人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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コウモリ色の瞳の弟子視点

エンチャント狂いの男視点

国王視点


101 不安は残る

 各々、計画の為に動いてたり、国に新しい住民が増えてその対応だとかで、大人たちがバタバタしてる中。病院の3階に流れる空気は呑気なもんだった。

 

「ルゥパ兄ちゃん、今日の昼飯はさ、俺が作ったんだぜ。ニンジンのバター炒めとチーズオムレツのサンドイッチの2個セット! 母ちゃんも旨いって褒めてくれた自信作だぜ!」

「本当に美味しいから、起きたら作ってもらったらいいよ!」

 

 患者が1人の特別病室で、パーデと一緒に昼飯をゆっくり食べてるくらいには、呑気だ。

 ずっと目を覚まさねぇルゥパ兄ちゃんの世話は、朝昼晩にこうやって話しかけたり、身体を拭ったりマッサージしたり、部屋をきれいにしたりって、そんくらいだ。ルゥパ兄ちゃんは食べなくても生きていられるし、食べなかったら下の世話も無いから。意識のないダランっとした大人の体をストレッチさせんのは、意外と大変だったりするけど。

 ずっと付きっきりで世話をしねぇのは、やることがそんなに無いし俺らが大変ってのもあるけど、それよりは、人間が怖くなっちまったルゥパ兄ちゃんの負担になるから。それに、お見舞いに来る人たちも俺らがいると気恥ずかしいだろうしさ。雪玉ちゃんが隠れて見張ってくれてるから、なんかヤベェ事があっても直ぐに対応できるし。俺たちの担当は本当に気が楽だわ。ルゥパ兄ちゃんは表向き死んだことになってるし。

 

「ごちそうさま」

「早っ」

「美味しんだもん! それに、食べても食べてもお腹すいちゃうんだよね。だから早食いになっちゃって……。ごめんね」

「うんにゃ? 美味いって言ってくれてんじゃん。それにダラダラ食うよりパッパと食う方が自警団っぽくてカッコイイじゃん!」

「そう、かな?」

「おう!」

「へへっ! カヌプ、サンドイッチありがと! 美味しかった!」

「どういたしまして!」

 

 自分で作ったもんが褒められるのって、やっぱ嬉しいな! んで、こんなこともあろうかと、牛肉持ってんだよな! 外で焼いて食べようぜってパーデを誘ってたら、廊下の方から気配がした。

 ──チリリンッ

 特別病室の前に置かれた小さなベルが軽やかに音を立てた。来訪の合図だ。そっちを見ても影も形もない。それが却って、誰が来たのか分かりやすかった。

 

「もうそんな時間かぁ。行こうぜ、パーデ」

「うん。……魔女さん、ごゆっくりどうぞ」

「見舞い、ありがとうな」

 

 すれ違いざまにそう声をかければ、風切り音のような、よく分からない音が返ってきた。多分、返事してくれたんだと思う。やっぱ人間じゃないんだなぁ。

 1階に降りてから、パーデが口を開いた。

 

「ありがたいよね。魔女さんが来てくれるの」

「ん、そうだな」

 

 同じ魔女が話しかけてくれてた方が、きっと安心して目を覚ましてくれそうだし。

 

「……目ぇ覚ましてくれんの、俺たちが見てる時なら最高なんだけどな」

「あんまり高望みしてると、ロクな事にならないよ。落ち着いて起きてくれれば、それで良いよ、ボク」

「確かに。……また、頭で窓ガラスかち割られても困るしなー」

 

 笑ってそう言ってから、地面に出した焚き火台に牛肉を乗せて焼く。やっぱ肉が無きゃな! 母ちゃんも「成長期なんだからしっかり食べなさい」って言ってたし!

 

「ステーキ食ったら、手合わせしよーぜ!」

「いいよ! 今日こそ2連覇してやる!」

「はー? 今日は俺が勝つんだー!」

 

 1拍置いて、顔を見合わせて、「ウヒヒッ」って笑いあった。いつものルールで、雪玉ちゃんに審判してもらおーっと!

 

 

 

 

 

 

 暗い暗い空を見上げて、自由を謳歌するエンダードラゴンの遠吠えを聞いて独りごちる。

 

「ダメだったか~」

 

 辺りに散らばるのは、囚人たちの死体と、インベントリから飛び散ったドロップ品。いくら目を凝らして数えても2人しかいないから、あと2人は奈落に落ちたんだろう。結構吹っ飛ぶもんね~。

 

 雪玉ちゃんが落ちたエンダーパールを回収するのを見届けつつ、彼らの遺留品を少し拝借する。返してあげよう。どんなとこに住んでんのか知らないから、とりあえず中央教会に持ってけばいいのかな。偵察であっちに居る雪玉ちゃんにこっそり届けておいてもらおうかな。

 おっと、このエンダードラゴンは倒さず、処刑場にするんだった。つまり僕は生きてこのエンドから帰れないって事だ。

 

「雪玉ちゃん、これ持っててね。僕は奈落に落ちて、地上に帰るから」

 

 僕の近くに来てくれた雪玉ちゃんに、ネザークォーツがトップのネックレスとオシャレな彫刻が施された懐中時計を渡す。それからインベントリに何も無いことを確かめてから、奈落に落ちた。いったぁい。

 

 

 

「あー、奈落ダメージ痛かったァ。……さ、行こう」

 

 エンドポータルの近くに置いてたベッドから起き上がった僕は、一旦戻って諸々準備してから、ネザーに向かった。

 雪玉ちゃんからの連絡によれば、僕がエンドに行ってる3日間(囚人達3日も持ったんだなぁ)、スニッシェンさん達とテロ実行犯2人がネザーに素材集めに行ってくれてるんだって。ハナハタ村の自警団よりも確実に実力者だから、ネザライトを、古代の残骸だっけ? を集めてきてもらってるって。仕事熱心だねぇ。手伝いに行かなきゃ可哀想。

 

「というわけで、来たよ~」

 

 ピグリン対策で金のレギンスを履いて、下の方で爆発しまくってる場所に行ってみたら案の定。ベッドで地面を爆破してるテロ実行犯の受刑者2人と、周りで監視してるスニッシェン達がそこにいた。

 

「何がというわけですか。貴方が居ると緊張感がなくなるので、ネザーでは迷惑なんですが」

「いいじゃん、悪い緊張するよりさ。ちゃんと爆発耐性と火炎耐性のエンチャントついてる防具だし」

「そういうことを言ってるんじゃないんですが?」

 

 おまけに雪玉ちゃんがくれた耐火のポーションまで飲んでるんだもん。意外とガッツリ対策済でしょ?

 

「それに、結果が気になってるとも思ってさ」

 

 そう言ってから受刑者の聖職者、ソーブと護衛のタッラの方を見る。喋る僕らを見てた彼らだったけど、スッと顔を逸らした。

 

「……断罪人の貴方が、ココにいる時点で、分かっています」

 

 逸らされる前に見たソーブの顔は、マグマに囲まれて熱いのに青ざめていた。

 

「心外だなぁ。別に僕は死刑執行人のつもりじゃないのに。誰も生きて戻ってこられなかったのは、事実だけど」

「っ!」

「まさかっ上級聖職者が4人でも!?」

 

 あれ? タッラの方は生存を信じてたんだ。自分を脅せるくらいには脅威って思ってたんなら、そうなのかな。

 

「倒し方が分からなかったら、いくらでも回復するようなボスモンスターがいる世界だからね。良かったね~、君たちを脅す悩みの種は消えたよ」

 

 それも別次元にね。……とまでは、流石に言わないけど。あ、そうだ。

 

「あんなんでも情があるなら、遺品、預かる?」

 

 向こうで拾ってきたネックレスと懐中時計に、奈落に落ちた彼らが持ってたボロボロのダイヤ剣と鎖が切れたロザリオもある。代表してネックレスを翳すけど、2人から首を横に振られた。

 

「受け取り、遺族に届けるのが人の道でしょうが……、とても、そんな気持ちにはなれません」

「そっか。いいよ、こっちでどうにかするから」

「ありがとうございます」

 

 2人とも、アイツ等に無理やり人の道を踏み外させられたんだもんね。にしては、かなり酷い事言ってたみたいだけど。

 

「それじゃ、2人も頑張ってね。家族のところに帰れるよう、古代の残骸集め」

 

 最後に古代の残骸を食事、板材と羊毛ブロックと(ベッドはスタック出来ないから、バラした状態でね)で物々交換してから、帰った。ふぅ、今日は流石に疲れちゃったな。3日寝てないんだもん、そりゃそうだよね。雪玉ちゃんに古代の残骸をネザライトに加工をお願いしたら、ちょっとお休みいただこ~。

 

 

 

 

 

 

「おはよ~」

「こんにちは、の時間だけどな」

「ラク、昨日戻ってきたばかりで疲れているだろう? 今日も休んでくれて構わんぞ」

「別にいいよぉ、どんな連絡が来るのか気になるし~」

 

 エンドから死に戻り、その足でネザーまで他の受刑者の様子を見てきたというラクも加えて、会議室に集まった私たちは雪玉ちゃんが紙に書き連ねる文章を眺めていた。

 

 筆を持つ雪玉ちゃんが書くのは、ハナコからの報告。現地で得た聖職者と行商人一族の協力者。その方々と雪玉ちゃんの尽力により、中央教会の神殿内部の見取り図を得たのだという。

 ただの地図ではない。空からの光景ではなく、異なる階層ごとの内部の作りや間取りを写し書いたものであるのだ。これで無駄な探索をせずに真っ直ぐ報復出来るな。……思考回路がとんだ悪人だな。

 

 ハナコからの報告を書き終えた雪玉ちゃんに頭の上に乗られたヨシトが、感心したように溜め息を吐いた。

 

「雪玉ちゃんメールサービス、ってか」

「あ~言えてる」

「メール?」

「あー、文字媒体通信、通信がアレか、えーっと」

「書いた手紙が瞬時に相手に届くって感じだよ」

「なるほど、便利だ」

 

 解説役をラクに横取りされたヨシトが、彼に対して敵意を込めて睨みつけた。協力し合ってくれ。プレッシャーを与えなくなったのは成長してると言えるのかもしれないが。

 ヘムスタッド村の村人の魂こと、雪玉ちゃんたちの能力のおかげで、報告・連絡・相談がとても容易となった。これで中央教会にまで偵察に出ているハナコとセンバとも情報共有が出来る。彼らが戻らずともそれが可能ならば、その分計画実行まで期間を縮められる。

 さぁ、私もこのメールサービスとやらを享受しようじゃないか。

 

「ではここで、今一度。我々の計画目標、及び手段を再確認しよう」

 

 これから語る私の言葉は、雪玉ちゃんがいる場所ならどこまでも届くモノになるだろう。

 雪玉ちゃんがヨシトの頭の上から私を見つめ返してくれているのを確認して、私は覚悟して口を開いた。

 

「我々の目標は、太陽教最高聖職者長・カツヤへの報復。その手段は問わず、先手必勝・卑劣で結構だ。センバとハナコからの報告によれば、カツヤは人間を魔女に変化させるという罪を重ねようとしている。つまり、急がねば犠牲者が増えてしまう」

 

 ルゥパが村人から魔女に変化した方法を、召雷のエンチャントを付与したトライデントを使って再現しようとしているらしい。雷雨が不可欠と天候が関係してくるものの、ヤツなら、と思わせる不安が事態を放置という選択肢を取らせてはくれない。

 

「時期尚早と言わざるを得ない。だが、我々に残された時間は無い」

 

 頂点を討つのだ。その後の混乱をどうするか、こちらの関与を感知させないようにするにはどのような策を練るべきか。等と考える暇はもう、無い。

 ルゥパのような悲しみを背負う人間を、増やしてはならない。それを企む悪意を、許してはならない。

 

「センバ、ハナコ。君たちは準備が出来次第、速やかにカツヤへ報復を行うように!」

 

 ──開戦だ。

 

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