人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

107 / 116
107 見させてもらってるんだ

 暗い。

 いくら進んでも進んだ気がしないどころか、1歩も足を運べてる気がしない。

 

 俺は今、どこを向いている? 北か南か、西か東か。太陽も月も無いここは、ジ・エンドなのか? 暗闇過ぎて、上向いてんのか下向いてんのかも分かんねぇ。はてさて、俺の目はそもそも見えてんのかな。

 

 分かんねぇのは目が開いてるかどうか以外にも、手足がちゃんとくっついてんのかもだ。あ、ちげぇ。腕はあのクズに切り落とされたんだったわ。煮詰めたデバフポーションのおかげで、頭も溶けてやがんな。……? そういや、死んで肉体が無くなっても、怪我とかってそのまま引き継がれんのかな。そんなわけ無くない?

 

 あー、もう疲れた。

 

 どこかにサータちゃんたちのトコに行ける階段があるって信じて歩き続けてきたけど、一向に成果が無い。俺別に忍耐強いわけじゃないから、そろそろ諦めそうなんだけど。こんなところに居続けるのも怖いから、結局また歩くとは思うけど。……けど、休憩、してもいいよね。

 

 自分の体も認識できない暗闇の中で、感覚のない手足を縮こまらせて、蹲る。こんなふうに小さくなるのなんて、子供の頃以来じゃね? あれだわ、鍛錬がキツくて教会裏で隠れて休憩してたアレ。他でも蹲ってたかもだけど、思い出せねぇからどうでもいいや。

 ……ちょっと、眠ろう。

 

 

 

 風が髪をなびかせる。日陰の涼しさと緩く吹く風が燻る体温を攫っていって、なんだかすごく、気持ちいい。

 

「もぉいーかーい!」

「「「まぁだだよー!」」」

 

 遠くから聞こえてくる幼い声が懐かしくて、一瞬強く吹いた風に起こされて、顔を上げた。眩しい。眩しいんだ。暗闇の中を歩いてきていたはずなのに。光に慣れない目が痛くて、それが落ち着いてから少しずつ目を開けて、見た。

 

「ハァ……!」

 

 思わず、息を飲んだ。

 目の前に広がるのは、畑。見覚えのありすぎる形で、植わってるのは金のニンジンときらめくスイカ。あぁ、教会の畑だ。俺と神父さんの畑だ。クラフト出来るって知ってからは、一度も作ってないあの畑が……!

 

「もぉいいーかーい!」

「「「もぉいいよー!」」」

 

 キャッキャと、かくれんぼしてる子供の声が聞こえてくる。平和だ。あぁ、平和。夢にまで見た平和が、ここにある。俺の村だ! 元の、ヘムスタッド村だ!!

 やった……! やっと、たどり着いた! ここが俺が目指した世界だ!!

 

 嬉しくなって、教会の裏から飛び出したら、建物の影から女の子がやってきた。油断してて、驚くよりも先に咄嗟に抱きとめた。それで、自分の体が小さいことに気がついた。

 

「うわぁ、ビックリしたなぁ、もう!」

「ゴ、ゴメンネ。サータチャンッ」

 

 !!! サータちゃんだ!!! 小さくなってるけど、間違いない! やっぱり、ここは俺にとっての最高の天国なんだ!!

 

「えへへっ、ルゥパ、見ーつけた!」

「エッ、エ? サータチャン、オレ、参加シテナイ……」

「あれ? そうだっけ? でもいいじゃん! 次はルゥパが見つける人ね!」

「ウ、ウン」

「じゃ、一緒にみんなを探しに行こ!」

 

 そう言って俺の手を取ったサータちゃんは、そのまま手を引いて俺を連れて走った。感覚が戻ってきた足を縺れさせつつ、急発進に必死で付いてった。

 

 歩き慣れた土道。ウシ・ブタ・ニワトリ、他にもいろんな動物を柵で分けて飼育してる大きな牧場に、バラけた位置にある家屋と、その周囲にある畑。集会場を中心としていろんな店が並んでて、まだ陽が高いから大人たちはそこに大体集まってた。

 雲1つない青空に聳える見張り台では警備隊の男の人が村の外を監視してて、振り返ればお天道様で輝く海が見えた。

 

 あぁ、全部が懐かしい。

 

 泣きたくなるほどの鮮やかな景色に胸が震えて、最後の記憶に有るより若い皆を見て、涙がこぼれた。また、皆と過ごせるって。なんでか子供に戻ってんのが勿体無いっていうか、サータちゃんを独り占めできる時間がなさそうでもどかしいけど。なら、手を繋いでくれてる今を、大切にしなくっちゃ。そう思ってサータちゃんの手を握り直したら、探して周りをキョロキョロ見回してたサータちゃんがこっちを向いて目を丸くしたけど、直ぐにっこり笑ってくれた。へへっ、嬉しい!

 

「ねぇねぇルゥパ! みんなドコにいると思う?」

「んー、多分、畑の方!」

「じゃああっち行こ!」

「うん!」

 

 今度は2人で並んで、俺が気配を察知した小麦畑まで走った。

 

 間違って踏み荒らさないようにって原木で高さを持たせた畑は、その隙間に小さい身体が身を潜めやすい場所。そこから息の音とか緊張感、視線を読んで、おデコに布を巻いた子供の影を見つけた。クイッテだ。狙撃だけで言ったら俺より上手かったかもしれない、クイッテ。

 

「クイッテ、見ぃつけた!」

「なぁー! ルゥパ味方にすんのはズルだろー!」

「ルゥパが良いよって言ったんだもーん!」

「お前もなんで良いって言ったんだよー!」

 

 畑を囲う原木の影に座ったままのクイッテが不満で叫ぶ。けど見つかったからどうでも良くなったみたいで、「なぁなぁ」って呼んで俺の服を引っ張ってきた。

 

「なぁに?」

「ルゥパ、かくれんぼしてたらさ、かわいいのが来たんだぜ!」

「かわいいの?」

「うん! ほら!」

 

 いたずらを仕掛けてきそうな笑顔を浮かべたクイッテが、目の前の小麦畑をかき分けた。小麦の中に潜んでいたのは、──白い玉。小さい手に、スイカの種くらいの円らな瞳の、雪玉ちゃん、だ。

 

「ヒッ!?」

 

 どうしてここに!? だってここは俺の天国で、今の俺は子供で、雪玉ちゃんは皆が居なくなってから、俺が皆の首を切り落としてから現れた子達だろ?! それがどうして、どうして!?

 

「大丈夫だって、ルゥパ」

 

 クイッテが、蹲る俺の肩を掴んで軽く揺すってきた。……何が、大丈夫だって?

 

「雪玉ちゃんがお前に、酷いことをしたことがあったか?」

「あった! ハナハタ村でまだ存在を隠してた時、やめてって言ったのに勝手に姿を現した!! メチャクチャ怖かったんだぞ!!」

「許せよ~」

「やめろ! なんでっ、なんでお前が、クイッテがそのことを知ってんだよ!!」

 

 だって、だって、雪玉ちゃんは……!!!

 

「ずっと目を逸らしてただけで、ルゥパって本当は、勘いいもんね」

「分かってるよなぁ。俺らが雪玉ちゃんだったってこと」

「……ぅうう~~~っ!!」

 

 なんでっ、なんでそっちからそんな大事なこと言っちゃうんだよ! っ、じゃ、じゃあ、目の前の雪玉ちゃんは、なんでここにいるの?

 訳が分からなくなって顔を上げたら、雪玉ちゃんが目の前にいて、俺のおデコにぶつかってきた。押されてバランス崩して、尻餅ついた。サータちゃんとクイッテが笑ったような気がしたけど、そんなことより、頭の中に流れ込んできた声が衝撃的だった。

 

『起きろよ、師匠』

 

 カヌプの、声だ。痛そうな、辛そうな声で、俺を起こしてきた。

 どうして? どうして、雪玉ちゃんから、生きてるはずのカヌプの声がするんだ? いったい、何がどうなってるんだ!?

 ワケが分からなくて叫び出しそうになってたら、肩を抱かれた。サータちゃんだ。

 

「ねぇ、ルゥパ。他の子達も探してこよう?」

「……やだぁ」

 

 首を横に振って拒否したら、困ったちゃんを見る目でサータちゃんが見つめてくる。でも、やだよ。

 

「おれ、ここから、離れたくないよぉ」

 

 だってここは、俺の天国だから。皆が居て、幸せになるはずなんだもん。今更、あんな怖い世界のことなんて、何も知りたくない!

 

「だーめ。向こうのみんながどれだけ、目を覚まして欲しくて頑張ったか。きっかけになったルゥパは責任もって受け止めなきゃだめ!」

 

 ちょっと強い調子で俺を叱りつけたサータちゃんが、それと同じくらいの勢いで俺の腕を掴んで立ち上がらせた。……目を覚まして欲しいって、いったい、なんのことだ。

 

「おれは、死んだのに」

 

 自分で自分を殺したのに。笑顔で人を痛めつける人間に殺されたのに。そのまま身体は土に還ったろ? なのになんで、目を覚ますとか、まるで、俺が眠ってるみたいな。

 

「死んでない。私たちが、ルゥパを死なせなかったの」

「どうやって? いや違うっ、どうして! どうして俺を死んだままにしてくれなかったの!」

 

 俺の背中を斧で叩き割った女の人が言ってた! 死ぬなら死ぬんだって! それが世の中の常識だって!

 

「望んでないのに助けんなよ!! 俺は死にたかったのに!! 生きてたってしょうがないのに!! なのにっ、なのに勝手に助けて、恩着せがましいんだよ!!!」

 

 ──パァンッ

 

 ビンタの音が、畑に響き渡った。ぶたれたのは、俺らしい。痛くは、ないけれど、頭が真っ白になるくらいには驚いた。

 正面に向き直ったら、叩いてきたサータちゃんの方が痛そうで、エメラルド色の綺麗な瞳が涙で揺らめいていた。

 

「ルゥパの、ばか!!」

「っ、」

「なんで死んだままにしなかったかって!? そんなの、ルゥパに幸せになって欲しいからに決まってるじゃん!!」

 

 大声を上げると同時に、目から涙がボロボロとこぼれ落ちていく。痛ましくて、それを俺が引き起こしたんだって罪悪感で、胸が苦しい。大好きな子を、泣かせちゃった。

 ぐずぐずと泣いていたサータちゃんは自分でゴシゴシ目をこすって、また俺を睨みつけて「あーもー知らない!」って叫んだ。

 

「せっかく、みんなで知らないふりして演技して、優しく教えようって思ってたのに! そんな酷い事言うんなら、私だって言わなくて良いこと言っちゃうんだから!」

「お、おい、サータ……!」

「いい? よく聞いて、ルゥパ」

 

 怒ったサータちゃんは俺の両肩を正面から掴んで、無理矢理目を合わせてきた。怖いのに、もう怒られたくなくて、震えて睨みを受け入れた。

 

「まず、ルゥパは、センバみたいなクラフターと一緒で、死んでも復活するの」

「…………は?」

 

 えっ、ちょ、はぁ? 死んでも、復活する? お、俺が? 話が突飛しすぎて震え止まっちゃったんだが?

 

「だって、魔女になってからのルゥパは雪玉ちゃんと、私たちと目とか耳を共有してるんだよ。インベントリなんか、共有どころか私たちの分だけ容量も増えた。なら、替えの肉体があったって、なんの不思議も無いじゃない?」

「……そう、かなぁ?」

 

 不思議だと思う。変だと思う。だって俺はクラフターじゃない。ただの魔女なのに、そんな道理が通じるの?

 でも、心当たりがある。センバさんの名前を出されて思い出したけど、エンドラ討伐の時、確かに俺は、エンダードラゴンに翼で打たれて……あんな衝撃を受けて、生きてる方がおかしいもんな。でも、それは、センバさんが言った通り、雪玉ちゃんが勝手に俺をテレポートさせたかもしれない……。だけどそれを雪玉ちゃんだったサータちゃんが否定して……。あーもーわかんねぇええええ

 

「事実そうなの。理由なんて知らない。一々気にしてちゃ進めないもん。つまりね、ルゥパ。ルゥパは、生きてるの」

「……そんな、はずは」

「生きてるから目を覚まして欲しいって皆言ってるの! だからハナハタ村と国と、ルゥパが関わってきた人たちが、頑張ったの! ルゥパが次に目を覚ました時に、世界が良くなってるように、……人の道を逸れたことだって、いっぱいやったよ」

「!!?」

 

 人の道を逸れたって、いったい何を……。もしかして、……人殺し? どうして!

 

「魔女の自分のために、何をって?」

「い、言ってな……」

「顔に書いてあった」

 

 ……子供になったから、嘘もつけなくなったのかな。顔を伏せそうになったら、サータちゃんにまた肩を掴み直されて、揺さぶられた。

 

「ルゥパ。魔女だとか人間だとか、そんなのどうでもいいの。大事なのは、ルゥパが起きても、もう一度生きてみていいと思える世界にすることなんだから。だから、皆の声を聞きに行こう?」

「みんな……?」

「雪玉ちゃんが届けてくれる声だよ」

 

 俺の疑問に答えたクイッテが、背中を押してくる。

 

「お前の身体は今、国に新しくできた建物、病院ってトコのベッドに寝かされててさ。お前の弟子のカヌプとパーデが毎日世話してくれてるんだぜ」

「世話って……」

「そんで、寝てるお前に、毎日誰かしら見舞いに来て、声かけたり進捗の報告したりしてたんだぜ。国の連中も勿論、ハナハタ村からも老若男女問わず、それに、魔女も」

「先輩まで……!」

「今まで無視してた分、全部聞きに行くぞー」

「……」

 

 ……どうして、そこまで出来るんだ。

 言いようのない雑多な感情の中に、確かに喜びを見出した時、俺は観念した。拒絶の足枷を失くした俺の手を引き、背を押して、サータちゃんとクイッテは俺を前に歩かせた。

 夢のような世界は、やっぱり夢だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。