人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

29 / 116
29 教会は一枚岩じゃ無いらしい

 ズバリ、言いましょう。中央教会上層部の考えは、“ポーションの利権を独り占めにする”ことです。

 

 ルゥパさんもご存知の通り、ポーション作りには危険が付き物です。その第一歩の醸造台からネザーに素材があるのですから、常に死と隣り合わせの技術であることは間違いありません。その危険性と利便性、希少性に目をつけた中央教会は、人々に悟られない程度に利益を最大限得ようと計略を試みました。

 

 最初は通常より低い値段で、周囲の村へ豊富にポーションを提供していたそうです。そうして長い期間かけてポーション以外の療法を選択肢から外した後で、「素材が取れなくなった」「技術者不足だ」となんだかんだ言って、値段を吊り上げていったそうです。

 

 同じ結果を得るのに苦楽の2通りがあるのなら、楽を取るのが人間です。ポーション(楽)に慣らされた人間は、多少値を挙げられたところでその楽をそう易ゝと捨てられません。その心理に付け込んだ、阿漕で悪徳な商売なワケです。心得を持たない人間がポーションを真似しようにも、ネザーに行って帰ってこれなければまず作れませんしね。自身や周りの人間の健康を人質に取られたようなものです。

 ポーション製作技術を盗られないという絶対的な自信が、中央教会の上層部を驕らせたのです。

 

 その驕った意識に一石を投じたのが、貴方の師匠、サグラッドさんでした。

 当時現場で一番の実力を持っていた彼は、ある種強い権力を保持していたそうです。そんな彼が上層部へ行った要求は、2つ。

 1つは当時既に吊り上がっていたポーションの価格を正常に戻すこと。

 もう1つはポーション製作技術を世界に広めること。

 とくに2つ目の提案には、技術を伝え広めることで人間の全体的な防衛力の向上や、適正価格になっても文句を言う村人へ価値を思い知ら……正確に把握してもらおうという思惑もありました。こちらは上層部へ寄り添った理由ですね。

 

 これらの要求の狙いは、技術が広まると同時に、我々の、お天道様を崇める信仰も広まることでした。いくら上層部が阿漕な商売をしていようとも、教会の教え自体が悪い訳ではありません。故にサグラッドさんは、実力のある聖職者を中央教会から世界へ旅立たせる事を強く要求していました。

 

 ルゥパさんも賛同するように、この案は効率的で共栄的な考え方で、欲に溺れていた上層部にとって気付け薬になる、はずでした。

 ──しかし、聖職者のセの字も見失った堕落者どもは、その頃には既に豪邸を建て、金(エメラルド)で人を使い、毎晩のように酒池肉林を楽しんでいたのです。そんな奴らに、サグラッドさんの威光は、過激すぎたのですよ。

 

 既にポーションに寄る莫大な利益を得て贅の限りを尽くしていた上層部にとって、正論で殴る、いや失礼、説くサグラッドさんは目の上のたんこぶな存在だったそうです。当時1番多くポーションを作っていたのも、多く弟子を取っていたのも、現場を仕切っていたのも彼でしたから。それはそれは厄介だったことでしょう。下手に扱えば、自分たちを贅沢させてくれている稼ぎ頭に逃げ出されてしまいますから。

 ですから、上層部は待つことにしたのです。

 

 サグラッドさんの要求をまるで受け入れたかのように、上層部は一旦、ポーションの価格を下げました。しかしもうひとつの要求である、実力者を教会から出すことはありませんでした。奴らの狙いは時間稼ぎ。目的は、サグラッドさんが育成する後進が育つまで待つことでした。

 

 サグラッドさんが面倒を見ていた数多くの弟子が揺るがない実力を持った頃、上層部の奴らは待ってましたとばかりにサグラッドさんを教会から放り出しました。

 

 『実力者は世界へ出てポーション技術と教示を広めるべきなんだろう?』と。

 『まずは自身がその背中を見せることで、後進の道しるべとなるといい』と。

 

 自らの要求に足元を掬われた形になってしまったサグラッドさんは、潔く中央教会から出立していったそうです。

 その表情は晴れやかだったとか、そうでなかったとか。

 

 その後の中央教会はこれ幸いにと、サグラッドさんが主張を始める前の体制へ戻ったそうです。しかし上層部がただ後進が育つのを待っていただけなのに対し、サグラッドさんやそのお弟子さんたちは影でポーションの価値を正確に、そして以前の療法を取り戻すように周囲の村人たちへ、念入りに、お伝えしていたようです。

 急激に吊り上がったポーションの価格に対し、周囲の村人たちの反応は以前と比べても大分冷ややかだったそうです。現場の聖職者の話を信じてくれたのも、サグラッドさんの人徳のなせる技でしょうね。

 

 先祖から脈々と受け継がれ、発展させてきた療法を復活させた村人たちはよほどのことがない限りポーションに頼る事は無くなりました。

 おかげで現場の聖職者を含めて教会は資金難に陥りましたが、我々もポーションの利権に溺れる前の、地に足をつけた生活を取り戻す事で、心が満たされる生活を送ることができました。

 

 

「しかし教会の上層部はもはや骨の髄まで贅沢に慣れきっていました。更にポーションの価格を吊り上げる事でなんとか利益を得ようとしていましたが、当然それは上手くいきません。……が、奴らは悪運が強かった」

「悪運……」

「ルゥパさんと同じようなポーション狂いの聖職者が、あろう事かモンスターの魔女に師事を仰ぎ、デバフポーションの技術を身につけました。そして、発明したのです。“透明化のポーション”を」

「あ……」

「新たな有力商品を手に入れた教会は、その製作難易度を理由に値段を吊り上げ、販売対象を選びました。その主な対象は旅人や行商人などですね。新たな販路と技術を得た上層部は、やはり懲りずに贅を尽くしました。そんな彼らを見てきたサグラッドさんの弟子も、その弟子の1人を師と仰いだ私も、中央教会から出て行ったわけです。見捨てた、という方が正しいでしょうかね」

 

 喋り通しだったヘイリグさんは最後にそう言い捨てると、すっかり温くなったお茶を飲んだ。

 

「とまあ、まるで見てきたかのように語らせていただきましたが、その殆どは私の師から聞かせられた話です。つまり、私はサグラッドさんの孫弟子、ということになりますね」

「……じゃあ、俺の方が兄弟子ってことですか!?」

「うーん、どうなんでしょうね」

「やめましょうかこの関係整理」

 

 めんどくさいことこの上ないし。

 それよりも、思ったよりも闇が深そうで深くなかったな。いや、勿論語ってくれた以外にも壮絶なやり取りがあったんだろうけど、それにしたって、あの深淵の目をする程かと言えば、そうじゃない気がする。

 

「話を纏めると、ポーション利権を独り占めして贅沢していた教会上層部に、しん、サグラッドさんが『教えを広める為にも』ってポーションの価格を下げるよう正論パンチでボッコボコにしてたらカウンター食らって、中央教会ってとこから追い出された。って感じですか」

「端的に言えば、そうですね」

「……あの、これ、ヘイリグさんが凄い目をするほど、凄まじい闇っすかね?」

 

 思ったこと言ったら、ヘイリグさんの表情から、温度が消えた。微笑んでるのに、冷たい。あっ、こっわ。

 

「まだ、闇を受け入れる心の余裕があるようで良かったです」

「……ど、どういう、ことですか」

 

 また深淵の目に取り込まれそうになって怯えてたら、ヘイリグさんはその目を瞼の裏に隠してくれた。

 

「私はですね、ルゥパさん。まさか、あの方の新しい弟子に会えるなんて、本当に思ってもみなかったんですよ」

「それは、どういう意味、でしょうか」

 

 離れた場所から、まさか旅してやってくるわけがないとか。世界は広いんだから、そんな奇跡は起こりえないと思っていたとか。そもそも弟子が取れるとは思っていなかったとか。

 言葉の裏に読み取れる可能性はポンポン浮かんでくるのに、一考の余地も無く俺の中で却下されていく。そんな、甘い理由じゃないぞ、と。

 ほんの少し、ヘイリグさんの肩が上がった。

 

「中央教会から旅立つ方法として、私は海路を選びました。別大陸へ向かう大型船に乗せてもらった際に、ベテランの船大工と酒を酌み交わす機会がありましてね。そこで教えていただきました。──サグラッドさんが乗った小さな船は、船底をわざと薄い木材で作ったそうです。上層部に大量のエメラルドを積まれて」

「────!!!」

「1人でも動かせるようにとそもそも小さい上に、そんな不備のある船です。海にもモンスターは居る。どこかにぶつかれば簡単に壊れるようにされた船に、そうとは知らずに乗せられた。そんな状況で、果たして、満足に航行できたことでしょうか」

「そん、な……!」

 

 神父さんの船が難破したのは、人為的に、仕組まれたことだったって事かよ!!! 上層部はどこまで神父さんが嫌いだったんだよ! 教会の未来を憂れいて行動していた神父さんのことを! よくも!!

 ああ、ああ! ああ!! そんなことが、あって、いいのかよ!!!

 

「船大工の彼の懺悔を聞いていましたから、私の中でサグラッドさんは既にこの世から去って久しい方だという認識でした。ですからまさか、彼が生き延びて、あなたというお弟子をとっていたとは、夢にも思っていませんでした」

「……本当、奇跡だと思います」

「ということは、船は……」

「はい、性根の腐った奴らの狙い通り、難破したそうです」

 

 神父さんは奴らの策略に、悪意に気が付いてたんだろうか。村人さんに根回しするような人だから、もしかしたら察していたかもしれない。それは乗り込む前か、船が割れた後か。気付いた時、神父さんは、どんな気持ちだったんだろうか。海の上で、どんな感情を持って漂っていたんだろうか。

 

「しかし、そのおかげで神父さんはウチの村に流れ着いてくれたし、親を亡くした俺の保護者にも、師匠にもなってくれました。……本当に、なんと言えばいいのか」

「感謝をする必要は全くありません。サグラッドさんも、絶対にそれだけは望みませんよ」

「……そうっすよねぇ。憎みはしなくても、感謝はもっとしなくていいっすよねぇ」

 

 ヘイリグさんにピシャリと言われて、揺らいでた気持ちが『教会上層部への批難』で固まった。だって俺の大事な人を殺そうとしてた人だもん!

 

 あ。

 

 でも、おれが、殺したんだ。

 

 せっかく生き延びたあの人を。今聴いた地獄を乗り越えたあの人を。

 俺が、殺したんだ。

 

 俺が雷に打たれなきゃ、皆が、神父さんが、死ななかったかもしれないのに。

 

 

「そういう事ですから、ルゥパさんは中央教会に近付かないことをオススメします。……ルゥパさん?」

「え?」

「大丈夫、ですか?」

「何がです?」

「……いえ、何でもありません」

「はあ」

 

 やっぱ、真正面からじゃ絶望我慢してんの、見破られちまうか。さっきのヘイリグさんみたいに、俺の目も瞳孔開いてたんかな。

 

 話し込んでる内に粗熱が取れたポーションは建物地下の水流に木箱ごと浸して、本格的に冷ます工程に入った。時間が経てば、もはや完成したも同然。砂糖液にキノコ、クモの目とかの役割を終えた素材を熱消毒してコンポスターに入れたら、今日の作業はおしまい。試し飲みは明日のお楽しみだな!

 

 また明日ここで試し飲みする俺を見守っててもらうように約束を取り付けて、教会を出た。どこか凪いだ心地の俺を出迎えてくれたのは色とりどりの花々と、この村の一番の特徴の、ミツバチだった。

 

「……え、な、なぁに?」

 

 猫くらいの大きさのミツバチが俺の胸辺りの高さでホバリングしてきた。俺が通行の邪魔してんのかなって思って大げさに横に避けたけど、追いかけてくるからそうじゃないっぽい。俺、何かミツバチにしたっけか。

 戸惑ってたら、俺を追いかけてくるミツバチが、俺の胸にピトッと留まった。毒針があるって知ってるのに、不思議と怖さは感じなかった。

 大きさの割にほとんど重さを感じない。丸くて大きい瞳は無垢で、細いのに力強く服を掴んでくる足は健気さを覚える。透き通った羽は綺麗で、茶色と黄色のふわふわした体は庇護欲を掻き立てられて……。

 

「かわ、いい……!!」

 

 わぁああぁあっ!! 愛おしい、愛おしい! 守りたいっ! ああ、こんな可愛い子たちが、あんなに美味しいハチミツを作ってくれんの!? きゃーーーっ!!

 思わず撫でてしまいそうになったら、ミツバチちゃんはふわっと俺から離れて飛んでっちゃった。ああん、気まぐれなところも可愛いなぁ。

 

 そんな、ミツバチちゃんにキュンキュンしてるところをドゥンさんに見られて笑われた。恥ずかしかったから、俺に採掘場を案内する仕事を命令して、やっとこさ現役で稼動してる採掘場を見学出来た。村の中央から離れた山の中にある採掘場は、ハナコさんのとは全く違っていた。

 入口の方に既にトロッコと線路があって、地面が凸凹していれば木材で整備してあるし、崩落しないように木の柱で支えてた。元々は洞窟だったんだろう。表面に見えてる鉱石のところから横穴みたいに掘り進められてて、頑張って綺麗に均してあっても、ハナコさんのブランチマイニングとは違ってかなり不揃いな道のりだった。

 その道の中央を陣取るのは、トロッコの線路。ところどころにある赤いレールはスイッチの役割を果たすディテクターレールと、作動するとトロッコを加速させるパワードレールの2つ。その線路の上を走るトロッコにはチェストが取り付けられていて、なるほど、人が移動しなくても鉱石を外に運び出せるように出来ていた。

 人の手が無くても動くトロッコはメチャクチャ魅力的だし、人が乗っても大丈夫だったら楽しそうだけど、ひとり旅には必要ないかな。いざとなったら雪玉ちゃんで俺テレポート出来るし。でもいつか、別の村でこの知識が役に立つかも知れないから、この採掘場の構造をよく見といた。

 

 カヌプとパーデとは、この間のバランス鍛え場所のトコで他の子達も交えて追いかけっこして遊んだ。俺が追いかける側で、捕まったら逃げてる子に助けてもらわないと復活できないってルールで。容赦なく追いかけてたら、10人相手に全滅させちゃった。一緒に遊んでた女の子に泣かれてスゲー罪悪感だった……。「次は負けねぇ!!」って男の子達はやる気に満ち溢れたから、まぁ、結果オーライ?

 

 楽しい時々不穏な1日を終えてホテルの部屋で眠ろうとしたら、ポンポン出てきた雪玉ちゃんたちにボコボコ体当たりされた。心当たりは昼間のミツバチちゃん。嫉妬しちゃうなんて、つまりそれって俺のこと好きってことだよねぇ! って、ゴメンなさい! 俺は雪玉ちゃんたち一筋だから許して! 痛くなくても絶えず体当たりされたら流石に、圧がっ! ベッドの上から逃げられないんですけどっ! おわーーーっ!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。