人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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最終回です!


109 人間に戻る手がかりは、きっとここに

 風が俺の肌を撫でた。布が靡く音が、遠くからはニワトリの鳴き声が聞こえてくる。静かな音が、俺を夢から掬い上げてくれた。

 暗いような、明るいような。視覚を遮る重たい瞼をどうにか上げるが、眩しさで返って強く瞑ってしまった。……目は、もうちょっと後ででいっか。

 

「くっ……」

 

 震える腕を支えにして、上体を起こした。腕、腕だ。本当に俺、死んでも復活出来るんだ。それに、ベッドだ。……ハハッ、こんな事にも一々感動しちゃうわ。最期があんなんだから。──ヤッベ、震えてきやがった。思い出すもんじゃねぇな。

 左肩に小さく痛みが走ったら、瞼を強く瞑ったままの目にふんわりあったかいものがポンッと当たった。「開けて」と誘われるままに瞼を上げたら、見た事のない部屋が広がってた。それでも怯える気持ちが無いのは、雪玉ちゃんたちが、皆が、そばにいてくれてるから。大丈夫って言ってくれてるから、初めての場所でも怖くなかった。

 

 あぁ、ずっとずっと、そうだった。

 海も、山も、砂漠も、氷山も、森も、海の底も。どんな場所でも、雪玉ちゃんたちと一緒なら何も怖くなかった。

 

「あり、が、ど」

 

 ははっ、喉も口も乾ききってんね。

 

 久々に動かす身体が重いなぁってなってギリギリギリッと肩を回してたら、広くて白い部屋の外から、聞き馴染みが有るような無いような、でもついさっき聞いてた声が駆け足と一緒に聞こえてきた。

 

「本当なの? こんないきなりなの?」

「タイミングとかどうでもいいだろ! 起きてきたんなら!」

 

 声変わりした、少年たちの声。──カヌプとパーデだ!

 ドアが開きっぱなしだった入口から少年2人が現れた。お揃いのコウモリ色の髪色。彼らは上体を起こしてる俺を見つけると、それぞれコウモリ色の目とタンポポ色の目を見開いて、俺を凝視してきた。

 少年と青年の間な、まだまだ成長を思わせる身長と顔つき。よく外で動いているんだろう、スラリと引き締まった身体は日焼けして健康的だ。そしてドアにかかる手は荒れて、厚くなってるように見えた。

 

 2人とも、大きくなったなぁ。

 

「お゛はぁ゛、よ」

 

 枯れた喉を絞って目覚めの挨拶をすれば、2人はみるみるうちに顔を赤くして、目に涙を浮かべて、身体をわなわなと震わせだした。

 

「る、ルゥパ兄ちゃん(お兄さん)~~~~っ!!!」

 

 俺の名を叫んだ2人は弾かれたように俺のとこまでバタバタ駆け寄って、その勢いそのまま飛びついてきて俺をまたベッドに沈ませた! いってぇ! いくらベッドが柔らかくっても、押し倒す腕と背中に受ける衝撃はやっぱりあるからさぁ!

 

「やっと、やっと起きてきたァ~~~!!」

「起きてくれて、よかった~~~~!!」

 

 俺の両隣を陣取ってわんわん大きな声で泣き喚くカヌプとパーデを見て、申し訳なさと嬉しさが込み上げてきた。ごめんな、心労かけて。ヘムスタッド村の皆から教えてもらったけど、2人とも毎日俺のこと世話してくれてたんでしょ? いつまで経っても目を覚まさない俺を根気強く、声掛けまでして。『なんで?』なんていい加減言わないぞ、俺は学習するからな。ありがとう、2人とも。

 

 俺の胸に縋って泣くカヌプとパーデの頭を撫でてたら、2人と同じように雪玉ちゃんに手を引かれた人たちが部屋に入ってきた。ここが国だって証明するように、まずシターシュさんとヨシトさんが。それからラクさんと、初対面のハナコさん。残念なことに、情けない声で起きてって言ってたセンバさんは今、遠くに探検に行ってるみたい。

 

 貰ったハチミツ飴玉を舐めながら、詰られたり安堵されたり近況報告されたりしてたら、今度はハナハタ村のスタークとドゥン、ヘイリグさんが駆けつけてくれた。そういえば誰が知らせてくれたんだろうって不思議に思って聞いたら、俺の知らないところで雪玉ちゃんたち、結構色んな所に散らばって皆のお手伝いしてたらしい。なんならだんだん出来ることも多くなって、最近では筆談も出来るらしい。それでお知らせしたって。イヤなんだそれ!?

 

「寝起きに、すごい情報量だ……」

 

 俺を殺したヤツの正体もそうだし、俺を受け入れない為にって身勝手な理由で悪い聖職者がハナハタ村を滅ぼそうとしてきたとか。それを良いタイミングで返ってきたハナコさんを中心に返り討ちにしたとか。んで、諸悪の根源をぶっ潰そうと、クラフターもハナハタ村の皆も雪玉ちゃんたちも皆で計画的に動いたとか。筆談はその過程の中で思いついたものらしい。

 まぁ俺と居ただけじゃ思いつかないよな。俺は雪玉ちゃんたちが各地に散らばってた事なんて知らないし。近くにいるのに筆談とか要らないし。なんか筆談でホラー演出したとか言ってたけど、何をしたの……。

 とか色々考えてたら、シターシュさんがフッと鼻を鳴らして笑った。

 

「徐々に受け止めてくれればいいさ。全ては君のために起こした行動であるし、君には飲み込む時間が十分にあるのだから」

「……はい」

 

 そうだよな。皆、俺を救う為に頑張ってくれたんだよな。だから、しばらくはゆっくりするのが恩返しだよな。起きたことを報告しながら挨拶して、発展を見て、話をじっくり聞いて。少なくともセンバさんが帰ってくるまでは大人しくしてよ。

 

「ここにいる者の殆どが君に救われ、導かれた者。故に、君が危機的状況に置かれたならば、どんな手でも君を救い上げる覚悟だった。そんな私たちの覚悟・努力・成果を、否定してくれるなよ」

「勿論」

 

 俺を狙う悪意は強大過ぎて、それを迎え撃った結果、人殺しまでさせてしまった。でも手を汚す覚悟を、決心を俺が否定してはいけない。それは余りにも無責任だから。それを分かった上で、感謝している。

 本当に、俺を見捨てないでくれて、ありがとう。本心だけどこんな言い方したら怒られるってのは今言われたばかりだから、シンプルにしか言わないけど。

 

「皆、助けてくれて、ありがとう」

 

 言ったら「やっとか」みたいな溜め息を吐かれたわ。そういえば俺、まだお礼してなかった!?

 

 

 

 カヌプとパーデによると、俺は3ヶ月近く眠り続けたらしい。カツヤをどうにかして解決してからもずっと目を覚まさないから、日に日に怖くなってったらしい。怖がらせて申し訳ないわ。それでも、だんだん血色は良くなってったから、希望はあったって。動いてないのにか。それより前がいったいどれだけ酷かったのやら。最初は腕に体温無かったって。

 

「あんなに盛大に迎えてくれるなら、もっと早く起きれば良かった」

 

 バカみたいな戯言をつい漏らしたけど、まだ日が昇らない時間の病院の屋上には俺と雪玉ちゃん以外には誰もいない。だから気楽なもんだ。

 

「先生さん、フォンチャさんもティエちゃんも、ディアマンテさんノットウノさんも、皆無事で良かったよね、雪玉ちゃん」

 

 俺が起きて暫くしてから、ゾンビから人間に戻れた人たちも俺が起きたことをお祝いに来てくれた。ビックリしたなぁ、フォンチャさんの髪と目。茶と白のツートンカラーな髪色と、紫色の目。色の変化はやっぱりゾンビから人間に戻った時の後遺症みたい。戻すタイミングがギリギリだったみたいで、一旦髪色が白になったり目の色が血の色になったりって後からのダメージが凄かったみたい。でもしっかり戻ってきたんだから、成功って言って差し支えないだろうね。本当に良かった。これからも経過観察させてもらいたい。する気なかったくせに、都合がいいよなぁ、俺。ま、人間、そんなもんよ。

 

 そうだ。人間って言えば。

 

「なぁ、皆」

 

 未だ顔を出さないお天道様が照らす明るい空を眺めながら、同じように眺める皆に声をかける。俺の夢を、聞いて欲しくて。

 

「俺、新しい夢が、生きる目標が出来たよ」

 

 振り返った皆に「聞きたい?」って焦らしたら、ポコンポコン体当たりされた。ははっ、ごめんって! さっさと言うから、許して!

 

「俺ね、魔女が人間に戻る方法を探そうと思ってんだ」

 

 簡潔に言ったら、雪玉ちゃんたちがぎょっとして俺から一歩引くように後ろに下がった。

 

「なんだよ、俺じゃ見つけられないってか? ゾンビから人間に戻る方法を見つけた俺が、その方法は見つけられないとでも?」

 

 抗議の声を上げたら皆、全身を左右に振って『そうじゃないけど……』って感じで下を向いた。……なんか、知ってんのかな。

 

「俺は探すぞー。だって、復活するような身体じゃ、いつ皆と同じとこに行けるか分かんないからさ。別に死に急いでるわけじゃないけど」

 

 終わりがある方が、やっぱりやる気って出るじゃん? だから、終わりを探してみようかなって。きっと、いざその時になったら無様に抗うんだろうけど。

 

「別に魔女のままでも不自由はしないぜ? なんなら便利だし。モンスターからも同類扱いだから旅がメッチャ楽だったし。でも、そうじゃねぇんだよ」

 

 ゾンビっていう、1回死んだ存在だって人間に戻れるんだからさ。雷に撃たれて1回死んだ俺だって、人間に戻れたって、いいじゃん。合理性とか、そんなんじゃないの。

 

「人間、もうちょっと長くしてたかったんだよ」

 

 もうちょいカッコイイ大人になりたかった。夜にモンスターに襲われる恐怖を、朝を無事に迎えられた安堵を感じたかった。サータちゃんと、神父さんと、皆と一緒に、あの村で生きていたかった。……後半は魔女、関係ないか。

 だから、魔女から人間に戻る方法を、探していきたい。

 

「その方法を探すのにさ、ここって最高の環境だと思わね?」

 

 今の、ちょっと脈略なかったかな。皆斜めに丸い身体傾けちゃった。可愛い。

 

「だって、ここには俺を理解してくれてる人がいっぱい居るじゃん? つまり、腰を据えて色々実験出来るわけですよ」

 

 説明を聞く皆が軽く頷く。皆もそう思ってくれてるよね! ここは安心できる場所だって! ……まぁ、戻れなくたって、本当はいいんだけどね。

 心を読んだ皆が、空中で器用にピョンッと跳ねた。ふふっ、可愛い!

 

「実験は勿論するけど、実験体は俺の身体一体しか無いワケ。時間がかかってもしゃーないよね。それに、ハナハタ村と国を見守るのも悪くない。それから、一番大事なことは、ずっとずっと前に神父さんが教えてくれた」

 

 目を閉じて、長いこと暮らしていた教会を思い出す。それを背景に、優しく穏やかな、諭す表情の神父さんを脳内に浮かべる。

 

「神父さんは人間について、こう言ってた。『人は助け合って生きていく生き物です。愛し愛され、時に衝突し、妥協しあい、そして尊重し、尊重される』ってね。ほら、ここでなら、俺、人間になれそうじゃない?」

 

 突然吹いた前からの風が俺の髪を荒らして、白コートを靡かせた。新たな決意を世界が祝福してくれてるのか? なわけ無い? うるせぇこういうのは気の持ち様なんだよ。

 

「なーんの手がかりも無い状況だけど。今度はゆっくり、魔女ってこと隠さずに生きていけたら。そしたらきっと、人間に戻れる日が来る」

 

 ようやく顔を見せ始めたお天道様の光を浴びながら、雪玉ちゃんたちを見る。見つめ返してくれる皆の目をしっかり見て、再び決意した。

 

「その日が来るまで、皆、俺に付き合ってくれる?」

 

 頷く代わりに飛び回る雪玉ちゃんたちを見て、俺まで満面の笑みを浮かべちゃった。

 あぁ、きっとこれが、俺が人間に戻る手がかりなんだろうな。

 

 地上からニワトリが景気よく鳴く声が聞こえてくる。生きてる皆もそろそろ起きてくる。俺も行こう。

 

「今日はハナハタ村まで行って、起きたこと挨拶してこよっか」

 

 まだ身体は動かしにくいから、のんびり散歩感覚で。テレポートするけどさ。あ、そうだ。国の発展ぶりもこんな高い場所からじゃなく近くで見ないとね。ふふっ、楽しみだなぁ。

 

 雪玉ちゃんに手を引かれ、背中を押されて、病院の屋上から降りた。

 

 

 

『人間に戻る手がかりを掴むまでの話』 完

 




 今回をもちまして、本編最終回となります!

 タイトルの『人間に戻る手がかりを掴むまでの話』は、ゾンビからではなく、魔女から人間に戻る手がかりの事を言っていました。ゾンビの方は方法が確立されてますからね。ま、魔女から人間にはどうやったって戻れないんですけど(無慈悲)

 気が向いたら伏線を回収する番外編などを投稿していきます。そのときはまた是非閲覧ください!
 アンケートも最終回で受付を終えるので、ぜひご投票を!

 それでは、後書きまでお付き合いいただき、ありがとうございました!!

雪玉ちゃんの正体がヘムスタッド村の皆だと察したのはいつ頃ですか?

  • 初登場時から!
  • テレポートの練習の時に……?
  • ハナハタ村で勝手に飛び出して行った時
  • 緑色のガラスペンダント強奪()事件で
  • 自分の意志で国などに残った時
  • 森の洋館から撤退する時の脳内の声で
  • ラクにチートを疑われた時
  • 久しぶりの睡眠で夢を見て心が病んだ時
  • ルゥパが雪玉ちゃんに詰問した時
  • ルゥパの口が勝手に動いて対話した時
  • カツヤに言われた時
  • その他
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