人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
レッドストーンのトーチとランプの作り方は、レッドストーンを採掘した後で作りながら教えてくれるって。だからこれから鉱山を案内してくれるって話になった。それで直ぐに向かおうとしてホテルの外に出たんだけど、その入口前で弟子志望君、もといカヌプが、姿勢良く立って俺のことを待ち構えてた。目力つっよ。
「おはようございます、師匠!」
「お、おはよう。昨日俺が言った家の手伝い、ちゃんとやってきた?」
「はい! 朝のうちで任せられるやつは終わったって言われたんで、師匠への挨拶済ませたらスターク兄ちゃんのトコ行って鍛えてもらってきます!」
ハキハキと大きな声で報告してくれるカヌプ。懐かしいなぁ。俺も神父さんの弟子になりたての頃、こんなふうにバカみたいに全身に力入った態度してたわ。
「そっか。やる気があるのはいいことだ。でも、無理だけはしないこと。力の切り替えをすること。長続きしなきゃ、意味無いからな」
「はい! それじゃあ行ってきます!」
俺の「いってらっしゃい」の声を聞くか聞かないかで、カヌプは俺から見て右に、自警団の訓練場がある方面に向かって走ってった。
「……あいつ、大丈夫か?」
「あのやる気の出し方は、長続きしないタイプですもんね」
「っスよねぇ」
……身体を鍛えるばっかりだったり、手伝いしかしてなかったら、ちょっと小言言ってやんねぇとな。こういう時、てかあの時の神父さん、なんて言ってたっけかな。
「……」
だから神父さん、お茶目してたのかな。ウインクしたり、下手なダジャレ言ったり、遊ぶのも一生懸命になってくれたり。説教臭くなるのを、嫌って。なるほどなぁ。なんで今になって気付くかなぁ。
ドゥンさんに付いて行くまま、村のはずれに来た。花畑も家も店も、畑も牧場も無い、ただの原っぱに、丸石で組まれた小屋がポツンと建ってた。屋根まで丸石で平たくて、なんか、異様。
「ま、まさか、この下が……?」
「はい。この下が採掘場です。といっても“彼女”が昔掘り当てた鉱脈で、大多数の村人は勿論、炭鉱夫にとっても道が険しいので、彼女がいなくなってからは滅多なことでは入らない場所になりました」
「待って??? そんな危ないトコに俺を案内すんの???」
「だってルゥパさん、強いんでしょう?」
「見てないくせに信頼してんじゃねぇよ」ってつい口から出そうになったけど、ここで言い合いになってなんかボロが出ても困るから、不機嫌そうに溜め息吐くだけに留めた。それ見たドゥンさんは上品に口に手を当てて笑ってた。このヤロウ。なんか神父さんに似てんのやめろ。
「それに、私たち自警団員たちが足腰を鍛える為に入ることは割とあるので、ちゃんと丸石の階段で整備されてるし湧き潰しも徹底されてます」
「なんだ、思ったよりちゃんとしてた」
「でしょう? さて、マグマも湧き出す深さまでありますから、まだ掘られていないレッドストーンを採掘しに行きましょう」
「行きましょ~」
炭鉱夫さんのお休みの日にでも、今稼働してる鉱山の見学に行かせてもらお。そう計画しながら、とうとうこの異質な小屋の扉をくぐった。
子供たちが入らないようにってボタン開閉式になってる鉄扉を開けてもらって入ったら、いきなり目の前に地下へと続く穴が空いてた。「整備されてる」の言葉に偽りなく、足場は階段状になってて、大人でも4人は通れるくらいに広い通路の壁の右側には規則正しく松明が刺さってる。おかげで暗くはないんだけど、深すぎてここからじゃ底が見えない。いや、よく見たら幅広めに作られてる段があんな。じゃあまっすぐじゃないから底は見えねぇか。だとしても、階段状で洞窟よりは危なくないとはいっても、転がり落ちたら勢いでそのまま底まで止まれなさそうなのは怖いわ。
そんな俺の恐怖心を知ってか知らずか、ドゥンさんは先に立って丸石作りの階段を下りてった。容赦ない。いや、慣れてるって言っとくか。
トコトコ足音を立てながら石階段を下りていく。木の手すりがあるからまだマシだけど、コレ下に吸い込まれていきそうでホントに怖いな。ダイヤモンドが採れる深さってなるとまだまだ下りなきゃなのが憂鬱だな~って思ってたら、左側に横穴が現れた。
「これは……? あっ、鉄とかエメラルドを掘る為の穴か」
「それと銅も。元は村の周りを囲む鉄柵の為の採掘場でしたから」
「なるほど」
ってことは、ここみたいに足場が広めに作られてるトコにはもれなく横穴が空いてるってことか。ハナコさん、効率的なことが好きな人だったんだな、きっと。
入ってみると、1本まっすぐ道が伸びてて、左右に一定の感覚でまた横穴が空いてた。なるほど、これで地中に埋まってる鉱石を掘り当てるのか。几帳面な欲張りさんだなぁ。
「この採掘方法のことを、彼女は『ブランチマイニング』と呼んでいました」
「ぶらんちまいにんぐ」
「もっと効率的な方法もあるらしいのですが、それはメンドくさかったからしなかったらしいです」
「????? こ、効率が好きなのかどうなのか、ハッキリしないっすね」
「ね」
下りていけば行くほど、空気が冷たくなってくる。松明があっても周りの石が冷たいままだからか、生物がいないからか。肌寒さに身震いしてたら、何度目かの横穴で今まで見かけなかったものが目に入った。
「え、作業台と、かまど?」
「ええ。このあたりからこの2つが時々見えてきます。一々地上に戻って精錬するのが面倒くさくなったらしくて、インベントリの容量を空ける為に使っていたらしいです」
「仕事熱心なのか横着なのか」
「一時はここにベッドを置いて仮眠を取っていたみたいです」
「なんか、狂気すら覚えるわ」
回収すらしてかなかったのは、やっぱりインベントリを圧迫しない為か。効率が好きっていうか、効率しか考えてなかったんかな。いや、メンドくさいだけか。“彼女”が残したものを見て解説を聞くたび、人間味を感じて楽しくなるな。いや人間なんだけど。
「ん?」
他にもなんか面白いもんあるかなって探検しに横穴に入ったら、奥に丸石で出来た空間を見つけた。
これまでの横穴は一本まっすぐ道が伸びて、そこから枝分かれする感じでまた左右に横穴が空いてた。のに、この作業台とかまどがある横穴にはイレギュラーが。ドゥンさんに言って更に奥に行ったら、思ってた以上に広い空間があった。階段ブロック2つ分床が低くて、壁も天井も床も、空間全体が丸石と苔むした石で出来てた。この採掘場の入口になってる小屋みたいに。上のは綺麗だったけど。
丸石って、一度割らなきゃそうならないやつだから、それで作られた空間なんてほぼ人工物のハズ。なんだけど、それなら、めんどくさがりながら効率を考える彼女・ハナコさんが、わざわざ2段も床を下げるか? なんでそんなことをする? スゲー違和感。
「あれ? なんだコレ」
悩んで下向いてたら、角ばった黒い何かが床に転がってんのを見つけた。しゃがんでソレを手に取ったら、ボロッと崩れて粉になった。右手についたその粉を左手で仰いで匂いを嗅ぐと、なんか鉄臭かった。こんな黒い鉄、あるか? あったとして、これ、何だったんだ? ハナコさんはここに、何を置いてたんだ?
「ドゥンさん、ここって彼女、何に使ってたんですか?」
「さぁ……。私たちが入るようになったのは彼女が使わなくなってからですから。食堂で話を聞くことはあっても、直接見てたワケじゃないんです。ただ、今は塞いでいますがこの奥は小さい洞窟になっているので、その攻略拠点にしていたのではないかと。それはここより更に低い位置なので」
「……なるほど」
……なんか、しっくりこねぇな。
探ってもそれ以上何も無かったから、考えるのを切り上げた。さっさと階段で下に降りたら、底はマグマがボコボコ湧く洞窟に繋がってた。燃えるような熱気ムンムンだわ~。
「あっつ~」
「え? ネザーで慣れているんじゃ?」
「向こうに行くときは必ず耐火のポーション飲んでくんで、まぁ入んなかったらいいんで、大丈夫っすよ」
「入ったことが……?」
「落ちたことありますよ。装備も全部溶けて全裸になりましたねその時は」
「知ってましたけど、ポーションって、ホントに凄いんですね……」
「その分素材がすごいコスト高いんすけどね」
「そうなんですよね……」
あの時の落ちる恐怖と服と装備が溶かされる恐怖は忘れられない。より一層バランス感覚養う修行に身が入ったね。そういや最近やってねぇな。やるか。
てかこの洞窟、かなり大人しめだな。酷いと道を塞ぐようにマグマが吹き出し流れてることも……、って、壁の窪みに松明刺さってんじゃん。これって、吹き出してるマグマ源を潰した跡、だよな。ドゥンさんに聞いたら「最初からこうだった」って言ったし。ハァ~、ハナコ様様さまだわ~。
本当に危険なところだけは整備してくれてるハナコさんに感謝しながら、叩くと光るレッドストーン鉱石を自分である程度掘って、地上に戻った。ハナコさん、ダイヤは目ざとく採掘したんか、マグマ溜りの近くにはいくつか不自然な穴があって笑ったわ。彼女もダイヤ装備なんかな。
地上に戻ったら、お天道様がテッペンに登ってた。朝からだいぶ経ってるらしい。まぁあんだけ深くまで潜ってりゃそうなるわな。で、ドゥンさんがまた昼ご飯に誘ってくれたから、昨日と同じ食堂で食べた。今日はジンギスカンだった。
食べ終わったらレッドストーンダストをふるいにかけて不純物を取ろうって話をドゥンさんとしてたら、息を乱したカヌプが食堂に入ってきた。
「師匠! 今日の訓練終わりました!」
「おっ。お疲れ」
「はい!」
肩で息するカヌプは、朝挨拶に来てくれた時と変わらず気張ってた。手伝い中も訓練中も、ずっとこんな感じだったんか? オイオイ。ダラダラやんのは勿論良くないけど、ここまで気ィ張り詰めんのはもっと良くない。……これ、放っといたらダメなやつだよな。
「カヌプ、お昼ご飯もう食べた?」
「や、これから家に戻って食べてきます! その後はまた手伝いしてきます!」
「そっか。なぁ、いつもは遊んだりしないの?」
「いつもは……。洗いもんとか、餌やりとか終わったら、パーデと遊んでます」
普段からお手伝いは頑張ってんだな。偉いじゃん。
「なるほど。じゃあいつもの手伝い、仕事? が終わったら、ホテルの前においで」
「!!! そ、それって!」
あ、変に期待させちゃったわ。目をキラキラさせてズイッと寄せてくるカヌプの顔の前に手を出して押しとどめる。ゴメンて。
「俺の鍛え直しついでに、俺とも遊んでくれや」
「あ、そぶの……?」
「もー。気晴らしも切り替えも大事なんだぜ? ずっと気ィ張ってちゃ、疲れて嫌になっちゃうからな」
「い、嫌になんか」
真面目に困った表情のカヌプの顔の前で、両手を合わせて頭を下げる。
「頼むってぇ。俺1人じゃ、他人の目が気になって気楽に遊べねぇんだよ~」
「本音はそれですか」
「あ、ドゥンさんもどうです?」
「ええ、ぜひ。……大人2人でも遊ぶのは外聞的に恥ずかしいので、カヌプ、私からもお願いします」
「さっきまで2人で地下に潜ってたクセに?」
「ひ、他人の目が無いですから、あれは」
「てか俺が仕事してんのに、なに遊ぼうとしてんだよドゥン兄ちゃんは」
「ぐっ!!」
「どぅ、ドゥンさんも今日はサボりたい気分なんだよ! お願い、カヌプ~!」
「え~……?」
言い返してたカヌプだったけど、唇をちょっとだけ尖らせて唸った後、「分かった、遊ぶ!」って頷いてくれた。息はすっかり落ち着いてた。
「それじゃあ、えっと、大体2時間後に!」
「分かった。楽しみにしとけよ~!」
「はい!」
最後に元気よく受け答えたカヌプは俺らに頭を下げてから、お店の人たちにも「おじゃましました!」って頭下げて帰ってった。
窓からカヌプの背中が見えなくなってから、ドゥンさんに向き直った。
「付き合ってくれて、ありがとうございました」
「いえいえ。私自身が気になっただけですよ」
謙遜するドゥンさんは上品にナイフとフォークでジンギスカンを切って、頬張った。
遊びへの誘いを頑固に断るカヌプには、優しい言葉でかつ理論で詰める神父さん的アプローチ(※あれが理論的だったかどうかは審議しない)じゃなく、下手に出る方が効くと考えた。パーデにおねだりされて村の外に出ちゃうようなカヌプだから、“お願い”に弱いと思ってそこを突いたら、思った通り。ドゥンさんもノってくれたから、すんなり誘いに乗ってくれたわ。
「それで?」
「はい?」
「ですから、午後は彼らと何をして遊ぶんです?」 ご自身の鍛え直しのついでと言ってましたけど」
「ああ……。それについてはお楽しみってことで」
真面目に気になってくれてたのか。嬉しいなぁ。ただ監視の役割果たす為だとしても、な。てか案外普通に一緒に遊んでくれそうこの人。
「ところでドゥンさん」
「なんでしょう」
いつか、ヘムスタッド村の同年代たちと一緒になってやった、遊びつつの特訓方法を脳裏に呼び起こす。それで必要だったものを整理しながら、ドゥンさんに尋ねた。
「近くに、少し深めの湖か、滝壺なんかはありませんか?」
ちょっと大事かもしれないけど、でもやっぱりどうでもいい小話
通貨に使われるほどだから、エメラルドは山岳地域以外でも採れる設定です。そうじゃないとワケ分かんなくないっすか??? 村人さん皆どこから取ってんの?