人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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人でなし視点


104 落雷

 あ~、なんかイライラするな~。

 

 イライラしてる理由は自分で分かってんだけどさ。濃縮したポーションが作れない事とか、雷雨にならないとか。おかげで暇で暇でしょうがない。どうしよっかな~。今日はプールで時間潰そうか。

 教会の敷地はとっても広くて、演習場も外と室内でいくつかある。その中の外の1つで鍛錬してる見習い君たちを見ながら、護衛として俺のそばにいる今日の下僕に聞く。

 

「ゾンビ復活術の普及は問題なく進んでる?」

「はい、滞りなく」

「良かった。もう嘘は広げられないからね」

 

 ま、その嘘は俺が広げたみたいなもんだけどね。スニッシェン、だっけ? アイツが生意気にも利益を独り占めにしようとしてたから、横取りしてやったんだ。

 手始めに宣伝に噛んで広告費をぶん取って、その本に同梱する金のリンゴをメッキにすり替えて評判を落とした。同梱するのもすり替えて貶めるのも、全部俺のアイディア! 言っちゃえばバイトテロってやつだね!

 やるって言った時は流石に止められるかなって思ったけど、洗脳は上手く効いてるみたいで、独り占めしようとしたあの聖職者が完全に悪い、みたいな状況に出来た。やっぱりピースフル最強!

 

「そうだ、一昨日任命した魔女化予定の親衛隊員君は、今どうしてる? 大人しくしてくれてる?」

「……はい。昨日は家族への手紙をしたためていたようです。それから今は稲妻の衝撃に耐えられるよう、鍛錬を行っています」

「そっか。ネザーに遠征とかしなくて、大人しくしてくれてるんだね。良かった良かった」

 

 魔女になったら人間に戻れない事に気づいて、逃げられたら困るからね。逃げたら他の下僕共も勘づいて、魔女化を嫌がるかも知れないし。『なぜ逃げる? カツヤ様に選ばれるなど名誉に違いないのに!』から、『逃げるのには理由があるはず。何がヤツを逃げるに至らせた?』ってね。基本頭のいい子達だから。

 そういえば、俺の周りにこの下僕共だけを残すのに、本当に結構苦労したよなぁ。俺の前から偉かった奴らも金、エメラルドか、に本当に目敏くて。敵対してくる上級とか最高聖職者の闇を暴いて追放したり、冤罪を吹っかけたり、事故に見せかけて殺したり。それから、ピースフルのチートを見せつけて、まるで神の子みたいな崇められる対象になったりって。そりゃあもう、俺が生きやすくなる為に頑張ったもんよ!

 

 だから、選んだあの子が気付かないうちに。

 

「早く、雷雨にならないかなぁ」

 

 次の金の卵を産む鶏、とっとと大量に作りたいからさぁ。

 

 

 

 願望ってのは言ってみるもので。プールで時間を潰した日から3日後、空は念願の分厚い雲に覆われていた。やったね!

 朝のはずなのに暗い世界に雨が降って、稲光が黒い雲の中を走る。遠くの方で雷が落ちるのが見えて、数秒してから音が聞こえてきた。空を割るような音に、満足感を覚えた。あぁ、うっとりするほど良い天気だ!

 

「魔女化予定のあの子を連れてきて!」

「仰せのままに!」

 

 いつになくやる気な親衛隊員君たちは、傘とかトライデントとか用意してた俺が広場に着く頃にはもう、予定のあの子を連れて待っててくれた。皆もそんなに魔女化する瞬間が楽しみだったのかな? それとも、ライバルが死んで減るのが楽しみなのかな? 俺ってば愛されてる~! 俺を取り合って醜く争ってんの、マジで愉快w 野郎どもに興味ないけど、擬似ハーレムって感じ~w 皆仲良く、気持ちよく俺に利用されててね~!

 んで、肝心の魔女化予定君は、大人しく雨に打たれて待機してた。

 

「久しぶりだね。家族への挨拶は済ませた?」

「……はい。返事は間に合いませんでしたが」

「報告できてよかったね」

 

 近づいてよく見てみれば、震えてた。雨に打たれて寒いかな? それとも怖いのかな? ピースフルを発動させながら、彼を見て口を開く。

 

「大丈夫? 怖いなら、落ち着くまで待つよ」

「……申し訳ございません。もう少しだけ、覚悟を決めるお時間をお恵みください」

「いいよ。あー……、それに、俺も練習しないといけなかったしね」

「練習、ですか?」

「うん。もしも手元が滑っちゃったら、君以外の親衛隊員に、覚悟もなしに雷を浴びせちゃう事になるかもしれないだろ?」

 

 そう言ったら、魔女化予定君以外の下僕共がせっせと的あて場所を作ってくれた。俺が練習しなくちゃ困るの? ……かけ直さなきゃ、いけないかなぁ? かけられる範囲がまぁまぁ狭くて、いちいち目を見なきゃいけないから大変なんだよ?

 彼らが置いてくれた防具立てに向かって、トライデントを投げつける。しっかりと重かったけど、おかげで勢いづいたそれは狙い通りに飛んでって、刺さったところに雷が落ちた。

 

「うわっ!」

 

 狙った場所が近かったせいで、衝撃波食らっちゃった。バァンッ! って空間を破るような音で耳も痛いし、防具立ては衝撃で壊れて燃えちゃってるし、トライデントはそこに刺さってるし。絶対熱いじゃーん。取りに行くのめんどくさ~。別に、俺が取りに行かないけど。忠誠心のエンチャントも付けとけばよかったなぁ。

 

「命中自体は悪くないみたいだから、問題は距離だね。別に今のままでもいいけど……20mから40mに伸ばしとこうか。……周りの皆も40m離れてないと、雷が間違って自分たちの所に落ちるかもだから、離れてねー!」

 

 呼びかけると皆素直に、魔女化予定君から後ずさって待機した。十分離れたと思った下僕から自分で雨宿りするところを作って休みだす。そして気づけば、広場の中央に魔女化予定君1人が、ポツンと激しい雨に打たれて立っていた。

 今日の護衛担当の1人が、火が消えて冷めたトライデントを持ってきてくれた。

 

「それじゃあ、そろそろ始めるよ。君、最後に人間として残しておきたい言葉は何?」

「……その前に、お教え下さいませ、カツヤ様」

「何を?」

「……私は、魔女から、人間に戻れるのでしょうか」

「無理だよ」

「は?」

 

 ありゃ、余韻もなく言っちゃった。あーでもいいなぁ。そのビックリして、青ざめた顔! 俺に傘をさしてくれてる下僕君も後ろで息を飲んでて、ドッキリ成功って感じ! 全然、嘘じゃないんだけどさ。

 

「無理っていうか、知らないね。だってそうでしょ? 雷に撃たれたら魔女になるかどうかも、これから検証するんだし。変身するかどうか分からないのに、戻れるかどうかなんてもっと分からなくない?」

「そ、れは……」

「ゾンビ復活術だって、最近になって治せるって分かったのに。元々がおとぎ話レベルの『人間から魔女になる』って話の検証に、戻れる保証なんてある訳ないじゃーん!」

「では……わたし、は……」

「なった後で探してこうよ。戻り方、一緒に探してあげるから」

「はい」

 

 最後にピースフルを強めに発動させたら、嫌がりだした金の卵を産む鶏予定君は目をクルクルさせて従順に頷いてくれた。口に出してみてから、それも面白そうだなって気づいた俺は天才かもしれない! あー、楽しー!

 雨に濡れたトライデントを撫でて、水滴を落とす。さっき重さの割に飛んだのはやっぱり、元々が海に沈むドラウンドが持ち主だからかな。激流のエンチャント付いてないけど、土砂降りの中だと距離が伸びるのかな。まぁ、好都合ってだけだな。

 投げるのに邪魔だからって傘をさしてくれてた下僕を下がらせたら、トライデントを予定君に向かって構えた。土砂降りの雨を降らせる黒い雲の中を走った稲光が、俺らを真っ白に照らした。

 

「まだ聞いてなかったよね。それで、君、残しておきたい言葉は?」

「……カツヤ様。魔女化の実験に私を選んでくださり、深く感謝を申し上げます」

「うん。これからもよろしくね」

 

「──いいえ」

 

 ん? 聞き間違いかな? いえいえ、じゃなくて、いいえ?

 気にせず投げればいいのに、下僕程度に否定されたのがどうしても気に食わなくて、それ以上に気になって。俯く予定君の言葉の続きを待ってたら、伏せられてた瞼が開いた。緑色の目、してたんだ。そんな目が、さっきはクルクルしてた目が、真っ直ぐ俺を見つめてくる。

 

「おかげで、本来掲げていた目標を、私の帰りを待ってくれている家族の顔を思い出すことができたのだから!」

「は……?」

「私はこれ以上、お前に惑わされない!!」

「いったい、なにを」

 

 お前? 今、君、俺のことを敬称捨てたどころか、お前呼びした? 最高聖職者長である、この俺を? そんなことして、許されるとでも思ってんのか?

 というか、なんで急にそうなった? 俺、しっかり洗脳したよな。今、感謝まで言わせたよな。なんで、急に反抗しだした?

 

 否定された苛立ちと困惑から、意識が目の前の裏切り者だけに集中してた。だから、遅れた。

 

「「カツヤ様!」」

 

 俺に向かって、背後から攻撃が飛んできてた事に。

 

「ガッ!?」

 

 背中から腹に貫通する衝撃で、前のめりになって四つん這いに倒れた。自然と覗いた腹側には、血が滴る三股の刃があって──それ以上考える前に、上から金槌で殴られたような、目の前も頭の中も真っ白になる衝撃に襲われた。

 

 

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