人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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112 明かされた秘密とサプライズの予告

 身体を乗っ取られてパニクってる俺を丸っきり無視して、時間は進む。乗っ取られた感覚は、本来動かせるはずの身体と動かす魂の間に1枚、薄い布が挟まったような、それだけなのに手も足も出ないっていう、もどかしい感じ。

 

 俺の身体を乗っ取ったのはどうやらサータちゃんらしく、別の雪玉ちゃんを手のひらに乗せて、耳に寄せた。喋らない雪玉ちゃんに対してそのポーズに意味はあるのかって思いながら流されてたら、まぶたを閉じた目に景色が見えた。

 

 

 色んな知らない顔と見覚えのある顔が見える。懐かしい村の中に見覚えの無い建物がある。そこにひと組の夫婦がやってきた。やがて奥さんが女の赤ちゃんを産んだ。おくるみに包まれてる赤ちゃんはふにゃふにゃで可愛かった。

 

 知ってるのと知らない景色の中で、泣いてる女の子がいる。村の皆が噂する。『父親と一緒で、母親も消えてしまったらしい』と。『誰よりも強いって言ったって、どうして1人で探索をしたがるのか』と。ひとりぼっちになったその子が剣を手に取って強くなる様が、少しだけ痛ましくて、眩しかった。

 

 女の子は才能があったらしく、メキメキと強くなった。同年代の男の子には直ぐに負けなくなったし、年上にもいい勝負をするようになる。やがてやって来た聖職者の男性にも実力を認められるようになった。年頃になると、女性として初めて警備隊に入隊した。

 

 大人になった女の子と、行商人の男が出会った。優しい恋愛模様と、暖かい家庭が見える。かわいい赤ちゃんがあやされてるのが見えた。その子を愛した男女が、村への襲撃の果てにゾンビになった。その前で、男の子が叫んでた。

 

 

 嵐のような速さで流れる景色は、まるで重要な部分だけ抜き出したよう。とてつもない情報量が流し込まれたけれど、スポナーがこっちの世界にあるって知った時に比べたら、頭と体への負担は無いも同然だった。雪玉ちゃんが元々持ってる記憶だからかな。え、記憶?

 あぁ、そうか、記憶。ヘムスタッド村の誰かの記憶か。なら、あの男の子は、俺か。あ、じゃあ、ゾンビになったあの2人は俺の父さんと母さんで、母さんも子供の頃に親が居なくなったんだ。……あれ? なんかそれって、ヨネカちゃんみたいな境遇だ。

 俺の体を操るサータちゃんが「なるほどね」と頷いた。

 

「ずっと村を見守ってきたブアおばあちゃんが言うには、当時は分からなかったけど、多分ルゥパのお母さんの両親は、クラフターだったんだろうって。2人とも、ルゥパのお母さんを置いて突然居なくなったからって」

「「「えっ!?」」」

「なんやって!?」

「……つまり、ヨネカちゃんとルゥパの母親には、“両親がクラフター”という共通点があると」

「うん。それにルゥパのお母さん、スキッタさんは唯一警備隊に入隊した女性で、ルゥパの師匠の神父さんにも腕っ節を認められてたんだって」

「そ、そ、それって!」

 

 驚いたセンバさんが立ち上がって、同意を求めるように周囲に目をやった。全員が深く頷き、だけど一転難しい顔をしたシターシュさんが口を開く。

 

「しかし、スキッタさんはリスポーンしなかった。遺伝は限定的なものであり、かつ確実では無いだろう」

「や、やとしても!」

「まぁ、そうだな。そのまた子孫であるルゥパにも戦闘力は遺伝している。ヨネカちゃんにも、クラフターの肉体的特徴は備わっていると仮定していいだろう。仮にそうでなくても、可能性を捨てさせるつもりは甚だ無いさ」

「! ってことは!」

「ああ、連れてくるといい。再度相対した彼女から、覚悟が見いだせたなら」

「おん! ありがとな!」

 

 本格的に許可を貰えたセンバさんはとびっきりの笑顔を浮かべて、シターシュさんに礼を言った。自分より年下のクラフター仲間が出来て嬉しいのかな。ヨネカちゃんはクラフターじゃないけど。

 ニッコニコで自分の食器を台所に下げに行ったセンバさんと入れ替わりで、ラクさんが自分の分を、ヨシトさんがシターシュさんの分の朝食を持ってきて、席に着いた。

 

「で、今スルーされたけど、すごい話があったね~。ルゥパさんってクラフターの血が流れてたんだ~」

「道理で強いわけだ、と言いたいとこだけどな。聖職者を筆頭に、割と俺らと変わらない強さの村人も居るからな。戦闘力にクラフターの血が関係してるんなら、案外クラフター同士での交配は誰かが願ったもんじゃなく、仕様だったのかもしれない」

「なるほど、それなら性根の悪い村人が居ても何の不思議も無くなるわね。でも、貴方たちが思っているよりもずっと、たくさんのクラフターが流入してる。仕様なのか、願った結果なのかは今更分からないし、確かめようも無いわね」

「あ、そうそう! 願いのことで話したいことがあってね!」

 

 俺の出自についての考察だったり、クラフター大量流入の情報を聞かされて頭がクラクラして黙ってたら、まさかのサータちゃん乱入でドン引きした。なんでこの情報量に付いて行けるどころか更に足していくの!? 何を足すつもりなの!?

 

「願い? そういえば、その力も遺伝するのだろうか」

「するよ。だから私たちは、雪玉ちゃんたちとして、今ここに居るんだから」

「やはり、そうか」

 

 そうなの!??! いや、有り得ない話じゃないかもだけど! だって会った事ない俺のおばあちゃんはクラフターらしいから! でも納得するの早くないシターシュさん!?

 俺が騒いでるのが煩かったのか、サータちゃんが俺の頭を撫でて、「落ち着いてよ」って宥めてきた。やめてよ、傍から見たら自分で自分の頭撫でてる変な人じゃん。

 慌てて嫌がる俺が黙り込んだところで、やっと撫でる手を下ろしてくれたサータちゃん。俺の顔で微笑んだサータちゃんは一息つくと、真剣な顔で口を開いた。

 

「ルゥパは雷に撃たれて、1度死んじゃったの。心臓は確かに止まっちゃってた。その後すぐに村がゾンビとクリーパーの襲撃で、今度は私たちが死んじゃった。その後、時間をかけて魔女に変身したルゥパは、ゾンビになった私たちを見て、『置いていかないで』って叫んだの。だから私たちは雪玉ちゃんになったの」

「ちょっと、待ってよ! 願いの力が発揮されるのは、自分の消滅と引き換えのはずだよ! 事実カツヤも、トウヤさんマイコさんも寿命が来て、願いが叶って、消滅した。でもルゥパさんは生きてる。おかしいよ!」

バグなんじゃない?」

「え?」

 

 ラクさんが俺の疑問を全部代弁してくれたけど、それを一蹴するかのようにハナコさんが切り出した。

 

「まず情報の整理をしましょうか。願いの力を持つのは、ハード以下ならほぼ不老不死で別世界から迷い込んできたクラフター。それとその子孫の生まれも育ちもこの世界の村人。この2種類ね。そして、マインクラフトはバグの多いゲーム。無限増殖バグも残ってるような、システムが完璧ではない未完成で発展途上のゲームね」

「……ルゥパさんが村人から、”魔女”になったから? だから本当だったら消滅するところで、身体が残ったからバグったって?」

「ええ。寿命を迎えたクラフターには願いの力を発動するまでの猶予があるのに、村人には恐らく無い。その仕様の違いからバグが発生してもおかしくないわ。それに、確かにルゥパくんは魔女になった。人間の肉体ではなくなったことを消滅と、世界が解釈したのかもしれないわ」

 

 バグ? 世界の解釈? ……まるでこの世が作り物みたいな物言いだな。って、この人(クラフター)達にとっては作り物なのか。20年しか生きていけない、自由に好き勝手していい世界。なんか、渓谷を超える深さを覗いたみたいでグラグラしてくるな。今身体はサータちゃんが使ってるから倒れられないけど。

 ハナコさんの主張を聞いたラクさんは椅子に深く座り直すと、眉を潜めて口元を手で覆った。

 

「人間じゃなくなるのが、願いを叶える条件、か。クラフターはどんな風に死んでも消滅するしかないけれど、村人はその限りじゃない。ゾンビにも魔女にも条件を満たせば変化してしまうことがある。……でも、ゾンビからは村人に戻れるよね。ならなんでルゥパさんは願いが……あっ」

 

 何かに気づいたラクさんが、俺を見て青ざめた。なんだ? と思って考えてみて、吐き気がした。

 ……そっかぁ。世界は俺のことを魔女だって、もう、人間には戻れない肉体だって、断定してんのなぁ。クソが。頭が沸騰しそうだ。ぁんだゴラァ? 人がせっかく生きがいにしようって思ってたこと、可能性潰して何が楽しいんだ世界よぉ。あー、なるほど。だから宣言した時、雪玉ちゃんたち皆、微妙な反応だったわけね。知ってたから。誰からか聞いたんだな。優しいから、黙ってくれてただけで。

 

「ごめんっ、待ってルゥパさん、確定じゃないから!」

「大丈夫、ルゥパは落ち着いてるよ。世界に怒ってるけどね。それより! 話が終わったなら早く朝ごはん食べよ! ヨシトさん、ごはん美味しいよ! ありがとね!」

「あ、あぁ」

 

 これからのことを考えて気分が悪くなった俺の代わりに、話をぶっちぎって終わらせたサータちゃんが朝食を平らげてくれた。胸がいっぱいで食べれる気がしてなかったけど無駄にもしたくなかったから、ありがとう。

 

 今は俺らしか居ないからなのか知らないけど、食堂でも使用済み食器は自分で洗うらしい。一足早く完食してたセンバさんに倣って、底が浅く作られ水が入った大釜に浸け置きした。あ、いつの間にか俺に身体が戻ってきた。戻る時はスッと戻るんだな。てかサータちゃん、俺の残りを食べるって絶対気分良くなかったでしょ。ごめん。

 

 今までタイミングを見てて動けてなかったセンバさんが皿洗いを始めた途端、「あっ、せや!」って声と顔を上げた。

 

「そういえばな! ルゥパの兄貴とハナコに見せたいもんがあったんよ! ラク! 雪玉ちゃん通じて渡した()()! ちゃんと育ててくれよった?」

「アレ? あーっアレね~! 勿論! ちゃんと他の皆には見えない場所で試したよ。お披露目は盛大にね~!」

「エエやん、エエやん! サプライズー!」

 

 クスクス笑って盛り上がる2人と雪玉ちゃんたちに、俺たち4人は置いてかれてポカンとしてた。

 育てるって言ってたな。作物系なら託す相手は農家化してるヨシトさんだろ? でも実際はラクさんだった。食物系じゃないなら、花? でも花って言ったらハナコさんだよね。ハナコさんはハナハタ村全体を鉄格子で囲ってまで対策して、花畑の村にした前例があるし。でも、花でラクさんもセンバさんも盛り上がるかなぁ? なにかとんでもない巨大な花なんだろうか。でっかいキノコくらいの。

 

 まぁ、なんでもいっか。おかげでさっきまで暗かった雰囲気が、すっかり晴れたもん。

 

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