人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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23 鍛え直し

 ドゥンさんに案内された先は、朝行ってきたばかりの階段状採掘場の更に奥。深さはさほど無いけどまぁまぁ広い湖があった。

 驚くべきは、その湖を横断するようにかけられた、鎖。3段階に高さがあって、1番下の段は子供が渡ってもあんまり怖くなさそうだった。

 

「そうだったわ。この村にも聖職者、居たわ」

「やっぱり、この修行場を作ろうとしていたんですね」

「やっぱりってことは、ここも自警団さん使ってるんすね」

「ええ。バランス感覚を養うにはこれが一番ですからね。ほら、そこには砂場の上に飛び石を設けて、ジャンプ力を養う場所もありますよ」

 

 ドゥンさんが指さす先には確かに砂場と、いくつか高さがバラバラな石の足場があった。この調子だと、いつか神父さんに用意してもらった特訓場、全部この村にもありそうじゃね?

 

「ってことは、あの2人に新しい遊びが提供できねぇってことじゃん」

「人間、考えることは一緒って事ですね」

「ハナコさんに習って、俺も伝えてやろうって意気込んでたのにー」

 

 さっきドゥンさんに『お楽しみってことで』とか言っちゃったのが恥ずかしいわ。でも、よく考えれば直ぐに気付いたことなんだよな。

 ここの人たちはポーションの価値をよく知っていた。それに聖職者さんの姿は見てないけど、教会自体は見かけてた。十字架のシンボルの旗も入口に掲げられてたから間違いねぇ。

 ってことは、この村でポーションを作ってる聖職者がいて、自分を鍛えるついでに村人にも特訓場を開放してても、何もおかしな話じゃないってことなんだよな。神父さんとまるきり一緒じゃん。子供でも遊べる場所作ってるトコとか、まさに。

 

「んー、じゃあどうしよう。カヌプのこと待ってる間にこれ作ろうって思ってたのに」

「別にいいんじゃないです? 自分を鍛え直すつもりだったんでしょう? 修行して待ってたらいいじゃないですか」

「たしかにー。あ、レッドストーンは自分でふるいにかけとくんで、明日またランプとトーチの作り方教えてください」

「いいですよ。さて、私も渡りますかね」

 

 腕を上げて背伸びしたドゥンさんが、上着を脱いだ。濡れない為? それとも軽量の為? それじゃ鍛えたことにならないっすよ?

 

「ふーん。落ちる前提なんすね」

「は? いいぞ、やってやんぞ」

「煽り耐性低すぎん?」

 

 何気なく煽ったら、ドゥンさんの口調がメッチャ崩れてガン飛ばしてきた。キャーこのギャップ好きな人たまんねぇだろー!

 上着どころかインベントリから引っ張り出した鉄装備まで全身しっかり着込んだドゥンさんは「お先に失礼しますね」って俺に言って鎖渡りの柱に向かった。彼が選んだのは3段階ある高さの中で一番高い柱。あの梯子を登ってくのも、ちょっとした訓練になりそ。

 登りきったドゥンさんは両腕をピンッと広げて、胸張って、鎖に足を乗せた。周りに高い樹は無いのに風は穏やかで、他の段の鎖も揺れてない。だから難易度はさほど高くないだろう。けど。

 

「ふっ……! うぅ……っ!」

 

 ドゥンさん、これ苦手なんかな。メッチャ必死な顔して渡ってる。バランスを取る為に左右に広げた腕は水平を保てず、鎖は自身の重みでたわんで揺れて、その上を歩く足はプルプル震えてた。でも、よく堪えられてんじゃねぇの? だから、ちょっとイジワルしてやろ!

 

「ドゥンさーん! この湖ってー! 自然にあったやつっすかー!? それとも! 作ったんすかー!?」

「っ!?? つ、作ったものだそう、ですー!!」

「そうなんですねー!」

 

 俺の質問に答えてくれたドゥンさんはバランスを取る為に両腕をグワングワンさせた。鎖も大きく左右に揺れとりますわ。頑張ってんなぁ。

 

「誰がつく「い、今! 話しかけないでっ!!」作ったんですかー!」

「だ、だからぁ!!」

 

 俺からの質問を悲鳴をあげつつ拒否して、頑張って鎖の揺れを抑えたドゥンさん。そのまま歩き出した彼は俺の邪魔が無くなると、案外すんなりと渡りきった。あーあ。落ちないんだったらもっと邪魔しちゃえば良かったなー。一応、拍手しとこ。

 ハシゴで降りてきたドゥンさんが、むすっとした顔でこっちに向かってきた。

 

「そんなに怒んなくてもいいじゃないっすか!」

「ふ、ふざけるのは私が薄着な時にしてくださいよ! 危うく落ちるとこだったじゃないですか!」

「落ちても大丈夫なようにって、人工的に湖作ったんでしょ? ならいいじゃないっすか」

「その水に濡れたくないんです!」

「その気持ちがまたバランス感覚養うキッカケになっていいんじゃないっすか?」

「……トーチ光らせて目を潰したこと、まだ怒ってるんです?」

「さぁ、なんのことでしょう?」

 

 トラウマ刺激されたことなんて、すっかり忘れてましたよー? ……なんてふざけるのも、ここまでにしとこう。

 俺の纏う空気が変わったのを一瞬で察知したらしいドゥンさんの顔が、引き締まった。

 

「イジワルをしたのは、これも1つの訓練方法だからです」

 

 イジワルってのはドゥンさんの言った通り、話しかけて集中力を切らせること。だって、練習を重ねた人が集中したら渡りきるのは当たり前のことじゃん。でもそのバランス力が求められるのは、モンスターがいる時。そんな命の危険がある時に細いとこを渡ることだけに集中するなんて出来ないだろ? だから、肝心な時に心を惑わされることの無いようにってことで、邪魔してやったんだ。

 っていうのを、ちょっと言葉足して説明したら、ドゥンさん、目ェ伏せちゃった。

 

「いやはや……、お恥ずかしい限りです」

 

 ヘルメットを外すドゥンさんの声は、震えてた。

 

「普段の訓練でも似たような事はしていたはずなのに、それをしてくる人間が変わるだけで簡単に心乱されて……」

「……そういうもんっすよね。俺もそういう時期がありました。まぁ、だから、いい経験になったと、『いつだって油断しきっちゃいけないってのが分かった』ってことにしときましょ」

「……ありがとう、ごさいます」

 

 困ったような笑顔を浮かべて、ドゥンさんは俺に礼を言った。や、単に慰めたわけじゃないのよ。俺も昔、訓練中にサータちゃんにいきなりお茶に誘われて惑わされて、神父さんにこってり絞られたんだよな。『その油断が君を殺すんですよ!!』って。その通り過ぎて泣けもしなかった。泣いたけど。

 あの時のいたたまれなさをドゥンさんも今、同じように感じてるだろうから、それを少しでも和らげてあげたくて。あと空気を悪くしたく無かったから慰めたんだ。

 さて! 思い出してちょっと沈んだ気持ちを切り替えてこう!

 

「じゃあ次は俺の番っすね! 質問、渡る時に遠慮なくどうぞ!」

「えっ、あ、はい……って、なんですかそのっ」

「だから、鎖を渡る時にしてくださいって!」

 

 鎖渡りが出来る柱の中でも一番高い柱に向かいながら、インベントリから自慢のダイヤ装備を引っ張り出してパッと全身装備した。初めて防具鍛冶屋のおっちゃんからこれを見せてもらったとき、ビックリしたわ。職人魂って、込もれば込もるほど、不思議な揺らぐ煌きが強くなんだな。これ着てるだけで強くなれる気がすんだよな! しかも実際強い!

 柱のはしごを登りきったら、揺れがすっかり落ち着いてる鎖の上に足を置いた。おっと、たわむなぁ。なつかしー。

 

「そのダイヤ装備、どうしたんですかー!?」

「これは、俺の村の防具鍛冶屋のおっちゃんが作った、最高傑作でーす! 俺の誕生日に、半分の値段で買わせてくれましたー!」

「お、おいくらだったんですかー!?」

「半額で1個家が建つくらいっすねー!」

「えっ」

 

 自分がされたように俺に質問を飛ばしてきたドゥンさん。でも俺の答えにビックリしてそれが止まっちゃった。その隙に早歩きで渡りきってやった。よし、今度は走るか。

 鎖の揺れが収まらないうちに、また足を乗せた。

 

「ま、まだやるんですかー!?」

「遊びじゃなくって、鍛え直しなんでー!」

 

 ジャランジャラン派手に音を鳴らす。上下左右にたわんで揺れる鎖はロープよりも重さがあって、ブーツ越しに感じるそれを受け入れつつ踏みつける。はーっ、この一瞬片足だけになる瞬間が怖くて楽しー!

 

「走ってっ!? うっ、えっと、る、ルゥパさんはどんなところを旅してきたんですかー!?」

「砂漠!! 草原!! 雪原!! 氷山!! そんで海!!」

「ひょ、氷山!? いや氷山に何しに行ったんです!?」

「樹氷に興味があって!! 結局、氷でしかありませんでした!」

「掘ったんですか!?」

「中身が気になったんで!」

 

 今の質疑応答?の間にもう1往復してやった。慣れてきたから、次からは剣と盾を装備しよう。より本番感を演出だ! でもまずは歩くか! 片足で鎖を押さえて揺れを止めてーっと。

 

「その剣も、盾も、スゴイやつですー!?」

「はい! 良い職人魂が込められた、スゴイやつでーす!」

「具体的にはー!?」

「盾には耐久力、相棒のコイツにはノックバックとダメージ増加の力が乗っかってまーす! クリーパーも2撃で殺せまーす!」

「そ、そんな威力が!」

「本当かどうかは、カヌプかパーデに聞いてください! あの子らは見てたんでー!」

「りょ、了解でーす!」

 

 おっとっと。やっぱり両手に装備があるとバランス取るの難しいな。歩くってよりも若干小走りになってた気がするし。いや、装備しながら細いとこ行くとか絶対モンスターに襲われてる時じゃん。なら走るか。

 

「ついでに、防具の方の付加能力も聞いていいですかー!?」

「あー、全部に火炎耐性と爆発耐性、ダメージ軽減が付いてまーす! ドゥンさんたちのはー!?」

「ただの量産品なので、なにも付与されてませーん!」

 

 やっぱ走ると、揺れが酷くなって渡りづらくなんな。あともう1回渡ったら、一旦揺れが収まるのを待つついでに休憩しよっと。

 ……気になるのは、こちらに向かってくる1つの足音。いやま、あんだけ大声上げ合ってりゃ、気になって様子見に来るわなー。重たさから言って、大人か? まだ30分も経ってないから子供ら、特にカヌプとかパーデはここに来ないだろうし。え? 本当に? 気になったら来ちゃうのが子供じゃね? うさぎの耳を使ったら耳が良くなるポーション作れっかな。

 

「ん?」

 

 ドゥンさんから質問が飛んでこなくなったのと、さっきから聞こえてた足音が近くで止まったのが気になった。予定通り柱に着いたら1回止まって、ドゥンさんの方を見たら、やっぱり人がいた。

 黒色のシャツの上から羽織るのは紫色で袖なしのローブ。この村ではあまり見ない茶髪に青の瞳で、柔和な顔立ちをしている男の人。大きめの十字架の首飾りしてるし、彼がこの村の聖職者さんで間違いないな。神父さんともどことなく似てるし。色味とか。

 

「高い場所から失礼します! はじめまして! 旅人で、未熟ながらカヌプ君の限定的な師になりました、ルゥパと申します!」

「ご丁寧にどうも! こちらこそはじめまして、ヘイリグです。この村で主へ敬愛を捧げることを伝える、伝道師です!」

「そうでしたか! あの、つかぬことをお伺いしますが「質問は、貴方の修行を行いながらにしませんか?」

 

 俺の言葉を遮った聖職者、ヘイリグさんの顔は、離れたとこから見てもワクワクしてんのが丸わかりだった。なんで???

 笑みを深めたヘイリグさんが、口を開く。

 

「できれば、ネザーで要塞へ潜り込む際の、緊急の足場をかけている形で修行してくれますか?」

 

 ヘイリグさんの腕は、よく見たら筋肉で太かった。思わず笑っちゃったよね。

 

「勿論です。その代わり、私からの質問に答えてくださいね!」

「無理のない範囲で!」

「ありがとうございます!」

 

 約束をしっかり取り付けたら、対岸に背中を向けて、左手を盾から丸石に持ち替えた。今は使わないけど、ヘイリグさんにこの形で鎖渡りしてくれって言ったからな。あ、なら水中呼吸のポーション飲んどこ。ネザーにいる時は耐火のポーション飲むから、その代わりに。

 ごっきゅごっきゅとポーションを飲み終わったら、まだ若干揺れてる鎖に、後ろ向きで、下を向いて足を置いた。ネザーだとこの下の水がマグマで、その熱気が直に来るんだよなぁ~。

 足場としての丸石を置く振りをしながら、後ろ歩きで鎖の上を進んでいく。ああ、これも懐かしいなぁ。これをしながらよく神父さんとお喋りしたもんだ。

 

「ヘイリグさん! この特訓場を作ったのって、ヘイリグさんなんですかー!?」

「そうですよー! 私も神父の端くれ、布教先でもポーションを醸造する為にネザーに潜るので、衰えないようにと場所を作ったんです! それをこの村の皆さんとも共有している形になっています!」

「やっぱりそういう事ですよねー!」

 

 この教会の人たち、考えること同じ過ぎん? そういうマニュアルでもあるんかな。まあ村人が強化されてゾンビとかのモンスターを撃退できるのはいい話だからな。人が居なきゃ信仰を広げるもクソもねぇし。

 

「じゃあ、ヘイリグさんにもお弟子さん居たりするんですかー? 俺もあなたと同じ宗教の人に弟子入りして、ポーション作れるようになったんすよー!」

「いえ! この辺りはモンスターがあまり出ないのもあって、ポーションの需要が無いんです! なのでネザーやポーションの事は知ってても、『自分で作りたい』と考える方は中々いらっしゃらなくて……!」

「ちょっとだけ、寂しいですね! 俺は大変さ知ってるんで、なんとも言えないっすけど!」

「ルゥパさん、暫くウチに滞在しません? 5年くらい!」

「俺は俺で、新しいポーションのレシピとか、ゾンビから人間に戻す方法を探さなきゃなんないので、長くても1年って決めてまーす!」

「それは残念ですー!」

 

 後ろ歩きでの鎖渡りは進む先が自分の足で見えづらい。足を乗せるものが丸石じゃなくって鎖で、揺れるからより慎重さと的確さが求められる。こっちの世界でこんだけきつい条件で修行しないと、いざネザーに行ったら熱さとプレッシャーと攻撃で思ってるより平衡感覚狂うから、危ねぇんだよな。ウィザースケルトンは黒いから近くまで来ないと認識しづらいし、マグマキューブは逃げ道塞いでくるし、どこからともなく火球が無限に飛んでくるし。あ、そうだ。

 

「ヘイリグさん! ヘイリグさんってガスト倒したことありますー?」

「ええ、何度もありますよー!」

「じゃあ、ガストからドロップするやつも、手に入れたことありますー!?」

「あー、それは流石に、マグマに溶けたり他のモンスターに阻まれたりで、無いですねー!」

「やっぱりそうですよねー!」

 

 ヘイリグさんの草を踏みしめる音が、服が擦れる音がした。

 

「ルゥパさんは、ピグリンをどう思いますかー!?」

「ピグリン~? あいつら1個だけでも金装備してりゃ襲ってこないんで、楽ですよ、なんなら最近分かったんすけど」

 

 ビュンッと飛んできた、頭を狙った小石をしゃがむ事で避ける。

 

「あいつら、金インゴット渡したらお礼くれるんすよ! あんま良いもんは返してくれないっすけど!」

「そうなんですか! ご機嫌取りに良さそうな情報ですね!」

「待ってヘイリグさんルゥパさん。何石投げてるんです投げられて平然としてるんです」

「でもあいつらの中にも序列みたいなのがあるみたいなんすよ! 比べてたくましいやつ! あいつは取引関係なしに襲いかかってくるんで、基本はやっぱ関わんない方がいいっすわ!」

「残念ですね!」

「なんなんですか貴方たち……」

 

 何って、俺の鍛え直しをヘイリグさんが手伝ってくれてるだけだけど?

 

 案外ノリが良いらしいヘイリグさんは、ドゥンさんの言葉を無視してどんどん石を投げつけてきた。俺もそれは暫く避けてたけど、ガストの火の玉を想定して相棒(ダイヤ剣)で打ち返してって、だんだん湖の淵ギリギリを狙って水を跳ねさせて濡らしてやってたら、握りこぶしサイズの石がスゲー勢いで飛んできて胸に当たって撃ち落とされた。

 

「でェっ、ヒェァォアアアア”!!!」

 

 バッシャーンってど派手に音立てて、めちゃくちゃ高い水柱を立てて湖に落ちた。落下の恐怖と石を当てられた胸が痛かったから、そのままぷかぷか仰向けで浮かんで、ぶらんぶらん揺れる鎖を見上げてた。あー水つめてー。気持ちー。

 

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