人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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30 デバフポーション試し飲み会①

 さぁ! 朝一番にやって参りました、本日のメインイベント! デバフポーションの試し飲み会~~~!!!

 

 フグ毒でさえ解毒する万能薬の牛乳があるからこそ成り立つこの企画! これを機に皆! ウシさんを崇めよ~! え? この辺りは皆太陽信仰? 流石ヘイリグさん! 布教できてるぅ! 俺の師匠の神父さんは早々に諦めてたぞ!

 

 前置きはこのくらいにして、さっさと進めてまいりましょう! 今回必要なもののラインナップはコチラ!

 “鈍化”・“弱化”・“透明化”・“毒”・“負傷”の5種類のポーション!

 実はバフもデバフも打ち消しちゃう牛乳!

 絶対痛める内臓の為に治癒のポーション!

 計測用の木のフェンスと骨粉が少々!

 そしてすごくビミョーな顔してる、見守り役のヘイリグさん!

 

 必要なものは以上! 上裸の私ルゥパが、教会の裏からお送りしま~す!

 

「どうしたんだ、お前」

「いや~、今日が楽しみすぎて眠れなくってさ~!」

 

 鼻の上を掻きながら受け答えすれば、尋ねてきたスタークさんと村長さんがすごく奇妙なものを見る目で俺を見てきた。今更だぜ。

 正確に言えば、昨日一晩中雪玉ちゃんたちにボコボコにされてたから、寝苦しかっただけなんだけど。

 

 今この場には、見守り係に任命させてもらったヘイリグさんの他に5名が観客として勢ぞろいしてる。まずは弟子のカヌプとパーデ。それから自警団団長のスタークさんにドゥンさん、村長のグロートさん。お馴染みのメンバーだな。ヘイリグさんが『1人じゃ対応できないかもしれないから』って昨日のうちに声をかけてくれていたらしい。

 不安そうな顔するパーデが俺を見上げてきてる。

 

「寝不足でポーションの試し飲みしても、大丈夫なの?」

「どっちも慣れてるし、大丈夫だろ!」

「寝不足にも?」

「パーデ、一人旅で満足に眠れる日々が続くなんて、甘い考えは持っちゃダメだぜ。村の外は知っての通り、モンスターで溢れかえってんだからな」

「そっか……」

「簡単で頑丈な拠点の作り方も、後でしっかり教えようか」

「本当っ!?」

「やったぜ!」

「あ、でもそれは自警団が教えます?」

 

 自警団の後継を育てる仕事を奪うのは良くないと思ってスタークさんに目を向けると、彼は首を横に振った。

 

「教えるには教えるが、こいつらはお前から教わりたいだろう」

「ん、分かりました。じゃあ、今日の午後は秘密基地作りな!」

「よろしくお願いします!」

「お願いします!」

 

 元気な弟子達の勢いのいい返事を聞いたところで、俺は俺のするべきことに手をつけ始めた。

 

「それじゃあヘイリグさん、今日もよろしくお願いします!」

「ええ、緊急事態には対応します」

「牛乳か治癒のポーションぶっかけてくれたら大抵大丈夫ですから!」

「はいはい」

 

 俺のテンションの高さについてきたがらないヘイリグさんの事は置いてって、インベントリから木のフェンスを数個取り出す。その内1個はすぐ横に。残りの5つは徒歩30歩先に、縦に重ねて置いた。

 自分の背丈より2倍以上の高さになった木のフェンスを見上げつつ、取り出した壺に入ってる骨粉を右手の指先に塗った。骨粉の入った壺の蓋を閉めたら、縦に並べたフェンスの前で結構本気のジャンプをした。

 

「フッ!」

 

 最高到達点で右手でフェンスを叩けば、真っ白な骨粉がフェンスにこびり付いた。うん、5つ目の半分よりちょい上くらいか?

 まだ手に付いてる骨粉を叩いて落としつつ、奥に見えるヘイリグさんを見据える。

 

「ヘイリグさん! 今からそこまで走るんで、数えてもらってもいいですかー!」

「分かりましたー!」

 

 2箇所に置いたフェンスを始まりと終わりの線に見立てて、ぐっと力を込めて走る。風の抵抗を受けるコートが無いからか、いつもよりちょっとだけ速く走れてる気がした。

 

「ふぅ……。何秒ですか!」

「5秒しないくらいですね」

「うーん」

 

 気のせいだったわ。まあいいや。本題はここからだし。

 

「なぁ師匠、何してんの?」

「ん? 今から試す“鈍化”のポーションの為に、一旦普通の状態での跳躍力と足の速さを測っといたんだよ。差を比べる為にな」

「あ、そういうことかぁ」

 

 カヌプにも納得していただけたところで、俺はヘイリグさんの近くに置かれた枠のある木箱から、暗い曇り空色のポーションを1つ取り出して、ちょっと躊躇して、一気に呷った。

 

「んぐっ」

 

 おおおっ、まっずぅ! 甘いのに獣臭ぇ! いや、虫臭ぇ? 元になった俊敏のポーションに砂糖が入ってるからまだマシな味か、これ。でも生感キモいぃ!

 内心ゲェゲェ言いながらも、なんとか飲み干す。途端、身体が中から重くなった。重いというか、力が入らない? 背筋が、伸びない。

 

「顔色、しっかり悪くなってますね」

「あ、やっぱり、そうなんですね……。疲労感はそこまでなんですけど、身体が重くって……。また向こうまで走るんで、数えてもらっていいですか」

「構いませんよ」

 

 ポーションの効果が切れる前に検証終えとかないと。ほっぺをパチンッと叩いて気合いを入れ直して、また力を込めて走る。……が。

 

「あれっ、師匠めっちゃ足遅くなってね!?」

「だ、だよね、ボクの見間違いじゃないよね!?」

 

 さっきより足が前に出るのが遅い。地面を上手く蹴れない。まるで下半身が水の中にあるみたいだ。上手く、走れねぇ!

 それでも懸命に足を進めて、なんとか走りきる。そんなはずないのに、さっきの2倍の長さを走った気分だ。

 

「はぁ、はぁ……。何秒ですか!」

「8秒です!」

「うわっ!」

 

 2倍とまでは言わないけど、結構時間かけて走ってやがる! つまり、モンスターに囲まれたら一旦これを投げて距離を開けて、撤退するか迎撃するかを考える余裕を作れるってことか。

 よし、次は跳躍力の検査だ!

 

「よいしょっと!」

 

 さっきと同じように右手の指先に骨粉を付けて、フェンスの横でジャンプする。結果は……アレ?

 

「あんまり、変わんない?」

 

 若干低くなってたけど、これ、2回走ったあとで疲れたから低くなったんだって言われれば否定できない程度だった。へー、鈍化のポーションに跳躍力を悪くさせる効果は無いんだ。何か意外ー。

 

 牛乳でデバフを解除してから壺とフェンスを回収して、何か真剣な顔して話し合ってるヘイリグさん達のところに戻る。最後のフェンスを回収したら、ドゥンさんから「結果は期待通りでしたか?」って声かけられた。

 

「んー、半分そうで、半分は外れてましたかね。足が遅くなるのは予想通りでしたけど、足が弱くなるなら下がるって思ってた跳躍力はさほど変わらなかったんで」

「へぇ、そうなんですか」

「あ、そうだ」

 

 ドゥンさんの横で腕組んで関心ある様な無い様な顔してるスタークさんを見て、閃いた。どうせ見てるんなら手伝ってくれや。

 

「スタークさん、俺と軽く手合わせしてもらえませんか?」

「お、俺とか?」

「はい。次に飲む“弱化”のポーションの効果を見たいので。飲む前と後で2回、お願いできますか?」

 

 返事をする前にカヌプとパーデが「見たい!」「手合わせして!」って騒ぐから、スタークさんはやらざるを得なくなっちゃった。まあでも、断る理由も無いでしょ。俺のこと、あの望遠鏡とかいうやつで見てたんだから。直接実力を測れる良いチャンスでしょ。

 

「分かった、手伝おう」

「ありがとうございます」

「なら早く鎧付けたら?」

「え? あ、そっか、俺上裸だったわ」

 

 カヌプに言われて思い出して、装備の下につけるシャツを適当に着た。流石に裸で鎧は変態だからな。さっきは寝苦しかったとか思ったけど、順序立てて計画立てれない辺り、本当に寝不足だったんかな。

 スタークさんと揃って鉄装備を全身身に付けてってたら、村長のグロートさんが組んでいた腕を腰に当てた。

 

「そもそも、なんで上裸だったんだ」

「あれ、言ってませんでしたっけ。作ったデバフポーションの中には確実に流血沙汰になる効果のものがあって、それから服を守る為ですよ」

「いや、なんでそんなもんを飲むんだ」

「だって本当に作れてるかどうか、ちゃんと肉体で確かめないとじゃないですか。植物じゃ効果が違うかもしれませんし、動物実験は可哀想ですし。人間で試すのはもっと無理じゃないですか」

 

 だから、試すなら自分の体しかない。まあ俺は魔女だから人間とはまた違う効果が出てるのかもしれないけど。でも本で調べた感じ、野良の魔女は自分が傷ついたら治癒のポーションで回復するらしいから、ゾンビみたいなアンデッドではない。だからデバフ効果も人間と変わらない結果が俺に現れるはずだ。

 「だから俺が飲むしか無いんですよ」って締めくくると、グロートさんが溜め息を吐いた。

 

「なんでそこで自分を傷つける。わざわざ自分で飲まなくても、モンスターに浴びせればいいじゃないか」

 

 は?馬鹿かお前。ゾンビは治癒のポーションでダメージ受ける腐った身体だぞ。毒か負傷のポーションで俺らがダメージ受けるなら奴らは回復するかもしれねぇだろうがよ!!そんな無駄遣い俺はしたくねぇんだよ。そもそも奴らに俺の可愛いポーションを浴びせるとか俺の都合ではエメラルド積まれたって絶対にやりたくねぇんだよ。絶対に嫌だ絶対に嫌だ絶対に絶対に嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

 にっこり微笑むだけで、口を開かなかったのを、自分で自分を褒めたい。

 

「お気遣いありがとうございます。ですけど、モンスターは自分の体の具合を説明してはくれませんから」

「……そうか。邪魔して悪かった」

「いえ」

 

 ……自分の怒りの沸点がどこにあんのか、自分でも把握出来てないのって、馬鹿らしいなぁ。

 

 鎧を全身装備し終えたら、ドゥンさんも交えて手合わせのルールを確認した。

 手合わせの形式は打ち合いであり、試合というよりは力比べ。

 武器は両者訓練用の木の剣。

 制限時間は1分。

 ロープで囲った会場の外に出すか、膝・尻もちをつかせれば勝ち。

 

 戦闘形式の試合じゃないのは、間を読む時間がまどろっこしいから。だって弱化のポーションの効果を見たいだけだし。俺は戦いたいワケじゃないのよ。大体俺の剣ってモンスターを屠って素材を回収する為の剣であって、人を守る剣じゃないんだよ。昔はともかく、今はとくに。

 

「全力のお前と戦ってみたかったがなぁ」

「嬉しいですけど、俺の方が手加減出来ないんで……」

 

 俺は素材の為に命を狩ることに躊躇いが無い。そういうふうに鍛えられたんだ。だから、うっかり熱が入ったら殺しかねない。……ゾンビもスケルトンも、人の形だから、急所は一緒なのよ。

 そういうわけで、木の剣で打ち合い押し合いするっていう、結構可愛らしい力比べをすることになった。

 ロープで簡単に、円形に作ったフィールドの中。俺はスタークさんに面と向かって木の剣を構えた。ロープの外でドゥンさんが真剣な顔をして右手を掲げる。

 

「打ち合い、始めっ!!」

 

 ハリのある声での宣言と振り下ろされた腕を合図に、スタークさんが俺に迫ってきた。体格も相まって威圧感は凄まじく、剣を振り上げられるだけでモンスターにさえ恐怖を覚えさせるだろう。

 

「ハァッ!!」

 

 頭上から振り下ろされる剣を、本当は避けたいところを、木の剣でしっかりと受け止めた。

 

「フンッ!」

 

 ガチンッと硬い音が響き、全身にしびれが走る。流石は自警団団長。俺の身体にのしかかるのは、彼の村を守る覚悟の重さの一端だ。ははっ、まさかこれが全力なワケが無い! だってスタークさん、笑ってんだもん!

 

「まだ行けるか!」

「勿論! 次はこちらから!」

 

 足腰に更に力を込めてスタークさんの剣を弾き返したら、なぎ払う形で剣を振るう。素早く体勢を立て直していたスタークさんはこれを受け止め、流しながら後ろに飛び退いた。と思ったら姿勢を低くして迫ってきて、下から切り上げてきた!

 下から迫ってくる剣を受け流しつつ、その力を利用して左に跳んで、追い詰められたその場から離れる。しっかり地面を踏み込み、広い方へ一旦移動する。体勢を立て直し、睨み合って、2人して笑った。

 

「残り、30秒!」

 

 ドゥンさんのカウントを合図に地面を蹴って迫り、剣を握り直し、スタークさんと打ち合った。

 ガゴンッガゴンッ固く鈍い音が辺りに響き渡り、1撃目と同じくらいの衝撃としびれが断続的に続く。ギリギリと刃を合わせての押し合いの後は、俺がふっと力を抜いて足払いをかまして、スタークさんを転ばせた。

 

「ぬおっ!?」

「勝負アリ! 勝者、ルゥパ!」

 

 決まり手は足払い。力とは関係ないところで勝っちゃったけど、検証としてもう十分だったからな。

 膝をつくスタークさんに手を差し出して、引っ張って立ち上がらせる。

 

「ありがとうございました」

「こちらこそ。まさか、足払いを喰らうとは思っていなかったな」

「時間経過がまどろっこしかったんで」

「こちらも、油断するべきではなかったと勉強になったさ」

「……次はちゃんと、降参って言うんで」

「聞こえんなぁ?」

 

 やっべ、怒らせた。次は弱化のポーション飲んでやるのに、ボッコボコにされそう。

 

 そんな危機感の通り、100%発酵したクモの目の味がする生臭いまっずいポーションを飲んだ俺は、肩があったまったスタークさんにボッコボコにされた。

 俺の動きや耐久力自体は影響が無いみたいなんだけど、攻撃力がメチャクチャ下がるらしい。単純な力比べでも押し負けて、打ち合いなんて出来なかった。木の剣は簡単に撥ねられて、抵抗できなくなった俺は時間いっぱいまで会場の中を逃げ回った。逃げ足の速さは変わんなかったわ。結局俺の負け判定だったけど。

 

 透明化に関しては、閃いたイタズラを実行した。一旦教会の中に入って、飲んでから気配を消して、ドゥンさんの背後に立ってやった。ら、羽虫が居るとでも思われて裏拳食らって、こっちが悲鳴あげたらドゥンさんも悲鳴あげて、釣られたカヌプとパーデが揃って叫んだ。カオス。

 

 さーて、残ったのは、毒と負傷のポーションだ。

 

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