人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
なんか、めちゃくちゃ探られてる気がする。
そりゃ俺はよそ者だもん、探られるのは当たり前なんだけどさ。なんか、こう、変なんだよな。今も、燃え尽きたクモたちに土ブロックを被せてる今も感じてる。
「ヘイリグさん。……なんか、俺ら、見られてませんか?」
「おや、どこから?」
ゾンビ肉をクモと同じように燃やしてたヘイリグさんがキョロキョロと辺りを見渡す。……だけど、そうじゃない。これはモンスターの殺気じゃない。
「……村の方、から。でもちょっとおかしいっすよね? ここから村まで、結構な距離あるのに」
戦ってるうちに、俺らが最初に集合した場所から大分離れてた。暗視のポーションを浴びてて視界が良好だったのもあったし、素材クモを見つけて興奮しちゃったのもあるし、憎いモンスター共を雪玉ちゃんたちに止められずに殺せるのもあったから、ついついモンスターが集まってる方に足が動いちまったんだ。
だから、こっちからは勿論、向こうからだって俺たちのことは遠くて見えにくいハズなのに……。
「あ~……」って何か言いづらそうにしたヘイリグさんが、「もしかしたら、」と弱々しい声で喋りだした。
「誰かが、望遠鏡でこちらを観察してるのかもしれませんね」
「……ボーエンキョー?」
「おや、ご存知ない?」
「は、初めて聞きました。それ、なんですか?」
「簡単に言えば、遠くを見ることが出来る道具です」
「えー!? そ、そんな便利なものがっ!?」
何なんだよ! ホントこの村、便利なもんが多すぎ! ハッ! それじゃあこの視線って、そのボーエンキョーで俺を見ている気配か!? わぁあぁあっ!! それってどんな風にものが見えんの!? 何を使ったらそれが作れんの!? どんな大きさ!? どんな形!? どうやって使うもの!? も~~~!!!
「知りたいこととやりたい事が多すぎんだけど~~!!!」
困っちゃった頭を抱えて叫んだら、それに驚いたっぽいヘイリグさんのハッとした息遣いが聞こえた。ビックリさせてゴメンなさい。でも事実なんすよ~!
「ヘイリグさんに発酵方法教わりたいし、ドゥンさんからもレッドストーン関係教えてもらいたいし、カヌプとパーデにも色々教えたいし……! あぁそれにここの鉱山がどうなってんのかとかハチミツの採取の仕方もそうだし! いくつ俺に興味持たせりゃ気が済むんだよぉ! この村情報量多すぎ!!」
指折り数えてたけど指が足りなくなりそうだったから止めた。それを見てたっぽいヘイリグさんは今度は面白そうに喉で笑った。
「やはり、5年くらい
「嫌です」
「うわっ、いきなりスンッてしないでください」
だって、5年って聞いて感情凪いじゃったんすもん。あの事思い出しちゃって。
また土ブロックで穴を塞いでいきながら、言い訳を並べる。
「だって俺、本来だったらエメラルド払わなきゃダメなホテルにタダで泊まらせてもらってるんすよ? 甘えていいのは3日まで、長く見ても1週間でしょ。俺そんな経済的余裕ないっすよ」
「別に気にせず、2人の師匠になった報酬として受け入れればいいのに」
「そんな、それだけであんな豪華な部屋にずっと居させてもらうなんて、逆に心労で倒れますって!」
「師匠と望まれてるんですから、図々しくなればいいのに」
「いや、俺ほとんど何もしてないっすよ。……でも、最高でも1年居る、みたいなこと宣言しちゃったしなぁ……。どうしよ」
それに、あんだけ目をキラキラさせてる子供に、失望されたくないしなぁ。
「おもてなしを受けるのが辛いなら、教会に居候してもいいですよ」
「……」
うーわ、教会とかメチャクチャ理想的な移住先じゃん。ポーション作る環境整ってるし、寝る直前まで教わることできるし、そこでなら家事もさせてもらえるかもだから、今の罪悪感も多少誤魔化せる。雪玉ちゃんたちとは今以上にお喋りしづらくなるかもだけど、カヌプとパーデも教会になら簡単に入ってこれる、ハズ。
うん。考えれば考えるほど、この上ない好条件じゃん。でもなぁ……。
「居心地良すぎて、5年どころか10年居座りそうで、怖いんすよねぇ」
「私は手っ取り早く後継者を確保できて嬉しいですけどね」
「俺の旅には目的があるんです、ってば!」
クスクス笑うヘイリグさんを横目に、穴に埋め終えた土ブロックをシャベルの背で叩いて均した。そのヘイリグさんもゾンビ肉を燃やし尽くした穴に土ブロックを被せ始めた。穴は小さいから俺がこれを均し終えるのと同時に、そっちも均されるんじゃないかな。終わったらまず、川で水浴びしてこよ。それからでも、これから寝泊りする場所を考えても遅くねぇだろ。
身体洗って村の中に戻ったら、まぁまぁ忙しくなった。
望遠鏡らしき筒を持ってこっちに駆け寄ってきたカヌプとパーデが青い顔して「クモ捌くとか、気持ち悪くなかったの!?」って問い詰められたり、その子らの前でヘイリグさんの指導のもと、クモの目の血抜きとか下処理とかやって更に怯えられたり。
茶色のキノコをおまけしてもらって、茶色のキノコと砂糖でぬか床を作って仕込ませてもらった。予想通り、キノコの菌を砂糖で活性化させてクモの目を発酵させるんだってさ。あと、乾物状態でも水で戻した状態ならギリギリ発酵するらしい。便利ー。
後は1日待つだけの段階になったら、ドゥンさんのとこでレッドストーンのトーチとランプの作り方を実演付きで教わった。で、その後でトロッコの線路と一緒に置く“ディテクターレール”、“パワードレール”ってのも存在を教えてもらったり、「レッドストーンは防衛にも、娯楽にも転用出来るはず。まだまだ可能性がある!」って夢を語ってもらったりしてた。この人も研究者だなぁ。俺ももっかいレッドストーンとポーションの可能性を探ろう。
実りのある時間を過ごした後、俺は牛舎にお邪魔した。ここであの子らがお手伝いしてるってドゥンさんが教えてくれたから、冷やかしてやろうって思って。
木の柵の中でのびのびと散策しながら草を食む家畜たちを眺めながら着いた牛舎では、カヌプとパーデが床に敷かれた古い藁を鋤でかき集めてた。糞尿が混じってるから匂いは当然するけど、この作業を丁寧にやらなきゃウシは病気になる。だから2人とも上裸になって、頑張ってんだねぇ。
そんな2人は、最初は俺の姿を見て嬉しそうにしてたけど、簡単に挨拶を済ませた後、俺が直ぐに俺の信仰対象にブラシをかけだしたところで、メチャクチャ睨みつけてきた。まぁそうだよな~。でもそれはお前らが勝手に村の外に出た罰じゃん。ヘムスタッド村のよりちょっと大きいくらいの牛舎なのに、大人3人でやる作業を子供2人にさせてるってことはそういうことだろ。なら俺は手伝わねぇぞ~。白のコートが茶色になるしな~。……まぁ、師匠らしいことは、しないでも無いけど。
石床に敷かれた藁ごと糞尿を鋤でかき集めて、段差の下にある箱、肥料を作るためのコンポスターに入れてた2人のとこに向かった。俺の手からブラシが無くなってるのを見てまた期待に目をキラキラさせてたけど、腕を後ろに回したら目に見えてしょんぼりした。
「手伝っては、くれなさそうっすね」
「コート着たままだもんね」
「おう。お前らの仕事を奪ったら俺が怒られっからな。で、口出しくらいはいっかなって」
「口出しぃ?」
俺とお喋りはしても手を止めないカヌプが不満げに返した。手伝わないから敬意なくされちゃってるわ俺。別にいいけどな。
「うん。お前らさ、大人とかから、どうして牛舎の掃除をしないといけないか、ちゃんとした説明受けてる?」
「掃除の理由?」
「そんなの、ウシさんが気持ちよくここで眠れる為でしょ? ボクだって汚いところは嫌だもん」
「そんで気持ちよく寝れたら、いい牛乳をくれるからって」
「そんな感じの説明だったの?」
「うん」
そっか。結構子供向けな説明だったな。詳しい説明はこの子らがもうちょい大きくなったら、だったのかな。
手を止めないカヌプがこちらを見る。
「なんで、そんな事聞くんですか?」
「いや、俺の説明いるかなって確認」
「説明? なんで、今のじゃダメなの?」
「ダメってことはないけど、もっと具体的に理解してもいいんじゃねぇかな」
「「具体的?」」
声を揃えて首を傾げた2人は、鋤を動かす手を止めた。
「ああ。パーデが言った通り、綺麗な場所で眠れたらとっても気持ちよくなれる。それと同時にな、病気を防げるんだ」
“病気”の単語で、2人の身体が仰け反った。パーデなんか泣きそうになってる。
「風邪、引いちゃうの?」
「風邪どころじゃない。おっぱいが汚れたとこに触れたら、悪い菌が入って炎症しちゃう」
「えんしょう? 痛いの?」
「うん、痛いし、熱い」
「そんなのやだ!」
俺の話でやっぱり泣きそうになるパーデに対し、カヌプは落ち着いた顔だった。
「それ、1回なったら治らねぇの?」
「や、炎症も勿論ポーションで治る。けど、なったウシが受けたストレスは変わらないから、出るお乳の質も量も悪くなるし、そのポーションだって安くない。何よりウシが俺らを愛してくれない! だからその予防の為に、しっかり綺麗にしないといけないわけだ。……お前らの仕事ぶりは」
そこで言葉を止めれば、2人の顔は緊張で強ばった。さっきまでの自分たちの行いがそのままウシの健康に繋がるから、もっともだ。だから、ハッキリ言ってやろう。
「──最高だ!」
後ろに回してた両手を勢いよく前に出して、力強くサムズアップをしてやる。俺の声に驚いた2人は顔を見合わせてから、嬉しそうに眩しい笑顔になった。
「「当然っ!」」
その後は、俺が質問して2人に答えてもらうっていうやり取りを暫く続けてた。自分たちの行いで牛たちの健康が守られること、掃除した藁や糞尿は畑の肥料となって作物をより栄養のあるものにしてくれること、それを食べる自分たちが村を存続させることに繋がる。この一連をちゃんと理解しているか聞いて、言い方こそちょっと幼いながらも完璧に答えてくれた。教育が行き届いてんねぇ! 俺、本当に師匠として必要?
真面目に自分の立ち位置について不安になった、午前だった。
眠たくならない身体だけど、流石に仮眠を取らなきゃ心配されるかと考え、ホテルに戻る。匂いを気にしてなのか、牛舎とか動物たちの眠る場所は家が集まってるとこから離れてて、そこそこの距離があった。
「ん?」
遠目から、村の入口付近で賑わってるのが見えた。あ、そういや望遠鏡の話聞くの忘れてた。
そこに居たのは女性数名に、村の子供たち。どちらも笑顔でワイワイしてた。
「おかーさーん! おかえりー!」
「おかえりなさーい!」
「おかあさん! わたし、いい子にしてたよ!」
「ただいま!」
「お留守番、よく頑張ったわね」
「偉い! 家に帰ったらパンケーキ食べようね!」
今までどこかに行ってきてたのか? 確かにこの村に女性が少ないなぁとは思ってたけど。良かった、不幸があったわけじゃなくて。気まずくて訊けなかったんだよな。
近くの畑で昼休憩してたおじいさんおばあさんに話を聞いたら、彼女らは隣の村にまで服を売りに行ってたんだって。そういやこの村、ハナコさんのおかげで花をモチーフにした服が流行ってるって話だったな。うん、可愛いものは皆好きだもんな。
その服を作っているのは若いお嬢さんから母親さんで、女性が中心らしい。自分が作ったものが可愛いんだろう。どんな服なのかちゃんと説明したいから、作った本人たちで隣の村にまで売りに行くんだと。
売りに行く隣の村までは片道2日ほどかかって、売るのに3日滞在、からのまた2日かけて帰ってくる。つまり1回出かけると1週間帰って来ないわけで、俺は彼女らがいない間に入り込んだってワケだ。
そのままのんびりおじいちゃんおばあちゃんと一緒にサンドイッチつまんでたら、背後から肩を叩かれた。口に入ってた分を飲み込んでから振り向いたら、2人の女性が俺を見下ろしていた。
「んっ?」
「ちょっといいかな、お兄さん」
「ふぁい、なんでしょう」
母親くらいの方々かな。この地域の人たちの特徴のコウモリ色の髪に、肩の位置で切り揃えられた髪の長さの女性はポピー色の目をしていて、長い髪を緩く一括りにした女性はタンポポ色の目だった。それぞれカヌプとパーデの面影が……ってか、タンポポ色の目の女性とか、パーデがおしとやかに大人になったらこうなるでしょって感じだった。
俺の肩を叩いた、猫みたいな目の形をした短髪の女性が口を開いた。
「あなたが、噂のルゥパさん?」
「はい、はじめまして。旅人のルゥパです」
「そうよメデリーちゃんオプレちゃん! このお兄ちゃんがあんたらの子供を助けたんだよ!」
「あんたたちの男の子が、カヌプとパーデがねぇ、2人っきりで遊びたいからって勝手に、剣まで持ち出して! 村の外に行っちゃったんだよ!」
……なんか、俺が事情を話すまでもなく、おしゃべり好きのおばあちゃんたちが全部説明してくれそう。
俺と2人の出会いから、俺とカヌプが師弟関係になったこと。2人は村から勝手に出たバツとして今、もっと年上の半人前がやる仕事を2人だけでさせられてること。その合間に俺から教えを受けていること。ぜーんぶ話してくれたわ。……それだけ、話が伝わるのが早いってことか。下手な真似はしないほうがいいな。今更すぎるけど。
これで話が終わったんだと思って口を開けたら、ひとりのおばあちゃんが大きく手を打ち鳴らして「あっ! それにねぇ!」って大声でまた、今度は俺の情報を話しだした。
ポーションを作ってることとか、鎖渡りを平然とやってのけたこととか、半日前のモンスター討伐のこととか。……そういや、ポーションの話はともかく、鎖渡りの時も討伐の時もうるさくしてたか。楽しくなりすぎてそこまで気が回らなかったな。スンマセン。
てかおばあちゃんたち、全然、俺とこの人たちをおしゃべりさせてくんねぇな。このままだと埒あかねぇから、カヌプとパーデんとこ避難しよ。あの子ら多分もう近くの川で身体洗ってるだろうけど。