人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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 閃いたので更新しました。ルゥパが目覚める前の話です。

※戦闘狂な青年視点


110 願いは世界に息づいている

 シターシュに依頼された、世界地図をつくる旅。それで雪玉ちゃんと一緒に世界中をエリトラで遠征しとる最中、不思議な建物を見っけた。

 

 大きめの村くらいの広い敷地には、3つ大きな建物と1つのこじんまりとした家。燃えへんようにって、どこもかしこもレンガ造りで、雷に撃たれんようにしっかり屋根付きや。その屋根にモザイクアートでブタ・イカ・作業台が拵えてあって、それで動物園、水族館、博物館を示しとるみたいやった。

 

「ここにも、クラフターがおるんや」

 

 この世界の住人が、生活に関係ない建築をするとは思えへんからな。モザイクアートなんて最たるもんやろ。降りてみるか。まだ本人がおったら、国に誘ったろー!

 

 お行儀良く、入口から入ろうと思って草地に降り立つ。レンガで作ったアーチのトンネルはオシャレやが、フェンスゲートが3つ並んだだけで簡素な入口にはやっぱり誰もおらん。アーチの壁に看板が貼られとるのに気づいて目をやった。それには、【記録の館】と書かれとった。

 

「うひゃー、気取ってますわぁ」

 

 ちょっと茶化しつつ、フェンスゲートを開けて中に入った。アーチのトンネルの向こう側には、書見台が置かれとった。あれか、パンフレット替わり。そうアタリをつけて本をペラペラめくってく。

 

「……ほぉーん」

 

 端的に言えば、ここは想像通り博物館で、「見てって知識とか対処法とか蓄えてってな」って感じの施設らしい。でも、建物のガワだけ立派で、ホンマの動物や魚が展示されとる訳やないんやって。なんでも、管理人さんが居らんくなって、継ぐ人も居らんから世話が出来んくなったからやって。後継者問題はここでも発生するんやなぁ。

 やから、展示物は大抵オブジェになっとったり、額縁に飾られての展示やって。それぞれの下に説明書いた本を置いた書見台があるから、詳しく見たかったら確認してなーってさ。

 

 その他に、ワイらクラフターに向けたメッセージも、後ろに短く付け加えられとった。

 

「“世界がアップデートされたら、新要素をまとめて、展示して欲しい。”か……。ウィ〇ペディアみたいやな」

 

 てか、アップデートするんや。びっくりやな。次は何の動物が来てくれるんやろな~! それも別のクラフターが展示してくれとるかもしれん! あ、ついでやし、ウチの国のことを宣伝しよー! ここの創設者が求めとるもんやないかもしれんが、地図載せといたら他のクラフターも来てくれるかもしれんし、別のクラフターの集落を教えてくれるかもしれん! ここを中心にした地図とか置いてへんかなー。

 

「え、てか、アップデートするんなら、気づかんうちに魔女から村人に戻す方法が追加されとるかもやん! 見てこ!」

 

 閃いた事をそのまま口に出したら、聞いた雪玉ちゃんがピューンッ! てすっ飛んで行きよった。……そっちは雪玉ちゃんに任せよかな。ワイは知らん新要素を確認してこよ。

 

 

 広い広い、無人博物館。今の客はワイと雪玉ちゃんだけらしくて、動物も居らんから気配が無くて、結構寒々しい。閉館した事に気づかなくてずっと居座り続けとるんやろうかと不安になる。そわそわしつつも、案内の矢印ブロックに沿って巡ってく。

 

 入口から見て右の建物に入ってる動物園には、特に目新しいもんは無かった。クラフターの誰かが描いた動物やモンスターの絵、本物の素材が額縁に飾られてたり、迫力のあるポーズを決めたウマのオブジェが広場に鎮座しとったり。書見台の本は解説を書いたクラフターたちの、ちょっとクセのある文章が面白かったな。

 同じ建物に植物園もあった。こちらはアイテム化した本物の植物や素材が額縁に飾られとるな。あと、本物の樹木は外に一本づつ、間を空けて植えられとる。こっちは世話せんでも勝手に伸びるか枯れるかやろうからな。畑が無いんは、荒らされて景観悪くなるのを嫌ったからか。性善説と性悪説、どっちを根本に置いてんねやろ。

 

 次は水族館。入口から見て左の建物に行ったんは、博物館の方が雪玉ちゃんで溢れとったから。分裂からの人海戦術で頑張ってくれ。

 さて、水族館でもやっぱり、魚は居らんかった。それでも創設者が立派に作った水槽自体は現役で稼働しとって、サンゴや昆布、海底神殿や遺跡のレプリカが展示されとる。サンゴ・昆布の水槽にはイルカとイカの、海底神殿の水槽にはガーディアン・エルダーガーディアン、遺跡にはドラウンドのオブジェが展示されとった。充実しとるな、こっちは。潜らずに海の中を見とるみたいで、歩いてて楽しいわ。

 マグマブロックとソウルサンドで作った水流エレベーターも紹介されとった。それで登った2階には、やっぱりアイテム化した魚たちや素材が額縁に飾られとる。ん? 書見台の本には、美味い調理の仕方も書かれとるやん。ふふっ、ヨシトへのお土産にしたろー!

 

 そんじゃ、最後に博物館見てくかー! ってうわっ!?

 

「……ゆ、雪玉ちゃんで、ギチギチになっとる……」

 

 博物館の窓という窓から、雪玉ちゃんの白くて丸い姿が見える。ね、熱心に探し回っとるなぁ。人ごみ、嫌やなぁ。あそこはまた後ででええや。休憩してこよー。

 

 ベンチを探して庭を歩いとったら、動物・植物園の建物の隣に、そこそこ立派なレンガ造りの一軒家があった。三角屋根で、2階建てで、煙突まである、可愛い家。……あれが、創設者の家やろうか。今まで見てきた村では見ない形の家。それってつまり、クラフターの建築物ってことやろ。

 

 そんな家の前に、ひとつの看板がポツンと立っとった。どれどれ、なんて書いてあるんや~?

 

【原始のクラフター 終わりの家】

 

「っ! ここが、最初の、クラフターの家やと……!」

 

 この施設の創設者で、この世界に最初に現れたクラフターが、ここに……!

 思わず数歩後ずさって、レンガの家を見上げる。知ってから見ると、なんだか年季が入っとる気がしてきた……! てかもうこの家自体が墓みたいなもんか!?

 

 このレンガの家の前にも、書見台があった。展示物みたいにってことは、家の中も見てってエエらしいな。はぁ、どんなことが解説されとるんや?

 いきなり明かされた情報を深呼吸して受け入れて、衝撃に備えて力みながら、ページをめくった。

 

【原始のクラフターを看取った私の、自分語りに付き合って欲しい。その中できっと、君の疑問に答えられるだろうから】

 

 すーっ、はーっ。あー、こっわ。疑問に答えるって、もうこの本に色々書いてるって事やん! そうや、この人は原始のクラフターと同じ時代を生きたお人らしいし、その頃の世界はどうやったんや。アップデート前の世界は、どんなやったんや。

 

【私がこれを書き記す頃より少し前。村人たちはゲームと同様に会話をしてくれなかった。動物は懐く以上には愛を返してくれなかった。確かに触れられるのに、そこに魂を見いだせなかった】

 

 は? 魂が、無かった? あんなに個性ある人たちに魂が無いとか、おかしな話やろ。……え? もしかして、そういうことなん?

 

【ブロックで構成された、ゲームと全く同じ世界。服装だけが異なる同じ見た目の村人たち。表情の変わらない動物たち。張り合いのないモンスターとの戦闘。ゲームキャラと同じようにブロックの手なのに、私だけが、世界に取り残されているようだった】

 

 ブロックの手!? 反射でページをめくる右手を見て、触る。見慣れたそれはやっぱり、五本の指に分かれてて、力みか、恐怖か、震えてた。拳を握って、息を飲んで。その手で、次のページをめくる。

 

【孤独だ。喋ることのできない口は食べることはできても、味を感じることは無い。心をなごませる花からは香りを感じることは無い。マグマでダメージを受けても、熱さを感じることは無い。見えているのに、触っているのに、そこにいるのに。ゲームをプレイしているだけのような、世界から隔離されている心境だ】

【正直に言おう。このメッセージを残している最中も、私は五感を全て感じているわけではない。生前よりも感覚は鈍い。君はどうだろう。世界の解像度が良くなっている事を祈るばかりだ】

 

 はぁ、はぁ、はぁ。読むだけなのに、息も体温も上がる。やって、世界の解像度が良くなってへんかったら、ヨシトは料理を楽しめなかった! ワイらもそのご相伴にあずかれんかった! リンゴでさえも美味しく食べれへんかった! あぁ、良かった! ありがとう、祖先! そ、祖先はちゃうか? 先人か?

 

【話を戻そう。孤独で退屈な時間を過ごしていた私のもとに、ある日、1人のクラフターが現れた。それが、原始のクラフターだった】

【エリトラで飛んで現れたその人は、地面に激突しながら着地し、私のもとへと駆け寄ってきた。喋ることが出来ない、屈伸やジャンプ、腕や首を振り回す事でしか意思表示が出来ない私たちだが、出会えてまず歓喜したのだ】

【その歓喜のあまり、興奮してしまった私は、誤って彼を殴ってしまった】

 

【殺してしまった】

 

 息を呑む。書いてるお人の、後悔が、怒りが、悲しみが一気に流れ込んできたような気がして。身体が重い。このお人は、この何倍も苦しかったやろなぁ……。

 

【私は探した。彼が復活していることを信じて。自分もリスポーンするからと、愚かにも同一視して。これを読んでいる君は、相手がハードコアの難易度で生きているかもしれない事を念頭に置いてほしい。人殺しにならないように気をつけてくれ】

【とはいえ、私の祈りはある意味届いた。私は、彼の死に目に直前で間に合ったのだ】

 

 直前、かぁ。謝りたかったろうから、それが出来ただけ、きっと良かったやろ。あー、切ないなぁ。

 

【それが、今君の目の前にある建物だ。この拠点の二階のベッドで、彼は体の上で手を組み、横たわっていた。私は弱りきった彼の枕元に駆け寄り、膝を折って、「すみませんでした」と叫んだ】

 

 ……? あれ? ゲームと一緒なら、無理な体の動きしてへん? 声、出せへんかったんやなかったん?

 

【違和感に気づいてくれただろうか。そうだ。これが、彼が《願ってくれた》結果だ。いや、これはついでに過ぎない。彼の願いの本質は、もっと偉大だ!】

【この世を去った彼の遺体を埋葬した後、気まぐれに村へと寄った。そこで私は、“声をかけられた”。「こんにちは」と。「どこからいらっしゃったの、旅人さん」と。村人たちから】

 

 マインクラフトってゲームのMOBでしかなかった村人が、意思を持って、会話をしてくれた、んか。

 

【原始のクラフターが願ったのは、『この世の生き物に魂を宿す』ことだった】

 

 やっぱり! そうやった!

 やから、口がきけるようになったんか。プログラムされた電子のキャラやなく、人間に、なったから。……わかったような、わからんような。まぁ、なったもんはなったんやから、細かい事は気にせんでエエよな! うん!

 

 にしても、ホンマにありがたいやん! この、原始さんが願ってくれんかったら、今でもワイらは、屈伸とジャンプと腕振り首振りで意思疎通しとったかもしれん。

 いいや、それだけやない。この願いが無かったら、ルゥパの兄貴と出会うことも無かった。兄貴たち村人に魂があったから、兄貴はゾンビから人間に戻す方法を探す旅に出たんやから。このお人が言うように、まさに、原始さんは偉大やった! ありがとう、原始さん!

 

【今、この本を見ている君の手は、体は、生前と同じような形になっているだろうか。私の願いが、世界に聞き届けられていることを、祈っている】

 

 ! あぁ、そっか! 魂が宿ったんは素晴らしいことやけど、姿かたちはゲームのまんまか! まだこのお人とか村人たちは四角いまんま、指は分かれてなかったんや! それを、今度は、この人が……! ありがとう、ありがとう! 世界にアンタの願いは届いとるで!

 

【これで、私の自分語りは終わりだ。長々と付き合ってくれてありがとう。最後に、この建物についてひとつ解説しよう。ここは元は原始のクラフターの拠点であったが、整理して今後のクラフターの為の図書館として活用するつもりだ】

 

 ほーん。そのまま残っとるんやなくって、り、リフォーム? されとるんかー。ん? ってことはもしかして、この施設をリフォームしたんは、動物とか魚を逃がしたんは、この人なんかな。ホンマに仕事しとるなぁこのお人!

 

【もしよければ、これを見ている君がどんな人生を歩んだか、本に書いてまとめて、ここに置いてみないか。それが後世のクラフターの道しるべになるだろうから】

「えっ、えー? 恥ずかしいわぁ」

 

 でも、そうした方がエエんやろなぁ。ワイの経験が、誰かのヒラメキの種になるかもしれんのやから。それに、ワイもここで知識つけとくべきなんやろな。

 あっ! せや! ついでやし、ここに国までの地図置いとこ! そしたら新しいクラフターがウチに来てくれるかもしれん! んふふっ! また賑やかになるで!

 

 

 国からここまでの地図を複製したり額縁に飾ったりしとったら、雪玉ちゃんがスイーッと飛んで来た。満足したんかな。

 

「探しもん、見つかった?」

 

 ワイの問いに雪玉ちゃんは全身を横に振って否定した。そっか。まぁ、魔女から村人にはシステム組まれてなさそうやもんな。残念ながら。

 

「じゃ、そろそろ行こか? 次はどこがエエかなー。なんか珍しいもんとか見かけんかったー? え? こっから東になんかあるん? その先行って南には村? じゃあそこ行こかー!」

 

 んー、ワイの事を書いた本を置くんは、もうちょっと後ででええか。また後で来ればええわ! せや! ネザー経由でココと国を繋げたろ! んふふー!

 




 原始さん、みんな貴方のおかげで孤独じゃなくなったよ。

 お察しの通り、センバが読んでる本を書いた人は、滅茶苦茶気取って書いてます。自分がモザイクアートやってたこと書いてないもんね。
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