人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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15 取り入り方が前と同じなのよ

 赤・黄色・白・紫・オレンジ・桃色……。

 森の中の開けた場所で、色とりどりに咲き誇る花々。蜜を求めて、可憐な蝶も丸っこいハチもそこらを飛び回っていた。この辺りの季節は春みたいだな。

 

「あ、そうだ。この花もポーションの素材にしてみよ!」

 

 咲いてる花はポピーにタンポポ、それからいろんな色のチューリップ。それ以外にも色々咲いてるけど、名前を知らなかったりそもそも見た事無かったり。もっとサータちゃんから花の名前、教わっとくんだったなぁ。

 

「あっ、雪玉ちゃん」

 

 昔を思い出しつつ花を摘んでたら、俺の頭に乗ってた雪玉ちゃんが色とりどりな世界に入り込んでった。それに釣られて何人かの雪玉ちゃんたちも出てきて、飛び込んでった。

 あっ、綿毛みたい。

 ふよふよと、光の尾を引きながら明るい色の花の上を漂ってる姿は、ただでさえ心安らぐ花畑をより可愛らしく、そして幻想的にしていた。や~ん、かわゆい~♡ 雪玉ちゃんたちが妖精さんみた~い♡

 

 花の香りをスンスン嗅いでたり、吸いすぎてクシャミしちゃったり。摘んだ花を頭に飾ったり、飛び回ってる蝶が雪玉ちゃんに留まったり、くるくる回りながら花畑をふわふわ浮かんでたり。もー! 君らが可愛すぎて、俺の花摘み作業が進まねぇよぉカワイイ~!!!

 

 完全に手を止めて、遊ぶ雪玉ちゃん6人を眺めてたら、人間の足音2つが聞こえてきた。

 

「っ!?」

 

 しまった、近くに人里があったのか! 綺麗だけど足場悪いし乱雑だから人の手が入ってないと思って油断した!

 

「み、皆! ここから離れるよ!」

 

 小声で雪玉ちゃんたちに呼びかけて、自分は足音とは反対の木の陰に隠れる。最近戦ってなかったからか、索敵能力が下がってたのかもしれない。神父さんにどやされんな!

 なんて呑気に考えてる時点でダメだわ。俺の声が聞こえなかったのか、雪玉ちゃんたち、全然俺のとこに帰ってきてくんない! ヤバイって、見られたら捕まっちゃうって! そしたら俺また、ここから離れないとなんなくなる! 「不審者見かけた」って報告の後に村にお邪魔したら間違いなく疑われるじゃん! 早く、こっちにおいでったら雪玉ちゃん!!

 

 そんな俺の焦りも知ったこっちゃないと、雪玉ちゃん達はお花畑の上を蝶とハチと一緒になって楽しそうに漂ってるし、足音の持ち主達は草むらの中から姿を現した。

 身長から見て10歳前後の子供か。1人はコウモリみたいに黒い色の髪と瞳をした男の子。もう1人は髪の色は同じ黒色だけど瞳がタンポポ色の女の子。草をかき分けてやってきたってことは獣道を通ってきたのか。もしくはこの子らが通い続けて出来た道か。そんな道しかないこの花畑は、やっぱり野生っぽいな。……じゃあ、危険だからって大人が後ろにいてもおかしくはない。あーもう! 何で子供達に気付いてくれないの、雪玉ちゃーん!

 

「わっ、わぁ~!」

「な、なんだよ、あの白いの……」

 

 ほらもう気付かれちゃったじゃ~ん! もうこれどうしたらいいんだ!? 俺だけ逃げても雪玉ちゃんを追いかけてくるかもしれないし、そんなことしてこの森の中で迷子にさせちゃったら責任取れねえぞ!?

 

「かわいい~! なんだろうね、あの白くて丸いの! 可愛いね、カヌプ!」

「そ、そうかもな」

 

 俺の影の薄さが健在なのか、雪玉ちゃんに気を取られているからなのか。黒い目の男の子は胡乱げな顔をしてたけど、タンポポ色の瞳の女の子に同意を求められて流されてた。流されずに警戒して引いてくれれば、俺も楽に撤収できるのに。いやまぁ確かに可愛いけど雪玉ちゃん。特に今は頭に花乗せたり蝶留まらせたり、雪玉ちゃんが花の上に留まったりって、すっげえ可愛いもん。見る限り牙も爪も無いし、油断する気持ちは分からんでもない。分からんでもないけど、女の子を守りたいなら家に返すその時まで、決して油断は──!!!

 

 ()()()を視認した次の瞬間、自覚するより先に花畑へ飛び出した。全身の血液が一瞬で沸いて、少年少女と()()()以外目に入らなくなった。インベントリから相棒のダイヤ剣を取り出しながら、少年少女に向かって走る。その音で流石に俺に気づいた彼らだけど、怯えて足が止まっていた。何してんだ逃げろ! って叱りたいところだけど、今は好都合。少女を庇って伏せった少年の上を飛び越えて()()()を、“クリーパー”を切りつけた。

 

「えっ?」

 

 少年の裏返る声を背中に受けながら、ノックバックして光を洩らしてるクリーパーに切迫し、もう一撃浴びせた。力尽きたクリーパーは爆発することなく、火薬を残して消え去った。

 

「…………」

 

 周りを見渡すが、他にモンスターも、彼らを見守る大人も見えなかった。はぁ?????

 ……気になることはあるけど、とりあえず。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

 インベントリに剣を仕舞いつつ、少年少女に安否の確認をした。あーあ。こんなところで人に接触したくなかったんだけどなー。さっきまで必死に隠れてたのが無駄になっちゃったじゃん。

 不審者に近づかれたくないだろうから、クリーパーを倒したその場に片膝をついた。危害を加えるつもりはないよっていう意思表示のつもりで。向こうはまだ緊張気味だったけど、タンポポの瞳の少女は大丈夫って意味で頷いてくれて、コウモリ色の少年は少女を庇いながら俺を睨みつけてた。警戒のタイミングが一歩遅いのよ君。確かにクリーパーは足音立てずに背後で爆発する厄介なモンスターで、経験なけりゃ察知出来んかもしれんけど。……ならなんで、大人を連れてこなかった。

 てかよく見たら少年、腰から剣下げてんじゃん。背丈に合わないサイズの。その剣を扱えるほど身体が出来てるようには見えねぇけど? しかも、俺に向けて剣を抜いてもない。警戒すんなら人間相手でも容赦なく剣を取れよ。刃を向けろよ。よっぽど育ちがいいみたいだなぁ?

 

 ……まっ、治癒のポーションがまったく要らないならいいか。失って困るのはこの子達の村の人間だし。あ、やっべ、胸がめちゃくちゃ痛い。ズキンズキンする。めっちゃ泣きそう。

 

「あ……」

「ん?」

「ありがとう、ございました……」

「ああ、うん。大人として当たり前のことをしただけだよ」

 

 なんだ、少年。まさに生意気って感じの顔してるから、てっきり憎まれ口でも叩くんだと思ってたけど、ちゃんとお礼言えるんじゃん。剣を抜かなかったのは俺への信頼を示す為ね? だとしても抜きなよなぁ。もう。

 

「君たちに怪我がなくて良かったよ」

 

 ちょっと大げさに安堵の息を吐いたら、彼らも身体から余計な力が抜けたみたいだった。

 

 とはいえ、少女の方はまだショックから立ち直れていないのか、声は出せなかった。そんなんで村に返したら可哀想だったから、雪玉ちゃん達と遊ばせて声が戻るのを待つことにした。可愛い子と可愛い子達の戯れは癒されるなぁ。ハチに気をつけてねぇ。

 

「オイ」

「ンえっ?」

 

 ぼやぁってしてたら、隣に座ってた少年が俺のコートを引っ張って凄んできた。あー、はいはい、そういうことね! ふふふ、ニヤニヤしちゃうねぇ。

 

「俺にはもう心に決めた女性(ヒト)がいるから、心配すんなって!」

「えっ、あ、そ、そういうことじゃ……!」

「次からはデートする場所は考えろよ? 揶揄う大人は無視してやれ」

「おう。そうする」

「あら素直」

 

 ニヤける俺のこともちゃんと“人の恋路を揶揄う厄介な大人”と認識したか、素直にツンツンしだした少年だったけど、ハッとしてから「だから、そうじゃない!」って俺を睨みつけてきた。どうでもいいけど、あんま怒ってると疲れるぞ。今の俺みたいに。

 

「お前、名前は?」

「ん? あぁ……。ルゥパって言います」

「ルゥパ……。聞かねぇ名前」

「そりゃ、さっきここらへんに来た旅人ですから」

「旅人なぁ。じゃあ、何をしにこの場所に来た」

 

 あー、この少年は俺に尋問がしてぇのか。だから高圧的になろうと。なるほど、怒ってたわけじゃないのね。俺、不審者だもんね。さっきから勘違いしまくってんな俺。

 

「別に、ここを目指してきたわけじゃねぇよ。茶色のキノコが欲しくて森に入ったら、たまたま雪玉ちゃんが香りに誘われてな」

「あれ、雪玉なのか?」

「触ったら分かるけどあったかいからそうじゃないんだけどさ、見た目がそれっぽいじゃん?」

「まあ、確かに」

 

 少年から花畑に目を移すと、少女の周りを雪玉ちゃんがゆっくり飛び回って、夢みたいな光景になってた。少女が華奢で可愛らしいから、余計に現実離れしてるわ。

 肩の辺りで切りそろえられたサラサラな黒髪に、雪玉ちゃんたちが摘んだ花を挿していってる。赤いポピーも白いヒナソウも似合うけれど、1番は目の色と一緒のタンポポがよく似合ってた。生け花の会場にされてる少女は気にした様子もなく、いろんな花を摘んでは編んでた。

 

「あの子、お花で何作ってるんだろうね」

「茶色のキノコなんてこの森に生えてないから、さっさと別のとこに行った方がいいぜ」

 

 俺に少女へ興味を持って欲しくないっていうあからさまな態度と早口に、思わず笑っちゃったわ。

 ひとしきり笑った後、少女がまだ花を編んでるから今度は俺から質問した。

 

「この花畑って、君らが暮らしてるとこから近いの?」

「近くも遠くもないけど。……それを、聞いてどうすんの?」

「大人の足でも遠いなら、村の大人の責任を問おうかなって」

「え?」

 

 は? コイツ、自分が情けない姿晒した自覚あんのか? 女の子とのデートの為に虚勢張って命散らしそうになったって分かってんのか? あーまたイライラしてきた。俺ホント短気。

 

「え? じゃないだろ。君ら死にかけたんだぞ。モンスターが出る場所に自衛の手段が無い子供だけで向かわせるのを許すとか、俺の故郷なら絶対にありえない」

「なっ!? じ、自衛なら、この剣がっ!」

 

 何に焦ってんのか、少年が腰から下げた剣を鞘から抜いてみせた。見せつけてくる鉄の剣の輝きは鈍く、刃も少し欠けていた。手入れがされてない古いものだとすぐに分かった。

 

「その剣は誰のもんだ」

「っ、な、なん、だよ」

「お前個人に設えたのならもっと短いか軽く作るはず。なのにそれのサイズは明らかに大人用で、見るからに使われてない剣。どっかから勝手に持ち出したんだな?」

「……だ、だったら、なんだよ」

 

 落ち着け。落ち着くんだ俺。子供に怒鳴る大人は大人失格だって神父さんが言ってただろ。

 叱るな。説教をしろ。

 

「お前は、罪深いことをしたと自覚する必要がある。それが何か、分かってるな?」

「……剣を、勝手に持ち出したこと?」

「それから?」

「っ! ……クリーパーに、気付けなかったこと」

「うん」

「そ、それから……、パーデを、連れ出したくせに、俺1人で、守れなかったこと」

 

 うん。3つも言えれば上々だ。いや4つ? あんまり凹ませるのも可哀想だし、この辺りで勘弁してあげよう。反省は後ででも出来る。生きてるから出来る。

 それに、俺もここまでやったんだ。説教だけして気持ちよくなって終わりだとか、そんな無責任なことは出来ない。

 

「君は、剣に振り回されず、剣を振るう人間になりたいか?」

「!」

「モンスターが現れたとき、盾になって庇うんじゃなく、剣を構えて守れるようになりたいか?」

 

 俺の問いかけに目を見開き、息を呑む少年。俺の言いたいことを察したらしい少年に、最後の問いかけをする。

 

「君は、守りたい人を守れる人間になりたいか?」

 

 口を強く結び、目に力を込めた少年は力強く頷いた。ああ、心を燃やしてる、良い目だ。

 

「じゃ、村で一番強い奴に弟子入りして、家事も完璧にこなせるように家の手伝いも頑張れ~」

「はぁ!?!?」

 

 手をひらひらさせて軽い調子で言ってやれば、少年はズッコケて素っ頓狂な声をあげた。分かる分かる。俺も神父さんに似たような感じでスカされたもんなぁ。

 

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