人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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27 おしゃべりメッチャしたわ

「なんだかまるで、神父のヘイリグさんみたいな人ねぇ」

「俺はただのポーション研究家ですよ」

「ただの、なんて謙遜しないで! 私のとこのスターク、ヘイリグさんの次に強いなんて言われてるけど、まだネザーに行ける程じゃないんだもの」

「見た感じ、一人前になってそう年も経ってなさそうなのに、すごい強さなんだねぇ」

「いえいえ」

 

 人間を強制的に辞めさせられて、そろそろ4年目なんで。

 カヌプの母親さんのメデリーさんとパーデの母親さんのオプレさんに挟まれて、あの2人のトコに向かってた。その道すがらで、改めて俺の素性について質問攻めにされてた。のらりくらり、本当の中に嘘を混ぜて話してるから、自分でも何が本当で嘘か分かんなくなってきた。都合のいい頭してるわ。

 

 とんぼ返りしてきた牛舎に近づくにつれて、バシャバシャっていう水の音と、あの子らのはしゃぐ声が聞こえてきた。遊んでんなぁ。

 

「あ、あの子ら裏の川に居るみたいねぇ」

「そっか、牛舎の掃除のあとだから。だからって、ママたちが帰ってくる日を忘れて川遊びなんて! 一言言ってやらなくっちゃ!」

「確かに、俺に貴方がたのことを話してくれなかったので、本気で忘れてた可能性がありますね」

 

 おかげで悲しい歴史があるんかと思ってたくらいだし。杞憂だったけど。そんな言わなくていいことを言ったら、ただでさえプリプリしてた母親さんたちがもっとプリプリして「まったく!」とか、「お母さんたちのこと大好きなくせにねぇ!」って文句言っちゃった。若いなぁ。

 早足どころか駆け足になって賑やかな方へ向かう。牛舎の裏の方へ回って見えたのは──

 

「っっしゃおらぁ!!」

 

 川魚を掴み捕りして掲げる、カヌプの勇ましい姿だった。

 

「よっしゃ、5匹目ぇ!!」

「カヌプ! 早くインベントリにしまってってば! 暴れて逃げちゃうよ!」

「うわっと!」

 

 パーデに言われてカヌプは慌てて魚をインベントリに入れた。……俺が行って戻ってくるこの短い時間で、川魚5匹を掴み取ったって、素直に凄いな。

 パーデが真剣な顔つきで川底を見て、ゆっくりと腕を川に伸ばしていく。

 

「……フッ!」

 

 わぁお、狩人じゃん。魚が逃げないように口とエラを強くしっかり掴んでる。しかもなかなかの大きさじゃん。

 

「パーデ、それで何匹目だっけ」

「6匹目っ!」

「ちくしょう負けてる!」

 

 !? しょ、勝負してるってことは、2人合わせて今11匹!? あの子らスゴいな!? ……でも、ちょっと漁に夢中になりすぎてねぇか? そこ、近くに村の外との境界線になってる鉄格子があるんだぜ。つまり、クリーパーの爆破、届くかもよ。

 

 声を掛けようとしてた母親さん2人を制して、気配を殺し、足音をさせずに忍び寄ってやった。岩の隙間に隠れる魚を探す為に2人とも川底に目を落としている。その中でもパーデに追いつき追い越せと張り切るカヌプに迫った。ら、カヌプがいきなり川底から小石を引っ張り出して俺に向かって投げる体勢を取った。そして、その標的が俺だと分かると鬼気迫った表情が驚いてぽやってした。なんだよー! 投げても合格点あげてたのにー!

 

「成長してんじゃーん!!」

「し、ししょう?」

「魚の掴み捕りに夢中になってっから試してみたけど、ちゃんと気配感じ取って反撃に出れたとか、立派じゃん!」

「……白いのが、見えたから」

「謙遜すんなって! ()()から考えれば急成長してんだから!」

 

 全力で気配を消した俺に気付いただけじゃなく、反撃までした。反撃をやめたのも、接敵者が俺だと気付いたから。思いとどまれる余裕さえあるなんて、お前今日昨日でどんだけ成長してんの!? ポテンシャル高すぎじゃ~ん!?

 

「勿論、パーデもな!」

「! え……?」

 

 今度はパーデの方に向いて褒めたら、さっき立ってた場所から随分と離れた場所に居るパーデは複雑そうな顔になった。いやいや!

 

「お前も前は逃げられもしなかったじゃん? だけど今は? 動けるようになっただけ成長だぜ?」

「で、でもボクは反撃……」

「危険があったら逃げるのが生き物の本能。それを磨けてんだから! それに助けを呼ぶのも大事だからな。だから、素直に褒められとけって。カヌプもな!」

「……うん!」

「おう!」

 

 心の底から感心して笑顔で褒めれば、やっと安心したのか、パーデもカヌプも笑って頷いた。

 

 ここでこの子らの母親さんたちもお呼びして、なんで自分たちの親を放っておいて魚捕りをしてたのか聞き出した。そしたら、「隣の村まで行ってきてた母ちゃんたちに、食べて欲しくて……」だって! いじらしいなぁ泣かせるなぁお前ら! よっしゃ、お兄ちゃんも手伝ってやろうじゃないか! あと何匹獲る予定~? ん? 自分たちで獲る? だったら、気配の消し方を実演してやろう!

 

 まずは自分とこの世を一体化させるイメージを持つ! それから考えることは単純なものだけにして、呼吸も潜める! そして、獲物には決して目を合わせないこと! 目線は気配だ!

 

 軽く解説してから川に入って魚獲ったら、「そこに居るはずなのに居ない気がした」とか「新手の白昼夢を見てるようだった」など、上々の評価でしたわ。人間だった頃の俺の生存政略を褒められて良い気分!

 

 その後はカヌプが「ホテル戻って仮眠取るんじゃなかった?」って言ってくれたからそれ思い出して、「後は親子水入らずってことで」って言って、やっとホテルに戻ってこれた。

 戻ったら戻ったで、隣村に行ってた他の母親さんたちがキャイキャイ言いながら大浴場に向かってくのを見送った。親切な管理人さんに言われたのは、1階2階の部屋は今日、村に帰ってきた彼女たちの為に使われること。だから今夜は賑やかになるって。……女性の中に俺が交じるのは辛いな。俺今日外で食べてこようかな。あ、てか、この時間風呂に入れねぇってことか。大浴場、時間帯で女湯男湯別れるらしいから。

 

 部屋に戻ったら、白の革コートを脱いで着替えてベッドに入った。うとうとと、仮眠明けと明日することの予定を頭の中で組み立てながら、1時間後に起きるんだって自分に暗示をかけて寝た。

 きっかり1時間後に起きたら、弟子のカヌプに残しておきたい教えをまた本に書き留めてった。書いたのは牛舎を掃除する意味と、気配の消し方。……なんか、日記みてぇだな。あ、そうだ。ネザーでの体験談とか書いてこーぜ! 男の子ならこの冒険、絶対気になるだろ! 俺に見たことないモンスターの特徴をきちんと伝えられる語彙力があるかは知らねぇ! 気合いで押し切るわ! やっべ、インク足りっかな?

 

 でっかい窓から景色を眺めて、空がオレンジ色に染まった頃。白の革コートをまた羽織って部屋から出た。お昼も頂いたお食事処さんへ行こうとしたら、ホテルの入口で村長さんに呼び止められて、半ば強引にホテルの食堂に連れ込まれた。

 食堂には女性陣と半人前と呼ばれるこの村の子供達が勢ぞろいしてて、そこで村長さんに「自己紹介しろ」って無茶ぶりされた。お姉様たちの前でビビリ散らしながら、名前から何者であるか、なぜ村に滞在することになったのかまで手短に話した。

 子供たちに近づく怪しい見慣れない奴が居たとしても、白い革コートを着てたらそれは俺だから安心してくださいって言ったら、お姉様たちの1人から「そもそもなんで目立つ白いコートを着ているの?」って、至極真っ当な疑問をぶつけられた。ここでサラッと『白が好きなんで』とか言って流せれば良かったんだけど、下手に目を泳がせて「あ~……」って言葉に詰まっちまったもんだから、ちゃんと答えるまで返してくれない空気になっちまった。仕方がないから正直に(濁したってカヌプたちが居るから意味ない)俺の身に降りかかった不幸から手短に話して、最後にこのコートに込めた俺の思いを伝えた。

 

「俺の彼女が家族と営んでいた散髪屋でケープとして使われていたこの革は、村人みんなが使っていました。それを纏うことで、俺が何を目的に旅をしているのかを、決して忘れないようにしているんです。それから、彼らの無念を、彼らから受けた愛を、忘れない為にも。──なんてクサい事言いましたけど、アレです。きっと終わりのない旅になりますから、自分が何者であるかを見失わないようにっていう、道しるべです」

 

 そこまで言ったら、会場のあちこちからすすり泣く声が聞こえてきた。絶対泣かれるって分かってるから、この話したくなかったんだよ。だって話してる本人が情けなく泣いたからね? 流石に今はもう泣かないけど。

 

 このあとは子供たちに旅の体験を話すようにせがまれて、食事をしながらその希望を叶えていった。

 海をまたいで旅をしてること。その海に潜って素材を取ったこと、その景色が素晴らしかったこと。

 砂漠では行商人さんたちを助けた事。ラマって可愛いんだよってこと。

 よそ者を受け入れてくれない村もあるってこと。

 雪山や氷山に行って、暫くサバイバル生活してたこと。

 ここにも、ポーションの素材を求めて海を渡ってきたこと。

 

 まだ半人前と呼ばれる彼らは、村の外に勝手に出ることは許されない。だから興味があるのも仕方ない。……ただ、もうちょっとだけ、カヌプとパーデが獲ってきた魚で作ったフリットを、ゆっくり味わう余裕は欲しかったかな。

 

 

 久々にモンスターを手にかけて、ヘムスタッド村の皆のことを話して思い出したからだろうか。やることやってホテルの部屋でもう一回寝たら、皆のことを夢に見た。あの日以前の変わらない生活をしてる皆の笑顔の横には、雪玉ちゃんたちがいた。そんなことはありえない。ありえないから夢だと気付いた。気付いたから、悲しかった。

 

 みんなは、もう、この世に居ない。

 

『何をしたって、本当に大切にしていたものは、二度と帰ってこない。サータちゃんの手は握れない。なぁ、死んだ奴らの為に、何を頑張っている?』

 

 不意に現れた弱音と悪意は、雪玉ちゃんたちが体当たりでボコボコにしてくれた。そうだよな。俺は、人間じゃなくなったけど、まだ生きてるんだ。いつ死ぬか分かんねぇんだから、楽しみつつ、一番の目標を達成する為に、前に進まなきゃだよな!

 

 大きな窓から、朝日が見える。さて! 今日はクモの目が発酵したか確認したり、炭鉱夫さんたちが普段使ってる採掘場に見学しに行ったり、望遠鏡……はいいや、そう、茶色のキノコを探しに行ったり! その他もろもろで忙しくなるぞー!

 

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