人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
たくさんの雪を被っても枯れも折れもしない頑丈な樹の森。風を遮ってくれる森の中に拠点を構えて2日経ったけど、人の気配が無かったし雲一つない晴れになったから、畑をすることにした。
育てたい作物はポーションの素材になる金のニンジンときらめくスイカ。サトウキビはこないだ追い出された村で砂糖を多めに仕入れたから別にいいや。
野菜は光が無いと満足に育たないから、拠点にしてる森の外に出る。畑をするには『日光』と『平たい土地』と『水』が必要だ。贅沢言うなら『水が凍らない程度の暖かさ』と『肥料』も必要なんだけど、最初に挙げた3つさえ揃ってりゃ、後は力技でどうとでもなるからな!
森から出てちょっと南側(左手)に向かえば、下り坂の下に開けた土地を見つけた。
「お? おお、良い感じじゃん!」
昨日も晴れてたおかげか、雪はそこそこ溶けてた。下までの坂道も高さは俺の身長以上にあるけど緩やかで上り下りにそんなに邪魔にならない。それに木も坂の下には生えてないから、夕方はともかく朝から日光を野菜に浴びせられそう。寒さは松明を周りに置けば解消できるだろうし、うん、ここに決めた!
坂を下りながら、インベントリから雪かきに使うシャベルと、耕す為のクワを取り出す。
「雪かきして、耕して、水入れて、植える! やること多いな!」
あ、なら雪玉ちゃんたちにも手伝ってもらお! 雪玉ちゃん! 雪かきしてくんねー?
共同作業すんのが楽しすぎてやりすぎた雪かきが終わってみれば、予定よりもずっと広い範囲で草地が見えた。俺の腰まで埋まるくらいの深さに穴を掘ったら、その中に雪を溶かして出来た水(これも雪玉ちゃんが作ってくれた)を注いで、そこを中心として9m×9mの範囲をクワで耕して農地にした。
ここで登場、秘密兵器!
「骨粉と、金塊~!」
これさえあれば、こんな寒い場所でも収穫すんのは夢じゃねぇ!
この2つを耕した土地に蒔いて混ぜれば、育てた作物の生長は早くなるわ美味しくなるわ、ニンジンとスイカに至ってはポーションの素材に進化する! 理由は分からん。骨粉に関しては後からかけても効果あるし、ホントどうなってんのか。いいことづくめだからあんま考えないようにしてるけど。
ただ注意点としては、金のニンジンにしたかったら金塊が1マス辺り9個くらいあればいいけど、きらめくスイカにするにはその7倍、63個分を1マスに混ぜなきゃ出来ないんだよな。
それにここは一面雪を被ってた。寒いと野菜は育ちにくいから、骨粉あってちょっと希望が見えるくらいかな~なんだよな。でもここから俺暫く動かない予定だし。実験も兼ねて農作業やるわ。
蒔こうと思ってまずは骨粉の入ったバケツを抱えたら、雪玉ちゃん3人が俺からバケツを奪い取った。戸惑ってたらどんどん雪玉ちゃん達がバケツに群がって、かと思ったら骨粉をたった今耕した畑に蒔いてった。
「俺の代わりに、蒔いてくれるの~?」
一緒に雪かきしてくれただけでも嬉しかったのに、本格的に手伝ってくれるなんて……!
ちっちゃい子達が頑張ってるのを見たくて、畑の周りに柵と松明を置きつつ、横目で雪玉ちゃん達を眺めてた。
……皆が一様に蒔いてるんじゃなくて、4人ぐらいが周りをちゃんと見て、蒔く量に偏りが無いようにしてる。すげぇ、あの子らって個性あったんだ。今度一人ひとりと会話してみようかな。見分けがつくかどうか分かんないけど。
金塊も一番外側に大量に蒔いてくれたのを見届けたら、2度目の耕し作業に入る。さすがにこれは雪玉ちゃんには厳しいからな。でも職人魂が込もったクワなら、あっという間に土を混ぜ終えられるぜ!
耕し直したそばから雪玉ちゃんたちがニンジンとスイカの種を植えてくれて、さらにその後に骨粉も蒔いてってくれる。これはもしかしたら本当に、こんな雪深い過酷な環境でも野菜が育つかもしれん。実験が成功したら、骨粉のスゴさと雪玉ちゃんたちの甲斐甲斐しさに感謝しなきゃだな。
「あれ?」
ニンジンと種を蒔いてくれてる子達とは違う雪玉ちゃんたちが、柵の内側の空いたところに木材を積み上げてた。木を切れたの!? って驚いてよく見てみたら、インベントリから出してるだけみたいだった。いや十分ビックリポイントだけど。君らにもインベントリあったのね!? いやその木材いつ拾った!? もしかして俺のインベントリと共有?! だとしたら俺のインベントリが急に容量でかくなったのも納得できるけど!
「なんで木材出してるのー?」
気になったから聞いてみたら、雪玉ちゃんたちが目の前に来て、整列して、家の形に組みあがった。あ。
「野菜洗うところ作ろうとしてんの? 俺に立てさせようとしてる?」
ヘムスタッド村でもそうだったよな~、父さんが生きてた時はよく手伝ってたな~。チビ過ぎてロクに戦力にならなかったけど。
なんて色々思い出してたら、屋根の一部になってた1人が出てきてクルッと縦に1回転した。了解。耕し直したら次はそっちを建てます。
「皆も手伝ってな?」
「俺1人じゃ大変だから」って付け加えたら、家になってた雪玉ちゃんたちが『任せろ!』って感じで俺に体当りしてきた。おう、頼りにしてるぜぇ!
窓も扉もへったくれもない、出入り口に当たる面が大っぴらになってる斜めな屋根の掘っ立て小屋。それを雪玉ちゃんたちと一緒に建てた。野菜に付いた土を洗い流す為の浴槽と水切り場所は、明日作ろう。急いでないし。なんなら育つか分からんし。よし、今日の畑仕事はこんなところで切り上げよう。
大きく息を吐いて、森の方へ目をやった。森は傾いてきた陽の光を浴びてなお、どこか重苦しかった。
「次は、罠の確認に行くか」
跳躍のポーションを作る為にはウサギの足が必要になる。だからウサギを捕まえる為の罠を昨日一昨日とかまくらの中で作って仕掛けておいた。
木の棒とロープ、スライムボールを組み合わせて作った籠の罠は全部で5つ。餌のニンジンにはロープを通してあって、ウサギが餌を引っ張るとロープとつながった木の棒が倒れて、籠が倒れて蓋されるっていう古典的な作り。仕掛けてから1日置いたけど、かかってくれるかな。この辺りのウサギは人に慣れてないから、それがどう転ぶか……。
結果から言えば、かかったウサギの数は2羽。取れる足の数は8つ。跳躍はそんなに使うことも無いし予備もまだある。それだけあれば当分は作らなくて大丈夫だろ。
革は防寒具にもなるし、骨は粉にして作物の養分に、肉は俺を満たして生かし──
「いただきます」
……肉はきっと、誰かの命を繋いでくれるから。無駄にしないから。いただきます。
川の近くで、仕留めた白ウサギを木の枝に逆さ吊りにして血抜きする。ヘムスタッド村にいた頃から捌いてきたから、2匹とも
『ヒヤォ"ア"ァ"ア"ォ"オ"ッ、オ"ア"ッ、エ"キ"ャ"ア"ア"ア"ッ!!!!!』
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
も~~~~! 何自爆してんだよ俺ぇ! トラウマをフラッシュバックしてる暇ねーだろ! さっさと血抜きして素材にして、残っちゃったところは燃やして、ウサギの魂を天に返してやるんだよ!
取れた素材は足が8本、革が2枚、骨が少しと、肉。肉はいつか、腹を空かせて困ってる人がいたら食べさせてあげよう。インベントリに入れときゃ腐らないからな。前は両手に抱えられる程度しか容量なかったし、広がってくれてマジで助かってるわ。保存食に加工すんのって大変だからな。……にしても。
「あ゛ー、疲れたー」
なんか今日は夕方からどっと疲れたな。まあいいや。素材が手に入ったし、明日は金の野菜たちに水やるだけだし。いや、雨風凌げる小屋作るか。いい加減かまくらから卒業したいし。
あ、そういや暗視と治癒って別のポーションの素材になるんだっけか。じゃあもっと欲しいから、金鉱石掘りに行かないと。あ、スプラッシュ瓶の為に火薬も欲しいな。洞窟潜ったらクリーパーいるかな。
掘っ立て小屋の屋根に雪が積もる時期と、そうじゃない時期が3回繰り返した。つまり、3年はここにいた事になる。金鉱石がめっちゃくちゃ見つかったおかげでな!
たまたま見つけた洞窟から更に下に向かって掘り進めていったら、めっちゃデッカイ金鉱脈見つけた。そこを職人魂の込もったツルハシで夢中で掘りまくった。
金には使い道がメチャメチャあるからな。大部分は金の野菜だけど、ネザーにいるピグリンに襲われないように身に着ける金装備とか、そのピグリンと取引する(ご機嫌取りとも言う)為のインゴットにしたりとか。あ、嘘言ったな。使い道は限られてるけど、使う量がスゴいんだ。
で、そんな金は掘ったらすぐに使えるもんじゃない。金の原石を溶鉱炉で精錬、溶かして金だけにしてインゴットにしてからじゃないと、まともに扱えない。畑に撒くにはここから更に細かく金塊にしないとだしな。他にも色々やることやってたら、いつのまにか3年が経ってたってわけだ。
畑仕事の合間に金掘りに地下に潜って、取れた金の原石を精錬して金インゴットを手に入れる。その金でまた金の野菜を作る為に畑して……。見事にループしてんな。
そうだ、“寒い地域でも骨粉があれば野菜は育つのか”って実験も成功して、スイカはちょっと小ぶりながらもちゃんと収穫できた。雪玉ちゃんのおかげもあって金のニンジンもきらめくスイカも100個近く出来て大満足ですわ。これで向こう3年は暗視と治癒のポーションに困らないし、透明化・負傷のポーションを心置きなく試作できるぜ! とりあえず、あの本に書いてあったクモの目の発酵も実験してみないと。そんで、出来たら効果を確かめないと……あっ。
「試す標的がいねぇじゃん」
モンスターは人間を主に襲っていく。少なくともモンスターの魔女である俺には襲いかかって来ない。この3年相棒(ダイヤ剣)を握ってないから間違いない。それよりも、クモはこの周りにはいなかった。つまり、クモの目が取れなかった。
「……人里に、降りなきゃじゃん」
あー、やだなぁ。行くけど。
俺が置いたもの、柵だとか松明だとか溶鉱炉だとか掘っ立て小屋だとかを回収してから、3年近く世話になった森の拠点を出た。人のいる場所を目指して。
てか今まで忘れてたけど、発酵したクモの目を作る為にはクモの目・砂糖・茶色のキノコが必要で、その内クモの目と茶色のキノコが不足しすぎてる。てか無い。
故郷のヘムスタッド村の近くじゃキノコは取れなくて、いつも他の村から干物の状態で仕入れてた。それでもポーションの素材にしてたけど、何にもならなかった。だから期待してなかったんだけど、まさかココで出てくるとはな。
生のキノコの菌が砂糖で活性化されて、クモの目を発酵させてんのかな。とりあえず茶色のキノコを探しつつ、人里に出よう。雪玉ちゃん見られたらこの間の二の舞だから、気をつけないとな。
雪を被った森を抜けて、冷たい風が吹く平原を越えて、暗くて波が高い海を渡った。沈没しないかどうかの恐怖を抱えながら海を風にまかせて渡ってたら、いつのまにか海の色が明るくなってた。気づけば、波が穏やかで、風が暖かかった。
「別の地域に出た?」
見える島には確かに雪はかかってなくて、木々は青々と茂っていた。気候が違ってるってことは、別のバイオームに出たってことかな。寒いところよりは暖かいところの方がキノコって生えてそうだし、一旦この辺りの大陸に降りてみるか!
どっか近くに大陸ないかなーってキョロキョロしてたら、察したらしい雪玉ちゃんたちが俺から飛び出して、上空から見渡してくれた。君らってホントいつも俺のどこにいるの。可愛いからいいけど。
ふわふわ飛んで周りを見渡してる雪玉ちゃんたちは、ふかふかそうな分厚い白い雲がある青空に、よく馴染んでた。
オールを漕ぎもせず彼らを眺めてたら、やがて、8人で見渡してた雪玉ちゃんの1人がブルブル震えてから俺のとこまで降りてきた。
「大陸、見つけてくれたの?」
だらしなくなってるって自覚のある表情で尋ねてみれば、雪玉ちゃんは縦にクルンッと1回転してから『向こうだよ』って感じで指差してくれた。向こうだね? よし、行くぜ!
雪玉ちゃんの案内で辿り着いた大陸は、砂浜を越えれば緑がいっぱいで暖かかった。そんな大陸の森で身体を気温に慣らしつつ、茶色のキノコを探してたら、自然な甘い香りが鼻をくすぐった。その匂いに誘われた雪玉ちゃんが辿ってくのを追いかけたら、開けた場所で色とりどりの景色を、花畑を見つけた。
現時点のポーションに関するまとめメモ
必要なのはデバフポーションによく使う『発酵したクモの目』。
これに必要な素材は『クモの目・砂糖・茶色のキノコ』。
今足りてないのはこの内、『クモの目・茶色のキノコ』。
発酵したクモの目を使用するポーションは現時点で4種類レシピ取得。
透明化 暗視ポ(金のニンジン)+発ク目
鈍化 俊敏ポ(砂糖)+発ク目
負傷 治癒ポ(きらめくスイカ)+発ク目
弱化 水入り瓶+発ク目
(毒) (奇妙ポ+クモの目)
砂糖は村で取引すれば比較的簡単に手に入るが、金の野菜たちは自作しないとまず安定的に手に入らない。骨粉を使った寒い地域での栽培実験(という名の現実逃避)をしていてかなりの量を収穫出来たが、『クモの目・茶色のキノコ』が手元に無いことから、旅を再開せざるを得なくなった。
だいぶ見やすくなりましたかね?