RE:(偽)吸血鬼お嬢様のバイオハザード   作:朱と白

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修正版の二話になります。
どうかよろしくお願いいたします。


(偽)お嬢様、準備を始める。

 

 ()()()()()()()

 『生物学的危害』『生物災害』という意味合いのある単語だが、今の私にはそれ以外の意味合いが含まれる言葉だ。

 

 バイオハザード、またの名をレジデントイーヴィル。

 五百年以上前――私がまだ人間だった頃、テレビの前でコントローラーを握り実際に遊んだゲームタイトルだ。記憶が正しければ映画化もされていたはず。

 実際に触れたことはないが知識はある、名前だけは知っている、なんてことも珍しくない有名な名前だった。

 

 始まりは1998年の夏。

 アメリカ中西部の地方都市・ラクーンシティ郊外の孤立した民家の住人が食い殺されるという猟奇事件から始まった。

 黒幕の名は『アンブレラ』。ラクーンシティへ根を張る傘の名を冠した巨大な製薬会社。

 経緯を一から語ると長くなるので省略するが、最終的には会社の開発したウィルスがネズミを媒介に街へ拡散。それがバイオハザードの引き金になった――というのが事の顛末だ。

 

 ここまで語ればもう簡単だ。

 魔法の存在する世界、かつ転生したのが1400年代だった事実から気にも留めなかったが、つまりは()()()()()()になる。

 

 付近の街の名前がラクーンシティであったということ。体の所々が腐り落ちたケルベロス(ゾンビ犬)を見たということ。妙に既視感がある洋館が建てられたということ。

 補足すれば、ある時『アークレイの食人鬼』なんてコラムを見たことがあるという点。

 

 私が今生きる世界が、()()()()()()()()()()である事実に他ならない。

 

 ――いやまあ、だからどうしたというわけでもないのだけどね?

 

 現在確認されている各種ウィルスは私には効かないし、もっと言えばフランと咲夜(家族)が無事なら一切気にならない。余裕があれば一般人も助けるつもりだが、最も優先するべきは彼女達。

 

 なにより招かれざる客(傘の会社の御一行)からちょっかいをかけられるのも気に入らない。

 状況が状況だし、正当防衛は成立するはず。仮にその理屈がなくとも通す。

 面倒事が増える前に露払いをさせてもらおう。

 

 

○○○○

 

 

 とはいえ、やらなければいけないことはまだある。

 引っ越しだ。

 

「今回の一件は悪かったわね。急に『引っ越しだ』なんて言われたから困ったでしょう?」

「構いません。お嬢様の命に応えるのが私の役目、それにお嬢様のいる場所が私の生きる場所ですから」

「フフっ、相変わらず真面目ね」

「勿体ないお言葉です」

 

 もうそろそろバイオハザード(物語)が始まる頃合い。

 しかし日時を逆算すればまだウィルスのサンプルは漏れ出していないはず。で、あれば早めの行動は効果的だろう。

 

「長いようで短かったわね。ここに住み始めて何年だったかしら」

「五年半です。妹様と出会う前は旅を続けていましたし、駆除業に就いたのもここへ住み始めた頃だと記憶しています」

「ああ、もうそんなに経っていたのね」

 

 どの道、もうここにはもういられない。

 少々騒ぎを起こし過ぎたのだ。

 あの日フランとの約束があった手前初手グングニルという初撃決殺を狙った私だったが、今思えばそれがまずかった。

 私の必殺技とも言える因果超越の神槍の威力は凄まじく、ケルベロス諸共周囲を吹き飛ばした。 

 

 そう。

 周囲の一切を例外なく吹き飛ばしたのだ。

 

 轟く炸裂音。空を照らす真紅の光。

 

 結果として山の大部分を文字通りに抉るという大きな爪痕を残す異常事態に、当然ながら警察も出動。

 私どころかフランや咲夜にも調査の手が及んだ大事件へ発展しかけたが、私の咄嗟の言い訳(アドリブ)に咲夜が合わせてくれたことで事態はどうにか一旦収束。

 もっと言えば十四~五歳の子供に――戸籍上は二十歳越えの成人だが――山の大部分を抉るなんて真似はできないだろうと判断されたこと、また向こうも本部から呼び戻された状況も相成り、事なきを得た。

 

 その後一体何を勘違いしたのか、『お姉様がいなくなるのは嫌だ』と泣き出したフランに手を焼いたのは、完全な余談だ。

 どこへも行かないという説得の効果は薄く、ぼろぼろと大粒の涙を流しながら背中越しに羽の根本を掴まれたのは記憶に新しい。あの時ばかりは羽を引き千切られるんじゃないかと本気で焦った。

 

 ちなみに咲夜は助けてくれなかった。何故アドリブには付き合ってくれるのに、こういう時は見捨てるのか。

 曰く『馬に蹴られたくない』らしいが、どういう意味かさっぱり分からない。

 

 それはともかく。

 そういった事情を抜きにしても、事態が動き出す以上保険をかけておくに越したことはない。

 よってラクーンシティから離れることにしたのだ。

 

「おねーさまー! 準備できたよ!」

「そう。よくできたわね、フラン」

「えへへ」

 

 そういえばそんなこともあったわね、なんてことをぼんやり考えていたら、愛しい妹が胸元へ飛び込んできた。

 どうやら引っ越しの準備――というよりかは忘れ物の確認が主な目的らしい――が終わったらしい。

 褒めて、とばかりに羽をパタパタと上下に動かすフランの頭を撫でてやると、実に満足そうな表情を浮かべる。私の自慢の妹は今日も可愛かった。

 

 さて、もうここに用はない。

 屋敷へ手を翳し、転移魔法を発動する。

 

「それじゃあ行きましょうか。傘の魔の手が届かない、新しい地へ」

 

 ちなみにフランは身の回りの忘れ物がないか確認していたようだが、屋敷ごと転移するので諸々の確認は必要なかったりする。

 ああ、私は言わないわよ?

 褒められて喜ぶフランが可愛いから。

 

 

○○○○

 

 

「数百年ぶりに使う魔法だけど、存外体は覚えているものね」

 

 息を吐きながら、魔力を霧散させる。失敗するつもりなど毛頭なかったが、無事に転移が成功したのは嬉しい誤算だ。

 ここに来たのは土地の購入の際に訪れた時以来だが、何も変わっていないようでなによりだ。屋敷の大きさを計算し、装飾の位置の調整を済ませておいたのが功を奏したらしい。

 我ながらなかなかの出来栄えだと思う。

 

「お嬢様のお手を煩わせてしまい、申し訳ありません。本来なら私が場を整えるべきでした」

「別に良いわ。力仕事はガラじゃないけど、咲夜にはその分家事を任せているもの。あの時の借りもあるしね」

 

 咲夜には咲夜にしかできないことがある。だとすれば、私は私のやるべきことがある。

 要するに適材適所というやつだ。

 少なくとも私は従者だけに負担を強いるつもりはない。

 夜の王の在り方とはかけ離れているのかもしれないが、生憎中途半端に人間の価値観が混じった歪な存在なのだ。別に問題はないだろう。

 

「月がよく見える良い場所ね。土地にこだわった甲斐があったわ」

「わぁ......! ねえねえお姉様、ここでパーティーしたい!」

「そうね。事が終わったら、三人でお茶会も悪くないかしら」

 

 

 無邪気にはしゃぐフランの姿に癒されながら、さてどうしたものかと一人物思いに耽る。

 考えるのはただ一つ、これから先のことだ。

 ここがバイオハザードの世界だと確信したあの時から、早々に行動指針は決めていた。好奇心が半分、勝手な義務感が半分といったところか。

 

 ――ラクーンシティへ向かう。私が最初に目的に据えたのはそれだった。

 理由は色々あるが、最もたるものを挙げれば単純だ。

 事態をある程度把握し、脅威を街の中で押し留めるため。

 

 私はここから先の事態を知っている。だがそれは、あくまでも知識通りに事が進めば、という大前提を必要とする。

 簡単に言ってしまえば、私という『本来どこにもいない異物』の存在が物語を歪める可能性がある、ということ。 

 状況が変化する程度ならばまだいい。

 敵が増えるだとか、警察からの警報がないだとか、そんな程度ならいくらでも対処できる。

 最悪の状況は街からゾンビが溢れ出るだとか、本来の流れから大きく逸脱する事態が起きる点にある。

 だったら今回の転移同様早々に先手を打ち、私の手の届く範囲で流れをコントロールしてしまおう、というわけだ。勿論何もかも上手くいくとは限らないだろうが、やるだけの価値はあるはず。

 

 残る問題はフランと咲夜にどう説明するか。否、彼女達をどうするのかと言うべきか。

 巻き込むのか、遠ざけるのか。道理を取るのか、意地を取るのか。

 たったそれだけの、難しい問題だ。

 

「? お姉様?」

「......ん、大丈夫。大丈夫よ」

 

 フランに声をかけられ我に返る。

 目の前には吸い込まれそうな赤い瞳と、見透かされそうな眼差しがあった。考え込むと意識が飛ぶ悪癖が出たらしい。

 ......とはいえ本当にどうしようか。

 適当に誤魔化しはしたものの、時間的にも目の前の妹にも、ずっとこのままというわけにもいかない。

 

「...」

「本当に何もないわ。必要ならきちんと話すから」

 

 不服そうな視線に苦笑を返しながら、最愛の妹をどうにか宥める。

 フランは甘えん坊の気質こそ強いが聡明な一面もある。私の仕草や行動、必要ないと切った数少ない情報から真実へたどり着くことも珍しくない。

 幸いまだ気付かれていないようだが、それも時間の問題。

 仮に私が何か企んでいると気付こうものなら、洗いざらい吐かされることになる。

 進み方が決まっていない以上、今そうなるのはあまりよろしくない。

 

「――」

 

 そっと目を閉じ、開く。

 気付かれないように能力を使う。

 視るのは固定された未来への道筋。収束する結末への道中。

 大きな結末は変わらなくても、私達の運命は歩く道によって変わる。

 きっと今がその分岐点だ。この先の運命がどうなるのか、この判断にかかっている。

 

 なんて仰々しく語ったけど、断片的に視えた未来は大体同じ。辿る道筋が変わったとしても、収束する場所は変わらない。

 ......私が求めたとはいえ、本当に厄介で面倒な連中だと思う。

 だというのに、振り回されるのが心地良いと感じるのだから不思議だ。

 

「フラン、咲夜」

 

 だったら、いっそ巻き込んでしまおう。

 彼女達が拒まないというのなら、どこまでも我が儘に在ろう。求めてしまおう。

 

「もしも私が『危険しかない場所へ来てくれ』と言ったらどうする? ああ、断っても文句は言わないわ」

 

 逃れられない脅威なら私が守ろう。

 私の家族に手を出す脅威は振り払おう。

 

「お嬢様の御命とあれば、どこまでも」

 

 最初に口を開いたのは咲夜だった。

 いつものように頭を垂れ、私に忠誠を誓ってくれる。昔から変わらない、頼りになる従者だ。

 

「本当に迷惑をかけるわね。無理はしなくていいから」

「そのお言葉、お嬢様にお返しいたします」

「言うようになったわね」

 

 ......時々口が過ぎるのが玉に瑕だが。

 

後で私の部屋に来なさい。渡す物があるわ

 

 咲夜に小さく耳打ちする。

 巻き込むと決めた以上、相応の準備は必要だ。結果論だが、()()を用意しておいてよかった。

 

「むっ!」

 

 そんな様子が気に入らなかったのか、フランが私の腕を抱いた。

 相変わらずいかにも『不機嫌です』とばかりに頬を膨らませる姿に笑みが浮かびそうになるが、今は我慢だ。

 不貞腐れたように顔を逸らした妹へ、一先ずと言葉をかける。

 

「その、フラン。話さなかったのは私がどうしようか決めてなかったからなの」

「ふん」

「ぐふっ」

 

 妹が視線さえ合わせてくれない現状が辛い。

 私に非があるのは重々承知の上だが、こうも拒絶されると心が折れそうになる。

 

「......許さないもん」

 

 そんな時、小さな呟きが耳を打った。

 愛しい妹の声を聞き逃すつもりはなかったが、意識の外から聞こえたその内容を知ることはできなかった。

 

「フラン?」

「勝手に離れたり、一人にしたら、許さないからね。それと一人で動くのも許さないから」

 

 問いかけると、返ってきたのは随分と可愛らしい恨み言。

 どうやら私一人の行動と、フランを除け者にすることを禁じられたらしい。これはまた、随分と難題を要求されたものだ。

 

「――。ええ、肝に銘じておくわ」

 

 しかし、そう望まれたなら応えるのが務めだろう。

 それで許されるのなら安いものだ。

 

「それじゃあ話も纏まったことだし、準備を始めましょうか」

「ねえねえお姉様、おやつは持っていってもいい?」

「良いけど、おすすめはしないわよ。向こうで良い店を探すつもりだし」

「ほんとっ!? じゃあ持っていかない!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるフランに腕を抱えられながら、勝手知ったる屋敷へ向けて歩き出す。先程の不機嫌さが嘘のようなはしゃぎ方に、今度こそ頬が緩む。

 その後ろを歩く咲夜の顔にも緩い笑みが浮かんでいた。

 

 さて、何から始めようか。

 事態の説明か。それとも行動指針の確認か。

 咲夜にも物を渡さなければいけないし、やることは山積みだ。

 

 だけどまあ、それも悪くない。

 『運命を操る程度の能力』の持ち主の答えとしては最低の答えだろうが、フランと咲夜(家族)がいてくれればどうにかなるだろう。

 今この瞬間だけは難しく考える必要はないと、そう思えたから――。




まずは感謝と謝罪を書かせていただければと思います。

今話をお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。
修正前の二話・三話をお読みいただいた皆様、この度は本当に申し訳ありませんでした。

詳しくは活動報告へ目を通していただければ伝わると思いますが、今回は作者自身の未熟さ、身勝手さが招いた一件です。
ここに多くのことは書けませんし、作者もそれをする資格はないと思っています。
ですが、重ねて謝罪させていただければ幸いです。

また、本当に厚かましいお願いだと承知の上ですが、よろしければまた次回もお付き合いいただけたらと思います。
よろしくお願いいたします。
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