人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
◇
エンチャント狂いな男視点
「今の中央教会と、ルゥパちゃんへの興味、ねぇ」
「ええ。できるなら一般人と聖職者の両側面から聞きたかったの」
クツサリの確認に頷いたハナコがテーブルの上で会議に参加しとる雪玉ちゃんを見て、目を細めた。
「私がそれを望んでいると察知して、この子達が私たちを引き合わせてくれたのよね。ありがとうね」
「……そうよ。気になっていたのはソコ」
フフンッ! とふんぞり返る雪玉ちゃんの頭を撫でるハナコに、クツサリが疑問を投げかけた。
「カツヤ最高聖職者長はこの間、『“白い魔女”の討伐を完了した』って発表したわ。自ら手を下したってね。だから雪玉ちゃんも同時に消えたって思ってたのに、何故か現れて、アタシたちをここに導いた。これって、どういうこと?」
「えっ、あのっ、それって本当だったの? 白い魔女って、ルゥパお兄ちゃんの事を言ってたの!?」
「あぁ、そこの認識に違いがあるのね。センバ、説明よろしく」
「しゃーないな。まず、不本意やけど、“白い魔女”っちゅー蔑称は間違いなく、ルゥパの兄貴の事を言ってんで」
一般人(アエデ)と教会関係者(クツサリ・コルマ)の間にもそうやが、そことワイらハナハタ村・国の人間との間にも情報の格差があるからな。そこもすり合わせとかな、こっちも困る。
ワイが知っとるルゥパの兄貴と雪玉ちゃんの秘密を、ほぼ全部話した。兄貴は雷に撃たれて魔女になった元人間やってこと。雪玉ちゃんが兄貴の為だけに現れ、力を振るう存在であること。それがインベントリの共有から目・耳の共有、兄貴が雪玉ちゃんの所にテレポート出来る上に、死んでも雪玉ちゃんから復活することまで、全部。説明の間も皆ビックリしとったけど、最後のやつには特に声を上げて驚かれた。ま、そうよな。
「ふ、復活って?!」
「生き返るってこと……?」
「さぁ、生き返るのか、ギリギリで雪玉ちゃんにテレポートしてるのかは分からないけれど。でももう既に3回も復活してるわよ。そうよね、センバ」
「おん。1回目はジ・エンドでエンドラに体当たりされて。2回目はカツヤに殺されて。……3回目は、その時のショックから立ち直れなくて、また死んで、雪玉ちゃんから復活した。今は眠ったままや」
「え……」
アエデが目を見開いて声を漏らした後、部屋の中は重たい空気に包まれた。それを振り払うように、コルマが「なるほど」って言った。
「それが本当なら、雪玉ちゃんがここに存在しているのも、カツヤ最高聖職者長の宣言も嘘じゃないってことだね」
「そうねぇ。……でもまた1つ、疑問が出たわ。ルゥパちゃんはどうして眠りについてしまったの? 復活できるって知ってるなら、それなりの動き方があるんじゃないの?」
「知らんのや、ルゥパの兄貴は」
「どうして? 復活できるなんて、冒険する人間なら憧れの力じゃないの」
「そうね、便利よ」
「えっ?」
「話ややこしなるからやめぇや」
自分が説明をワイに押し付けたクセに、話題逸らすような事すんなや。隣のハナコを睨んだら、肩を上げて茶を口にした。もう口挟まんでな。
「さっき、ワイと兄貴の関係の説明で、エンドを攻略したって言うたよな。エンドは2回に分けて攻略したんやけど、2回目に誘う時、『命は1つなんだから、入り口が消えるあの世界に2度も行くなんて危険なこと、止めておけ』って止められたんよ。……自分は、エンドラに殺されて復活したんにな」
「教えなかったの? 見てたんでしょう?」
「教えられるか。実際にエンドラと敵対するまで、兄貴はワイに自分が魔女やって打ち明けてくれてなかったんやぞ。それに……エンドラに殺されて復活した時、兄貴は何が起こっとるか分かってへんかった。復活できる事を知ってたら、分からへん顔するわけないやろ? そして、兄貴はワイを人間やと思わそうとしてた。そんな人に正直に言うてみい。魔女以上のバケモンになってしまったって、絶望しかねへんやろ」
兄貴は、心が弱いんやから。
「……その判断で良かったんかは、分からへんけど」
「さ、ルゥパくんが復活する力を持ってるとまで話したところで、次に移るわよ」
なんか湿っぽく終わってしまったからか、ハナコが無理やり話を変えよった。正直、助かったわ。
「今の中央教会の事ね。一般人枠のアエデちゃんから話した方が良いかしらね」
「あ、じゃあ。私の印象だと、最近は大人しいかな。少し前はポーションの値段が上がったり、だけど効果も改善されたりして、忙しなかったかな。“白い魔女”の事も聞かれたけど、あんまり詳しいことは聞かれなかったよ」
「聞かれること自体が危なかった気もするけどねぇ」
「え?」
「だってそれは、貴方たちがルゥパちゃんの事を知ってるって、向こうも把握してるってことだから」
「え……じゃ、じゃあ、監視されてたかもしれないの……?」
「もしかしたら、ね」
アエデたちにストーカー被害疑惑が浮上したけど、それを指摘したクツサリは「でももう大丈夫じゃないかしら」って続けた。
「もうカツヤ最高聖職者長はルゥパちゃんに興味無くして、今はドラウンドにご執心みたいだから」
「どうして水中ゾンビに?」
「どうしてかしらね。お偉いさんの考えることは難しいわ」
「ドラウンドって飛ばしてくる得物が凶悪で、近づく利点なんて感じられないのにね」
ドラウンド。ドラウンドって言えば、トライデント。トライデントっていえば。
「センバ。トライデントに付与できるエンチャントは?」
「特殊なもんは忠誠・激流・水性特攻・召雷の4つや」
「つまり、雷を落として村人を魔女に変えようとしてるのかもしれないわね」
「ちょ、ちょっと!? どういうことよ!」
「そんなことに、どんな意味があるの??」
ハナコの考察に、クツサリとコルマが悲鳴を上げるように抗議する。けど、ワイは間違ってへんと思うし、ハナコも圧に負けず取り消したりせんかった。
「カツヤの行動に意味なんて無いわよ。自分の興味の赴くままにしか動いてないんだから。だから、自分が殺したルゥパくんにはもう興味は無いけれど、人間から変化した魔女には興味があるってことなのよ」
「その為に、召雷のエンチャント付きトライデントを求めとるんや」
「そ、それって……人殺しみたいなものじゃないの!!」
そうやな。ゲームとは違って、ルゥパの兄貴みたいに魔女化するとは限らへんもんな。そして仮に魔女化に成功したとして、人で失くしとるんやから、殺してると言って違いない。「ヤツを止める理由が、また1つ増えたわね」とハナコが呆れた声で呟いた。
「ん? 雪玉ちゃん、何出したん?」
ここで雪玉ちゃんがインベントリからなんか紙の束を出した。毛筆で描かれとるんは、人の顔。あぁ、雪玉ちゃんが本当に知りたかったんは、こいつらの証言が嘘じゃないかどうか、か。
「あぁ、よく分からないけど見せられてた人相書ね」
「丁度中央教会に居たから、怪しい所がないか一応探ったんだけど、皆居なかったんだよね」
「その紙に描かれているのは、ハナハタ村を爆殺で滅ぼそうとしてきた聖職者たちの顔よ」
人相書の正体を知ったクツサリ・コルマが、同時にクソ重たい溜め息をつきよった。アエデも青い顔して吐いてしまいそうになっとる。まだ、重かったか。
「……どこまで堕ちたんだか」
「奴らはあくまで計画にカツヤは関係ない、カツヤがルゥパくんを中央教会に迎え入れようとしているのが許せなくて、報復に爆殺を企んだと。実行役の2人は家族を人質に取られて仕方なかったなんて言ってるわ。それが本当かどうかを見て欲しかったんじゃないかしら」
「なるほどねぇ。今見せたのは、そうやって通訳して欲しかったから、かしら?」
今まで伝わらんくて辛かったんか、雪玉ちゃんたちは憂さ晴らしっぽくクルクル飛んでた。おっさんばっかりしか描いとらん手配書を覗き見たアエデが、呟いた。
「色まで塗って、ここまで綺麗に描けるんなら、文字も書けそうだけどね」
呟きを聞いた雪玉ちゃんたちが、ビタッと止まってテーブルに落ちた。……盲点やったんか? 書けるか知らんけど。
◇
「あれ~? どうしたの雪玉ちゃん。急に文字書きだして~」
エンドの奈落からベッドにリスポーンしてきた僕は、エンドポータルまでの線路を引きながら雪玉ちゃんの偵察報告待ちをしてた。この結果によっては、全員を素材集めでエンドに連れ出すかどうかが決まる。僕はエンドラを倒すつもりないから、実質的に死刑執行なんだよね。だから、同情の余地があるなら連れて行かない選択も取る。
だから待ってたんだけど、ついにお勤め果たしたみたい。
「えーっと? うん、実行犯2人は本当に人質取られてたのね? 監視役4人は普通にアウト。元から過激派だったと。よし、テロ教唆罪で死刑だね」
「はぁ、本当に便利ですねぇ、白い魔女のツレ」
「雪玉ちゃんだってば。貸してくれる力が心強いのはその通りだけどね~」
雪玉ちゃんの報告を待っていたのは、かつてルゥパさんと敵対したスニッシェンとチスティ、ムソアもだった。彼らも僕の中では知的財産権侵害で有罪なんだけど、別のトコでちゃんと報いは受けてるから、協力してもらってるんだよね。彼らもそれが目的だから、やりやすくって助かってるよ。今は囚人たちの監視と世話をしてもらってる。だからって、『上に命令されて魔女を襲った自分よりも、自らの判断で1つの村を爆破しようとした方が罪深い』からって、煽るのはどうかと思うけどね。
いきなり文字を書きだした雪玉ちゃんが仕上げた報告書を確認し終わったら、地下に向かった。地下には、黒曜石で作った牢獄があった。作った僕よりもよく通ってるスニッシェンの方が足取りに不安さが無いね。笑えてきちゃう。
鉄格子なんてない。窓なんてない。ただ広いだけの黒曜石の牢獄には、囚人の真上にしか顔を出すスペースは無い。そこ以外はマグマが垂れ流されてるからね。
「はーい、こんばんわー。刑執行のお時間ですよ~」
お元気ですか、なんて御機嫌伺いなんてしない。そんなわけないし、元気であって欲しくないもん。
疲れきった顔した聖職者4人が、天井部分から顔を覗かせる僕を見上げてくる。最初の頃は脱出を試みてたのに、散々やけどしたから諦めたらしい。
「刑、執行……」
「うん。君たちには危険地帯で素材集めをしてもらうよ。集めるのはエンダーパール。……生き残れば、解放してあげるよ」
「!」
条件とチャンスを伝えれば、力を失くしてた囚人4人の目が光を宿した。ほんの少しだけ良心が痛んだけど、ハナハタ村の人たちへの殺害計画を企てた上、自分たちの手を汚さない手段を取ったコイツらに、同情の余地は無い。
牢獄まで繋いだ線路のトロッコに4人乗せて、後ろから僕とスニッシェン達もついて行く。ゴロゴロ、ガラガラと移動する音だけが石と土だらけで代わり映えしない景色に響いて、気が滅入ってくる。もしかしたら永遠に続くんじゃないか、って恐れを抱く頃。周りの壁が石レンガになって、直ぐにトロッコが止まった。不思議そうにしてる彼らに「移動お疲れ様」って声をかけた。
「この扉の先にあるポータルを潜って、エンダーパールを集めてもらうよ」
「いくら集めればいい」
「そうだね、1人20個かな」
普通なら僕でも大変な数だけど、ポーション作りに長けてると、つまり戦闘力があると自負してる聖職者たちにとっては楽なもんなんだろう。一気に安堵と嘲りの気配が漂った。この先に何があるのか、知らない癖にね。
「自信があるなら、早速行ってきてもらおうかな」
同意を得たから、木の扉を開けて囚人達を中に通した。意気揚々と入った彼らだったけど、ポータルを見つけたら困惑しだした。やっぱり、見たことないんだ~。そうじゃなきゃ困るんだけどね。
「は?」
「えっと……ネザーポータルはどこに?」
「ポータルならそこにあるじゃん」
「い、いや、これは……」
奇妙に見えるよね。星空が自分の背と同じ位置にあるみたいで。しかもペラッペラなのに覗くと奥行きがあるように見えるしさ~。つくづく、念の為にポータル下のマグマを潰しといて良かったぁ。アレがあったらもっと警戒されてたよね~。
「ネザーポータルだなんて、僕一言も言ってないよ。大丈夫。1回僕が下見して、ちゃんとエンダーマンが居ることは確認してるから」
なんならボス以外のモブはエンダーマンしか居ないしね。
「さ、行かなきゃ自由になれないよ」
僕の後ろでそれぞれ武器を構えるスニッシェン達を見て、囚人たちは観念したようにポータルへ続く階段を登った。この先に何があるか知ってるから、断頭台に登ってるように見えてくるね。さて、囚人4人皆入ったから、僕もすぐそばにベッド設置してちょっと寝っ転がってから、スニッシェンたちを残してエンドに行こっか。
「オイッ!! これはどういう事だ!!!」
入った途端浴びせられたのは、怒号だった。もう気づいたんだ~。出口が無いこと。
「どういう事って?」
「お前っ……謀ったな!?」
「出口どころか、入口が消え失せてる! 貴様っ我々を解放すると言っていながら!!」
「当たり前じゃん。人殺しの計画立てた人を、素材集めをするだけで野放しにすると思った?」
「なっ……!?」
首を傾げながら言えば、4人とも絶句した。あー、ここに来てない囚人さんじゃないけど、一旦希望を持たせてから落とすの、愉悦って感じ。
あのエンドポータルから転移できた場所は地下。まだエンダーマンの姿すら見えてないけど、アイツ等の囁き声みたいなのは聞こえてくる。それに混じって、エンドラの咆哮と羽ばたきの音が聞こえてきた。
「! ……出口が無い上に、未知のモンスターの存在。こんな絶望的な状況……処刑と同等ではないか!」
「処刑になるかどうかは、君らの頑張り次第だよ」
囚人たちの後ろを指差す。さっさと、わざわざ階段状に掘ったエンドストーンを登ってエンダーマンを狩ってきて欲しい。
「今は出口は無いけれど、脱出方法が無いわけじゃない。必要なものがあるなら可能な限り提供もするよ。さ、戦いなよ。ネザーみたいにベッドも使えない世界で、ね」
ヒントはあげた。後は自分たちの洞察力に賭けてよ。一応、さいごまで見届けてあげるから。さいごの漢字はどっちになるんだろうね。
……シンちゃん。どうか。また人を殺す僕をどうか、
思いっきり重たい話に割り込んで申し訳ございませんが、祝わせてください。
祝!100話目!
祝!一周年!
最終回まで頑張ります!