人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
そんなつもりは無かったろうけど、話を聞いてもらってなんかスッキリしたわ。
今まで村の滅び方は説明しても、死んじゃった皆の話は少しも出来なかったからなぁ。サータちゃんの事とか神父さんの事とか、全然話せなかったもん。俺って案外、喋りたがりだったんだなぁ。それに、話したおかげでちょっと気持ちが晴れたかもしれん。サンダタ、無愛想って思っててゴメン。俺の長い話を聞いてくれて、ありがと。
翌日はまだ暗い内から朝食を食べたりテントを仕舞ったりして、皆の透明化が解けて陽が出ると同時に出発した。いつもこの時間に出発してるって言うんだから、行商人ってスゲェなぁ。
護衛として雇われた訳じゃないから、俺は一列になって歩くラマの横をぼんやり付いてった。特に前から3番目の子。怪我した足を治癒のポーションで治したからか、メッチャ懐かれた。俺の胸に頭グリグリしてくんのメッチャ可愛い! あんまり可愛くて夢中でモフモフしてたら、撫でてなかった左手をアエデちゃんに力強く繋がれた。見たらアエデちゃん、メチャクチャ不貞腐れて唇ム~ってしてた。ど、どうしたの?
「シロお兄ちゃん! 抱っこ!」
「え、いや、俺ルゥパって名前だよ?」
「じゃあルゥパお兄ちゃん! 抱っこして!」
「え、えぇ?」
な、なんで俺に抱っこをねだるの? 足が疲れたなら、君を溺愛してるお兄さんのナーゼフに頼めばいいのに。このままねだられるまま抱っこしたら、俺絶対死ぬじゃん!
こうして狼狽えてる間にもアエデちゃんは俺の手をグイグイ引っ張ってくるし、周りの視線は痛くなる! ヒィー!
「こら、アエデ! ルゥパさんを困らせないの!」
「え~!」
ホッ、助かった。母親のリーエンさんが止めてくれなきゃ、俺、男性陣に殺されてたわ。
なんて思ったのも束の間、不貞腐れてたはずのアエデちゃんは俺を見上げてにっこり笑った。諦めてねぇぞこの子!?
「そんなこと、ないよね!」
「え~……」
そんなことあるから渋ってたんだけどなぁ? てか俺を見上げる目が期待でキラキラしちゃってんな! 「足が痛い」とかちょっと嘘吐いたら色々スムーズなのに。
うーん。ここまで粘られたら、断る方がめんどくさそう。仕方ない。抱っこするかぁ。
「もう、アエデ!」
「俺なら大丈夫です、リーエンさん。いいよ、おいで、アエデちゃん」
「うん!」
ラマから手を離して腕を広げたら、待ってましたとばかりにアエデちゃんが飛び込んでくる。それをしっかり受け止めてお尻を持って、アエデちゃんが落ちないように支えた。殺気が強くなったけどさぁ、しょうがないじゃん! 落として怪我させた方が嫌でしょ!
俺の首に腕を回して満足そうに身体を預けてくる、小さな姫。彼女は間近で俺を見つめて自信有りげに微笑むと、小さな口を大きく開けた。
「ねぇねぇ、ルゥパお兄ちゃん!」
「なぁに?」
「わたしの、お婿さんになって!」
「…………ヒへェっ!!?」
えっ!? え、今、アエデちゃん、俺に、自分の婿になれって言った!? え?! 今俺求婚された!? たっぷり間を取った後にめっちゃ変な声出た! はっず!!!
「おおんっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいアエデ! い、今お父さんの耳に、『お婿さんになって』ってルゥパに言ったように聞こえたんだが!?」
「うん、言ったよ」
「アエデ!?」
一行の一番前を行っていた父親のサーリムンが信じられないって調子で叫んだ。うん、俺も信じられない。助けて。
「あ、アエデ? どうしてルゥパさんを気に入ったか、お兄ちゃんに教えてくれるかな?」
俺の2つ後ろ、前から5番目に繋がれたラマの隣にいた兄のナーゼフさんがそう尋ねてくれた。そうだよな、何で俺に求婚したか、大事だもんな。声が若干揺れていたのは、驚きから来るのか、怒りから来るのか。怖すぎなんだけどぉ!
「うんとね~! みんなのことも、わたしのことも助けてくれたでしょ~?」
「う、うん……」
「それから、この中で一番強いでしょ~?」
「そ、それは分かんないよ?」
「それにね~、カッコイイ!」
「エ゛ッ……?!」
いや、「エッ」って何。ナーゼフの奴、ヒデェなオイ。後ろを向いて目だけで抗議してたら、アエデちゃんにまたギュッて抱きしめられた。小さい子特有の柔らかいほっぺが俺の頬に当たった。やばい! 殺される! 別の意味でドキドキしてきたぁ~!
「ね~え~! お婿さんになってよぉ~!」
幼い故の強気な押し。自分のお願いが通ると信じて疑わない、甘えることに慣れた、愛を知ってる子。なんかそんな感じがした。
う~ん。別に、これからずっと一緒にいるわけじゃないし、適当に「君が大きくなって、それでも俺のことを好きだったらね」って流してもいいんだろうけど。……でも、そんな嘘は吐きたくねえなぁ。
「ごめんなさい」
「え……?」
「俺は、アエデちゃんのお婿さんにはなれません。ごめんなさい」
頭を下げる代わりに瞼を閉じる。たっぷり時間をとって、それから開けたら、口をム~ッと突き出して黒い瞳に溜めた涙を零さないように我慢してるアエデちゃんが見えた。うわっ罪悪感スゴ。
小さな子の赤ら顔にほんの少し申し訳ない気持ちになってたら、前の方から一等強い怒気が当てられた。
「ルゥパ、お前っうちのアエデに何の不満があるんだ!!」
「年齢でしょ。バカ言うんじゃないよあなた」
「気持ちに年齢は関係ない! 俺たちだってそうだろう!?」
「アエデはまだ7歳。十分関係あるわよ」
激昂する父親さんと、呆れる母親さんが言い合ってる。それを聞き流して、フラれても諦めずに頭を俺の首元に当てて甘えてくるアエデちゃん。俺が絆されるまで、もしくは言質を取るまで、ずっと甘えてくるんだろうな。……『無駄な希望は、更なる絶望を呼ぶだけ』。理由を話して、諦めてもらおう。
「アエデちゃん、俺にもね、好きな人がいるんだ」
「好きな人? どんな人?」
「その子はサータちゃんって名前でね。俺と同い年で優しくって器用で、おしゃべり好きな子だったよ。あ、俺のこの髪もね、その子が切ってくれたんだよ! かっこいいでしょ!」
「うん……」
あ、俺をお婿さんにしたいって言う子に、他の女の子がしてくれたことを褒めろとか、俺今残酷なことしたな。いくら気持ちを受ける気が無いにしても、今のは駄目だったわ。ごめんアエデちゃん。
顔を上げたアエデちゃんは、潤んだ瞳に疑問と不機嫌を乗せていた。
「じゃあ……。どうしてルゥパお兄ちゃんは、1人で旅してるの?」
「……ひとりじゃないよ」
「え? あっ、し、シロちゃんはダメだからね!」
「え~?」
「ダメったらダメ!」
ほっぺを膨らませるアエデちゃんに、話の逃げ道を塞がれた。やっぱそうだよなぁ。じゃあ、誤魔化しは無しで行こう。
コートをぎゅって掴んでくるアエデちゃんに微笑んでから、覚悟を決めた。
「俺の大切な人たちはね、もう、お空の向こうにいるんだ」
「……天使さんに、なっちゃったの?」
「うん。もう皆、天使さんになっちゃった」
「そう、なんだ……」
天使になったって言ったら、目を伏せて悲しげな声で応えたアエデちゃん。透明化のポーションの取引の為に教会に出入りしてるし、昨日の襲撃でその恐ろしさを覚えて、“死”を知ってるからこその反応だった。
俺も最初は神父さんに、「君のお父さんとお母さんは、天使さまになったんですよ」って教わってたなぁ。そういやその後、「生きてる時も働いて、死んでも働くの?」って言っちゃって、困らせちゃったんだっけ。神父さんにヒデェ事言っちゃったよなあれ。あれから天使のこと言わなくなっちゃったし。
「サータちゃんもね、お互いがお互いを好きって知って、お付き合いして、すぐに天使さんになっちゃった。……だから、まだあの子のことが好きなんだ。忘れられないんだ。……忘れちゃダメだって、思ってるんだ」
もう俺以外にサータちゃん、神父さん、村の皆を覚えてる人は殆どいないから。
「こんな気持ちだからさ、俺はアエデちゃんの気持ちに応えられません。ごめんなさい」
自分の気持ちを示して、改めて求婚を断る。そしたらアエデちゃんはう~う~唸って俺をぎゅってしてから、「そうだよね……」と、湿っぽい声で言った。
「ルゥパお兄ちゃん、人を助ける為に、旅してるんだもんね」
「……うん」
「わたしがついて行ったら、ダメなんだよね」
「君はまだ子供で、お父さんとお母さんとお兄さん、大切にしてくれる人たちに守られるべきだからね」
「……ここに、ずっとは、居れないんだよね」
「うん。探し物を見つけに行かないといけないからね」
「……うぅ~~~~~」
賢いアエデちゃんは俺と話して、どうやっても俺を婿には出来ないと分かってくれた。ごめんね、ありがとう。
俺を突き放して地面に降りたアエデちゃんは赤くなった顔を手で隠しつつ、後ろの方にいるお兄さんのナーゼフのトコに向かった。
いつの間にか夫婦喧嘩は終わってて、人間とラマが砂漠を歩く音と砂を纏う風の音だけが鳴っていた。……俺が受け入れるフリしてバカみたいに騒いだ方が、笑って終われたんだろうな。ちゃんと断ったこと、説明したことに後悔はしてないけど……。
ビミョーな空気に居た堪れなくなってたら、後ろからデカい手で頭を掴まれて、グリグリ撫で回された。
「お前、そんな若ぇのに、苦労してんだな」
「……そうですね」
頭を押さえつけるみたいに撫でてきたのは、のっぽのエンティファ。フード越しにとはいえ、撫でられるなんてホントに久しぶりで泣きそう。
それからの村までの道のりは、昨日サンダタにやった俺の身の上話をした。1回話したことだし、俺の知らない内にサンダタが話しててくれたんだろう。思ったよりスムーズに話終わった。
砂漠の村、エルハル村。昔は自然があったけど、だんだん砂漠に侵食されたっていう村に着いた。拠点を移動しないのは、未だに井戸からはたくさん水が湧き出るかららしい。水は大事だもんな。でも今からでも自然戻せねぇのかな。
そこでも海を渡る前と同じ感じで、村の人に聞き込みして回ったり、エメラルド握らせて本読ませてもらった。知らない素材も積極的に集めたし、教会にもお邪魔した。なんならキャラバン一行と一緒に他の村も巡った。過去の文明を感じさせるピラミッドにも潜入した。これには何も無かったけど。
でも、どんなに聞き込みしても調査しても、『ゾンビから人間に戻す方法』も、それのヒントに繋がりそうなものも無かった。
一連の情報収集での1番の収穫は、ポーションの一般価格と取引されてる主な種類とかか?
俺はスプラッシュでエメラルド3個、直に飲む用でエメラルド1個、種類は問わずって感じだった。飲む用は瓶が回収出来るから。キャラバンに対しては1個ずつ価値上げたけど。だから合計エメラルドが10個になった。
だけどここの辺りではそもそも飲む用のポーションしかなくて、種類も故郷の時から1つ減って力・耐火・俊敏・跳躍の4種類。価格はエメラルド3個。透明化は勿論、治癒のポーションは教会にめっちゃ
っていうのをサーリムンさんに言ったら、「やっと気付いたか」って笑われた。べ、別にいいしー! 俺食費かかんねぇから、あんまエメラルド無くてもいいんだしー! あ、俺がハスクに治癒のポーションぶっかけて倒したの、言わねぇでよな!? その口止め料も含みまーす!
アエデちゃんの事もあって気まずかったけど、暫くはキャラバン一行についてった。それで見たことない、新しい素材を買い漁った。満足するまで集めたら「人目の無いとこで研究したい」って言って、彼らと別れた。
アエデちゃーん! 俺よりいい男見つけて、いつか自慢してくれよなー!!
そして、また、喋る相手のいない旅が始まった。