人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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花好きなクラフター視点


114 お花見

 ブルーシートの代わりに青色に染めたカーペットを草ブロックの上に敷いていく。スペースは1人あたり4枚として、5人だから20枚。これでよしっと。最後のカーペットを置いたら、中腰の姿勢から背中を伸ばして、そのまま上を向く。

 

「ふふっ、綺麗ね」

 

 花びらを舞い散らせる桜が、雲一つない気持ちのいい空に映えていた。次の服はこの景色をモチーフにしましょうか。きっと、いえ絶対に美しいものが出来上がるわ。だって私が染めるんだもの。

 背後から草を踏みしめて歩く、複数の人の足音が聞こえてきた。あら、いけないわ。今はデザイナーの仕事モードは止めて、皆とのお花見を楽しみましょう。

 

「おー! ええ感じやなー!」

「地面の花びらも増やしてくれたんだ~。もっとキレイになったね!」

「絵画にしたい景色だな」

「皆桜褒めてるけど、どうせ楽しみなのはお菓子だろ?」

 

 食器を乗せた竹かごを抱えるヨシトに指摘されたセンバ・ラク・シターシュの3名は、両手で2段のお重を大事そうに抱えてた。その中にお花見を更に彩るお菓子が入っているのね。「花より団子よね」って言ったら、皆笑った。私も早く花見だんごとお茶を嗜みたいわね。

 

「敢えての真っ青カーペットがそれっぽくていいね~」と評価しながら、靴を脱いで上がったラクたちが、どんどんお重を広げていく。柄が彫られているわけでもない、桜の板材を加工しただけのお重の中には、カボチャやリンゴ、ベリーのパイ、野菜チップス、クッキー、生の果物、みたらし・ずんだ・花見のだんごなどが色とりどり、バランスよく詰められていた。本当にお菓子ばかり。素敵ね。

 燃える焚き火の上に置いた大釜にバケツから水を注いだヨシトも、カーペットに上がると運動部活生が持ってそうなサイズの鉄製の水筒と、ジャム用に似たガラス瓶をインベントリから出した。ガラス瓶の中身は濃いピンク色だわ。

 

「ヨシト、それは?」

「塩抜きした桜の塩漬けだ。せっかくだからな。最初の一杯は桜茶にしよう」

「あら、素敵」

 

 5つの木のカップに桜の塩漬けを1つ2つずつ摘んで入れて、そこに水筒からお湯を注いでいく。注ぐ勢いでカップの中の花びらが回って、ゆっくりと開花する。その後で別の小さい水筒からお湯が注がれる。塩抜きした際にほんのり桜色に染まったらしいそのぬるま湯で、香りが更に増した。

 

「わぁ、本物にも負けない桜の香り~!」

「咲きよった! かわええなー!」

「うむ、まさに一杯目にふさわしい茶だ」

「ありがとうございます」

 

 相変わらず、シターシュに対して恭しいわね。そんなヨシトが淹れ終わった桜茶のカップを、彼に倣って掲げた。

 

「そんじゃ、季節が変わっても散らない桜を祝して、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 

 ヨシトの音頭で全員がカップを頭上まで持ち上げた。いつまでも咲き誇る桜を愛でられるのは、乾杯しちゃうくらい素晴らしいことよね。ふふっ、桜茶もしょっぱ美味しい。初めて飲んだらしいセンバは顔を引きつらせて、直ぐにリンゴの包みパイに齧り付いた。口直ししたくなるほどしょっぱかったかしら。

 

「うん、風味も見た目も趣深い。ゆったりしたいときに飲みたくなる。まさに今のような」

「常備しておきます」

「木を切らない限り咲き続けるから簡単よね」

「あははっ、おかげで季節感バグるけどね~」

「今、夏らしいんにな」

 

 花見を実行出来るくらい今日は暑さも眩しさも無くて、過ごしやすい。それでもこの世界で生まれた皆が言うには、今は夏らしい。マイクラの世界らしい仕様よね。

 爽やかでふんわりとした緑色のずんだ団子を一口食べたシターシュが、飲み込んでから口を開いた。

 

「君たちが生きていた世界では、季節ごとに何かが大きく変わるのか?」

「大きく、ですか。気温とか?」

「旬の食材も変わるし、昼と夜の長さも変わるね~」

「ひ、昼と夜の長さがっ……!? モンスターの脅威が増す季節があるのか!」

「シターシュ、私たちが生きていた世界は野生生物や危険な人間は居ても、ゾンビやスケルトン、エンダーマンなんかは居ないのよ」

「あぁ、そうか」

 

 ふふっ、美人の驚く表情は良いわよね。もっと驚かせてあげたいくらい。他に何かないか考えてたら、包みアップルパイを一つ食べきったセンバが「でもさ!」と声を上げた。

 

「一箇所で目に見えて季節が変わらんくっても、バイオームで季節感はあるよな!」

「あぁ、夏と冬、それから今回のサクラの林バイオームで春はこの世界でもしっかり、季節を感じることはあるかもな」

「そうだね。春は今まさに見てる桜で。夏は暖かい海バイオーム。冬は雪原バイオームでね~」

「秋はどうなの?」

「秋か~……。これからのアップデートに期待しようか~」

「カエデの木が追加されたら、紅葉とメープルシロップが楽しめそうだ」

「イチョウも追加されたら銀杏イケる?」

「センバあなた、渋いチョイスするわね」

「茶碗蒸し食べたいなぁって」

「かまぼこ! すり身! ちくわ!!」

「いきなりうっさいわねヨシト」

「揚げたらさつま揚げだね~」

「ばくだんおにぎり!!!」

「何やそれ」

 

 「海苔欲しい! とろろ昆布!!」とか、脈略のない大声を上げながら料理を思い出してるヨシトのことは、放っておきましょう。落ち着いた頃に色々美味しいもの食べさせてもらえそうだし。

 そうこうしてる間にも火にかけた大釜でお湯が湧いて、シターシュが自分でお茶ポットでバラ茶を淹れた。考え事から全然戻ってこないヨシトの分まで貰いましょ。

 

「君たちの知る秋がこの世界に無いのは残念だが、それ以外は体験することが出来るんだよな。近いうちに短い旅に出たいな」

「エエやん! じゃあ下調べとエリトラの修繕ワイやっとくな!」

「ははっ、ありがたい申し出だ。そうだ、春は花見をするように、夏や冬は何をして季節を堪能するか教えてもらってもいいか?」

「夏で海って言ったら、やっぱりスイカ割りだよね!」

「水着は任せなさい。シターシュが一番輝けるものを作るわ」

「際どいもの作ってみろやハナコ。殺すぞゴラ」

「悩殺できるものを頼んだ」

「シターシュ!?」

「注文、承ったわ」

 

 楽しくなってきたわね! ビキニ、ワンピース、キャミソールがあってもいいし、ネタでマーメイドも提案してみましょう。色はシターシュの肌の色が際立つセクシーな黒で。いや、純白の方がヨシトは好きそうとみた。そうだ、砂浜なんだからサンダルも必要よね。あとモンスター避けも徹底しなきゃ。海水浴場運営……。あぁ、寿命が近いのが悔やまれるわ。水着の女の子たちをたくさん見られる機会になるのに!

 

 バラ茶を飲んで一息ついたところで、「そういえばさ」とセンバが切り出した。

 

「ハナコってさ、ハナコって名前本名なん?」

「どうして?」

「どうしてって、ラクもそうやけど、あだ名っぽいやん」

 

 「ラクは自分で楽観的や言うてるし、ハナコはそのままお花好きやし」と続けた。今更聞いてくるのね。

 

「そういうあなたは?」

「ワイは苗字そのまんまやで。センバ カケルって名前でな、千の羽って書いて千羽! カッコエエやろ!」

「そうね」

「エリトラで世界を飛び回る君にピッタリだね~!」

「戦闘狂だからてっきり戦場をセンバって読んでるんだと」

「あっエエやんヨシト! それいただき!」

「あまりセンスよろしくないから止めておけ」

「えっシ、シターシュ?」

「身内に容赦無いわね」

「? ここに居る全員が、私の身内だろう?」

 

 もう、眩しいんだから。

 照れちゃったセンバが今度はヨシトに本名を聞いた。流石にヨシトは『ヨシト』が本名みたいだけど。

 

「ただ、まぁ、イメージした漢字は違うけどな」

「漢字?」

「あぁ。本名の漢字は正義の義と人で“義人”なんだ。でもこっちで名乗ってるヨシトの漢字はシンプルに良い人って書いて“良人”だ。自分の気の持ちようなだけなんだが、ほら、『人を良くする』と書いて『食』だろ? 食べること、料理することを生きがいにしようと決めた時から、自分の中ではそう思って名乗ってきたんだ」

「はえー! なんかエエなー!」

「どっちも良い漢字だね~。食も、義を重んじるのも、どっちもヨシトだし」

「そうね。義は『条理・正しい道』とか、『公共の為に尽くす気持ち』とかの意味があるもの」

「なんと。名は体を表すとはよく言ったものだ!」

「ど、どうも……」

 

 「これからも精進します」って、照れたヨシトは下を向いて小さな声で言った。やってきた事にしっかりと、誇りを持ちなさいよね。

 

「次はラクの本名を教えてぇや!」

「うーん……。僕は、本名の“楽一郎”から一文字取っただけだよ~」

「ら、ラクイチロウ」

「親が古風な名前にしたかったみたいでね~。別に馬鹿にされることは無かったけど、まぁ、親とシンちゃん以外でフルで呼んでくれる人は居なかったよね~」

「言ってくれれば呼んだのに!」

「いいんだよ。なんかさ、この世界って僕たちにとったら死後の世界じゃん? だから安易に名前を名乗ったら、二度と帰れないような気がしちゃって。……帰れるわけもないんだけどさ~」

「その気持ちは分かるわ、ラク。私もそうだもの」

「ハナコも?」

 

 最初の頃は、死後のその先の世界があるなんて想像もしなかったから。名前を縛られたら体も永遠に囚われて、終わることのない労働が待ってるんじゃないかって恐れたのもよ。結局、ハードコア以外の難易度でも20年で寿命が来るって解明したんだけど。

 

「ネームタグを付けられたら、モブは消えないでしょう? 私はクラフターだけど、そんな世界だから怖くて本名を名乗れなくて。とりあえず好きなものを名前に取り入れたら世界に縛られずに済むって考えて、ハナコって名前にしたの。……本名はもう、忘れちゃったわ」

「な、なんで?」

「誰も呼ばない、誰にも伝えていない名前なんて、消えていくものよ。自分の記憶からもね」

「なんか、寂しいなぁ」

 

 それは自分でも思うけど、いいのよ、これできっと。次は覚えてるか知らないけど、前世の記憶なんて持って生まれたら、思考が凝り固まって次の生に適応できなくなりそうだもの。だから。

 

「その寂しさを上書きするくらい、濃い経験をここでしたから、いいのよ」

 

 あんたたちも、そうしなさい。せっかく死んでも生き返る身体なんだから、多少無茶したっていいのよ。

 若干湿っぽくなった空気の中、シターシュが「濃い経験、か」と言って微笑んだ。

 

「ならばやはり、近いうちに夏を満喫しに行こう。全員でな」

「何しに行くのー?」

「っ!? よ、ヨネカか!」

 

 あら、いつの間に。センバが連れてきたクラフター二世の女の子、ヨネカちゃんがシターシュの背後から現れた。ヨネカちゃんの後ろには三世のルゥパくんも立ってるし、雪玉ちゃんたちも浮かんでる。さしずめ、気配を消す訓練をしていたってところかしら。その成果を今見せてもらったわね。

 

「素晴らしい隠密ね、ヨネカちゃん。ビックリしたわ」

「へへんっ! 頑張ってるから当然だもん!」

「そうよね。すごいわよ」

「ありがとうハナコお姉さん! あ、こんにちはー!」

 

 少女の元気ハツラツな挨拶に、こっちまで元気が貰えるわね。

 続いて挨拶してきたルゥパくんや雪玉ちゃんたちも入れて、花見を再開した。そこそこ多めにお菓子も用意してて良かったわ。手際のいいヨシトがもうバラ茶を淹れてるし、シロップ替わりのハチミツを用意しましょう。

 

「それで、みんなで何しに行く話をしてたの?」

「あぁ、暖かい海に泳ぎに行こうかと話し合っていたんだ。ヨネカもルゥパも雪玉ちゃんたちも、全員で行こう」

「うん! あっ、いいですか、師匠!」

「勿論! お呼ばれしてんだから楽しもうな。全力で遊ぶのも、一つの修行だからさ」

「お堅いなぁルゥパの兄貴ぃ」

「罪悪感持たせない為だってーの。それに、俺自身が神父さんにそう教わってたの。なーみんな!」

 

 ルゥパくんに同意を求められた雪玉ちゃんたちはその場でクルクルと縦に回った。ふふっ、かわいい。あ、ヨネカちゃんのサイズも計らなきゃ。後で野郎どもがいない時に聞き込みもしましょう。野郎どもは単色バスパン型海パンを取り揃えてやればいいでしょ。

 

「なら、めいっぱい楽しまなやな! 近くの海があったかい海やから、海水浴すんならハナハタ村近くの砂漠でやな!」

「砂で遊ぶって言ったら、城を建てたり、波際で文字を書いたり、ボールで遊んだり、かしらね」

「気分的に海の家も欲しいね~! かき氷とかカレー、焼きそば、焼きとうもろこし……ラムネとかコーラ、アメリカンドッグとかフランクフルトとかあるけど、再現できそうなものあるかな~?」

「スパイスが見つかってないからカレーは難しいだろうが、中華麺が出来ればあとは何とでもいけるな。細いうどんで代用してもいいし」

「「……」」

「なんだよセンバ、ラク、その目は。俺だって時と場所を選んでんだよ」

「「「嘘つき!」」」

「ルゥパまで言うなよ……」

 

 叫び散らかさなかったのは確かに正直驚いたけど、その理由が『既に考えてたから』じゃなくて『ヨネカちゃんの前ではやらない』だけとは。料理名叫びドッキリの被害者の1人、ルゥパくんも抗議の声をあげてから、何か閃いたのか目を見開いた。

 

「そうだ。水中呼吸のポーション、たくさん作っておいた方がいいっすよね? 溺れるの嫌でしょ」

「それは助かるな。泳げないわけじゃないが、息ができないのは潜水に集中できなくなるからな。ついでにフグの掴み取り大会でもするか」

「あっ! アトラクション作ってもいいかもね! 水上・水中アスレチックとか、昇りの水流エレベーターから海に飛び込んだり、ウォータースライダーとか!」

「スライダー! 海関係ないけど、流しそうめんできるやん!」

「竹があるしな」

 

 ふふっ、夏空のもと、桜の下で花見をしながら、夏の風物詩の話をする。このアンバランスな感じも、やっぱり楽しいわね。共感してくれてるのか、シターシュたちもお茶を飲みつつ微笑んでるわ。

 

「どんどんアイディアが湧いてくるんだな」

「よく分からないけど、面白そうだね!」

「……本当に、クラフターってのは恵みっすね」

「「へへへっ」」

「褒めても追加の茶菓子しか出てこないぞ」

「やったぜ」

「えー師匠ずるいー!」

「ヨネカの分もあるぞ。はい、ジャムクッキー」

「ありがとうヨシトお兄さん!」

 

 なんてことはない、イチゴジャムが中央に乗ったジャムクッキー。でも陽の光を受け止めて輝くジャムや、バターが香るクッキーは、やっぱり可愛いし美味しい。こうして食事ばっかり充実していくのは、ここが日本人サーバーであることの証明になりそうね。ほら、私たちって食い意地張ってるから。他の国のサーバーなら、武器が充実したり、楽器が充実したりするのかしらね。

 

「楽しみね、海水浴」

 

 ふとこぼしたつぶやきに、ヨネカちゃんが「そうだね!」って元気に返事してくれた。この純真な彼女がこの世界に飽きないように、もっといろんなものを作らなくっちゃね。

 だからってヨシト、タンポポ茶をヨネカちゃんに勧めるんじゃないわよ。苦いだけじゃない。好み分かれるタイプだし。あぁほら、好奇心旺盛な雪玉ちゃんたちが軒並み、のたうち回ってるじゃないの。

 

 

 




番外編までお付き合いいただき、ありがとうございました!
それから、いきなりなのですが、ポーションについてのアンケートを行います! 今日から1週間、このページのみの受付です。ご協力お願いします!
1.18で書き始めた時点では、まさかポーションの色が変わるだなんて思ってもいませんでした……。力のポーションなんて、血の色からブレイズパウダーそのままオレンジ色に変更ですからね。

追記:アンケートのご協力、ありがとうございました! 変更なしでこのまま突っ切ります!

1.19.4でアップデートされたポーションの色に、作中表現を変更した方が良いか。

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