけでも驚いてしまっているのに、さらに艤装に付いている副砲が使えないと言ってきた。
「な、なんで撃てないんですか……?」
グラーフとしては妖精とは具体的にどういう存在かと問いたかったが、先にこの質問をするしかなかった。
『それは我々にも何故か分からなかった。先ほど君が艤装を初めて顕現させてから我々妖精は自分たちがどういう存在か、何をできるのかを本能的に理解した。
そして今、艤装の副砲を用いて発砲を行おうとしたのだが、いくつかのプロセスで決定的な何かが欠けている』
「それは解決できるものなんです……?」
『それも分からない。解決には時間が必要だ。また、その手に持っている機銃も現状は使用不可能だろう。
だが、艦載機は出せるはずだ。我々もこの艤装の能力発揮のために必要なことは行っている。艦載機が出せないようでは何のための空母だか分からないからな』
妖精がグラーフの質問に答える。その言葉通りであれば、副砲や機銃は使用不可だが、甲板からは艦載機を出せるとのことであった。たしかに艦載機すら出せないようでは何のための艦霊だか分からなくなる。
このままでは欠陥空母になりかねない。グラーフと妖精の会話を聞いていた赤城が話を先に進める。
「では副砲を撃つのは後回しにしましょう。重要なのは艦載機です。
グラーフさんは艤装の妖精に発艦の方法を聞いてみてください。艦霊によって発艦方法は異なりますから私たちでは教えられません。
妖精さん、グラーフに教えていただけますか?」
『了解した。腰にポーチがあるだろう。そこにカードになっている艦載機がある』
妖精の言うとおり腰回りをコの字で囲うような形の艤装の先によくあるトランプカードがきっちり収まるサイズのポーチが左右に2つずつ付いている。
かぶさっているカバーを外すと中には濃い青色の金属箔の付いたカードがそれなりの数量で入っていた。一番上の一枚を手に取ってみると少しざらついた感触がする。カード自体はとても薄く紙幣ぐらいの厚みしかない。
『手にしているカードを甲板の裏に差し込み口にセットしてみろ。あとは我々が作業する』
言われたとおりにサーフボードのような大きさの甲板の裏側にカードがぴったり入る大きさの差し込み口があった。カードを半分くらい入れると勝手に吸い込まれていく。まるで自動販売機の紙幣投入口みたいだなとグラーフは思った。
「さて、グラーフさん。あなたは何色でしょうかね」
「何色……?」
赤城が言っている意味が分からず聞き返すグラーフ。
「空母の艦霊が打ち出す艦載機ですが、それはもちろん機体の種類により区別が付いたりしますが、一番大きな特徴が
例えば今前方の空を飛んでいる九六式艦戦は隼鷹さんの艦載機を見てください。グラーフさんがここに来る前に演習用に出していた戦闘機なんですが、その全てが藤紫色であるのが見えるでしょうか」
赤城が遠く指す空には明るい紫色の飛行機が10機ほど列を成して飛んでいるのが見え、この演習場の空をゆっくりと大きく旋回している。
「つまり今から出すことになる戦闘機も自身の固有の色になっているということですか」
「そうです。何故かは誰も分からないんですけどね。でも誰が飛ばしているのか識別に役立つので有難いことです。
さあ、艦載機を出しましょう」
『出るぞ。飛行甲板は自分で動かせるな?任意の方向に向けて飛ばせるはずだ』
グラーフは妖精の言うとおり自分の手足のような感覚で艤装に取りついている飛行甲板を動かす。どこに向けるべきかもよく分からないので、とりあえず先ほど目標だと言われた小島の方向に向ける。
小さなラジコンや模型のサイズの艦載機が飛行甲板の中からエレベーターのようなもので出てくる。飛行甲板とエレベーターの高さが一致してガチっと艦載機の足を固定する音が鳴る。するとたちまち弾かれたパチンコ玉のように勢いよくカタパルト発進し、艦載機が甲板から離れていく。
離れて数秒後に手のひらサイズだった艦載機は遠近感が狂ったかのように急激に大きくなり、あっという間に歴史上存在したはずの大きさになっていった。航空機が大きなエンジンの唸り声をあげながらプロペラで空気を割いていく音が演習場に響いていく。
「す、すごい……。本当に飛ばせた……」
グラーフは自分が飛行機を飛ばせる存在なのだという実感が湧き、心の中でゲームのキャラクターたちがやっていたことをできているという何とも表現しがたい高揚感と戸惑いが混ざり合わさった気持ちでいっぱいだった。
「濃い青色だなぁ。さしずめ、
一方、隼鷹はグラーフの飛ばした方向を見上げながら艦載機がまとったその色を言う。その鉄紺色と表現された色は明るい晴れた昼空の下では、まるでぽつりと開いた夜の影のように見えたのだった。
『我々もちょっとばかり心配だったが、ひと安心だな。
あちらの声は聞こえるか?内に集中してみろ』
「あちら……?」
『艦載機を操縦する妖精からの声だ。一応、艤装の妖精には役割分担があってね。航空機を管理している立場のやつが今艦載機からの報告をお前につないでいる。艤装のどこかに触れてみろ。声が聞こえるはずだ』
妖精に言われたまま視界に入っている艤装の先に触れてみる。そうするとラジオの電源を付けたように少し雑音交じりの声がグラーフの頭の中に響く。
『……はい。こちら1号機です。全ての動作に異常なし。このまま演習場空域を旋回しながら滞空します』
「ほ、本当に、頭の中で声が聞こえる……」
「今は1機しか飛んでいませんから、直接艦載機の妖精と話してもいいですが、一度に飛ばす数が多くなると、それぞれへの会話や指示は難しくなります。ですので、通常は艤装の妖精さんの役割分担に従った方がよいです」
赤城が艤装の妖精の言うことの補足をする。
「普段はあなたが今、話している艤装の妖精のまとめ役を通じて指示することになるでしょう。艤装の妖精は砲雷、通信、艤装の状態管理、燃料弾薬、航空機の概ね5つに役割が自然と分かれている艦霊が殆どです。
細かい指示が必要な場面では、それぞれの筆頭に話すこともあるでしょう。グラーフさんは数百の妖精を束ねる艦長でもあるんですよ」
『おれはその艤装の妖精の全体のリーダーにあたるんだぜ?まあ、お前と艤装をつなぐ重要な存在さ。丁重に接してくれよな?』
「う、うん」
グラーフはうなづくしかなかった。
とりあえず赤城と隼鷹の期待どおり艦載機は出せた。艤装には妖精がいて、妖精はグラーフをサポートし、指示に従って艤装の力を使ってくれる。ただし、なぜか艤装に付いている副砲や機銃は使えない。
「じゃあ、艦載機をもっと出してみましょう。1機だけでは戦闘はできません。数をきちんと運用してこそ空母の本懐です」
「りょ、了解です」
『さっきと同じように腰のポーチに入っているエッチングカードを甲板裏に入れてみろ。一度に出せるのは1機だから、1機が甲板から出たのを確認してから、次のカードを差し込むんだ』
妖精の指示どおりに一枚ずつ甲板にセットするグラーフ。さきほど見た光景と同じように小さな艦載機が甲板のカタパルトで勢いよく発進していき、発艦後しばらくすると大きさを取り戻していく。
一枚一機、また一枚一機と順々に飛行甲板から発艦させていく。
そして演習場の上空には高度を変えて適当な編隊を組んだ航空機で満たされていく。この空域には大きなエンジン音があちらこちらに鳴り響かせながら、鉄紺色の艦載機が青空をその色で部分的に染め上げながら飛んでいる。
「なあ、グラーフ、まだ艦載機を出せんの?今ので50機目だろ?」
隼鷹が流れ作業となっている発艦作業をしているグラーフに尋ねる。
いつの間にかグラーフは艦載機を飛ばしている作業に没頭していた。順序よく腰のポーチから一枚のカードとしてパッケージされた敵を倒す能力を持つ艦載機を撃ちだす一つの
声をかけられたグラーフはハッと気づき、手を止めて隼鷹の方へ振り返る。
「あ、はい。もっと出せそうです」
「ん……、どのくらいさ?」
無邪気な新人は時にその道のベテランを驚かすようなことをしれっとやってのけるのをしてしまう。
それが偶然起きる現場に赤城と隼鷹は居合わせようとしている。
「腰のポーチに艦載機のカードが入っていて……、えと、
「……、……本気で?」
「は、はい」
隼鷹が赤城と目を合わせると二人して思わず、ふぅ~とため息をつきながら空を見上げる。理解を超えたものを見ると天を仰ぐのは艦霊も同様らしい。
しばらく間、癖なのか片手で前髪を掻き分けながら考え込んだ赤城が続きを言う。
「全部発艦させてしまう……とはいきませんね。こんな狭い空域で事前連絡無しであと500機も飛ばしたら鎮守府から何事かと言われてしまいますし、そう遠くない民家からも騒音で苦情が来てしまうかもしれません」
「そうだよなぁ……」
「え、と。これっておかしい、んですよね……」
赤城と隼鷹の会話を聞いているとグラーフは自分が飛ばせる数が明らかに普通ではないことを察してこれは異常なのか問う。むしろ「おかしいのか」などと問わなくとも一般的な洞察力があれば、自らが飛ばせる艦載機の数が二人の常識から外れ、もしかしなくても一目置かれる能力なのだと想像できる。
というのも実際のところ、ほかの艦霊では平均して60~70機、最大でも100機弱の艦載機を積むことしかできない。
そんななか、一人でほかの艦霊の10倍の艦載機を搭載できる。この能力が反則級であることは明らかだった。
「おかしいことはありませんよ。グラーフさんが自分の能力に対して不安に思うような必要はありません。むしろこれからあなたにはいろんな役割と期待が待ち受けることになるでしょう。心配するのならそっちの方ですね」
「だろうなぁ。なんて上に報告するよ、このチート娘*1のことをさ」
やや興奮しているのか隼鷹は少しニタニタとした表情で赤城の感想に合わせる。運用の仕方によってはいろんな使い方ができる新人がやってきた。それは隼鷹にとっては新しい心を躍らせる出来事になるに違いなかった。
「正直に報告するほかないでしょう」
「どういう風にさ?新しくきた新人は空母10人分相当であり、一つの鎮守府と同じ航空戦力を運用できるんです、ってか?」
「ふふ。そういうと突飛な話ですね」
思わず赤城が笑う。赤城としても使える後輩がやってくることは歓迎の気持ちであった。
「さて、グラーフさんの素晴らしい能力が分かったところですし、今日の作業は艦載機の艤装への着艦方法を確認したら終了にして、鎮守府に戻りましょうか」
「は、はい!」
これは褒められているはずと確信できたグラーフの今の内心は嬉しさで一杯であった。
自分が今までゲームや漫画、小説で読み聞きしてきた物語であった周りを圧倒する能力が転生時に身に付いている。
テンプレだけども、いざ本当にそういう扱いを受けると自分の存在が認められたようで喜びに満ちていた。
最初の書き溜めはここまでです。一週間以内程度で次回を上げるようにします。