人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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チート技①登場


12 テレポートが出来るようになりました

 薄い雲越しでも太陽が真上に来てると分かる頃。切り立った崖が邪魔して、村が見えない位置に来た。ここでなら雪玉ちゃんたちを出しても大丈夫だと思って。彼らは自由に、でもあまり俺から離れずふわふわしてた。

 

「馬、かぁ……」

 

 サバンナは馬が暮らしやすい土地らしい。村から少し離れると、野生の馬が自由に草を食んだり闊歩してたりしてた。

 村にも飼われてる馬が結構いたし、上手く手懐ければ移動が楽になるかも! 足は別に早くなくていいから、俺を背負っても耐えられる、力持ちな馬がいいなぁ。でもまずは鞍と馬鎧か。いや、馬鎧は馬に合わせないとだし……。いやなんなら鞍だってそうだし……。

 模様様々な馬を見ながら、手懐ける為にどうするか色々考え込んでたら、視界に白く光るものがふわぁ~って、右から左に流れてきた。

 

「ん? どうしたの、雪玉ちゃん」

 

 村の中では大人しく俺の中に収まってくれてた雪玉ちゃん。大人しくしてた代わりに俺にかまって欲しいのかな。俺の目の前に来た3人の雪玉ちゃんはふわふわ漂った。

 左に1人、右に2人が漂って、『見ててね~』って感じで横向きにクルクル回る。頷いたらスッと止まって、3人ともプルプル震えだした。な、何をするんだ……?

 プルプル震えてた雪玉ちゃんたちは、『ポンッ』と軽くて可愛らしい破裂音をさせたと思ったら、細かい雪が太陽の光を反射したみたいなキラキラした光を少し散らした後に、右に1人、左に2人になってた。

 

「……? 音立てて移動した、だけ?」

 

 何が起こったのか分からなくて、とりあえず思いついた事を言ってみたら、3人から一斉に頭をど突かれた! いくら軽いからって、勢いつくと流石に衝撃あるな。痛くないけど。

 素早く草を摘んだ1人がまた2人組になって、またクルクル回りだした。また見ててねってことかな? 頷こうとしたら、3人とは違う雪玉ちゃんに左手を持ち上げられた。「撫でて欲しいの~?」ってデレデレしたらなんか雪玉ちゃんの数が増えて、あっという間に3人の間に手を置かされた。なんか、フラれた気分。

 壁みたいに手を縦に広げると、草を摘んだ雪玉ちゃんがとすっとすって体当たりしてきた。あったか、じゃなくて、ふわふ、でもなくて。えっと、障害物があると通り抜けられないっていうのを言いたいのかな。いやお前ら机貫通したの見たことあるぞ。まあ、いいや。

 

 手をそのまま壁にしてたら、またさっきと同じ感じでプルプル震えて、ポンッと音立てた。移動したのは、草を持った1人だけ。それを目の前で何度か、距離を伸ばしながら繰り返されて、ようやく彼らが何を言いたいのか分かった。

 

「もしかして、エンダーマンみたいに、テレポート出来るの?」

 

 回答したら、今度は俺の上を皆でクルクル旋回しだした。せ、正解っぽい! やった!

 やっと正解を言い当てて安心した後で、内容の衝撃に戦いた。いやだって、お前……。

 

「君らがテレポート出来ても、しょうがなくね?」

 

 だってこの子等、さっきも思ったけどやろうと思えば障害物貫通出来るし。いや、出来るのはいいけどね? でも俺に報告する意味はあった? いやいいんだけどね? 草持ったまま移動できるって事は、ポーション持ったままテレポート出来るってことだろうし。……ん? 待てよ? 今俺“エンダーマンみたいに”って言ったけど、ちょっと違くね?

 エンダーマンは単体でテレポートできる。でも雪玉ちゃんの方は今見た感じ、“テレポートしたい先に別の雪玉ちゃんがいないとテレポートが出来ない”んじゃないか?

 

 『しょうがない』発言に怒ったらしい雪玉ちゃんたちにドスドス体当たりされながら考え込んでたら、1人の雪玉ちゃんが俺の鼻に擦り寄ってきた。くすぐったぁ。

 くしゃみはギリギリ誘発されず、離れてった雪玉ちゃんを目で追った。5メートル離れた俺の正面に漂う雪玉ちゃん。残りの雪玉ちゃんたちは俺を後ろから押してきた。……まさか。

 

「俺に、テレポートしろって?」

 

 正面の雪玉ちゃんは頷く代わりに縦にくるくる回った。うーん、無理だっつってもまた体当たりされるだろうし、試すのはタダだよな。テレポートが出来たら馬を飼いならす必要も無いし、今まで通り俺と雪玉ちゃんたちだけの旅で気楽だ。試す価値はあるな!

 ……それに、この子等は俺が魔女になってから現れた不思議な生き物。いつか俺を指差して『俺とお前は一緒だ』みたいな事主張してきたし……。だから、雪玉ちゃんは俺がテレポート出来るって確信してるのかもしれない。

 なら、やるしかねぇな。……でも、どうやって?

 

「…………………………………………テレポート」

 

 長い思考停止の末、口の中で小さく唱えてみた。でも、正面の雪玉ちゃんのところにテレポートは出来なかった。くっそ、笑えてくるんですけど! 口がニヨニヨすんの止めらんねぇ!

 

「ねぇ、雪玉ちゃん、なんかコツとかある?」

 

 笑う口を手で抑えながら周りで漂う雪玉ちゃんに問いかける。ふよふよしてる彼らは『さあ?』って感じで小さい手を挙げて傾いた。感覚肌かぁ。

 

 剣を振るうのにも、弓を扱い矢を放つのにも、なんなら歩くのにだって、イメージは大切だ。多くは親や周りの人の動きを見て習得するけれど、見るのと自分でやるのとではやっぱり違って、想像するのは成功する上で大事だ。だから、このテレポートに関してもきっとイメージすれば、それなりの結果は出るはず。

 エンダーマンの場合はどうだ? アイツは見た場所にテレポートをするんだろうか。あまり戦ったことがないから分からないな。あいつの足での攻撃痛ぇんだわ。

 じゃあ、雪玉ちゃんたちは? この子等は“見た場所”じゃなくて、“雪玉ちゃんが居る位置”に飛ぶ。なら俺も、雪玉ちゃんの位置に飛ぶはず。うん、さっきと同じこと考えてんなぁ。

 

「ん?」

 

 ふと正面を見上げたら、正面の雪玉ちゃんがこちらに向かって手を広げていた。『おいで』ってされてるみたいで思わず手を伸ばして、閃いた。

 赤ちゃんが歩く練習する時には、持つところが必要じゃん? 足腰が弱い人が階段を登るには、手すりが必要じゃん? なら、俺がテレポートする時にも、手すりがあったら便利じゃない?

 本物の手すりは勿論ありゃしない。ただ、イメージすんだ。手すりを掴んで、身体を引き寄せる。その力で前に進む。……よし! やるぜ!

 

 腕を広げる正面の雪玉ちゃんに向かって、手を伸ばす。5メートル離れてて届かないから、空を掴んで、握った手はそのまま、雪玉ちゃんのすぐそばに移動するイメージで身体をそっちに持っていく……体重移動した。

 ふわっと、妙な浮遊感の後、俺の周りに光が散った。

 

 体重移動しかしてない足は踵くらいしか浮かせてない。なのに腕を広げた雪玉ちゃんが目の前にいるし、振り返れば少し離れた場所に俺の背中を押してた皆がいた。

 足を前に進めてないのに、移動した。……って、ことは?

 

「……出来、た?」

 

 俺、テレポート、出来た!?

 俺が自覚したと同時に、雪玉ちゃんたちがワーッてご機嫌に自由に飛び回った。喜んでくれるのうれしー!

 繰り返し練習は大事だからって、どんどんテレポートした。拠点にしてる村からは離れてるし人の気配はしないからって、調子に乗ってビュンビュン飛んでて、調子に乗りすぎて空にいた雪玉ちゃんにテレポートしちゃった。

 

「ひやっ!? はああああああっ!!!? がぁあっ!!」

 

 足場が無いことにビックリして、落ちる感覚に恐怖して、背中から落ちて呻いた。胸から空気が全部抜けて息がしづらくなったけど、それも一瞬のこと。雪玉ちゃんの1人が治癒のポーション開けて飲ませてくれたから、さっさと起き上がれた。テレポートする場所は気を付けなきゃだな。

 

「今日はこのくらいにして、あの村に帰るか」

 

 いやぁ、俺にまだこんな便利な力が宿ってたとはなぁ。テレポート出来んなら、人気の無いとこに拠点作れるじゃん。やったぜ!

 果てのない長い旅をすることになりそうだから、食べなくていい・モンスターに敵視されない・無駄に歩かなくていいっていうのはメチャクチャ魅力的だ。雷に撃たれたのはスッゲー痛かったけど、同等くらい便利な力を見返りに手に入れられてるわ。

 

 

 崖を迂回して村に戻ってきた。けど、村の入口には武装した村人でいっぱいだった。な、何を警戒してるんだ? まだ夜じゃないのに。クリーパーの襲撃でもこの辺りは頻繁なのか? にしては、地面は別に穴ボコだらけでもないのに……。

 なにか力になれることがあるなら惜しみなく貸そうと思って、テレポートは使わず駆け寄った。それに気づいたのか、武装した男の村人たちがこっちを向いて、武器を構えた。

 

「えっ」

 

 明らかに、俺に敵意を向けていた。

 低い可能性にかけて周りを見渡すけど、俺以外には馬か、ラマか、植物しかなかった。そんなものに人間は敵意を向けない。なら、やっぱり……。

 

「ガッ!?」

 

 村人たちの方にまた向いたら、頭になにか硬いものをぶつけられた衝撃が走った。仰け反って衝撃を逃がしてから熱く痛む頭に触れる。濡れた感触がして、すぐに血だと、頭を怪我したと判断した。草原には、血の付いた石が転がっていた。

 石を投げつけられたと気付いた後には、石どころか矢まで飛んできた! 全部、俺を傷つけようと向かってくる! 投げてくる!

 石が頭を庇う腕に当たって痛い。矢は威嚇でしかないのか当ててこない。でも、その怨嗟が辛かった。

 

「な、何するんですか!!!」

「煩い!! この、バケモンが!!」

「!?」

「見たんだ俺はっ! お前が、お前がテレポートしたところを!」

 

 な、なんだと!? 俺がテレポートの練習してたとこは大きな崖の裏で、それが壁の役割になって、ここからじゃ見えないはずなのに! クソッ、もっと奥まったところでやるんだった!

 俺を影から見たらしい村人の男は、弓の弦を引きながら高らかに笑った。 

 

「上手く化けたなエンダーマン! だがここまでだ! 死にたくなけりゃ逃げるんだな!!」

「グゥッ!」

 

 男の放った矢がふくらはぎを掠る。逃がしたいのか殺したいのか、どっちなんだよ! ……いや違う! 奴は俺を“テレポート”で逃がしてぇんだ! 自分の主張が正しいと、間違ってないと証明する為に! チクショウ、やられた!!

 てかさぁ、俺何もしてねぇじゃん! ゾンビとポーションに関して情報収集して、素材とエメラルド交易しただけじゃん!! 

 

「俺が、お前らに何したってんだよぉ!!」

 

 最後に文句を叫んでやって、いつの間にか遠くに行ってた雪玉ちゃんに向かって手を伸ばして、テレポートした。チクショウ、チクショウ!!

 

 

 

 テレポートを繰り返して、落ち着けたのは、高い樹が密集してる森の中。陽が沈んで冷たい風が白のコートを靡かせた。火照った体にゃ、丁度いいかもな。頭はまったく冷えねぇけどな!!!

 

 あ゛ーっ!! 悔しい! 追い出された!! 確かに見られる位置でテレポートの練習してた俺もバカだったけどよぉ!

 てかあの男オカシイって! 俺なんもしてなかったじゃん! 何も攻撃してなかったじゃん! ただ人外だからって、こうまでして追い出さなくても良かったじゃん!!!

 

 確かによぉ、俺は人間を利用してたかもしんねぇよ? でも俺ちゃんと、エメラルド払って本見てたし色々買ってたし、ポーションも適正価格で売ってたじゃん! 何回でも言うけど、何も悪い事してねぇじゃん! お前らにも儲けさせてやったじゃん!

 俺がお前らを利用してんだから、お前らも俺を利用しろよ! それが人間だろ! 神父さんも言ってたぞ!!

 

 ……はぁ? 違ぇよ。言ってねぇよ。神父さんは『人は助け合って生きていく生き物です』って言ったんだ。こんな汚れた気持ちで出てきた言葉じゃねぇんだ。あったけぇ、優しい言葉で、心構えのはずなんだよ。──あれ?

 

「神父さん、俺、今、人間……?」

 

 

 

 

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