人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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2 俺はサータちゃんと幸せになるんだー!!

 昔っからこのヘムスタッド村には、ゾンビを筆頭にモンスターがよく襲撃に来てた。だからそれなりに犠牲者は出てるし、よく悲しい思いをしてる。

 それでもこの土地を捨てられないのは、山も川も海も豊かだから。山の幸も取れるし、海も川も食の宝庫。畑をすれば立派に育つし、鉱石も掘ればザックザク。ホント、モンスターさえ無ければスゲーいい土地なんだよココ。

 

 食うのに困んねぇから、身体は頑丈になる。頑丈になれるから村を守れる。だからゾンビがたくさん来ても、俺たちは立ち向かった。大体の野郎達が剣や斧、弓といった武器を手にして。女性子供達はそれを支えたり、足手まといになる前に隠れる。それが村のしきたりでもあった。そんで俺は神父さんと一緒にポーションで皆にバフ掛けたりしてる。そんな便利なポーションを作る為に、もっと危ねぇネザーに探索に行かなきゃなんねぇの、別に文句はねぇけど疲れんだよなぁ。

 

「ふあ~~~っ!」

「ふふっ。今日もお疲れさま、ルゥパ! すぐ終わらせるから、もうちょっとだけ頑張ってね!」

 

 椅子に腰掛けて凭れた途端に、デカめのあくびをかましちまった。そんな俺を笑ったサータちゃんは、俺に革のケープを被せながら励ましてきた。俺さぁ、サータちゃんに対してはチョロいって有名なんだからよぉ、素直に頑張っちゃうじゃんかよぉ。

 ネザーで命懸けで素材を集めてきて疲れた。船を漕ぎそうな頭を堪えて立たせて、サータちゃんが俺の髪を切りやすいように我慢した。変な髪型になんのも、皮膚切られんのも嫌だしね。うっわ。鏡に映ってる俺の顔面、眠気堪えてんのメッチャブスじゃん。

 

 晩飯後の時間帯。外はランタンが道を照らす明かりとポツポツ灯る家の光が村を照らしてるけど、出歩いてんのは巡回中の警備隊だけ。

 そんな遅い時間だから、散髪部屋にいるのは俺とサータちゃんの2人だけ。ネザーのことを聞いてくるサータちゃんの声と、それに答える俺の声。サータちゃんが動かす鋏のシャキシャキって音と、切られた髪の毛が白に染色された革のケープに落ちるパラパラって音が部屋を満たしてた。

 前髪切られる時、髪の毛が入らねぇようにって目ぇ瞑るから、話しかけてくれてなかったら寝てたわ。あぶねー。

 

「あいふら、んぁいあしあひんそうひつへへはらなはよふしへっはら、ひょろいんらわ

(あいつら、何かしら金装備つけてたら仲良くしてくれっから、チョロいんだわ)」

「ルゥパ、寝てる?」

「え?」

 

 寝ぼけて、口、回んねぇ。

 

 いつもより短く切ってもらって、スッキリした。耳の上辺りも刈り込んでもらった。汗でくたぁってならなくて、コレいいかもしれん。前髪も眉毛にギリギリかかるかかからないかで切られて視界良好。鏡を見たら、眠たげなイケメンが目の前にいた。お、俺が、サータちゃんの手によって、こんなにも格好良く……! とか思ってたら、視界がぐらついて、首が前に落ちた。

 

「うわっ、ビックリした!」

「自分でやっといて? あははっ、よっぽど疲れてるんだね」

「……お言葉もありません」

「あはは! ねぇルゥパ。叩き起こすから、ちょっとだけここで寝てったら? さっき話聞いてたら、よっぽど大変だったみたいだし。眠くなっちゃっても、しょうがないよ」

「サ、サータチャン……!」

「どうせシャワーで細かい髪の毛流すとき、頭固定出来るしね」

「ウン……! アリガトウ……!」

 

 気遣いできて仕事もできる可愛い子とか、あぁ、好き!!!

 

 頭の部分が抜けて、水が入るバケツが填められてるベッド。固めに作られてるマットに横になった瞬間、俺は寝たらしい。タオルで頭をガシャガシャってちょっと乱暴に拭かれる、その手つきで意識が浮上した。夢見ないくらい深く寝てたっぽい。

 

「おはよ、ルゥパ。寝顔可愛かったよ!」

「ヘッ!?」

 

 逆さの状態で見下ろしてくるサータちゃんが、いたずらっぽく笑う。そのあまりの愛らしさに心臓発作が起きるかと思った。心臓がずっとバクバク言って、眠気も吹っ飛んじまったわ。

 

 出来る限り水分をタオルで拭き取り終わったら、櫛で髪を梳かれて、仕上げに毛先を整えられた。几帳面なとこも好き。ま、サータちゃんに触れてもらえるならなんだっていいんだけどな!

 懲りずにまたやってきた睡魔に抗ってたら、髪を梳きながら水分を拭ってたサータちゃんが満足げに頷いた。うん、だいぶサッパリしたわ。礼を言う為に鏡越しにサータちゃんと目を合わせた。

 

「いつもありがとうね、サータちゃん。スッキリした!」

「ううん、こっちこそありがと! ルゥパが練習台になってくれてるおかげで、メキメキ上達してるってママに褒められたんだよ!」

「ソウナノ!? へへっ、よかった!」

 

 これでなぁ、練習台が俺だけだったらなぁ……。性別年齢問わず、村人皆1度はこの子の練習台になってるからなぁ。サータちゃんめっちゃ頑張り屋さんだよな。

 

 髪切ってもらったお礼に革のケープに付いてる俺の髪の毛を刷毛で落とす。真っ白に染色されてるから俺の黒髪がよく見えるわ。きったね。落としきった毛を箒で掃いて集めてたら、鋏とか櫛とかの器具を拭いてたサータちゃんが話しかけてきた。「ね、ルゥパ……」って言った声は恐る恐るって感じで、なんでそんな声なのか、何を話すつもりなのか気になって、怖くなった。

 

「ナ、ナニ?」

「あのね……。ムリは、しないでよ?」

「……え?」

 

 え、何? なんかもっと怖いていうか、重要な話するんだと思って身構えてたのに、そんな事? てか、え、わぁあぁあ~、心配されちゃうの、俺、サータちゃんに~! 俺も随分デケェ男になったもんだぜぇ! てか困り顔でも美人とか、ホント罪な女の子! 直視できね。

 

「ムリなんて、確かに色々大変だけど、俺が好きでやってることだし……。楽しいよ! ネザーで素材集めきれた時は達成感あっていいし、どんな素材からどんな効果のあるポーションが出来るかーとか、組み合わせ覚えんのも楽しいし。本に書いてない組み合わせも試してみたりとか、牛乳片手に自分で効果試すのとか、場所借りて育てた植物で試したりとか……。うん、俺、結構楽しんでるよ!」

 

 サータちゃんが眩しすぎて顔を見ながらじゃ言えなかったけど、この気持ちは本物だ。……エ、てか待って? 俺、今めっちゃ早口じゃなかった?

 

「ゴメ、早口デ喋ッチャッテ……」

 

 やっべ、こないだ日用品店の姉ちゃんに語ってドン引きされたのに! また同じことを、よりにもよってサータちゃんに!

 失敗に焦って顔を上げたら、サータちゃん、なんか不安げな顔してた。パッチリお目目を瞼で蓋して、また見えたと思ったら何かを決意した顔になった。

 

「サータ、ちゃん……?」

「……ルゥパ」

「?」

 

 器具を箱の中に片付けたサータちゃんが、俺の方に近づいてきた。ヘ!? ヘッ!?!?

 俺が情けない摺り足で半歩も行かないくらい下がっても気に留めず、近づいてきたサータちゃんは腕を広げた。そして。

 

「ウェ?」

 

 俺を、抱きしめた。

 ファーーーー!? ヘッ!?!? やばぁっ!? 全身熱いし顔から火ぃ吹くし、持った箒の柄が握力でパァンッてなりそう!! あ、サータちゃん、ちっちゃい……。俺の胸あたりに頭がある……。あ、花のいい匂いする……。何コレ……女の子って、こんななの……。てか大胆ね、サータちゃ、ぎゃっ!? 背中撫でないで擽ったいってぇ!

 顔を上げて、真上の俺を見上げて来たサータちゃん。あぁ、可愛いがメッチャ近い!

 

「ルゥパ」

「ひゃ、はい……!」

 

 俺の目を見つめてくるサータちゃんにつられて、真剣になる。少し強張ってるサータちゃんは息を整えてから、口を開いた。

 

「……好きだよ」

 

 …………へっ!? すき? え、今、サータちゃん……好きって、言った!? 俺のコト見て、好きって、言ったの!? ヘェエッ!?

 

「サ、サ、サータチャ……!?」

「……戦ってる時とか、ポーション作ってる時の真剣そのものでカッコいいのも、好きだよ」

「ハ、ハヒ……?!」

「今みたいに、私の前だけだと吃っちゃうとこも、可愛くて好きだよ」

「ナ、ナァニ……ヘェ……??」

 

 衝撃的なことが多すぎて頭が回らない。分かるのは、サータちゃんが俺に好意を寄せてくれてるってことと、サータちゃんの暖かさ。あっあっあっ……! 今、俺、もしかして、サータちゃんから、告白、され……!?

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

「うわ声デカっ」

「あっ、ごめ……!」

 

 興奮しすぎて声デカくなっちまった。ごめんサータちゃん。

 恐る恐る、サータちゃんの背中に腕を回す。見るよりずっと小さい背中に、「守らなきゃ」って強く思った。

 

「お、俺から、言わせてくれる……?」

「! うん、いいよ!」

 

 声も身体も震えて情けない有様なのに、俺のお願いを聞き入れる女神なサータちゃんは肩をきゅ~って上げて、にへぇって笑顔になってくれた。眩しすぎて砂になっちまいそうなのを、唾を飲み込んで堪えた。ど派手に喉鳴っちまったけどな!

 期待でキラキラするエメラルド色のお目々で見上げてくるサータちゃんを、もう少しだけキュッと抱いてから、愛を囁くことの覚悟を決めた。

 

「お、お、俺も、……サータちゃんの、明るくて、優しくて、気遣い屋さんなとこが素敵だと思ってる。そ、それに、料理も裁縫も、散髪まで出来る器用さを尊敬してる。なにより……、か、かわいい、です……」

「う、うん……」

 

 覚悟を決めたくせに、心臓はバックバクだし、口どころか全身ブルブルして声まで震えてるし、言葉のレベルも下がってく。こんなんで告白、上手くいくの? ……でも、もう、後に引けっか!

 

「だ、だ、だから! 俺! サータちゃんが! す、すす……好き! です!」

「~~うん!」

「さ、サータちゃん!」

「はい!」

「俺と、付き合ってください!」

 

 あー言っちゃった、言っちゃった! 気持ちどころか欲までかいた! で、でも好きって言って「付き合って」って言わないの、流れ的におかしいし、これでいいんだよな!?

 吸ったまま息が吐けずに止まって、心臓が耳までせり上がってんじゃねぇかってくらい心音がドッドッドッドッて煩い。勢い余って目ぇ閉じてたら、背中をタンタン叩かれた。だから意を決して、瞼を上げた。そしたら、血色のいい唇をもにょもにょさせてるサータちゃんが、とんでもなく嬉しそうな顔したのが見えた。

 

「勿論! こちらこそ、お願いします!」

「~~~!!!!」

 

 答えが『はい』でビビって声なく悲鳴あげてたら、サータちゃんに笑われた。

 

「私の方が先に好きって言ったのに、断るワケないじゃん!」

「ソ、ソウダケド!」

「も~、両想いなんだから、自信持ってよ!」

 

 両想い。そうか、俺、サータちゃんと両思いなんだぁ……! あー、世界がキラキラして見えりゅ~。

 

 「これ以上は心臓が保たないから」って至極情けない主張をして腕を解いたら、「ルゥパってば、恥ずかしがり屋だもんね」って笑ってサータちゃんも離してくれた。愛しい温もりが惜しい……。

 

 高まりまくった心臓を落ち着かせる為にも、掃除を再開する。下を向いててちらっと視界に入った地下室の扉。トラップドアの上に何も荷物が置かれてないのを確認したら、髪をさっさと箒で集めて、ちりとりに集めて、チリ箱に捨てた。仕上げでもう一度箒で床を掃いてたら、またサータちゃんに呼ばれた。

 

「ルゥパ、あのね……」

「なぁに?」

 

 どうしたんだろ。告白しあって恋人関係になったばっかりなのに、もう不安になったのかな……。うん、俺に至らないトコがあるなら、遠慮なく言ってくれサータちゃん!

 こっちに振り向いたサータちゃんは、不安っていうより、思い詰めた顔してた。な、なんで?

 

「分かってると思うけど、言っとくね……」

 

 いい話じゃなさそうなのは表情から察せられる。思わず息を飲んだ。綺麗なエメラルド色の瞳が、揺らいでる。

 

「ルゥパは、独りじゃないからね」

「……………………」

 

 何を、言い出すのかと思えば。

 確かに、言われないと自覚が足りねぇかもしれねぇけどさぁ。いくらチビの頃に父さんと母さんが死んじゃったからって、別に愛を知らずに育ったわけじゃ無いのに。

 

「大丈夫だって、つか知ってるよ。あれから何年経ったと思ってんの?」

「うん」

「神父さんが言ってたけどさ、身体は太陽に浄化されて、魂は煙と一緒に天に昇った。だから、大丈夫だって」

「……うん」

 

 サータちゃんの表情はまだ晴れない。心配事はこっちじゃない? なら……ネザー関係か?

 

「それに皆、俺にメッチャ良くしてくれるしさ。だからって別に、必要とされたいからポーション作り頑張ってるってワケじゃないよ」

「うん」

「俺は楽しいからやってるだけ。エメラルドと、楽しみと、……皆の笑顔の為に、やってるだけだよ」

「……うん」

 

 え? こっちでもない? じゃあ、何を心配してんの?

 そう思ったけど、俺が考えつく前にサータちゃんが顔を逸らした。

 

「告白が今日だったのはね……不安になったから、なんだよね」

「え?」

 

 こっちを見ないサータちゃんの横顔はひどく寂しそうだった。何が不安かって、そりゃ、うん……。やっぱ、当たってたかぁ。

 

「ルゥパが村にとってどれだけ大事なことしてるか知ってるから、ネザーなんて危ないとこに行かないで、なんて言えない。分かってる。分かってるけど……。いつも、帰ってこないんじゃないかって、不安になるの。……なんだか今日は、特に」

「……帰り、待っててくれてたんだ」

「あっ、当たり前でしょ!? 好きなんだから!」

 

 あぁ、胸が締め付けられる。悲しくて、嬉しくて、切なくなる。こんな心配してくれる、帰りを待ち望んでくれてる人に、俺、さっき、なんて言った? ネザー探索も楽しいっつった? 人の気持ち考えろや!

 

「……ルゥパが、やりがい感じて、楽しそうにしてるのが、せめてもの救いかな」

「え……?」

「不安だよ? ネザーに行っちゃって、その日に帰ってこなかった日とか、怖くて泣いちゃったこともあるよ? でも、ルゥパが嫌じゃないなら、止めることなんて出来ないじゃない?」

 

 俺を心配して、そして配慮してくれる、気遣いの女神。なんて出来た子なんだろう!

 感動で言葉を詰まらせてたら、サータちゃんが「フフッ!」って吹き出して笑ってこっちに振り向いて、それから肩を竦ませてイタズラっ子っぽく笑ってみせた。か、かわっ……!?!

 

「だからね! 後悔しない内に告白しとこって思って! それに、自分のことを待っててくれてる人が居るってちゃんと知ってたら、ルゥパだって引き際弁えてくれそうだしさ!」

「さ、サータちゃん……!」

 

 自らが枷となることで、俺が無茶しすぎんのを引き止めようと……!? な、なんて素敵な枷なんだ!? この枷にだったら俺、首がちょん切られても後悔しねぇや!! ハッ! それを見越して!?

 

「惚れ直しました!」

「え、どこに!? あっはは! じゃあ、ルゥパのことが大好きなサータちゃんが待ってるんだから、遠くに行きすぎないで、毎回絶対に家に帰ってくること! 約束、ね!」

 

 こっちに駆け寄って、顔を寄せてきてのあざとい約束の取り付け。こんなん、首を縦に振る他あるぅ!?

 

 俺、もっと神父さんとこで修行して、全部マスターして、サータちゃんにふさわしい立派な男になってやるぜぇ!

 

 

 

 

 

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