人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
今頃、ルゥパ兄ちゃんは村を見て回ってんだろうなぁ。俺とパーデはオヤジに、ハナハタ村の村長にこれから怒られるから、身が竦んでんのに。
村に戻ってきて早々、俺とパーデは団長、パーデの兄貴のスタークに俺の家に連行された。客間で待ち構えてたオヤジは俺らを正面に座らせた。しかめっ面だけど、でも、優しい?
「まずは、よく無事だった。よく帰ってきてくれた。お前らが帰ってきてくれたことを嬉しく思うよ」
「オヤジ……!」
「村長!」
「だが、危険な外に半人前のお前らだけで出たことは許されない。なぜ、勝手に外に出た」
優しいけど厳しいオヤジは、鋭い目で俺らを見下ろしてきて、今まで聞いたことない低い声でそう言った。嘘なんか、すぐにバレちまいそうだ……。
「どっちが言い出した。正直に言いなさい」
「ぼ、ボク、です……」
低い声でオヤジに言われて、パーデが手を挙げて言った。本当だったから俺も頷いて、「俺は、止めなかった」って認めた。そしたら俺らの後ろに立ってるスターク兄ちゃんとオヤジが重たく息を吐いた。
「そうか。それで、パーデ。なんで、村の外に出ようと考えた。大人も連れず。危険だと分かっているだろう?」
「そうだけど……」
オヤジからの質問に名指しされたパーデは、声は弱々しくなったけど、ズボンを握る手に力が入った。
「でも、そうでもしないと、皆、ボクからカヌプを取ってっちゃう。もう1ヶ月もボク、カヌプと2人っきりで遊べてないんだよ! 村の中だとどんなに隠れても見つかるし、皆がカヌプと一緒に遊びたがっちゃう……。だから……」
「……いつまでも、ずっとは2人で遊べない。他者を受け入れる余裕を持てと言っただろう」
「だってお兄ちゃん! ……分かってる、けどさぁ」
口出ししたスターク兄ちゃんに反射で噛み付いたパーデだったけど、すぐに俯いてモゴモゴ文句を言うだけになった。
俺もパーデと同じこと思ってた。女子も男子も皆、女の子みたいに可愛いパーデと遊びたくて、協力して役割分担して俺からパーデを引き離そうとしてた。……俺も、たまにはパーデの他にも、人数がなきゃ遊べない追いかけっことかかくれんぼとかしたかったから、できるだけパーデも一緒になって遊んでた。
でも最近、あいつらが変なことを言い出したんだ。
「あいつら、ボクの事を“女の子だ”って言うんだ! 違うもん! ボクはボクだもん! 男だもん! たしかにさぁ、可愛いのは好きだよ。女の子たちのお花のお洋服、着てみたいよ。ピンク色、好きだよ。でも! ボクは女の子じゃない! ボクはボクだもん!」
「……そうだな。お前は俺の立派な
「でしょ!? なのに皆、“可愛いんだから、女の子でしょ”って!! そんなひどいこという子たちとは遊びたくない! カヌプと一緒にしたくない! だから! ……だから、皆が居ない、村の外で、遊ぼうって……」
パーデは、花を摘んだり髪を伸ばして綺麗にしたり、笑い方も、歩き方も。自分が可愛いって思うことをよくやってる。それは周りに見せるためじゃなくって、自分が楽しむために。そのことをパーデも俺も頑張って伝えてんだけど、あいつら、「女の子になりたいんじゃねぇの?」って、「可愛くなりたいのは女の子でしょ?」って言って、聞いてくんねぇ。違ぇんだよ。パーデは、『可愛いのが好きな、可愛くなりたい、男』なんだよ。正直メンドイけど。
大人は分かってくれっけど、半人前はこのメンドイのが分かりづらくて単純にして分かったふりをする。そして、パーデを女の子扱いする。……パーデが心も女の子になりたかったんなら、あいつらの気持ちも空回りしてなかったんだろうけどなぁ。
パーデも、皆が優しいって分かってる。分かってても、違うから、今日とうとう、我慢が効かなくなっちまったんだ。
パーデの訴えを聞いたオヤジは、短く息をついてから「動機は分かった」と重たい声で言った。それから、今度は俺を鋭く睨みつけた。身体が強張る。俺が、やっちゃいけねぇことやったってそれだけで言われた感じだ。
「カヌプ。お前はこの村の外ではモンスターが闊歩しているのを知っていただろう。いくら自警団で討伐しているとは言え、奴らは無限に湧いてくるんだから危険だ。それなのに、お前は隠れて大人たちに伝える事もしなかった。それに剣を盗むにしても廃棄寸前のものを持っていくなど。パーデを守るつもりはあったのか?」
「そ、それは、ボクがいきなり言い出して、無理やり連れ出したから……!」
「言うなよ、パーデ。俺がそれを選んだんだから」
守るつもりだった。だけど外に出てったってバレたくも無かった。だから、捨てる予定で管理されてないボロボロの剣を盗んだ。パーデに庇われることなんて、何もねぇよ。
「誘ってきたのは確かにパーデだったけど、俺は止めなかった。危険だって分かってた。ううん、分かってたつもりだった。ちょっとなら大丈夫、自警団が倒してくれてるから安全だって、油断してた。だからクリーパーにも、エンダーマンにも襲われたんだ」
言えば言うほど、自分がとんでもねぇことやらかしたって身に沁みて分かってくる。情けなくて泣きそうで、でもそんな権利無いから、頑張って堪えた。それから後ろを向いて、腕組みしてるスターク兄ちゃんに頭を下げた。
「スターク兄ちゃん。パーデを危険な目に合わせて、本当にゴメンなさい。反省してます」
「……分かっているなら、俺からは何も言うことはない」
あれ? いつもは雷かってくらい、メッチャ怒るのに。どうしたんだろ。
オヤジがパンッと軽く手を打ち鳴らした。話題を変えるときによくやるやつだった。
「反省しているなら、後は罰を与えるだけでいいだろう。さて、気になる発言もあったが、先にこちらを聞いておこう。お前らが連れてきたあの男は、何者だ?」
やっぱ、訊かれるよな。いや、訊いてくれた方がいい! ここであの人の良いトコ言って、弟子入りを認めてもらうんだ!
「あの人はルゥパって名前の旅人で、俺らをクリーパーとエンダーマンから守ってくれた、強い人なんだぜ! ホントに凄かったんだ! クリーパーをたった2回攻撃しただけで、爆発もさせねぇで倒したんだからな!」
「それにね! 『エンダーマンに会った時は下を向いて目を合わせなきゃ襲われない』とか、『曲げられないのに長い脚してるから屋根付きの低い位置からボコって倒せ』とか、色々教えてくれたんだよ!」
「ずっと一人旅してたらしいから、絶対強いし!」
ルゥパ兄ちゃんのスゲー所をパーデと一緒になって言ってたら、オヤジは顎に手を当てた。
「ほう……。実力者のようではあるな。で、そのルゥパという男とは、どうやって出会った」
「えっと、多分ボクたちが花畑に着いた時には居たみたい。何かに使うからってお花摘んでたらしいんだけど、最初はボクらから隠れたかったっぽい」
「なぜ隠れていた?」
「ルゥパ兄ちゃん、自分のことずっと不審者って言ってたから、嫌だったんだと思う。もしかしたら、ここにも寄りたくなかったかもしれない。前に寄った村で、石、投げられたって言ってたし……」
「……何をしたら石を投げられるんだか」
あっ、これヤバくね!? 怪しんじゃってんじゃん! でも白い玉、雪玉のことは言えないから、ここは流して誤魔化せ!
「そ、それでさ! 俺、ルゥパ兄ちゃんに弟子入りしてぇんだ! 認めてください!」
「……なんで、それをお父さんに頼むんだ?」
「親に認めてもらわないと弟子入りさせてもらえねぇんだよ! 家事も、それ以外の手伝いも頑張るから! だからお願いします!」
「……そう、言われてもなぁ。お父さん、その人のこと何も知らないから判断できない」
「欲しいものねだる為に条件出してる子ども……いや子どもか」
「悪いか」
その条件も、俺が弟子入り出来なくてもやるように言われたやつだし。それがあの人が強くなった方法なら、いくらでもやってやる。守りたいもん守る力を手に入れんのにそれと鍛錬でいいとかお得じゃん。……別に、今までやってなかったわけじゃねぇけど!
分かんねぇって顔して頭の後ろを掻いてたオヤジが、また溜め息ついてから俺を見た。
「結論はまだ出せないが、これは先に聞いておこう。カヌプ」
「はい」
「……お前は、その恩人から、何を学ぼうとしている」
何を学ぶ。そんなの、決まってる。
「魂を」
胸を握り拳で軽く叩いて言ったら、オヤジは黙って目を見開いた。もうひと押しだ!
「あの人は俺に、“剣に振り回されず、剣を振るう人間になりたいか?”って言った。“モンスターが現れたとき、盾になって庇うんじゃなく、剣を構えて守れるようになりたいか?”って、“守りたい人を守れる人間になりたいか?”って言った。俺はなりたい。多分、スターク兄ちゃんも教えてくれるかもしれない。でも、俺は、ルゥパ兄ちゃんから教わりてぇんだ」
「……彼は旅人だろ。ずっとはこの村にはいないぞ。それとも付いて行く気か?」
「いる間だけでいい。俺が守りたいのは、っ、こ、この村だから」
「なるほど……」
俺の覚悟を聞いたオヤジは腕組みして、目を伏せて俯いた。数秒そうしたかと思うと、上がってた肩が下りた。
「何を学びたいか。それがハッキリしてるんなら、むやみに反対は出来んな」
「そ、それじゃあ!」
「行くぞ」
「えっ?」
あれ? 認めてくれるんじゃ?
立ち上がったオヤジが何考えてんのか分かんなくてきょとんってしてたら、「何してるんだ」呆れられた。
「世話になるかもしれんなら、人となりを知らないとダメだろう」
「!! オヤジぃ!」
「性格に難があったりやましい気持ちが見えたら、お父さん、認めないからな!」
「おう!」
性格も裏もあの人は問題ない! つまり、ここまで来れば、勝ったも同然だぜ!
外に出たら、ニンジン農家のおじいちゃんに2人の居場所を聞いた。「白いコートを着た知らない男はどこにいる」って聞けば、一発で居場所は割れた。村の周りの鉄格子のせいでか、旅人さん近くに来てもあんまり寄ってかねぇんだよな。だから珍しくて覚えてたんだろ。まずあのコートが目立つけど。んで、2人が居るのは、プラムおばちゃんトコの食堂だって。そこまで4人でゾロゾロ歩いて向かった。
俺はその人のことあんまり覚えてねぇけど、花の姉ちゃんがポコポコ建てたっていう食堂の建物には大きい窓がある。そこからドゥン兄ちゃんの顔が見えたから走っていこうとしたら、オヤジに止められた。
「オヤジ?」
「ドゥンが何か聞き出している。それに身構えられても困るから、このまま外から隠れて聞くぞ」
「……盗み聞き」
「いいから静かにしろ」
あんまり気は進まねぇけど、オヤジの言う通りにそろりそろり近づいてった。……オヤジもスターク兄ちゃんも、足音しねぇ。スゲェ。
「──彼女は、モンスターより恐ろしかったです……」
「やっぱこえぇなその人」
何の話してんの? てか聞き出されてんのドゥン兄ちゃんの方じゃね?
背中から近づいてきたからか、ルゥパ兄ちゃんに気付いた様子は無い。てか、ドゥン兄ちゃんと仲良い感じで喋ってんなぁ。ドゥン兄ちゃん、あんな真面目そうなのにお喋りしたがりだもんな。気が合ったんかな。
テーブルについた頬杖に顔を置いたドゥン兄ちゃんが「じゃあ、次の話をしましょうか」って笑って言った。俺らのこと見えてて無視するって事は、聞いてて欲しいってことか? ……でも、クリーパーの気配に気づいて、反射で倒すような人だぞ。ルゥパ兄ちゃん、俺らにホントに気づいてないのか?
「あとは、平和ボケの理由と、カヌプ君の修行を託す先を見つける為って話でしたよね」
「そうっすね。じゃあまず、あのおバカ2人が平和ボケ出来る理由を聞いても?」
「そんなの本人しか分かんないでしょうけど。でも、この村の防衛面から推察出来るのは、自警団の力を過信しすぎたってとこでしょう。しかし彼らがこの事件を起こしたのはこれが初めてですから、あまり貶してあげないでください」
「あぁ、さっきの話……。分かりました」
もしかして、パーデが男って話、したんかな。だって、俺らも言ってなかったしルゥパ兄ちゃんも明らかに女の子扱いしてたし。あの時は言えなかったからパーデも気にしないようにしてたっぽいから、気付くはずないんだけど。
「ルゥパさんの故郷ではそういう、村から子供だけが外に言ってしまうなんてことは無かったんですか?」
「大人の許可と付き添いが無いと出れないし、出なかったですね。俺の故郷、ヘムスタッド村では、多いと月に1回ゾンビの襲撃があったので。子供の頃から村の外は危険だと身体が分かっているんです」
「そ、そんな頻度で襲撃があるなら、場所を移した方が……」
「でも、海有り山有り土も栄養豊富で鉱石も取れるんすよ。逃げるより強くなって立ち向かう方が良いと、先祖は考えたそうです」
「一長一短、ですね」
だから、あんなに強くて、モンスターにも躊躇なく斬りかかれて、堂々としてたんだ。そうじゃないと守れないから。
丁度話が落ち着いたところで、プラムおばちゃんが何か持ってった。甘い匂いしてるから、フレンチトースト*1かな。あっ、プラムおばちゃん! 俺ら盗み聞きしてるから! しーっ! しーっ!! ねっ!
「パンに、ハチミツとたまご……? 美味しそうですね、いただきます」
「はい。それから、食べなから最後の点もお聞きしても?」
「勿論。えっと、あの子の修行先を見つけてあげたい理由、ですね」
……ホントに、俺に稽古付ける気、無いんだ。ずっと言ってたけど、分かってたけど。……悔しい。
ナイフとフォークでフレンチトーストを切る音が聞こえてくる。
「1番は当然、私自身がここには長くいられないから。目的がある旅ですから、そこは譲れません」
「まだ見ぬポーションを求めてるんでしたっけ。その為に海を越えてくるとは」
「おかげでいくつか見つかりました」
「もう実績が! それだと止められないじゃないですか……」
「それでもまだまだ見つけ足りないですしね」
えっ、すっご。ポーションってあの、教会で売ってる高い薬だよな。ロマン旅かぁ! じゃあ、仕方ねぇかぁ……。
「それに」
ルゥパ兄ちゃんが出した少し強めの声で、空気が引き締まった。
「彼には、俺みたいな間違いをして欲しくないんです」
間違い? ルゥパ兄ちゃん、何を間違えたんだ?
俺と同じで気になったドゥン兄ちゃんが「間違い、とは?」って訊いた。訊かれたルゥパ兄ちゃんの背中が、急に、小さく見えた。
「私の故郷は、私がいない間に滅びました」
硬い声での言葉に、空気まで硬くなったような気がした。
ほろ、んだ……? 皆、死んだってこと……? 自分が、いない間に、皆が、いなくなった……?
『守りたい人から離れるとかバカ?』
花畑で言われた、あの言葉……。もしかして、アレ、