人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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人でなし視点


105 願いは叶えられた

 やばい、ヤバイ! いくら何度死んでも復活するけど、キープインベントリまでは流石に俺持ってない! くっそ、やっぱり全部ドロップしちまった!

 死んでも復活するってだけなら、特に忠誠心の高い下僕たち、今日揃った奴らなら皆知ってるし奇跡として受け入れてるからどうでもいい。それで信仰心を煽ってたし。問題は、エンチャントしたトライデントを裏切り者の前にドロップしたこと。それから、俺を襲撃するような存在がいるってこと……あれ?

 

「こ、ここは……?」

 

 焦ってまた考え事してたから、今更気づいた。部屋の中が、暗かった。光源は松明1つ。それで照らされる空間は壁も床も天井さえも黒曜石で、テラテラする石がこんなに癪に障るって初めて知った。どこの誰かか知らないけど、俺を殺そうとしてるな。てかせっま。

 ドロップしちゃったからツールも全部手元に無いし、だからこの牢獄気取りな黒曜石を素手で壊さなきゃいけないじゃん。……この奥からボコボコ音するし、多分これ、マグマまで流されてる。壊したところでマグマカーテンを潜らなきゃいけないし、多分その向こうも黒曜石で固められてる。こっちは耐火のポーション持ってないし。

 

「随分と計画的だな。誰が俺を恨んでるんだろ? ここまで用意周到に、素早く対処するなんて」

 

 裏切り者はこのところ神殿の敷地の外には出てなかったっぽいのに。どうやって連絡したんだろ。今日の天気で魔女化実験の決行を察知したまではいいとして、よくその短い時間で立派な監禁部屋を建てたな。まぁいいや。今回は俺の負けだ。メチャクチャ面倒くさいけど、ベッド壊して初期スポーン地点にリスポーンしよ。ここからまぁまぁ遠いんだよなぁ。

 

「は?」

 

 振り返ったら、ベッドが消えてたんだけど。なんで?

 松明を翳して、ベッドがあったはずの場所を探ると、不自然に黒曜石が出っ張ってる。……まるで、何かを囲んでるみたいに。

 

「は、はぁ!? まさか、この中にベッドが!? いったいいつ、どうやって!?」

 

 おかしいだろ!? だって、この空間には()()()()()()んだから!!

 

「透明化のクリエイティブ? いや、クリエイティブは障害物をすり抜けることは無かったはず、だよな? ならスペクテイター……なら、反対にブロックの設置は出来ないはず……。というか、俺以外のクラフターとかいんの? だってこの世界は、()()()()()()()()だろ?」

 

 なのになんで俺に不利な事ばかり起きる? おかしくない? マインクラフトは理不尽いっぱいなゲームだけど、俺はこの20年でそれが無いように偉くなって、環境整えてきたのに!

 意味分かんねぇ! イライラしてくんだけど!!

 

「オイ誰だ! 俺をこんな劣悪な環境に閉じ込めやがって! 今すぐここから出せ!」

 

 苛立ちに任せて叫んだら、何か薄いものが落ちる音がした。音のした方に松明を掲げると、黒曜石の地面に白い紙が1枚落ちていた。どこからだ? 松明以外の明かりを探りながら紙を拾って、書かれてる文字を読んだ。

 

『お前は死ぬまでここに居ろ』

 

「は?」

 

 額に血管がビキビキ浮かんでるって自覚するくらい、怒りが沸いた。何を言ってんだ? 俺が出せっつってんだ。最高聖職者長のこの俺が。逆らわずに出せよ。今ならお前の命だけで許してやる。

 てか、死ぬまでここに居ろって、何?

 

「はははっ馬鹿がよぉ。俺はピースフルだぞ。餓死しねぇんだわ。死んでも復活するし、ベッドが塞がれてようと、使えない状態なら壊れた判定でやっぱり初期スポーン位置にリスポーン出来んだよ!」

 

 ツールが無いのは痛いけど、やっぱり素手で黒曜石壊してマグマダイブするかぁ。痛いの大っ嫌いだけど、仕方ないね。

 床の黒曜石を掘ろうとしゃがんだらまた紙が落ちてきて、見る気もなかったのに読んじゃった。

 

『お前の視界には体力ゲージも満腹度ゲージもホットバーも見えてんの?』

 

 頭を殴られたような衝撃で、思わず息を呑む。勿論、見えない。だって俺はこの世界に居るから。キーボードとマウスでスティーブを操作してるわけじゃなく、生きてるから。衝撃を受けたのは、体力ゲージの概念を知ってるヤツがこの世界に俺以外に居るってこと。

 

「お前は、クラフターなのか?」

『シングルプレイでもしてるつもりだった? 残念、マルチよ。よっぽどその神殿から出なかったのね。せっかくの広大な世界、旅しないとか本当に損してるわ』

「女っぽい。ふーん、そっか。で、なんで俺を閉じ込めたわけ?」

『心当たりがないなんて、やっぱり貴方、人でなしね。でも、もうすぐ寿命を迎えるのだから、冥土の土産で色々教えてあげましょうか』

「は? 寿命?」

 

 次々と落ちてくる紙との対話は、俺に苛立ちと焦りしか齎さない。何なんだ、何なんだこれは。死なない俺に、寿命が?

 

『閉じ込めたのは、貴方が惨たらしく殺した青年、ルゥパくんの仇討ちだから。貴方にトライデントを投げて落雷させて殺したのも、私の仲間。貴方はね、貴方が思っている以上の人間から怒りを買って、敵に回しているの。知ってるかしら、敵の敵は味方って言葉』

「……ハハッ、スニッシェンくんがお世話になってますぅ」

 

 あのゴミ、追放された恨みか? 処刑しとくんだった。

 イライラが収まらない中、また1枚紙が降ってくる。どこから俺を見てやがる。ブッサイクな顔を見せろ、この糞アマがっ!

 

『寿命が20年っていうのは、私が広大な世界を旅した中で得た知見。数人看取ってきて、その誰もが20年でこの世を去った。だから貴方ももうすぐ死ぬのよ』

「はっ、そんなの信じるワケないだろ」

『今更確認なんて出来ないものね。不安で震えてなさい。あぁ、寿命が近づいてもう苛立ってるわよね。理解できない焦燥感に駆られるのも、召される手前の特徴の1つよ』

「うっざ。俺がイラついてんのは、お前が俺をここに閉じ込めてるからなんだけど?」

『いくら言ったって信じない人に、何を言ってもしょうがないわね。でも、暇でしょう? 私の仕事は貴方と話をすること。お喋り、しましょう?』

「チッ」

 

 暇? 俺は今この黒曜石を砕いて、脱出するのに忙しいんだ!

 

『今言ったでしょう? 私はいろんなクラフター達を看取ってきたの。貴方のことも、最期まで看取ってあげるわ』

「死神気取りか? キモいんだよお前!」

 

 こんなヤツに構ってる暇は俺には無いんだよ! 今まで降ってきた紙もろとも破り捨てて、新しく降ってくる紙も無視して床の黒曜石を殴り掘る。……適正ツールとかそんなレベルじゃない。いつになったらこの1ブロックが削れるんだ。

 

『寿命を迎えるまで、退屈しなくて良さそうな趣味ね』

「死ね」

 

 不意に視界に飛び込んでくる紙が、心の底からウザったすぎて手を止めそうになった。

 

 時間経過なんて分からないし、俺がどのくらい殴り続けてたかも分からない。ブロック自体が黒いせいでどのくらいヒビが入ってるかも見えない。それでも一心不乱に殴り続けて、殴る手が、空振った。

 

「やった!」

 

 松明を翳せば、俺の望み通りに穴が空いてた! マグマまではもう少しかかりそうだけど、この調子で掘り進めて、マグマがなくても落下死でどうに、か……?

 

「は?」

 

 階段掘りにしようと横にズレたら、たった今空けた穴が塞がった。夢じゃないと思い知らせるように紙が乗っかって、そこには大きく文字が書かれてた。

 

『バーカ!』

「……何をした」

『埋めただけだけど? ベッドが塞がれたこと忘れたの? あんたの努力なんて、直ぐに無駄に出来るのよ』

「こんの、クズが!」

『貴方ほどじゃないわ』

 

 何が何でも、俺を閉じ込めようってか。そんなにあの魔女を殺されたのが憎いみたいだなぁ! くっそ、手ェ出すんじゃなかったなぁ! 疫病神かよ!

 ──ざわっ

 

「……?」

 

 何だ? 胸が変にざわついてる……? なんか、こう、力が溢れるような。でも、肉体強化じゃなくて、……なんだ?

 

『そろそろ寿命みたいね。世界に散る為に身体が分解を始めてきたかしら』

「……ハッ、怖がらせようったって、そうはいかないよ」

 

 身体が分解? これはそんなものじゃない。今まで感じたことの無い漲るパワーは、きっと、俺の願いを叶えてくれるものだ! ざわつかせる力が俺にそう言ってる! あぁ、なんて全能感! 俺は神になったんだ!!

 

「俺の居ないワールドに存在価値なんて無い! 全部消えればいいんだ! ブラックホールに、全部飲み込まれちまえ!!!」

 

 ハハハハハッ!! ただ消えるなんて生ぬるい! いつかMODで見たアレみたいに、吸い込まれる恐怖と元凶が大きくなる絶望感に襲われて滅びろ!!!

 さぁ出来た! 最初は俺の手のひらにも満たない大きさの半円状の黒い玉! そこに向かって引きづられる感覚は、まさにブラックホールだ!

 まずは一纏めに紙を吸い込んで破壊しろ!! 義務で首から下げなきゃなんなかったウザいロザリオもくれてやる! その次は黒曜石を吸い込め! 俺をも飲み込んで、リスポーンして、遠くから俺とともに滅びる世界を眺めてやる!!!

 

「あー! 爽快そうか、い……?」

 

 キンッと、アメジストブロックを壊した時みたいな音が部屋の中に響いた。って思ったら、確かにあったはずのブラックホールが、失くなった。

 

「……はぁああっ!?」

 

 手に持った松明で掲げて覗き込むけど、確かに黒曜石は抉れて、吸い込ませた紙もロザリオも消え失せてた。あったはずなんだ、確かにココに、ブラックホールが!! 畜生、どうせならもっと深く抉れてろよ! こんな高さじゃ、落下死も出来ねぇじゃねぇか!

 焦る俺を嘲笑うように、また紙が降ってきた。

 

『死ぬ間際のクラフターには、世界の何かの力がはたらいて、願いが聞き届けられるようになってるわ。だけどどうやら貴方の願いは、大きすぎたみたいね』

「はぁ? 死にゆく人間に餞するのに、制限あんのか? 悉くふざけてんなぁ!」

『世界が発展する願いは聞き入れられても、世界を滅ぼす願いは拒否されるってことでしょ。それでも、親切よね?』

「親切ぅ? 中途半端な結果しか残してねぇってのにかぁ?」

 

 せっかく神になったのに、なんだこれはよぉ。不快さで胸を掻きむしって紙の続きを読んで、血の気が引いた。

 

『たとえ拒絶するにしても、きちんと願いを聞き入れた体は保ったんだから。だから、あんたは後、死ぬだけね』

 

「ば、ばか、な話……」

 

 否定が出来ない。だって、バニラのマインクラフトにブラックホールなんて無い。だから世界の意思に俺の願いはしっかり聞き届けられた。……じゃあ、まだ、胸を煮えさせる不快感は、何だ? 願いを言う前とは違う、ポロポロって身体の中から崩れるような、言いようのない不安は、広がり続けるこの恐怖は。

 俺は、死ぬのか?

 

「い、嫌だ……! 嫌だ! 死にたくない! 死にたくない!!」

『アンタが魔女にしようとした聖職者も、死にたくなかったのよ。死んで、後悔しなさい』

 

「く、クソがよォオオおおおおおおお!!!!!」

 

 ポロポロ崩れる不安は、胸から腹に、四肢に伝播してって、あ、頭にまで来て、

 

 

 ア゛。

 

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