人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
心構えの書き留めなんか、後からいくらでも思い出しちゃうから1日で終わるワケない。だから良いトコで切り上げて、大浴場で汗を流して、食堂で肉中心の夕食を食った。部屋で雪玉ちゃんたちと遊んだり改めてお礼言ったりしたら、久しぶりのベッドで寝た。
起きて身だしなみを整えたら、2階の食堂で朝食を摂った。焼きたてのパンが2個にバター、牛乳にカボチャスープにサラダと、バターが香る緩い炒り卵(すくらんぶるえっぐって言うらしい)の大体5点。「急だったからこれくらいしかおもてなし出来なかった」って管理人さんに言われたけど、食べなくていい体にはこれでも充分だから構わなかった。てか昨日の時点から良い感じだったのに。べ、別に、広い部屋で一人ぼっちで食べてるからって、寂しくなんかないんだからね!
食べ終わったあとは、この宿泊施設(ほてるって言うらしい)の管理人さんがちょっと忙しそうにしてたから、昨日案内された自警団の訓練場にまで、全力疾走した。
太陽はとっくに空に登ってるから、村人さん皆起きてた。だからドタバタ走ってりゃ人の注目を一心に集めるし、それでドゥンさんが屋外の訓練場横の建物から顔を出した。丁度よかったぁ!
「ドゥンさん!! 色々と気になるのがあるんで、説明お願いします!!!」
「わ、分かりましたから、声を抑えて!」
「はい」
「す、素直だ……」
そりゃ、素直になりますよ。早く、あの理解不能なギミックたちの解説をして欲しいからな!
着替えたり資材を仕舞う場所っぽい建物から出てきたドゥンさんの手を引いて、ほてるに逆戻りした。この建物、一目じゃ分からんギミックあんぞ!! めちゃくちゃ仕組みが気になる!!! 簡単に飽きる気がしねぇ!!!
ホテルに入って右側が客室ゾーンで、左側が風呂とか食堂とかのゾーン。俺は迷わず左に曲がって、1階の大浴場にドゥンさんを連れてった。
照明とか料理とか、気になるのは色々あるけど、まずは風呂だ!!
大浴場つったって、大釜でちょっと熱めに沸かしたお湯を石の浴槽に流し込んでんだろって思ってた。でも実際に入ってみたら、そうじゃなかった!
浴槽の形は不思議で、段々畑みたいになってた。今は風呂が開いてる時間じゃないから水も入ってないけど、俺が見たときはこんなだった!
1段目で水が湧いてきてて、2段目でもくもく蒸気が立つ程沸かせられて、3段目でもっかい水が足されて丁度いい温度になって、4段目でやっと俺らが入れるって感じ。こんな仕組み、俺見た事ねぇよ!
「これ、どういう仕組みっすか!? こっちから湧き出る水はぬるかったのに、2段目で沸く理由が分かんないんすけど! この下で焚き火でもしてるんすか!?」
「ええ。焚き火をしてるんです」
「嘘じゃん!!?」
「信じられないようでしたら、実際に見てみましょうか」
「えっ、み、見せていいんです?」
「ええ。別に秘密でもないですから」
「大掛かりですし、コストが高いので個人利用は出来ないでしょうから」って言いながら、ドゥンさんが大浴場から出て行くから、それについてった。案内してくれるドゥンさんの背中を追いかけてたら、ホテルのカウンター裏に回って、更に作業員さんたちの待機所っぽい部屋に入って、またそこから更に奥に繋がる扉をくぐった。
確かに俺は個人だしどっかの村の人間じゃないけどさぁ。この仕組み作ったの、例の彼女だろ? 俺が彼女と同じことしないとも限らないのに──いや、それなら彼女自身が他の村で広めてるか。杞憂だったわ。
扉をくぐると、地下へと向かう階段が現れた。格子状に光が差してたから、換気用に隙間が空いてんのかな。それでも暗くて、階段を降りるには怖かった。暗視のポーション欲しい。って思ってたら、ドゥンさんが扉横のレバーを下ろした。そしたらバッ! と通路が照らされた。そう! これも気になるやつ! なんでレバーでランプの中の火が付いたり消えたりすんの!? そもそもこのランプ、火なの!? と、とりあえず、先に2段目の水が沸く秘密を見に行こう。
さほど急でもなければ距離もない階段を下りたら、入った時に感じてた熱気を更に強く感じた。右側に薪が積まれた通路の奥には暗い色の木で出来た扉があった。
「この先が、大浴場の浴槽の湯を沸かす場所になります。今はマシでしょうけど、煙たいので、こちらを」
「ありがとうございます」
渡されたのは、白くて小さめのタオル。ドゥンさんに習ってそれで口を押さえたら、彼が扉を押し開けた。言われた通り中は煙たくて、若干煤が壁とかにこびり着いてる気がする。ここも格子の換気窓が付いてるみたいだけどやっぱり暗い。何より石の圧迫感がある。なんだろうって目を凝らしてたら、ドゥンさんがまたレバーを下ろして明かりを点けてくれた。
「おおっ!?」
明かりが付くと正体は直ぐに分かった。これ、段々畑状の石の浴槽の下部分だ。この上が大浴場になってんだな。
石の浴槽の下は段々に合うように石が積まれてて、その隙間を覗き込むと、2段目と3段目、4段目(皆が入るところ)に焚き火台があった。なるほど、ドゥンさんが言ってた通り、この下で直接沸かしてたんだな。2段目は石と近いからけっこう強火で、3段目と4段目は離してるから保温くらいの気持ちで火を焚いてたのかな。
レバーと照明のあの不思議さがあったから、てっきりここでも俺の知らないテクノロジーでやってんだと思ってたけど、案外古典的。
「ドゥンさんの言ってた通りですね。これで、あの量があったまるもんなんですね」
「実質温めるのはこの2段目だけで、3段目で水と混ぜて丁度いい温度にしつつかさ増しする仕組みですからね。おまけに石は熱を蓄えてくれるので、一度温めたら長く保温してくれるところも便利ですね」
「へぇ……知らなかった」
こんな簡単に、しかも大量に湯が沸かせられんなら、冬の水浴びでも体の芯まで温まれたろうに。ヘムスタッド村に居た頃に気付けたら、もっと冬が好きになれたかもなぁ。
後で実際に温めてる所を見せてもらう約束をしたら、次の話に移ることにした。俺はこの部屋にもある四角い照明を指差した。見れば見るほどオシャレな柄してんなぁ!
「ドゥンさん、次はこの照明のことなんですけど。これどうなってんすか!?」
「それもまた、仕組みがよく見えて分かる場所で説明します」
「あ、はい」
やっぱり気安く見せてくれんな。これも大掛かりなんか? だとしても、メッチャ興味湧くから別にいいんだけど!
次にドゥンさんに案内されたのは、客室ゾーンの3階、の上。つまり天井裏。廊下の天井に付いてるトラップドアを開けて、ドゥンさんがインベントリから取り出したハシゴで上った。上った先は屋根が低いし、窓が無くて暗かったから、それぞれインベントリからランタンを出して辺りを照らした。成人男性がギリギリ立てるかどうかの高さで、ランタンでも照らしきれないほどの空間がここには広がってた。
「アレ? ……えっ、なんで?」
空間にあるものをよく見たら、火が消えてる松明があった。消えてんのは別にいいけど、それじゃなんでこの暗い空間に松明があんの? 明るくしないなら松明の意味無いし、そもそもこの空間は何? ここにあの四角い照明の秘密があんの?
「ん? なんだ、この赤い……粉?」
「あ、それには触らないでくださいね。うまく動作しなくなってしまうので」
「ど、動作?」
「今、レバーを引いてきますので、ここでお待ちください」
「は、はぁ……」
粉ごときが動作に関係してるって……? なんで??
1人暗い部屋に残されて、何か動きがあるまで動くなって言われた。仕方ないから下にあるものしゃがんで観察しとこ。
ランタンの火の光に照らされてるのは大きく分けて3つ。あの四角い照明と、火が消えてる松明。それからこの赤い粉。一列に並んだ照明のすぐ横に線になるように粉が敷かれてて、俺らが入って来た側に火が消えてる松明が立ってた。
「ん? なんかこの松明、先っぽ赤くね?」
なんでだ? 松明って普通、木の棒と石炭か木炭かで作るから、先端は黒いハズなんだけど……。
何で出来てんのか見極めようと顔を近づけたら、ピカッ!!っていきなり赤く光って目が焼かれた!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
……ハァ゛ーア゛ッ!!
目が光に慣れて、体の震えが収まってきた頃、ドゥンさんが戻ってきた。あ゛? 何笑ってやがんだお゛ぉ゛ん? テメェが大声で予告もしてくれ無かったから、ハッ! まさかお前、わざと!?
「いやぁスミマセン。気遣いが足りませんでしたね。聞こえてましたよ、叫び声」
「う、うるせぇ!」
「予告しなかったのは謝りますよ」
「光るっていうのを言わなかった事も謝れ!」
「そこは照明って分かってて警戒しなかった貴方が悪いでしょ」
「ぐぅ……!」
……気付いて、無さそうだな。良かった。いらん気ィ遣わせることにならなくて。何でトラウマ刺激されっか、分かんねぇもんだな。
立っても頭ぶつけかねないからしゃがんだまま、ドゥンさんから説明を受けることになった。改めて空間を見ると、下に埋まってる四角い照明のおかげで、一番奥の壁まで見えた。そして、その照明の隣の赤い粉も、消えてたはずの松明も真っ赤に光ってた。熱くは無かった。……なんで、光んだ?
「この赤い粉はそのまま“レッドストーンダスト”。地中深くから取れる鉱石で、石の中にある頃から少しの衝撃で光っています」
「えっ!? もしかしてあの、ラピスラズリとかダイヤモンドと同じ深さで採れるあの赤い石っすか!? そうなんだ、ただ衝撃で光るだけじゃないんだ……!」
「知ってたんですね」
「そりゃ、まぁ。ポーションの素材にしても失敗作にしかならなかったんで、興味なかったんすけど、まさかこんなところで……!」
驚いてたら、ドゥンさんの目が呆れたものになってた。どこまでポーションに狂ってるんだって? いや~そんなに褒めても何も出ないっすよ★
「とりあえず、これはそのレッドストーンダストの光る作用を利用した照明……とのことですが、私にも詳しくは分かりませんし、恐らく“彼女”も分かって無かったと思います。ただ、使えるから使ってたってだけで」
「ええ……」
なんか急に話が適当になるじゃん。……いや、よく考えたら俺だって、よく原理を分かってないものを扱ってるわ。ブレイズロッドとかパウダーとか、グロウストーンダストとか。うん、“彼女”のことを残念に思う権利なかったわ。
「そして、このレッドストーンダストを使って作られたのが、こちらのレッドストーントーチとレッドストーンランプ。こちらはドアやトラップドアと同様にレバーやボタンのような入力装置と連動して切り替わるので、室内の照明に取り入れたそうです。
「なるほど~。松明とかランタンだと一々火を消したり点けたりしないといけないけど、これなら夜中でもレバーで簡単に付けられて、トイレに気軽に行けますもんね。俺も昨日お世話になりました」
ランタンとかならインベントリにしまえば明るいも何も無いからアレだけど、本来だったら金出してんだもんな。ちょっとでも楽できる方がいいもん。だとして。
「この、れ、レッドストーンランプ? もトーチもどうやって作られたのかも気になりますし、ドアやトラップドアと同じってことはレバーは近くにないといけないハズなのに、離れてても動作する理由も知りたいっすね」
「そうですか。それなら、こちらのトラップドアから下へどうぞ」
「うえっ、こんなトコにまたトラップドア?」
気付かなかった。俺の後ろ、丁度レッドストーントーチ? ってやつの真横に木製のトラップドアが。整備しやすいようにって開けてあんだろうな。それを上に開けばハシゴはかけてあって、ドゥンさんに促されるままそれで下りた。ドゥンさんは部屋に戻ってレバー動かしてくるって。
「んん?」
降りる最中から気になった。俺の胸の高さから始まる違和感は、1mごとに木のブロックがあって、その上に例の赤い光を放つ松明が刺さってた。上下に1本ずつ、2本が。ただ、下の1本が光ってて、上の1本は消えてた。なんでそうなってんのか分かんなくてよーく観察してたら、右隣からゴンゴンって強めにノックされてびっくりした! だ、大丈夫!? 松明壊れてない!?
装置を壊してないか不安がってたら、その壁の奥からドゥンさんの声が聞こえてきた。ただ、何言ってんのかまでは聞き取れなかった。ここでこんなに聞こえねぇんだから、もう1つ壁を挟んだら音漏れしないだろうなって考えながら、こちら側からも強めにノックした。
すると向こう側からレバーを上げるカコンッて音が聞こえて、下の段のレッドストーントーチが光を失った。そしたら今度は木のブロックを1つ挟んだ上にあるトーチが赤く輝いた。なぁにコレ。
レバーと連動するって聞いてたから、それの位置にある下段のトーチが消えるのは分かる。でも上が点くワケが分からん。天井裏に戻れば、俺が見てたトコだけ1列照明が消えてた。
うわぁ~! このわっけ分からんコレ、分かるようになりてぇ~~~~!! 原理なんて聞いても誰も分かんねぇだろうし、なら、どういう動きすんのかだけでも遊んで理解してぇ~!
天井裏から廊下に戻ってきた俺を見たドゥンさんが、ニコニコ笑ってた。俺がワクワクしてんの、伝わっちゃった?
「ルゥパさん」
「はい?」
「
「!! 勿論!」
やっぱこの人、俺と同じだわ! 知らねぇモン見てワクワクして、どうにかして手に入れて、遊びたがる人だわ!
右手差し出して握手求めたら、力強く応えてくれた。やったぜ!