人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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番外編
一番最初のクラフター


番外編 本編前
0 最初の願い


 死んだ、死んだ。

 

 長風呂が気持ちよくって、そのまま寝たら、溺れたらしい。

 あーあ、風呂でマイクラするんじゃなかったー。おかげで多分死後の世界がマイクラみたいなブロックの世界になっちまった。ゲーム脳、ここに極まれりってか? ……とりあえず、VRマイクラ、堪能するかぁ!

 

 四角い手で木をこって、作業台つくって、ツール作って、ベッドとチェストとかまどを作って。丸石を集めた所をそのまま拠点にした。これからどうしよっかなー。ひとまずダイヤチャレンジかな。その後はせっかくだし、ネザーとエンドにも行きたいなー。そういやこの世界ってバニラなのか? MOD入ってんのかな。竹MODだっけ、とか、エーテルMODとか、黄昏の森とか! そういう要素を探しに行くのも悪くない!

 

 暫くは1人でサバイバルした。ゲームの通り、豆腐建築して、畑と装備を整えて、レアなアイテムとか綺麗な景色を求めて冒険して。エンチャントも、ネザーにも行ったからポーションも作ったりして。森の洋館に乗り込んで不死のトーテムをゲットしたり、エンドに乗り込んでエリトラもゲットしたし、ウィザーも何度も死につつ倒した。

 そして、やること全部やったから、見失った。俺、次何やったらいいんだろ。

 

 自分で作ったスキンには口をデザインしてたはずなのに、いくら食べても食べ物の味しないし、喋れないし、ダメージ受けても呻き声も上げられない。アスレチックは出来るけど、俺の好きだったクライミングは出来ないし。身体もブロックだからじゃんけん出来ないし。まずじゃんけんやる相手も居ないんだけど。

 

 そうだ! 村に行こう! 村人とお喋りしよう!

 

 修繕のエンチャント本も欲しいしってなって、エリトラで飛んでいつか見かけた村までひとっ飛び! 今まで取引に興味が無かったから寄り付かなかったけど、今なら仲良くなれそう! ──喋る口は開かないのに? いや、お辞儀は出来るし、ボディランゲージでなんとかなるっしょ! え? 本当に?

 そんな不安を体現するかのように。やってきた村の村人たちは、見覚えのありすぎる姿かたちをしてた。

 焼けた肌のスキンヘッド。緑色の目。特徴的な大きくて長い鼻。腕は常に体の前で組まれていて、フゥンって呟きながら皆が気ままに村の敷地内を歩き回ってた。よそ者の俺が堂々と入っても、警戒しない。──まんまじゃんっ。ゲームのまんまじゃん!! 嬉しくない!

 

 取引は出来た。たまたま話しかけたのが武器鍛冶屋だったから、鉄の剣をエメラルドと交換した。その取引の間にはその画面だけがあって、会話も、挨拶すらも無かった。いや、ハァンって言ったけど、それだけだ。

 もっと、もっと、なんか、こう、さぁ! 呻き声すら上げられない俺が文句を言える立場じゃ無いけれど!

 

 寂しい! 寂しい! 寂しい!!

 

 村に居たってつまらないから、ゾンビにやられないように木の柵で簡単に村を囲ったら、拠点に舞い戻った。もういいや。つまんない。センスないけど建築勢になろ。

 何作ろう。動物園とか? 水族館もいいな。博物館も作ろう。それぞれのサンプルを集めてたら、いい感じに時間潰せるだろ。まずはサンプルを囲う入れ物を作ろう。その素材集めだ!

 

 テラコッタが大量に欲しくてメサバイオームを探してた最中。平原の上をエリトラで飛んでたら、建造物が見えた。デカいデカい、モザイクアート。まだ出来上がってないけど、羽をパタパタさせて落下してるニワトリの絵だ。そっか、そういう絵画もあるのか。

 てか、そんなの作るの、絶対に俺と同じヤツじゃん! 転生者じゃん!! 転生? よく分かんないけど、俺と一緒で人間だ! 絶対!

 

 身体を地面に激突させつつも地面に降り立った。にゅいーっと起き上がって目を凝らせば、人影が見えた。オレンジ色の髪に緑色の上着。アレックスだ! スキン弄らないタイプのプレイヤーなんだな!

 その人は空からやって来た俺を見ると腰を曲げてペコペコしてきた! お辞儀してくれてる! ぴょんぴょん跳ねて歓迎してくれてる! やった、仲間だ、仲間が居る!!!

 

 初めまして! 一緒に冒険しませんか? そうお声を掛けたくて、何か食べて体力回復するのも忘れて、駆け出した。だからうっかり、歓迎の手を振ってくれてるアレックスの腕に当たっちゃった。その一撃で、たった一撃で、あっけなく目の前が真っ赤になった。

 

 

 

 やらかした!!!

 

 死んだらインベントリのものがドロップするのに! 俺の貴重なエリトラが!! 大量のシュルカーボックスが! エンダーチェストが!!

 ……俺、歓迎されてなかったのかな。エリトラを奪うために、殺されたのかな。笑ってくれてないし。い、いや、そんな事ない! 笑い声が無いのは俺もだからお互い様! 殴られたのは俺が間合いを読み違えただけ! 向こうが寄られたくなくて俺を突き飛ばすために一撃浴びせてきただけ! だから、だから!

 ……エリトラ失くしたから、あんな遠い場所にまで確かめに行けないな。貴重品のビーコンはエンダーチェストに入れといて正解だった。それを失くさなかっただけ良かったんだ。そう前向きに捉えとこ。

 出ない溜め息が、何度も、何度も繰り返された。

 

 動物園なんかの各施設をコンクリートで建設しながら、気分転換に実況動画で見た黄昏の森とかエーテルとかのゲートを開くのを試してみた。

 草地に作った4マスの池の周りにそこらで拾ったポピーとタンポポを植えて、ダイヤを投げ入れた。

 グロウストーンをネザーゲートと同じ組み立て方をして、水バケツをバシャッとひっくり返した。

 どっちもダメだった。別世界系MODは入ってないっぽい。食材・友好モブ追加系はまだ分からないけど、食べても味しないからどうでもいいや。

 

 

 

 ……孤独だ。一度仲間が居ることを知ってしまったから、孤独をより強く感じるようになっちまった。

 

 最早癒しは動物だけ。だって元々この子らは喋らないし。ネコかオオカミじゃないと懐かないし。その中でもお気に入りはヒツジだ。見た目は他の動物と同じく四角いけれど、触ったらもふもふしてるから。どこもかしこも真四角で関節の少ない体の可動域的に、ヒツジ自体に倒れ込むことは出来ないのは残念だけど、ベッドならいくらでもポヨンポヨン出来る。そう、今横になってるベッドでなら。

 

 目標にしてた動物園・水族館・博物館を長い時間をかけてやっと完成させた後、だんだん起きていられる時間が短くなっていった。体が疲れやすくなった。いや、疲れやすくなったっていうより、何かに力が常に吸い取られていくようだった。

 疲労感は日に日に強くなって、もうベッドから起き上がるのにも疲れるようになってしまった。良かったよ、動物たちがお世話の必要が無いマイクラのモブたちで。無責任にならずに済んだ。

 もっと生きてたかったような気もする。でも、やることも無いから、このまま力尽きても未練は無い。

 

 はぁ、一緒に寝てくれているネコのミーゴが愛おしい。俺の死を看取ってくれるのがお前で、救われる。前は独りきりで湯船に沈んだから。ベッドの上で、覚悟を決められることは、とても、幸運なことだ。

 

 ……? なんだろう。胸に、温かいものが集まってくるような。なんだ、なんだろう。今なら、なんでも願いが叶うような気がする。なんだろうこの不思議な感覚は。願いが叶うようなって、なんだ。でも、願うだけなら、誰にも迷惑かかんないよな。

 

 もしも、神様ってやつがこの世界にいるのなら。──村人と動物に、魂を、宿してくれ。

 

 寂しかったんだ。村人たちと交流が出来たなら、この広い世界で仲間を探さなくても、孤独に震えることは無かった。動物たちのことももっと愛せたと思う。だから、あのモザイクアートを作ってた人が寂しくないように、神様。

 

 胸の上に両手を重ねて置いて祈ってたら、拠点のドアが開いた音がした。俺以外が、ドアを開けた。ここには村人も居ないのに? 外は明るくてまだモンスターも湧いてないだろうに? 誰が来た?

 ドアを開けた存在はそのまま俺の木造拠点内を走り回って探索してるらしい。バタバタと足音を派手に立てて、チェストには目もくれずに、誰かを探しているっぽい。そして、2階の俺の寝室まで来たその人は、アレックスの姿をしていた。

 ベッドに横たわる俺を見つけたその人はこちらまで駆け寄ると、アイテムを俺の上に放り投げてきた。バババババッと投げられて俺に降り注ぐのは、シュルカーボックスばっかり。やっぱりこのアレックスさんは、ニワトリの地上モザイクアートを描いてた、あの人だ。そっかぁ、返しに来てくれたんだ。わざわざ。もう7年くらい前だろうに。ずっと、気にしてたのか。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! っ、あれ、喋れて……じゃなくって! あの時、間違って殴ってごめんなさい! お返しします! エリトラもシュルカーボックスも、エンダーチェストも! だから、だからっ、死なないでください~!!!」

 

 ごめんなさい。俺がうっかり死んじゃったせいで。ずっと罪悪感持たせてしまって。そっか、俺の願い、通じたのかな。通じた結果、この人は喋られるようになったのかな。神様、ありがとうございます。

 

 さびしいって気持ちが一番強いけれど、溺死した後に見れた夢としては、十分楽しかったよ。ありがとう、世界。後世の皆が楽しく過ごせますように。

 

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