修正前からお読みいただいている皆様、本当にお久しぶりです。
まずは約一年越しの更新になってしまったことに対して、お詫びを申し上げられればと思います。
本当に申し訳ありませんでした。
今話は修正前の第三話から大幅に変わった内容となっております。
作者自身久しぶりの更新ということもあり、至らない点やお見苦しい点など多々あると思いますが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、どうぞ。
「お嬢様、咲夜です」
「フランもいるよー!」
「ええ、待っていたわ。入りなさい」
ラクーンシティへ向かうに際し、私はフランと咲夜を自室に呼び出した。
無策の丸腰で向かってやられました、なんて笑い話にもならない。なによりそんな結末を認めるわけにはいかない。
扉の開く音と共に部屋へ入る私の家族を見て、ただそれだけを改めて思う。
決めた時からぶれることのない、私の行動指針の一つなのだから。
「長話のアテになるようなお茶請けはないのが残念だけど、遠慮せずに座りなさい」
本当は月がよく見える場所で咲夜の紅茶を飲みながら話ができれば最高だったのだが、準備は早めに整えておきたい。
加えて咲夜に言っておいた『渡すもの』を持ち出す手間もあった。......持ち出すのに骨が折れるほど面倒なものでもないのは事実だが、言わない約束だ。
促した通りに席へついたフランと咲夜に倣うように私も座り、軽く一瞥。
「前置きも説明もいらないと思うから、単刀直入に言うわね。――ラクーンシティへ行く前に、幾つか話して決めておきたいことがある」
注目を集めやすいようにそれらしいポーズを取り、指を立てて話を切り出した。
......ちょっと
「第一に武器と食料の話......これは準備ができる状況でもないし、街に入ってからになるわね。良いかしら?」
「構いません」
「フランも良いよ」
大前提決めておきたかったのは、大まかな動き方。
行動の基盤を決めておかなければ動きにズレが出る可能性がある。まさかはぐれるとは思わないが、時間との戦いの中で遅延が起こるのはあまりよろしくない。
「それと私とフランの武器だけど、個人的な理想があるのよ。無理強いする気はないから、嫌だと思うなら断ってくれて構わないわ」
「理想?」
「ええ、理想。あなたと私だからできることよ」
オウム返しに聞いてくるフランに、私の中の理想を語る。
「――」
「まあこういうわけなの」と付け加えて、フランの返答を待つ。
色よい返事がもらえれば良いのだが――。
「すっごく面白そう! うん、良いよ! フラン、それが良い!」
「......そう。それなら良かったわ」
まさかの二つ返事だった。
ありがたいことは否定しないものの、断られることも視野に入れた提案だったので面食らう結果と相成ったのも事実だ。
ひとまず私とフランの武器の話は決定することと相成ったわけだし、彼女が自分の意志で頷いてくれるのなら、それで問題ない。
「咲夜の分は、少しばかり大荷物になるけれど、用意がないわけではないわ」
ちなみに『この状況に備えて用意した』というよりも『偶然用意があった』と言うべきなのだろうが、それは誰にも言わない私だけの秘密にしておこう。
あらかじめテーブルの下に置いておいた保管用ケースを二つ取り出し、鍵を開けて咲夜の前に差し出した。
「お嬢様、これは......」
「私からのプレゼントよ」
屋敷に保管しておいた貰い物を渡しただけだから、『プレゼント』という言葉が正しいかは分からないが。
口に出さないまま喉元の言葉を飲み込んだ。
「ナイフは持っているようだけど、これはなかったから」
咲夜がケースを開ける。
入っているのは括りで見れば同じ武器。
黒く武骨な
一つは至って普通の通常モデル。
一つはマガジンを筆頭に改造の施されたカスタムモデル。
数年前、ある仕事の依頼から知り合った人間から『気まぐれ』『報酬の上乗せ』と言われて渡された貰い物である。
生憎私はその手の知識に疎い上に害獣駆除の仕事の都合上使ったことはないが、その道の人間が定期的なメンテナンスを行っていることもあり、問題なく使えるはずだ。
「一つは切り札代わりに使いなさい」
「ありがとうございます、お嬢様」
「礼はいらないわ。あなたに死なれると私が困るのよ」
もっともこれは、最低限の自己防衛手段にしかならない。
咲夜から離れる気もないし、不必要な戦いは避けるつもりではあるが、時間が経つにつれて事態が深刻化する都合上火力不足も否めなくなる。
保険をかける意味合いも兼ねて対策は必要になるだろう。
「あとは現地で調整するけど、他は何かあるかしら?」
「私はありません」
「フランもないよ!」
決まりだ。
その状況に於ける最適解や細かい部分の動き方は、今言ったように現地で調整していくことになるだろう。
常々思い続けてきたことだが、私の知識がどこまで通用するか不明瞭な現状だ。
下手をすると運命が大きく変わる可能性もある。
だけど。それでも。
「......守るさ。誰が来ようと、必ずな」
ただ、それだけを確認するように、小さく呟いた。
「お姉様、抱っこして!」
「ぐふぅっ」
......フランが飛び込んできたせいで若干締まりが悪くなったような気もするが、ご愛嬌ということにしておこう。
○○○○
「お姉様ー! こっちこっちー!」
「フラン、あまり急かさないの。急ぐ旅路じゃないんだから」
日傘を差し走る愛しい妹を見失わないように追いかけながら、ラクーンシティの街中を歩く。
喜色満面という言葉がよく似合う表情と光を思わせる金色の髪、そこへ混ざる七色の宝石が生み出す幻想的な光景に、思わず口元が緩む。
こういう時だけは陽の光に感謝しても良いかもしれない。
吸血鬼になってからは天敵だし、五百年経った今でも死ぬほど嫌いだが。
「まったく、街へ出ただけであんなにはしゃぐなんて、フランもまだまだ子供ね」
パタパタと上下左右に忙しなく動く羽を見ながら、呆れ半分納得半分に息を吐く。
そういえばここしばらくフランを連れ出したことがなかったか、と思えばそれも分からなくはない。
あの子自身が『出たい』と言わなかったこともあるが、ここしばらくは私自身が忙しかったのも相成って、相手をしてあげられなかったことも一因なのだろう。
ただ、ああも嬉しそうに笑ってくれれば、今回の選択の正否はともかく連れてきた甲斐があったというものだ。
「お嬢様もご機嫌が良さそうに思えますが」
「気のせいよ」
後ろを歩く咲夜の声に答えて、背中から生えた自分の羽を見る。
曰く『フランの機嫌が羽の動きに出るのは私譲り』らしいので、私の機嫌も羽の動きを確認すれば分かるとのこと。
ちなみに結論は角度の問題もあって見えなかったので、気のせいだ。
確かにフランが喜ぶ姿を見て
そんな事実はない。
ないったらない。ないのだ。
まあ良い。
目に入れても痛くない我が妹の姿を目に焼き付けることに比べれば、全て些細な問題だ。
「――」
ふと、
間違いない。事が始まっている。
「......せっかくの休暇なのだし、もう少しゆっくりと過ごさせて欲しいのだけど」
文句の一つも言いたくなるが、本来関係ない事態に首を突っ込んだのはこちらだ。
決まった
「まったく、無粋な連中だわ」
だから、折衷案として軽くぼやく程度にとどめておく。本当はぼやくこともお門違いなのかもしれないが。
匂いと聞こえた音から逆算しても時間はあるだろう。
しかし、色々と必要なものが多いことも事実だ。
無策の丸腰でここへ来たわけではないものの、決めておいたように可能な限り準備は整えておきたい。
「咲夜。少しの間、フランの傍から離れないようにしなさい」
「かしこまりました」
――
言葉の裏側に貼り付けた意味合いを一言で理解したのは、長い付き合いの賜物か。
勿論フランと咲夜から目を離すつもりはないが、思案と並行して索敵を行うのはどうにも難しいものがある。
「さて」
顔を上げる。
街を見て、必要な情報の取捨選択を始めるとしよう。
ここから先動く上で最優先に据える目的は、咲夜の食料の確保と武器の調達。
彼女は人間だ。食事も休憩もなしに動き続けるなど不可能に近い。
最低限の自衛の手段として
ゾンビを筆頭とした傘のマークの生物兵器を相手取る以上、欲を言えば一番必要な上に欲しい物もある。
ただ、見つかる保証も手に入る保証もない、言うなればないものねだりに近いので、今は諦めるしかない。
次点で私とフランの近接戦闘用の武器の準備。
吸血鬼の肉体は根本的に血液以外を栄養として取り込まないので、咲夜ほど食料確保に気を配る必要はない。
過信は禁物だし、なにより無敵ではないけれど、吸血鬼の肉体に備わった膂力と回復能力があれば、大抵の敵に対処できる。
勿論火力の高い武器が用意できればそれに越したことはないが、生憎私は発砲の経験が少ないし、フランは撃った経験どころか銃を触った経験すらない。
よって、下手なことをすると余計な二次災害が生まれかねない。
落ちているライフルを鈍器代わりにすることも考えたが、序盤に都合よく落ちていることもないだろう。
幸いにも私とフランの体には件のウィルスも効果がないので感染の心配はないし、ちょっとした理想もある。
それ故に吸血鬼の肉体の身体能力を活かした近接戦闘用武器が欲しい。
叶うなら私達の力に耐えられるだけの耐久性がある武器が見つかり、なおかつあの子が気に入ったものがあると良いのだが。
そこで思考を切ってもう一度息を吐き、意識を引き上げる。
「その様子を見る限り、異常はなかったようね」
「はい。妹様もあちらに」
「そう。ありがとう咲夜、助かったわ」
咲夜へ返答を送りながら、彼女が指し示した先を見る。
視線の先、フランがいたのは一際目立つ大きな店。
大きな看板に記された文字は、【Unbreakable umbrella shop】。
『
前世の日本には名は体を表すという言葉があったが、成程言い得て妙だと思う程に、店先には色とりどりの傘がぶら下げられている。
ちょうどいい、話を持ちかけるには絶好のタイミングだ。
「あら、なにか気になるものがあるの?」
「ううん? たくさんの色があって面白いから、近くで見たいなーって思ったんだ」
「成程ね。私も気になるものがあるし、一緒に入りましょうか」
「うん!」
念の為にゾンビがいないことを確認し、手を引かれるまま店に足を踏み入れる。
中から人間の気配さえも感じ取れないということは、街の内か外か――いずれにせよどこかへ逃げたのだろう。
「わぁ......! お姉様、見て! 傘がいっぱいある!」
「ええ、見ているわよ。あまり離れすぎないようにね」
所狭しとぶら下げられた傘を掻き分け進むフランに声をかけて、店内に咲夜の姿があることを見て、それから周りの傘へ目を向ける。
流石は傘の専門店と言うべきか、数も質も段違いだ。
ここなら私の求める武器になる一本が見つかるかもしれない。
「そういう傘があると良いのだけど」
求める水準は身長に合う長さと吸血鬼の膂力に耐えられる耐久性のある、赤系統の色の傘。
性能を第一に考える都合とこれから色々な場所へ行かなければいけない予定もある。
常識的に考えれば傘の色にこだわる余裕はないのかもしれないが、これだけは誰がなんと言おうと譲る気はない。紅は無理でも赤は絶対に入れる。
そう思って、ふと周囲を見て、はたと気づく。
「あ――」
見つけたのは、一本の傘。
布も、柄も、何もかもが赤一色の傘。
まさしく赤を体現するような傘が、目の前にぶら下がっている。
手に取って握ってみれば、不思議と馴染む感触があった。
長さも私の身長とそう変わらない。重さも骨組みの強度も申し分ない。
求める水準にピッタリと合う、最高の傘。
これが欲しいと心から言える、そんな一本。
「お姉様、フラン、これが欲しい!」
その時だった。
フランも同じように一本の傘を持って、ピョンピョンと跳ねながら私の元へ走ってきた。
私のものよりも少しだけ太い、やや明るい色合いの赤い傘。
二本とも最後まで耐えられるかどうか分からないが、思いきり振り回してもすぐには壊れないはずだ。
赤色と指定をかけた覚えはないが、同じような色を好むのは姉妹の宿命か。
どうあれ良い趣味だと感じるのは間違いない。
「決まりね。それなら武器はこれにしましょうか」
私が思い描いていた武器のイメージとは、言うなれば本物の
実のところ、昔からスカーレット姉妹の武器を再現したいごく個人的な欲望があったのだが、しかしこの状況で実行するには障害が多かった。
フランは前世の知識上に於けるレーヴァテインを使えない、私は威力と範囲的な観点からグングニルを使うわけにはいかない。
持って振るえば良いといえばその通りなのだが、それではフランとお揃いの武器が使えない。
言ってしまえば、あれは最終手段に近い。
故の二本の赤い傘。
これがあれば(気分的な問題だが)彼女達の武器を再現できる上に、姉妹お揃いの武器が手に入るという(私的に)非常にお得なおまけもついてくる。
「グングニル――うん、今日からあなたの名前はグングニルよ」
「それならフランはレーヴァテインにする! これからよろしくね、レーヴァテイン!」
ここへ来る前に武器のイメージの相談をしておいたことに加えて、寝物語代わりにそれとなく
図らずとも叶った目的の一つに気分が良くなっていることを感じながら、傘改めグングニルとレーヴァテインを抱えてレジへ向かう。
先も言ったが逃げたのだろう店内に咲夜以外の人の姿はないので、会計を行う人間はいないが、代金を置いて行けば問題ないだろう。
どんな状況だろうと礼は尽くすのが私の主義だ。
たとえ受け取る人間がいなかろうと、数時間後には常識が通じなくなるとしても。
「これでよし、と。フラン、ちょっと持っていてくれないかしら」
「わかった」
近くにあったハサミを使い、商品用のタグを切り外す。
「......」
置いて――。
「......!」
置いて――!
「んー...!」
カウンターに手が届かない。
ジャンプしようとも、背伸びしようとも、どうにもカウンターに代金が置けない。
......認めたくないが、背が足りないのだ。
「お姉様、大丈夫?」
「......大丈夫、大丈夫よフラン。問題ないわ」
いや大丈夫だ。
あと数センチ、残り数センチ。
少しのきっかけがあれば届くはず。
浮かべば良い? 踏み台を探せば良い?
馬鹿を言ってはいけない。
この程度の段差に屈するわけにはいかない。
間違っても、妹の前でそんな醜態を晒すなど、あってはならない......!
「あ、お姉様、ここ押したら開きそうだよ!」
「ふぎゅぅっ!?」
直後、屋敷のベッドの柔らかさが恋しくなる程に堅く平べったい何かと熱いキスを交わす羽目になった。
察するに、浮かび上がったフランがレジのボタンを押したのだろう。
きっと私が代金を払いやすいように気を遣ってくれたのだろうが――。
「うー......!」
痛い......!
油断していたタイミング、しかも突き刺さるようにぶつかったせいで鼻と額がズキズキと痛む......!
「お姉様?」
「うー...!」
フランが不思議そうに声をかけてくるが、反応する余裕がない。
涙混じりの顔と声に気づいた様子もないのは、はたして幸と呼ぶべきか、不幸と呼ぶべきか。
ひとまず彼女の中の
ならばやるべきことは一つ。
何事か、と近づいてきた足音の主へ、涙を堪えて顔を覆いながら問いかける。
「咲夜、私の頭、無事......? ついてる......?」
「ええ、大丈夫です。頭は飛んでいませんし、首も繋がっています」
......とりあえずフランには、私が何かをしている時に、手当たり次第にボタンを押さないように言わないといけない。
主に私の顔の平穏と、フランの中の威厳ある姉の姿を守る為に。
「うー...」
神に祈るなんてガラじゃないし、今となっては相容れない存在だからしないけど。
今はただ、目から溢れる涙を拭って、少しでも早く痛みが消えるように祈ることにしよう。
如何でしたでしょうか。
今回は作者自身の我儘にお付き合いいただいたこと、一年越しの更新になってしまったこと。
読者の皆様には、重ねて感謝とお詫びを申し上げられればと思います。
本当にありがとうございました。
これだけのお時間を空けてしまった身です。
更新再開と声を大にして言える立場ではありませんが、一から始める心積もりで更新して参ります。
毎度の如く更新が安定しない作品ではありますが、どうか次回もお付き合いいただけたらと思います。