人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
身体は治癒のポーションですぐに治っても、心は簡単には治らない。だから心が深く傷ついた時にゃ、逃げるが一番だわ。
傷の原因になるもの、今の俺なら“人間”からは一時的に離れた方が良い。考える余裕と整理する時間を設けて、落ち着く為に。そうして俺は心を癒してきた。
だから一心不乱に人が居ない場所を求めて飛び回った。それで辿り着いたのは、雪と氷の世界だった。
「さっむ……」
冷たくなる指先に吐いた息が白くなる。目の前には空の青と氷と雪の白と影の灰色しか色がない。この白のコートが、保護色になってくれるかもしれねぇな。
雪の下には土があるだろうけど、こんなに寒くちゃ野菜育たんし、家が建てられそうな木も岩も無い。こんなところで生活する人間なんて、きっと居ないだろ! よっしゃ! ここで暫く休み満喫しよ!
下の土が見えないほど、一面に積もった雪。日光を反射して輝く白銀の世界に一歩足を踏み入れれば、くるぶしの下辺りまで埋まった。厚底の革ブーツ込みでそこまで埋まったから、まあまあ積もってんな。
俺の村でも冬になると偶に雪は降ってたけど、積もるほど降るのは冬を通してそんなに無かったから、テンション上がったなぁ。
「あ、そうだ。あれ作ろ!」
ガキの頃、雪が積もったら必ず雪玉作って遊んでた。他の生き物が踏み入れてない、この真っ白な雪でなら、今までで一番綺麗な雪玉が作れるかもしれん。あったかさじゃ雪玉ちゃんたちの方が上だけどな!
膝をつかないようにしゃがんで、素手の両手でさっとかき集めてキュッキュッと握った。う~冷たぁ~! ハァーそうだわ、革の手袋作んなきゃ。拠点構えたら縫おう。
握って出来た雪玉の指の跡は雪の上に転がして覆い隠してから、指の腹で均していく。目立った凹凸が無くなったら小麦サイズの雪の粒を2つ付けて、出来上がり!
「見てみてー、冷たい君ら~」
出来た雪玉を左手で掲げたら、雪玉ちゃんたちが俺のコートの内側から出てきて、自分たちの名前の由来になった雪玉をしげしげと眺めてた。
その中の1人がスッ……と手を出して、触れた瞬間『ちべたっ!』って感じで手ぇ離してぐるぐる横回転した。可愛いかよぉ。雪玉作ったおかげで手は痛いくらい冷たいけど、心はぽっかぽかになりましたわ。
人間が絶対に住んでない場所を目指して、木が全く無い場所を探した。幸いこの辺りは平坦で、人が通るなら足跡があるはずだけど道らしい道も無いから、すぐに理想的な土地が見つかるはず。
拠点が出来たら、色々と考えを纏めることにしよう。俺の乱れた精神とか、ポーションの新しいレシピの事とか。結局あの村じゃ畑仕事出来なかったから、きらめくスイカも金のニンジンも育てられなかったし、暫くポーション作りはお預けだな。
あ、そうだ。拠点構えるならもっと雪深い場所がいいな。かまくらが作りやすいだろうから。
「かまくら、懐かしいなぁ」
一度だけ、俺を含めた村の子供達と神父さんで作ったかまくら。あの時は積もっても裸足定規で足首までしかなかったから、土とか草が混じって、ちょっと汚らしかったんだよなぁ。
チビとは言えないけど、戦える兄ちゃんにはなっていないお年頃だったか。サータちゃん含めて子供達皆で、教会の前で雪玉作って投げたり組み合わせて遊んでたら、ネザー帰りの神父さんが俺たちのトコに来た。来たっていうか、戻ってきたというか。ネザーゲートは村の外、それも離れた位置にあるから。
遊んでたトコを見つかってビビって焦って「素振りも畑も済ませました!」って言い訳してたけど、「遊ぶこともまた、心を豊かにする修行ですよ」って許してくれて、なんなら一緒に雪玉作ってくれた。そんな神父さんがしてくれた思い出話の中に、“かまくら”は出てきた。
「私が幼い頃に暮らしていた土地は、冬になるとここよりもっと雪深くなりましてね。よく大人たちを真似て“かまくら”という、雪でできた小屋のようなものを作って遊びましたよ」
「かまくら?」
「小屋みたいって、中に入れるのぉ?」
「そうですよ。大きく積み上げた雪の中をくりぬいた、ドーム型の秘密基地ですね!」
「「ひみつきち!?」」
茶目っ気のある人だから、俺らがワクワクする言い回しをよくしてくれたなぁ。雪玉を投げ合ってた奴らも俺らの騒ぎが聞こえたらしくて、神父さんの周りにしゃがみ出してたな。
「ねー神父さん、雪の中って、寒くないんですか?」
「屋根と壁が風除けになってくれますし、小さな火なら中で焚けますので、暖かくも出来ますね」
「えー!」
「溶けちゃわないのー!?」
「一見溶けてしまいそうなのですが、熱で溶けて水になったそばから雪の冷たさで凍るので、実は強くなっちゃうんです!」
「「「えー!?」」」
そこまで言われたら興味を惹かれないハズが無いし、作らない選択肢なんて無かった。その場にいた10人全員でおねだりして、「時間かかりますし重労働ですよ?」って止める神父さんを最後には言いくるめて、かまくらの作り方を教えてもらった。
まずは雪をかき集める班・雪をシャベルで山にする班・その他水バケツとか木の枝とかを集めてくる班の3つに分かれた。1番目と3番目はチビか女の子たちの6人で。俺ら4人男児は雪をシャベルで集めて押し固めてった。
雪の山は最初っから山にするんじゃなくて、神父さんが付けてくれた丸い印の中に平らに敷いてった。ある程度持ったらチビ達がバケツに汲んできた川の水を薄く撒いて、また雪を積んで、また水をかけて、の繰り返し。梯子を使ってまで雪を積んで、大体高さが神父さんの背の高さくらいになったら丸くなるよう削って、スコップの背で押し固めた。
外の形が出来たら、いよいよ中をくり抜いた。風が入らないようにって入口は狭く、奥に行くごとにどんどん広くなるように掘り進めてった。壁とか天井を掘り過ぎて崩れちゃわないようにって女の子達が拾ってきた細長い木の枝を同じ深さになるように神父さんがいくつも刺してって、その印を頼りに加減して掘った。水かけて固めちゃったから掘りにくかったけど、これも修行だと思って腰入れて雪掘って外に出した。外に出された雪はやることなくなった子達でまた遊んでた。
気軽に始めたかまくら作りだったけど、思った以上に時間がかかって、やっと中が掘り終わった頃には陽が傾いてた。神父さんはそれが分かってたのか、「完成は明日ですね」って何でもない感じで皆を解散させた。「分かってたんなら言ってよ!」って皆で叫んだよね。いや最初に「時間かかる」って言ってたけど。でも一晩寒空に置いた方が丈夫になるらしい。
一晩置いたかまくらは確かに硬くなってて、中に入ると吹いてる風も降ってくる雪も身体に当たらなくて暖かく感じた。
「すげー!」
「外よりあったかーい!」
「なんか広くねー!?」
昨日頑張った甲斐あって、子供15人くらい入れそうな広さがあったから、中でちっちゃい焚き火台で火を焚いた。その火を眺めなから皆でギュウギュウになったり、サータちゃんのお母さんが蒸かしてくれたジャガイモの串を焚き火台で焼き目を付けて食べたりって、皆でワイワイ楽しい時間を過ごしたなぁ。
「ま、今はひとりなんだけど」
男1人が風と雪を凌げればいいから、高さはさほど必要ない。労力もあんまり割きたくないから、俺が寝る場所になるとこにラージチェストを4つ、上下に2つずつ重ねてその上からテントの布を被せた。布は後からチェストを回収しやすくする為のものだ。
その上から雪を被せてって、焚き火で雪をあっためて作った水を振りかけて固めた。それを5回くらい繰り返したらシャベルの背で叩いて固めて表面を均した。上の方はあんま力入んなかったから綺麗じゃないけど。
風が吹いてくるのとは反対方向に入り口を開けたら、ラージチェストとテントの布を回収して、中からも雪玉ちゃんたちに手伝ってもらいながらシャベルで叩いて表面を固めた。
「おぉ~、ちゃんと出来てる~」
崩れてこないし、隙間も無い。だから風も入ってこないし声も篭る。てか、風が身体に当たらないだけで、こんなに過ごしやすいのか……。いや、寒いけど。
最後に中で2本松明置いて、表面をちょっと溶かして凍らせたら、完成!
「いい感じじゃ~ん!」
中の広さは申し分なくて、高さも、まっすぐ立てはしないけど座ってりゃのびのび出来るから十分だった。
「時間もいい感じだなぁ」
人1人が通れる大きさに開けた入り口から見える空は重たいオレンジ色で、そろそろ夜がやってくる。太陽光が無くなったらもっと寒くなるはず。かまくらの中央にも焚火台を組んで火を焚いた。これで夜も温かく越えられる。雪玉ちゃんたちが凍えて俺の中から出てこないなんて事がなくなる!
「よし! 手袋縫うか!」
指の部分作るのメンドイし、親指以外の指は全部繋がってる感じの手袋にしよーっと。
「……うん、この形初めて作ったけど、いい感じ!」
表は牛革、内側には羊毛を縫い付けた。全体的に丸っこい形に仕上げた手袋を両手にはめて、着心地を確かめる。うん、ふわふわだしあったかいし、大きめに作ったからちゃんと手を握れる。細かい作業こそは出来ないけれど、そんな風に作ってないから構わなかった。つまり、大満足の出来ってわけだ。
「これで移動中もあったけぇな!」
お、移動か。かまくらを作ってる時、遠くに透明な柱が見えた。手袋縫ってる間にあれが氷の柱かもしれないと思い立った。あっちがどんな世界になってるか気になってたし、探検してぇなぁ。……そんじゃあ! 靴に氷の上でも歩けるようにトゲトゲ付けて、あの氷の柱を近くで見に行くぜ!
作れば作るほどアイデアが湧いてきた。薄めの鉄板を刺になるように掘った後付けの滑り止めを作った後は、羊毛を使った革の帽子に、袖なしの裏羊毛の皮の上着とか、気づいたら手袋も入れて4点も色々作ってたわ。
夢中で作ってたおかげで、夜はいつのまにか明けてた。あ、夜空見んの忘れてた。ま、いっか。早く探検に行こ!
氷の柱を目指して歩く。進めば進むほど氷の柱はしっかり見えてきて、その数も増えてった。柱っつーか、氷の林って言った方がしっくりくるかもしれん。じゃあ、樹氷?
いよいよそれが近くなると、樹氷と地面との間に、海が現れた。ってことは、あの樹氷が生えてる場所は海の上で、地面は氷だけしかないってことだな。滑り止め作った俺、先見の明ありすぎじゃない!?
雪玉ちゃんに先に行ってもらって、安全そうなとこまで行ったらワープした。うわめっちゃ便利ィ。濡れることを回避した靴の裏には、すりおろし器みたいに掘って尖らせた鉄板を添えてロープで括りつけた。立って歩いてみると、無い時よりずっと足が安定した。ちゃんとトゲが氷に食い込んでる。
「これなら、上り坂も下り坂も足を滑らせずに行けるな」
っしゃ! この氷の林を探検していくぜ! これ以外に何があんのかな!
強弱はあれど風は絶えず吹いて、俺の体温を周囲と同じにさせようとしてくる。でも昨日かまくらの中で縫った革と羊毛の防寒具が頭と胴体を守ってくれて、おまけに雪玉ちゃんたちもコートの中でおしくらまんじゅうしてるから、思ったより寒すぎなかった。
寒さに耐えられるポーションとか作れねぇかな。奇妙なポーションにマグマクリームを……いやそれ耐火のポーション。ん? それなら奇妙なポーションに氷を入れれば……うん、薄まった奇妙なポーションになるな。いや試すけど。よし、俺より背の低い樹氷見つけたら、丸々回収してポーションの素材にしよ!
もっと奥に進んでいくと、風が攫ってったのか太陽光で溶けたのか雪は無くなってて、地面はすっかり氷だけになってた。そうなると景色ははっきりこの目に写った。小さな山のような木のような氷のオブジェが、それらより遥かに巨大な氷の柱が、くっきり見えた。
「すげぇ……。大自然って感じ……」
不純物を含んでんのか、地面になってる氷と同じくらいにあまり透き通っていない氷の塊。丘か木みたいなのもそうだし、この巨大な柱ってどうやって出来てんだ? いきなりこんな柱が生えるわけないし……。でっかいやつから削られて出来たって考えるのが自然かな。……残るってことは、何かあるってことか? 下から削ったら倒れるし、上から掘ってみっか!
「雪玉ちゃん、あの上に飛んでってもらえる?」
比較的太めな樹氷の上を指差して雪玉ちゃんにお願いすれば、くるっとその場で前転してからヒューンっと指差した先に飛んでった。到着したらクルクルまぁるく飛んで『テレポートしていいよ!』って教えてくれた。可愛い。
手を翳してテレポートしたら、見上げてた時より高く感じるわ、風は強く吹いてるわでめっちゃビビった。足腰に力入れてなかったら、滑り止め付けてなかったら、今頃……。ふ~! 震えてきやがった!
「さっさと壊して、中身確認しよ」
うわっ、俺の声めっちゃ震えてんじゃん。笑えてくるわ~。
ツルハシで慎重に掘ってみたけど、柱の中には何も無かった。ちぇっ。何かポーションの材料になりそうなもんが埋まってたら良かったのに。ついでに言やぁ氷掘っても粒になるばっかで回収できないし。この柱でダメだったら下の樹氷でもダメじゃね? くっそぉ。
この一面氷の世界にはこれ以上情報が無さそうだったから、緑を目指して考え事しながら歩いてた。発酵したクモの目ってどうやって作んのかなとか。弱化のポーションはホントに奇妙なポーションじゃなくて水で抽出していいのかとか。頭だけ活発に働かせてたら、いつの間にか木が見えてきた。今度は本物の。
雪を被って重たそうに垂れてる、なんか黒めな木。初めて見たな。丁度いい。今夜はこの辺りにかまくら作って、黒い木も1本丸々切り倒して頂こう。
「……乱雑な配置だし、植林場って訳でもなさそうだな」
食べれる実が成ったり建材にするつもりなら、お互いで生長を阻害しないように一定の間隔で生やすはずだし! この辺りにはきっと人間居ないだろ!
「……はぁ」