人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
結局2週間近く一緒に旅したキャラバン一行と別れたら、最初にこの地方に来た時に降り立った場所に戻ってきた。船を乗り捨てた場所とも言う。
目印になるようにってしっかり陸上に停めて置いたからか、風に巻き上げられたっぽい砂が中に入ってただけで、特にモンスターたちにイタズラされた形跡は無かった。
「お前のおかげかぁ?」
船首に胸を張って浮かぶ雪玉ちゃんを軽く指で突っついた。フラついてむすっとした雪玉ちゃんカワイイ!
なんかよく分かんないけど、いくら連れて行こうとしてもこの子だけ絶対に船から離れようとしなかったんだよな。だから見張り役兼船長に任命したけど、立派にお勤め果たしたっぽいなぁ。偉いなぁお前! てかマジでさぁ、お前ら何食って生き延びてんの? 基本水かポーションでいい俺が言えた義理じゃねぇけどさぁ。あ、俺の生命力とか? ありそう。
ひとしきり船長の雪玉ちゃんを褒めたら、村を回って集めた素材を試したり、海関連でやりたかった事をやった。
テントと砂岩を組み合わせて作った仮拠点の中で、巡った村々で見つけた目新しいものをどんどんポーションの素材にしてった。サボテンを細かく刻む時、トゲが刺さって痛かった……。それなのに特に良い効果は現れなかった……。
海関連では水中建築物の中を冒険もしたし、モンスターも狩った。相変わらずイカにビーム撃ってた魚みたいなモンスターから剥ぎ取ったものとか海藻とかの素材でポーションも試作して、ただの出汁しか出来なかったのを確かめた。
出来上がったポーション的なやつをハスクとか水中ゾンビ(村での情報収集でアレがドラウンドって名前って知った。名前かっけぇじゃん)にぶっかけて試したけど、特に何も変化が無かったから、本当に出汁しか抽出できてないと思う。
試作してたら当たり前だけどポーションの素材が無くなった。だからネザーに取りに行くことにした。マグマ源に水を流して黒曜石作って自分でゲート開けてもいいけど、今回は先人の遺物を再利用させてもらうことにした。
キャラバン一行に付いていって村と村を行き来してる道中で見つけた、黒曜石で縦に作られた大きなロの字。今はその力を失ってるけど、少し直すだけでまた使えそうだった。
周りには焼け焦げた土とかいつまでも冷めないマグマブロックとかがあって、ここだけ景色が異様だった。
「なんかあっちの地面にこっちの世界が侵食されてんの、キモイな」
だからなのか、サバンナになってるこの辺りには馬とかロバとかが居ても人里が無い。だったら、もしも奴らがこっちに来ても、ちょっとの間なら被害が少なくて済みそうじゃん? よっしゃここでゲートひーらこ!
その辺に散らばってた黒曜石を欠けてる部分に当てて、火打石で着火する。そしたら紫色の向こうが透けて見える、実体の無い壁みたいなのが黒曜石で囲った中に現れた。これに触れてちょっとすると、目眩の後にネザーに行ける。ネザー自体は行く時よりも目眩がするくらいヤバい世界だけどな。
……だだっ広くてのんびりした空気が流れるサバンナ平原にこの、なんか紫色の光のモヤを出したり引っ込めたりする、おどろおどろしいゲートがあんの、めっちゃシュールじゃね?
「さっさと取りに行こ」
こっちからあっちに行けるってことは、あっちからこっちにも来れる。俺以外が簡単に潜れないように、ネザー側に出来たゲートを石の柵で囲むのは働きたがりで意外と力持ちな雪玉ちゃん達に任せた。俺も早く、要塞見つけて潜ってネザーウォートとかブレイズロッドとかマグマクリームとか、色々取りに行かねぇとな。
……いつか、あのデッケェ白いイカみたいなモンスター、ガストから取れる素材で、ポーションが出来たらなぁ。アイツいっつもマグマの上にいるから、倒しても全部燃えんだよクソが。
土よりサックリ柔らかい、ネザー特有の地面を歩いてゆく。一歩足を踏み外せばマグマっていう酷い環境の中、耐火のポーションを飲んでも感じる熱気が、神父さんとの修行を思い出させた。キツかったなぁ……。何回服が燃えて、真っ裸になったか。暗殺相手に抵抗されて何度もマグマの海に落とされそうになったし、手を滑らせて職人魂のこもった剣がマグマに落ちた時は絶望したなぁ……。
キツかった事の方が多かった思い出に浸りながら歩いてたら、誰が建てたか分からない、暗いレンガの建物が見えた。マグマにも燃えない、とんでもない耐火性を持つ黒いレンガ。俺が歩く地面へと繋がるレンガの長い橋を渡って、入り組んだ要塞を探索した。まずは、ネザーウォートからだな。その後ブレイズロッド、マグマクリームだな!
石の剣を携えたウィザースケルトンが、物陰でブレイズを暗殺してた俺の横を素通りしてった。
「……ここでも、やっぱ、そうなんだな」
火球を飛ばしてくるガストも。
いくつもある細長い棒を体にしてるブレイズも。
黒い見た目で力が抜ける呪いをかけてくるウィザースケルトンも。
燃える体でぬちゃぬちゃ飛んで体当たりしてくるマグマキューブも。
人と豚が融合した“金”が好きなピグリンも。その親玉ブルートも。
唯一動物っぽいのにやっぱりモンスターなホグリンも。
みーんな、俺に敵意を向けてくるどころか、注目さえしてくれねぇ。だぁれも、俺を人間だと思って攻撃してこねぇ。
まぁ? おかげでぇ? 1匹になったところを暗殺すればいいだけになってぇ? 素材が断然手に入りやすくなって楽ですけどぉ??? ……溜め息が怒涛の勢いで出てくるわ。
人間だった頃はいち早く戻りたくて必要以上には探索してなかったから、気軽に探索できるようになったのは良い事なのかも知れない。なんでも前向きに捉えてこーぜ、俺。
んで、なんか綺麗だし光るからって、記念に持って帰って来たグロウストーンダスト。水に入れても特に何も効果無かったけど、粉がキラキラしてて可愛かった。
試しに俊敏のポーションに入れたら、もっとキラキラしてポーションの中でふわふわ漂って可愛くなったし、なんか飲んだらいつもより早く動ける感じになったしで、見た目も効能もパワーアップした。大発見だし大発明だったわ。俺の中で。
ただちょっと残念なのは、全部が全部、キラキラするポーションにはなってくれなかったこと。あとなんか、キラキラしたやつも効果時間が普通より短くなってる気がするし。一長一短。毒じゃないだけ良しとしようぜ。キラキラかわいいし。
「かわいーよな!」
雪玉ちゃんもスイカの種みたいにつぶらな目をキラキラさせながら頷いてくれたから、俺の感性に間違いねぇな! 雪玉ちゃんかわいい!
ポーションの素材用に砂糖を求めてやってきた人里で、また本がたくさんある所にエメラルド握らせてお邪魔した。
情報を手当たり次第に漁ってたら、『あぶないポーションレシピ』ってめっちゃ興味唆られる本見つけた。わざわざ『あぶない』って付けるからアハ~ンな感じの内容なのかと思って周りに気をつけて中をパラパラ見てみたら、手順から素材になるモンスターの狩り方まで親切に載せてる、本格的なレシピ本だった。なんでこんな貴重な本が教会の無い村に……? 俺みたいなポーション職人がいるのか?
不思議に思いつつ、ありがたく情報を貰おうと目次を見たら、知らないヤツしか並んでなかった。
「弱化に毒、鈍化、負傷……。あっ! 透明化もレシピ載ってんじゃん! やったぁ!」
このレシピを知っとくことで、間違って作っちゃう事故を防ごうって目的らしかったけど、普通に攻撃手段にしようと思って頭に叩き込んだわ! 知られたくねぇなら書くなって話だよなー! 門外不出なら本に纏めんなっつーの!
にしたって、発酵したクモの目使うとか、目から鱗落としたわ。なにその素材。いくら手当たり次第素材をポーションにしてる俺でもそれを使う発想は無い。良く思いついたな開拓者。だってそれゼッテェ臭ぇし気持ち悪いだろ。何を思ったらクモの目、しかも発酵したやつをポーションに入れようと思うんだか。……鉱石のグロウストーンダスト入れた俺が言えねぇか。
てか、結構コスト高くね? そもそもクモを倒さねーと目とか剥ぎ取れねぇし、発酵にも時間かかるし。水に発酵したクモの目入れた“弱化のポーション”とか、奇妙ポにぶち込んだ“毒のポーション”とかはまだ、工程もいつも通りとかだからいいけどよぉ。鈍化ポお前、俊敏ポ(素材は砂糖)にぶち込むとかコスト高ぇな。治癒ポ(きらめくスイカ)使う負傷ポは言わずもがな、キャラバン一行が飲んでて欲しくなった透明化ポも、暗視ポ(金のニンジン)に発酵したクモの目入れんのはコスト高ぇし失敗したらもう、怖い。絶対高価じゃんこれぇ。
「本物見ない事には、これ、手ェ出せねぇな」
溜め息をつきながら、本を閉じる。それから床に伏せって、紙に今のレシピを書き写してった。机が無いから仕方なくな。
こういうのから『ゾンビから人間に戻す方法』の何かしらの手がかり見つけれるかもしれねぇから、試したいけどさぁ。今俺実は結構貧乏だからなぁ……。エメラルドのこともそうだけど、地上で取れる素材が少ない。だから一回どっかに定住して畑しねぇと。きらめくスイカも金のニンジンも無くなってきたから。種はあるし、どうにかなるだろ!
この人里では結局本からも人からも、ゾンビに関しての情報は何も得られなかった。なんなら「お前何考えてんの?」って顔された。てか言われた。でもお前らだって、俺と同じ状況になったら! ……って、人間が魔女になるとか、滅多にねぇよな。うん。
……じゃあ、あの本は、誰が書いたんだ? 書いたらしい人も見当たらなかったし。いや細かく見て回ってねぇけどさ。でも、明らかに自分以外の誰かに、不特定多数に見せる為な作りの本だし……。本人が持ってないのはそれで納得できるけど……。わざわざ綺麗に本に纏めて、教会が無い、つまりポーションの取引も滅多に無い村に雑多に置かせてんの? 意味分かんねぇ。作れねぇだろ。普通の人間にポーションは。
教会はネザーがとんでもねぇ異世界で素人が行っても帰ってこれないってのがあるから別に隠さねぇだろうけど、わざわざレシピを本に纏めて広めたりもしないだろ。モンスターの魔女なんてもっと書かないだろうし、人間に渡しも絶対しない。……あるとしたら、
「いや、信仰心捨てた教会の人間かもか」
うん、そっちの方が可能性高そう。捨ててなくても神父さんみたいな人だったかもしれねぇしな。