人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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16 子供は守んないとな

「なんでだよっ!? 普通そこはお前の弟子になるトコだろ!」

「いやよく考えたらさぁ、俺は旅人でお前は村人。しかも子供だろ? 俺だってずっとここにいるワケじゃねえし、相手出来ねぇのに師匠になれっかよ」

「やる気にさせたくせに、無責任だ!」

「身体は1人でも鍛えられるっつーの」

「そ、そうだけどさ!」

 

 せっかく盛り上がった気持ちを躱された少年は、若干泣きそうになりながら文句を垂れていた。ハハハ。クリーパーがいるような森の中で叫ぶとか、やっぱまだまだ子供だなぁ。

 

「しょうがねぇじゃん。最初は俺も受け入れようって思ったけど、連れてけないんだからムリじゃん」

「じゃあ、連れてけ!」

「守りたい人から離れるとかバカ?」

「バ、バカ!?」

 

 煽ると目を見開いて反発する少年。こんな良い反応してっから、周りも揶揄うの止められないんじゃないか? でも、これなら扱いやすいかもしれん。

 丁度いいところで、あの女の子がこっちに来てくれた。雪玉ちゃん6人皆を引き連れて。

 

「ねぇ、何おしゃべりしてたの?」

「なんでもねぇよ」

「別に話してもよくね? それより、緊張が解けたんだね。良かった」

「はい! ありがとうございました!」

 

 雪玉ちゃんと遊んで、死の恐怖が薄れたか。タンポポ色の瞳の少女に声が戻った。子供らしいハツラツとした声が失われなくて、本当に良かった。

 自分の花の編み物に夢中で自分の髪が飾られてることに気づいて無いっぽかった。1つのものに集中しちゃうタイプか。これは誰かがそばにいて見守っといてあげないと、いつか倒れちゃいそうだな。尚更、2人を引き離せない。

 

「髪、可愛らしくなってるね」

「え?」

「君が可愛いから、雪玉ちゃんももっと可愛くしたくなっちゃったのかもね」

 

 俺に指摘されて頭に手をやった少女は、それでやっと髪に咲く花に気付いたらしい。肩をすくめてはにかむ姿は子供らしくて可愛らしかった。耳の上に飾られたタンポポに触れて頬を赤く染める少女を見た後、左隣に目をやる。

 

「あ……」

 

 おーおー、焦ってらぁ。「フッ」とわざとらしく鼻で笑ってやれば、バッとこっちを向いた少年が威嚇してきた。あーかわい。揶揄いがいありすぎだろコイツ。まぁ、いっちょまえに独占欲あるのはいい傾向だ。

 

「取られたくなきゃ、そばで出来ることして強くなれよ」

 

 言われてデコピン食らった少年は、それで発破を掛けられたって気づいたらしい。目を丸くしてから、何とも言えない、困った顔をした。やり取りの意味が分からない少女は首を傾げてた。周りの雪玉ちゃんたちも同じ方向に傾いててめっっっっちゃ可愛い!!!!!

 雪玉ちゃんたちに目を奪われてたら、「あっ」と声を上げた少女が、後ろ手に持ってた何かを 胸の前に掲げた。白い小さな手の中には花の輪っか。輪っかは少女の手から少年の頭の上に渡った。いつも花冠作って、プレゼントされてんだろうなぁ。少女の動きに迷いは無いし、少年は遠慮しないで飾られる。ホント、今まで幸運だったんだなぁ。

 

「似合ってるよ、カヌプ!」

「……おう」

 

 嬉しそうに微笑む少女と、照れくさそうに口を尖らせて目を逸らす少年。花畑を背景に、優しい陽射しに照らされる光景は一枚絵のようで、守りたい衝動に駆られた。……こんなこと考えている時点で、負けじゃね?

 少女が少年の隣に座ったところで、雪玉ちゃんが俺の視界に割り込んで来た。いや、肩叩いて?

 

「なぁに、雪玉ちゃん」

 

 自分の存在をアピールしてくる愛らしい子たちの要求通り意識を向ければ、6人皆が皆、花束を作って持っていた。いや? それにしては種類が1つずつすぎる。……もしかして。

 

「素材用に、花を集めてくれたのぉ?」

 

 期待して言ったら、皆縦にクルンッと一回転してみせた。毎回思うけど頷き方可愛いなぁオイ!

 

「ありがとう雪玉ちゃん」

 

 手伝ってくれたことに礼を言って手を差し出す。が、雪玉ちゃんたちはフイッとその手から離れて、左隣りへ、少女の方に泳いでいった。えっ、ちょっ!?

 

「な、なんで!?」

 

 思わず泳ぐ雪玉ちゃんへ手を伸ばす。けど届かず、少年と何か喋っていた少女の背に隠れてしまった。

 

「どうしてぇ……?」

「お前、そんな情けない声出すんだな」

「なんならこっちがいつもの俺。じゃなくって! どうしたの雪玉ちゃ~ん!」

「声キッモ」

 

 うるせぇ。今俺は人生で割と大事な局面に立たされてんだ! 雪玉ちゃんたちに嫌われたら、俺、立てなくなる!

 焦る俺を知らんぷりしてふわふわ浮かぶ雪玉ちゃん達は、花を持ったまま少女の後ろに隠れてる。それを不思議そうに眺めてた少女は何か合点がいったように小さく手を叩いた。

 

「もしかしてこの子達、お兄さんにカヌプのお師匠さんになって欲しいんじゃない?」

「ええっ!?」

 

 そんなまさか! って思ったのに、雪玉ちゃんたち、皆、縦にクルンッと一回転した……。嘘じゃん!!

 なんで!? 俺がこの少年の師匠になったところで君らに利点なんか! ……そんなこと言い出したら、俺のことも手伝う利点無いんだけどさ。俺が困るだけで。

 狼狽えたり凹んだりしてる俺を見て、少年は得意げにふんぞり返った。なんだぁお前……。

 

「お前の家族も俺を強くしろってよ! ほら、早く俺を弟子にするって言え!」

「なんで教わる方が命令してんの?」

 

 人質を取られた気分でぐぬぬってしてたら、代わりに少女が言ってくれた。だよな! こいつ、人にお願いする態度じゃねぇよな! って考えてから、胸から1人、雪玉ちゃんがポンッと出てきた。

 

「え、今、身体ん中から……?!」

「あれ、何匹いるの?」

「あー、数えたことないな。それと普段はこの子達、俺の身体の中にいるよ」

 

 驚く2人にさらに情報をあげてたら、なんか出てきた雪玉ちゃんが少年の顔の前に出た。何すんのかなって見守ってたら、雪玉ちゃんが少年のデコに体当たりした!

 

「あたっ!?」

 

 体当たりっつってもポンって叩くくらいの強さで、少年はどちらかと言うと体当たりされた事実にビックリしてたっぽい。体当たりした雪玉ちゃんは、それから少年の視界の中央を陣取った。俺からは後ろ姿しか見えないからアレだけど、なんだか少年の態度を窘めてるように見えた。気まずそうに眉をへたらせた少年は雪玉ちゃんとにらめっこして、やがて、「分かったよ」と小さく呟いた。分かったよ? 雪玉ちゃんと何喋ってたんだろう。ふわっと雪玉ちゃんが風に流されてったら、申し訳なさそうな顔した少年が、俺に向かって頭を下げた。

 

「ごめんなさい。雪玉、ちゃん、が味方してくれるからって、調子に乗って。上から言っちゃって、ごめんなさい」

 

 雪玉ちゃん、ホントに窘めてたのか……。まぁ、さっきこの子、雪玉ちゃんの事を“俺の家族”って言ってくれたし、受け入れるのも吝かではないな!

 

「ん。ちゃんと反省できるなら、別にいいよ」

 

 俺も情けない姿晒したり、挑発したりって、到底敬われる人間の態度じゃなかったしな。神父さんならこんな姿は見せない。お茶目だったけど。でも、侮られることはなかった。だから、この子が調子乗ったのって半分ぐらいは俺のせいなんだよな。

 窘められてしょんぼりしてた少年が深く息を吐いて、吸って、目に緊張と覚悟を乗せた。空気が変わった。

 

「お願いします。俺を強くしてください。あなたの弟子にしてください」

 

 少年はまっすぐ俺を見て言って、頭を下げた。こんな丁寧に出来るのに、なんでさっきはあんな態度を取れたんだか。とりあえず、熱意は伝わった。その原動力を思えば、もう、拒否する理由はねぇな。

 

「いいぜ」

「! ほ、ホントか!?」

「ホントほんと。君が、自分の保護者を説得できたらな」

「えっ」

 

 あれ~? そこまで考えて頭下げたんじゃねぇの~? さっきお前自身が俺のことを怪しんだんだからよ、俺の実力見てない人間なんてもっと怪しむぞ~?

 

「村の未来を担うだろう大事な子供が、どこからともなく現れたよそ者にいきなり弟子入りするとか、果たして許すもんかな~?」

「そ、そんなぁ~~!」

 

 頭も回るし落ち着けば適切な判断だって出来るだろうが、きっと普段は感情任せ気味に行動してんだろうな。そこを抑えて、俺への弟子入りを反対する人たちを説得するところから、試練は始まってんな。俺より大変じゃーんこの子ー。

 黙りこくって目をぐるぐる回してる少年がちょっと可哀想になってきた。『モタモタしてたらコイツどっか行っちまう、でも反対されるに決まってる。だったら秘密に、でもそれはコイツが認めてくれない』とか色々考えてそ。しょうがねぇ、助け舟だしてやるか。

 

「ねぇ君」

「うん? なぁにお兄さん」

「君らの村って、砂糖取り扱ってる? 1スタックあたりエメラルドいくら分くらい?」

「う~んと、砂糖はあるけど、今の時期はハチミツの方がずっと安いかなぁ。お兄さん、甘いの好きなの?」

「ほどほどにね。そっか、ハチミツ……」

 

 故郷のへムステッド村とその周辺じゃまず聞かなかったし、知ったのは前に追い出されたあの村。あそこでは買いそびれてたし、うん、丁度いい機会だ。

 

「弟子志望君。一応村には寄ってくから、俺が見物を終えるまでに説得してきなよ」

「わ、分かった! だから早く行こうぜ!」

「カヌプ、敬語!」

「あっ」

「俺が使ってねぇし、まだ気にしなくていいよ。さて、善は急げっていうし、早速君らの村に行くか」

「おう!」

「うん!」

 

 素直な2人は俺の音頭で立ち上がって、俺の手を取って引いて立たせた。よし! 希望者に早速1つ、教えようじゃないか!

 

「わっぷ!」

「な、なにすんだ!」

 

 村へ案内しようと引いてくる手をやんわり解いて、流れで2人の頭を抑えるように撫でた。

 

「知ってるか? エンダーマンは目を合わせなきゃ、襲ってこねぇんだぜ」

 

 2人の体がこわばった。なんでこのタイミングでエンダーマンの話をするか、分かるくらいの察しの良さは持ってるらしいな。期待通りだ。

 あれだけキャイキャイしてた子達が黙って早足で歩いていく。ま、下向いてりゃ、背の高いエンダーマンと目は合わんだろ。

 それっぽくなってる獣道を行き、なんか土抱えてるエンダーマンの横を通り抜ける。こっちが何もしなかったから、あっちも何もしてこなかった。俺に頭を抑えられつつ、前を歩く2人の肩がだんだん下がっていくのを確認したら、「ね、大丈夫だったっしょ?」って声をかけた。

 

「ただ攻撃して撃退するだけじゃない。モンスターに合わせた対処法を知ってれば、こうやって戦いを避けることが出来るんだ。更に言えば、奴らは水を嫌う。だから目を合わせちまったなら川とか湖に飛び込むのは有りだ。水をぶっかけてやってもいいな。海だとドラウンド、水中ゾンビがいるから、泳ぐのが苦手なら諦めて対峙した方がいいかもな。戦う時は、低い屋根があるところにまで逃げてから。アイツ足が長すぎて、しかも曲げることを知らねぇから蹴っ飛ばせねぇんだ。蹴られない位置から地道に足を切りつけて刻んでやれ。──ま、知ってただろうけど、おさらいな」

 

 これで気ぃ紛れたらいいなぁって思ってベラベラ喋ってたけど、狙い通り緊張がほぐれてきたっぽい。エンダーマンも他のモンスターも目に見える場所にはいない事を確かめたら、2人の頭から手を外した。もう、口を開いても大丈夫って合図のつもりで。

 それを正しく理解してくれたらしい少女が振り向いて、俺をタンポポ色の瞳に映した。

 

「あ、あの、2回も助けていただいて、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「それから……。あなたのお名前って、なんですか?」

「ん? 俺はルゥパって言います」

「ルゥパお兄さん、ですね! ボクはパーデっていいます!」

 

 ん? ボク? まぁ女の子でも「俺」って言う子いるか。それよりも!

 

「コラ、名乗るんじゃあないよ。俺が子供を攫う悪いやつだったらどうすんだ」

「でも、これからカヌプがお世話になるし……」

「まだ世話するって決まってねぇし、さりげなく友達の名前も出すなよ」

「でも、そうやって注意する奴って大抵大丈夫じゃん。2回も助けてくれたし」

「その油断で、次は死ぬぞ」

「「ごめんなさい」」

 

 脅してやっと、謝ってきた。しかしどうも口先だけな気がする。俺にもっと威厳があったら嘗められることもなかっただろうけど、どうもそれだけじゃない。こいつらが油断しきった頭になった原因は、きっとこの先に。村にある。

 

「あ、そうだ。雪玉ちゃんのことは絶対喋んないでな。喋ったって分かったら、俺すぐ村から出てくから」

「えー! なんでぇ?」

「手短に言えば、前に寄った村は雪玉ちゃんを見られたから石投げられて追い出された」

「そ、そんな……!」

 

 手短に言い過ぎたか。雪玉ちゃんのこと可愛がってくれてるもんなこの子。でもあんまり詳しく言えるほど嘘を練ってないし、このまま衝撃与えとこ。

 

「あんなに無害なのにかよ……」

「あそこはやりすぎだと思うけどさ、不気味なもんを受け入れたくないって思うのは悪くない。てか家族を守る為なら正しい反応なんだよ。だから、俺を受け入れさせたいなら、頼んだぜ」

「おう」

「はーい」

 

 よし、これで石は投げられないな。この子等素直だし、言いつけ守ってくれ……いや、言いつけ守るなら村の外に、盗んだ剣を持って出るか? うわっ、一気に頼りなくなってきた。早めにやること決めて、やって逃げよ。

 

 村の名物を尋ねて、流れで「ハチミツって何?」って話を少女としてたら、少年が「そろそろ村が見えてくるぞ」って教えてくれた。雪玉ちゃんたちを全員俺の中に戻して(もう流石に戻ってきてくれた)たら、森の出口が見えてきた。

 

「もしかして、森って村の一部だったりする? だから君らこっちに来れたとか?」

「い、いや……」

「ちゃんと村の外と中で分かれてるよ~」

「そっか」

 

 話してたらあっという間に出口にまで来た。躊躇うことなく太陽の下へ出る少年少女を追いかけて出る。うおっ、眩し!

 デコに手を当てて影を作って眩しさを堪えた。慣れてきた目に映った光景は、俺の瞼を勝手に見開かさせていった。

 

「な、なんじゃこりゃあ!!」

 

 少年少女たちが目指す先には、その奥に見える家の屋根よりもずっとずっと高く積まれた、()()()があった。

 

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