人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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113 一筋の希望

 食堂に集まった皆が朝食を済ませた後、そわそわしてるセンバさんとラクさんの案内で、整地だけされて何も無い広場に連れてこられた。

 あらかじめ雪玉ちゃんたちが声かけしたのか、既にフォンチャさん達ゾンビからの復活組が集まってた。彼ら彼女らも何も聞かされてないっぽくて、夜空色の髪のノットウノさんがあくびをしてから「今から何を見せてくれるの?」ってセンバさんに言って急かした。センバさんはニヤニヤして、インベントリから骨粉を取り出した。

 

「そんな焦らんでぇや、今から見せたるから! なっ、ラク!」

「うん! 絶対喜ぶから、期待してね!」

 

 センバさんと共謀して微笑むラクさんの手には、1本の桃色の苗木があった。苗木? 花じゃなくて木なの? いやでもあの桃色の葉っぱ、花っぽくない? 色んな疑問を呈する前にラクさんが例の苗木を植えて、センバさんがどんどん骨粉を蒔いてった。溢れた骨粉が周りの草ブロックに花を咲かせていってる。可愛いね。

 

「こ、これって……」

「そう、よね、コレ……!」

 

 俺の横で覗き込むヨシトさんとハナコさんが、信じられないような面持ちで、だけど知ってるものだって確認してるような声を漏らした。クラフターの願いの力の結果かなぁ、コレも。

 ……てかやっぱり、見れば見るほど不思議な植物だ。花が咲く木はツツジとか知ってるけど、結構ささやかだし、桃色の葉っぱなんて。興味深く観察してたら、骨粉の力でついに苗木が立派になって──空に向かって、桃色の葉が咲いた。

 まだ東の空から地上を照らしてくれているお天道様の光を一身に受けて、淡い桃色がやわらかく輝いている。

 

「あ、あぁ……!」

「さくら、桜だわ!」

 

 クラフターの2人が大きくなった桃色の葉の木を見て、一番驚いてた。

 不意に吹いた風が葉を揺らし、ハラハラと小さな葉が散っていく。その葉が雪玉ちゃんの顔を覆ったから、摘んで手に乗せた。あっ、違う。コレ桃色の葉っぱじゃない。花びらだ。あの木にたくさん咲いてるのは、花だ。

 

「きれ~い!」

「花が咲く木か。サクラって言うんだ。美しい植物だね」

「私、はじめて見た! 小さな花がいっぱいで可愛い!」

「そうだね。それに香りも、今までの花とは違うね。甘い、けどちょっと刺激的な、いい香り……」

 

 遅れて、ゾンビからの復活組が感想をこぼした。彼らも知らないし、色んなところを旅してきた俺も見た事の無い植物。反応してるのは知らされてた雪玉ちゃんたちと、クラフターだけ。って事は、このたくさんの花を咲かせる植物もまた、どこかのクラフターの願いで……。

 神妙な気持ちになってたら、ラクさんが突然、ヨシトさんとハナコさんにブロックを投げ渡した。受け取った彼らの手の中を見ようとして、2人していきなり身体をビビビッて震わせたから超ビビった! キャーッ!? 何っ、どうしたの!? 何に撃たれたのー!?

 断面が桜の花の色の原木を右手に持って固まる2人を心配して見守るけど、シターシュさんに呼びかけられたヨシトさんがゆっくり笑い出して、ハナコさんは左手を口元に当てた。本当にどうした? 若干引きながら「大丈夫ですか?」って尋ねたら、ヨシトさんが笑顔のままこっちを向いた。

 

「ルゥパ、安心しろ」

「何に?」

「この桜は、誰かの願いの力でやって来たわけじゃない。アップデートで導入された要素だ」

「あ、あっぷでーと?」

 

 聞き馴染みの無い単語にオウム返ししたら、唸ったヨシトさんは言葉を選んで、「時々大きく来る、誰の犠牲もなく、世界が豊かになる現象と考えてくれればいい」って言ってくれた。何それ。

 

「は、はぁ……。でもどうしてそれが来たって分かるんですか? 見分け方があるんですか?」

 

 見分け方? あ、そっか。たった今、桜の原木を持って震えてたな。クラフターにとってはそれが見分け方になるのかな。

 無言で桜の木に吸い寄せられていくハナコさんを横目に、ヨシトさんが作業台を地面に設置した。それから雪玉ちゃんに頼んで出してもらったオークの原木を6つ、斧で樹皮を剥いで、それをポコポコ叩いて持ち運び出来る状態にした。地面に浮かぶそれらに鎖が2本足されて、拾うようにヨシトさんが指で指し示してきた。ちょっとー、乱暴じゃなーい? 拾いますけどー。

 

「お前たちが見分ける方法としては、新レシピの開放、だな」

「新、レシピ? この素材で何が作れるんです?」

「まぁまずは、俺の言う通りにそれを作業台に並べてみろって」

 

 仕方が無いから、言われた通りに並べた。上横1列の左右に鎖を1本づつ置いて、下2列に樹皮を剥いだ桜の原木を6つ並べて置いた。なんだこのレシピ。初めて見た。何が出来るのか期待しながら縁を3回叩くと、素材が台の中に吸い込まれてった。えっ、なんか出来た!? 本当に出来た!?

 作業台の上蓋を外すと、中には形がちょっと違う看板が入ってた。

 

「え、なにこれ。看板?」

「吊り下げ看板だ。地面に直接置けないが、壁から突き出るようにとか、ブロックの下に鎖で吊り下げて設置することの出来る別種の看板だ」

「原木で何気にコスト高いし、作業台使わなくても作れそう」

「確かにそうだけどな……。ともかく、今まで無かったクラフトレシピが解放されたってところで、世界がアップデートされてるって気づいてくれりゃいい」

「願いの力で取り入れられたものは、作業台で何も作れないんですか?」

「味噌が作業台で出来れば最高に時短になるのになぁ」

 

 発酵って時間がかかるもんな。なるほど、トウヤさんかマイコさんが残した大豆からの加工品は作業台じゃ作れなくて、桜が導入された後からは作業台で新しい看板が作れる。そこの違いがアップデートかそうでないかを見分ける方法ってわけね。

 

「そこの真面目2人ー!」

「なんか小難しい話しとらんで、踊りにおいでぇやー!」

 

 ヨシトさんの解説が終わった良いタイミングで、サプライズ仕掛け人の2人が呼びかけてくれた。声の方に振り向けば、俺ら以外の皆が桜の前で思い思いに楽しんでた。

 

 シターシュさんやフォンチャさんは散る花びらを愛でていたり、ティエちゃんはその散った花びらを捕まえようと手を翳していたり。ディアマンテさんノットウノさんカップル2人は両手を繋いで穏やかなステップでクルクル回って、センバさんとラクさんがそれを真似て、雪玉ちゃんも巻き込んで子供みたいにはしゃいで勢いよく回ってた。あれは踊ってるの?

 

 そして、ハナコさんは誰よりも楽しんでいるようだった。

 ゆったりとしたロングスカートを摘んで、軽く屈伸して身体を捻るごとに左右にスカートを振った。薄い布地のスカートはひらひらと舞って、なんだか桜と調和してた。きれいだ。

 

 そして俺自身も雪玉ちゃんに手を引かれ、背を押され。桜の花びらが散る中で白のコートを摘んで振った。ハナコさんの踊りをちょっと真似てみた! 雪玉ちゃんたちもくるくる俺の周りを回ったり、その場で回転してたり、ティエちゃんみたいに散る花びらを集めてたりしてた。目の端っこでヨシトさんもシターシュさんの手を取って踊りだした。あ、ティエちゃんもフォンチャさんを踊りに誘ってる。これで、皆が踊ってる!

 

「ふふっ、たのしーねー!」

 

 くるくる回る雪玉ちゃんたちにそう言って、胸の内から溢れる笑みを思いっきり表情に出した。そしたらセンバさんとラクさんが俺を輪に入れてくれて、もっともっと回転して、勢い付けすぎて最後は盛大にコケた。わっはっは笑うのも腹の底から盛大に! あーたのしー!

 

 

 

 桜の木の下で一頻り踊った後、楽しんだ皆はそれぞれやることをやろうと解散した。療養中の俺は休むことこそ仕事だからって、桜の下で雪玉ちゃんたちと桜を見上げてた。

 

「ねぇ、ルゥパ」

 

 そんな俺に、ハナコさんが声をかけてきた。振り向いて驚いた。いつもクールに真顔な彼女が、頬を桜色に染めて微笑んでいる。わぁ、見てるこっちがうっとりする。多分ベリーレアな笑みに見とれてたら、雪玉ちゃんに頭ど突かれた。スミマセンッ!

 

「な、なんですか?」

「今私、とても気分がいいから、あなたにとっての朗報を話せると思って」

「朗報、ですか?」

「ええ」

 

 そこで1度言葉を切ったハナコさんは桜に目をやると、微笑みの色を更に深くした。

 

「私、雷に撃たれて魔女になった村人が戻れる方法を設けるように、世界に願うわ」

「……えっ?」

「分かりにくかったかしら。ゾンビから復活する方法の、魔女版をお願いするってことよ」

「いや、あの、言葉の意味は分かるんです。でも、ハナコさんがそれを願ってくれる、動機が分からないんです!」

 

 本当に分からなかったから、情けない顔をした自覚はあった。それを正面から見たハナコさんはアメジストブロックを叩いたような可憐な笑い声を上げて、満たされた表情になった。

 

「今言ったじゃない。私、とても気分がいいの。私が生きてる間に、桜が見られた。そして目の前にどうしようもない事で困ってる人がいる。動機としてはそれで十分よ」

「……あ、ありがたいです。でも、もっと世界を豊かにする願いも、きっとあるんじゃ?」

「そうね。小豆を願えば桜餅が作れるでしょうね。白花豆を願えば白あんのお菓子も作れる。ヨシト辺りが歓喜するでしょうね。そんな風に、歴代のクラフターは後世に豊かさをもたらしたわ」

「な、なら……」

「でも、私は私が消えた後で、願ったものを食べられないわ」

 

 肩を竦めておどけてみせたハナコさん。その態度から察するに、食べられないのはどうでもいいんだろうな。……『なんで』『俺なんかの為に』は、言わないって決めたんだ。それにこの人は、顔を合わせたことのない俺の為に、命を張ってくれたような人なんだから。

 

「それなら、悔しくて泣いてる人の涙を晴らせるような願いをした方が、よっぽど自尊心が満たされるわ」

「ははっ、そういうことでしたら、ありがたくお願いします」

「あぁでも、方法自体は自分で見つけなさいね?」

「勿論。朝食前まではそれを生きがいにしようとしてたくらいっすから」

「ふふっ、楽しんでくれそうでなにより。おかげで、消滅が怖くなくなってきたわ」

「長生きしてくれて一向に構いませんからね」

「そうね」

 

 話が一段落すると、自然と2人して桜を見上げた。あ、雪玉ちゃんたちもだね。皆でゆったり、花を見て、ハナコさんがおすそ分けしてくれたイチゴ牛乳を飲んだ。甘酸っぱい。

 

 のんびりしてたら不意に思い出して、ハナハタ村にそろそろ向かうことになった。特に用事が無いらしいハナコさんが案内をかって出てくれて、迷わずトロッコで村まで向かえた。すごいなぁ。俺のいない間に立派な道ができてるー。自分の足で歩かなくてもいいなんて、楽チンだわー。

 




番外編 完結です。ハナコの願いでルゥパも救われる終わりとなりました。これにて物語は完全に完結です。

あらすじでバージョンは1.18固定とありますが、桜は魅力的すぎました……! 物語にお花好きが居るのに取り入れないのは勿体なくて。アレイの件も含め、統一性が無くて申し訳ありませんでした! 書いてる本人は楽しかったです!!

皆様、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
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