人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
「私の故郷は、私がいない間に滅びました」
背後に4人の気配を感じながら、砂漠のアエデちゃんたちの時にも言った、少しの嘘を混ぜた悲劇を話した。
1人で鉱山に潜って、夢中で鉄鉱石を掘ってたこと。大雨に降られながら村に戻ったら、クリーパーの爆破で荒らされ、村人が皆ゾンビになっていたこと。
息がまだ会った恋人に“治癒のポーション”をかけ、苦しめて殺してしまったこと。
ゾンビに噛まれていたが、まだ意識があった恩師、神父に『ゾンビから人間に戻す方法を見つけてくれ』と頼まれたこと。
……あれから、結構な時間が経ってんのに、まだ涙が出てくんの? 息しづらいから止めてほしいんだけど。
「私は、幼い頃に両親をゾンビに殺されました。その時に私に力が無いから失ったんだと痛感しました。だから、当時村で一番強かった神父さんに弟子入りし、己を鍛え上げました。守りたいものを、守る。そのために。……フフッ、それがどうです? 自分勝手に行動して、私はまた、守れなかった。これじゃあ、何のために強くなったか分かんないですよ!」
うわっ、思ったより声出た。ビックリした。落ち着け俺。吸ってー、吐いてー、涙拭いてー。
「……そんな、俺みたいなバカをして欲しくないから、あの子にはこの村の強い人に鍛えられて欲しいんです。お、私よりずっと、このハナハタ村への愛が強いはずですから。その気持ちを育むのって、大事だと思いません?」
「……そうですね」
「あっ、別に神父さんが村への愛が無かったワケではないですからね!」
「それは、貴方の涙を見れば分かりますよ」
「言い回しが女性を口説くやつ」
「貴方の情緒どうなってるんですか」
確かに。俺何言ってんだろ。反射で喋ってたわ。まぁ、今回はアレよアレ。
「ずっと湿っぽい空気だと、隠れて聞いてる彼らが出てきづらいでしょうから」
そう言いつつ後ろを向いたら、少年2人が驚いた顔して、団長さんと知らない男性は「フム。」って感じで軽く頷いてた。どっちかの父親さんかね。その彼が先頭になって食堂の中に入ってきた。
「いつから、我々にお気づきに?」
「大体、子供らの平和ボケの理由を聞いてた辺りですかね。息を呑む音が聞こえてたので、そうかなって」
「なるほど」
初めて見た顔の男性は俺の横に立つと、手を差し出してきた。俺も慌てて立って握手した。……なんか、弟子志望君に似てる気がする。目の色といい髪の質感といい。どっちもコウモリ色だ。
「はじめまして。私はグロート。この村の村長で、この愚息の父親です」
「そうでしたか」
「息子から話は聞きました。この2人があなたに助けられたこと。そして、息子があなたに弟子入りしたがっていることも。それでぜひ直接あって話したいと思いまして。よろしいですかな?」
「はい、勿論。ただ、その前にちょっとお時間頂けますか?」
「またそれは、なぜ?」
村長さんに聞かれると同時に、瞬きした目からポロっと涙がこぼれ落ちた。
「まだ、情緒が不安定なので。外で気分を変えたいんです」
「……どうぞ」
「まわりの花々が、きっと慰めてくれるでしょう」っていう村長さんの言葉に押されて、俺は一旦食堂の外に出た。恥ずかしいから、あの窓からは見えない場所にまで移動しよっかな。違う花畑も見たいしな。
浴びる風が涼しくて、それで顔が火照ってたことに気がついた。緩やかに吹く風がどんどん身体から熱を取ってってく。あ、コート忘れちゃった。
「クズかよ、俺」
乗り越えもせずに、忘れるつもりか。……でも、この苦しみは、どう乗り越えたらいいんだろう。乗り越えるって、なんだろう。分かんねぇ。……分かんねぇけど、今は人を待たせてる。とりあえず、サータちゃんたちを忘れないようにすれば、いいのかな。
涙が引いて、胸が落ち着いてきたから、食堂に戻った。そういや村長さん、俺と直接会って話したいって言ってたけど、何聞きたいんだろ。多分、師匠として何を教えようとしてんのかとかかな。いや、そもそも何者なんかって話かな。
中に入って席の方を見たら、待っててくれてた少年二人、カヌプとパーデが隣の席から手を振ってくれてた。君ら、特にカヌプお前、キャラ変わったな。
待たせたことを謝って席に戻ったら、前のめりの村長さんが「早速ですが」って鼻息荒く迫ってきた。えっ何。
「ポーションを見せていただけますか!?」
「えっ」
「ドゥンから聞いた話だと、ポーションのレシピを探す為にも旅をしてるとか。是非見せていただけますかね」
「い、いいですよ! はい!」
なんか、予想してたのと違う展開になったけど、やったー! ポーションにメッチャ興味持ってくれる人だったんかー! 趣味合いそうじゃーん!
デザートの皿を避けさせてもらってから、インベントリからポーションを1種類ずつテーブルに出していく。
赤色の“治癒のポーション”
エメラルド色の“跳躍のポーション”
深い海色の“水中呼吸のポーション”
火の色の“耐火のポーション”
闇色の“暗視のポーション”
薄い空色の“俊敏のポーション”
血の色の“力のポーション”
1つ1つ軽く効果を言いながら出した。色はあっても透き通ってるから、窓から入ってくる日光が中身を通過して、木のテーブルにいろんな色の影を落としてた。あっ、綺麗。
「今はこの7種類だけですが、レシピを見つけたので、あと素材さえあれば5つ程種類が作れると思います。この辺りにもその素材を、茶色のキノコを探しに来たんです」
“クモの目”は言うと、なんで狩りが出来なかったんだって話に繋がりそうだったから咄嗟に隠した。ホント俺って、嘘つくの上手になったよな。
それでも、ポーションの話すんのも久しぶり(3年人里に出てないから当たり前)だから、自然とニコニコしながら説明してた。あんまり詳しく細かく話すと厄介がられるからなー! いい塩梅で解説しないとなー! とか考えてたのに、村長さんと団長さんが若干呆れたような顔をしだした。えっ何? 俺なんかやらかした???
「ど、どうされました?」
「……君は、自分で素材を狩って集めてポーションを作れるほど強くても、相手の思惑を考えて会話するのは苦手のようだな」
えっ、村長さん急に敬語なくすじゃハッ!!?
「だ、騙したなぁ!?」
「え、オヤジ、騙したの?」
「別に騙してはない。貴重なポーションにも、それを作れると豪語する彼にも興味があるのは確かだ。が、もう少し自分が何を探られてるのかを考えながら話さないと、相手に必要以上の情報を与え、こちらが不利になることもあるだろう」
「そ、そうですけど……!」
急に声を荒らげた俺に対し、村長さんは至って平常に「お前もやがてこの村を率いていくんだから、相手に足を掬われ、取って食われないように、覚えておきなさい」ってお父さんしてた。うわ俺はっず!! 何が師匠だバカー!!!
「いや、まあ、あれだルゥパ。誰もが完璧ではないし、お前も若い。教えられるものが畑違いってだけだ。気にするな」
「なんで俺が師匠になるのを辞退しようとしてんのバレてんだよ~」
「顔を両手で押さえて俯いてたら、誰だって分かるわアホ」
だって、だって恥ずかしすぎんじゃ~ん! 俺さっきまで自覚できるくらいご機嫌だったのに、それをスカされたし咎められたんだぞ!? 俺ならこんな情けない奴に弟子入りなんかしたくねぇんだけど! あーあっ! さっき風浴びてきて顔の火照り収めてきたのに、ぶり返してきたどころか悪化した!!
恥ずかしくて真っ赤になってるだろう耳に、椅子を弾いて立ち上がる、焦った音が入った。
「や、止めんなよルゥパ兄ちゃん!」
「そうだよ! 先生はいっぱいいた方が良いに決まってるし、カヌプはルゥパお兄さんの“魂”を教わりたいって言ってたし!」
「はぁっ!? ちょ、パーデ、言うなよ!!」
「た、魂……?」
「魂を教わる」って初めて聞いた言葉の並びなんだけど。てかその教わりたい俺の魂ってなんだよ。俺が分からないもの教えられないんですけど。
俺が怪訝な顔してんのが見えたらしい村長さんがテーブルに頬杖をついて、意味ありげに微笑んだ。
「なんでも、貴方の言葉で目が覚めたようでね。守りたいものを守る為には、無茶をするんではなく、力を付けるべきだと確信した。それを貴方の“魂”と解釈したそうだ」
「……お、俺、そんな立派な魂してねぇよ~~~~!!!」
恥ずかしさが限界超えてきたぁ!!! しかも恥ずかしく感じることの角度がそれぞれ違うからメッチャ疲れるんですけどぉ!!! 何?! 貶されたり調子乗って言ったことぶり返されたり! 心臓キツいんですけどぉ!!!
叫んだり恥ずかしがったりとか、色々情けない所晒しまくったのに、村長さん、俺がカヌプの師匠になるのを認めちゃった。いいのか、こんな男が息子の先生になって。って言ったら「素直な青年は歓迎するさ」って。「扱いやすくてポーション作れちゃう人間は便利に使うべき」の間違いじゃないですかねぇ!! そんな事わざわざ口に出して言わないですけどねぇ!?
ひとまず、教えるのは明日から、なんなら村の案内が終わってからってことで話は終わった。デザート(ふれんちとーすとって言うらしい。)を食べきったら、またドゥンさんに村の中を案内された。ハチミツの工房は興味をそそられたし、こじんまりとした教会もあったし、図書館もあった。この村を守る自警団の訓練場もけっこう広い。それこそヘムスタッド村の警備隊の訓練場と、そう変わらない規模だ。
海は無いけど鉄格子越しに見える外には大きめの川があった。畑も広くて、割とこの村の中で生活は完結しそうだ。
雑貨屋で本と羽ペンを買ってから、最後に宿泊施設に案内された。木造で、ガラス窓もいっぱい取り付けられてる。……なんか、他の建物と比べても、スゲーでかかった。なんだこれ。3階建て?
「もしかして、ここも例の彼女が建てた……?」
「よくお分かりで。最初は自分の豪邸にしようとしていたらしいのですが、作ってる最中に『こんなに広くても使いきれん』とか言い出して、方向性を変えたんですよ。今は誰も使ってませんから、部屋は選び放題ですよ」
「ん~、じゃあ、せっかくですから3階の部屋で」
「それはいい。あの高さから見る村は、華やかでいいですよ」
「そっか。俄然楽しみになってきました!」
中に入ったら、フロントに居たここの管理人さんから鍵になる木のボタンを預かって、階段を上った。天井の高さがそこそこあるし、もしかして上がるのちょっと大変?
「あ、今更ですが、流石にここでのポーション作りはご遠慮くださいね。燃やされたら堪ったもんじゃないので」
「え? そりゃ、ポーションはここの教会を間借りさせていただくか、村の外の川の近くでやらせていただきますよ。抽出した後に冷ます工程があるんですけど、それに大量の水が必要なんで」
「なるほど」
機会があったら俺のポーションの作り方を見せる約束をしてたら、3階の、1つだけあった扉へ着いた。え、1つだけ?
予感は当たって、中に入ってみるとめちゃくちゃ広かった。トイレとか洗面台とか収納とかを抜けた先には、右にはソファーが豪華なくつろぎスペース、左にはベッドスペース。そして正面には大きな窓があって一面花畑! うはー! 完全に1人じゃ使わない部屋だわコレ! だってベッド3台あるぞ!? 家族用じゃねぇか! 台所が無いだけで家じゃねぇかこの広さ!
「3階は、この広い部屋だけになっているんです。なんでも、スイートルームだとか。あ、滞在中の料金は勿論頂きませんので気楽にお過ごし下さい」
「は、はあ……」
「1階には大浴場がありますから、是非ご利用を。……夕方からは自警団の団員たちもこぞって使うので、お早めにどうぞ」
「あ、分かりました」
色々情報の整理がついてないけど、ひとまず早めに風呂に入るってのは分かったぞ。何が悲しくて家族用の部屋で1人で過ごす羽目になった後に、むさくるしい男どもとギュウギュウ詰めで風呂に入らにゃならんのか。極端すぎんだろ。
……まぁ、こんなに部屋が広けりゃ、雪玉ちゃんたちものびのびとふわふわ出来るだろうから、丁度良かったって思おうか。
「何か分からないことがありましたら、洗面台の横のボタンを押せば管理人が来ますので」
「分かりました。後は自分でちょっと探検しながら理解します」
「それも楽しそうですね。あぁそうだ。明日も必要でしたら案内しますので、自警団の訓練場へ来てくださいね」
「ありがとうございます。村の外、それこそ鉱山も案内してくれたら嬉しいんですけど」
「いいですよ」
「いいんだ」
流石に危ないとか迷子になるとかモンスターが出るとかで止められると思ってたのに。あぁ、例の彼女が掘り当てたって言ってたから、見て欲しいのかな。尚更楽しみじゃん。
案内を終えたドゥンさんが帰ってからは、宣言通り部屋の中を探検した。けど、すぐに終わっちゃった。部屋が広いのはゆったりした空間の演出なだけで、さほど物があるわけじゃなかったから。面白そうなギミックがある訳じゃなかった。ただ、大きく取られた窓から見える花畑と、それに共存する人の営みは、これだけ広くなきゃ見られない景色だろうなって思った。
それを眺めながら、小さめの木のテーブルに本と羽ペンを置いた。これに書くのは、晴れて弟子となったカヌプへ贈る、物事への心構え。稽古を付けるでもない俺が教えるのは、全ての物事への感謝の気持ち。なぜ家事をしなければならないのか。なぜ農業をしなければならないのか。なぜ村を守らなければならないのか。なぜ・なぜ・なぜ。理由が分からなければ、人は物事への対応がおざなりになってしまう。だから、知っておかなければならない。
……まあ、この村にも聖職者さんがいるんだし、多分もう教わってんだろうけど。でもあの子は“俺”に教わりたいって言ってんだもん。じゃあ書くしかねぇよな。
「……」
書けば書くほど、神父さんのことを、ヘムスタッド村の皆のことを思い出す。幸せだった頃を思い出す。そして、反省する。
「最近、俺、感謝してたか?」
全部1人でこなしてたつもりに、なってなかったか? その恵みは自然が与えてくれたものなのに。そもそも、雪玉ちゃんたちが手伝ってくれなかったらもっと苦労してたハズじゃん。畑仕事が、採掘作業が、海を越えたのが無事で終わったのは、雪玉ちゃんたちのおかげじゃないか。
「俺も、まだまだ精進したりねぇな」
書き終わったら、雪玉ちゃんたち一人ひとりにちゃんとお礼言おう。遅くなってゴメンな。ありがとう。君らが居なかったら俺、ここまで来れてません。