人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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※グロ表現多めです。苦手な方は読まなくても話は繋がります。


31 デバフポーション試し飲み会②

 効果を試したいポーションで残ったのは、“毒”と“負傷”。どっちも直接的にダメージを負わせてくる危険な、血を見るポーションだ。というわけで。

 

「チビっ子たちはお帰りな~」

「「チビじゃない!!」」

 

 今から凄惨な光景を見ることになるから気遣いで弟子ふたりを追い出そうとしたけど、言葉選びが悪かったらしく拒否られた。あれ? でも否定されたのってチビってとこだけじゃね? あと俺ちゃんと説明してなくね? じゃあちゃんと説明すれば引き下がってくれっかな。

 また上裸に戻ってる俺をカヌプが見上げて睨んできた。

 

「なんで帰んなきゃいけねぇんだよ! ここまで見てきたのに!」

「そうだよ! 残り2個でしょ! まだ手伝いの時間じゃないもん、見ていきたい!」

「や、あのね……」

 

 あーどうしよう。最初変なこと言ったからご機嫌斜めになっちゃったわ。こうなった子供は強情だぞ~。最初っから正直に言っときゃ、こんなメンドくさい事にならなかったってのに。自分の頭と配慮の悪さがムカつく。

 

「残ってんのは“毒”と“負傷”のポーションでさ、どっちも血を見るヤツなのよ。それを飲むのは9割俺の趣味で……。とてもじゃないけど、見せらんねぇし、ヤバい絵面だから君ら半人前さん達には見て欲しくねぇんだわ」

「えっ……」

「なにその趣味……」

「べ、別に痛いのが好きとかじゃないから! 研究家として、どんだけ効果があるのかとかどんな対処が出来るのかとかが気になるの!」

 

 「モンスターの魔女から投げられても、どれくらいの警戒心を持てばいいのかを知っておけるし!」って言って変態性を下げるのを試みたけど、果たして。あ、2人の顔が引いてるやつから納得したものになった。いけてそう。

 

「ふーん、それなら、見てた方がいいんじゃねぇの」

「え、なんで」

「だって絶対倒れるじゃん。助け要らねぇの?」

「そうだよ。痛くて自分で治癒のポーションが飲めないかもしれないよ。そしたらボクらが助けないと!」

「そ、その為にヘイリグさんがいるんだけど……」

「「今度は俺(ボク)らが助ける!!」」

「!!」

 

 やーーーんっ!?!? キュンときちゃった!? ピンチになるだろう俺を、あの時の恩返しに助けてくれるって!! 自分で自分をピンチに追いやってる自業自得にお助けなんて要らないけどね!

 でも血を見るのは確実で、自分からその道を選ぶ猟奇的な姿なんて子供には見せたくない。だけど実験は辞めたくない。ああ、どうしたら。

 「見たい! 助けたい!」って駄々を捏ねるカヌプとパーデにどうしたものかとあたふたしてたら、村長のグロートさんが「見せてやれ」って言い出した!

 

「なっ……!?」

「こいつらには自分の言葉に責任を持つ大事さ、忠告を聞かない愚かさを覚えてもらいたい。それにこんなにごねているんだ。今中止したところで、再開した時に勝手に覗きに来るぞ」

「そ、そうかもしれませんけど……!」

 

 グロートさんと会話する後ろでカヌプとパーデが「そうだそうだー!」って騒いでる。そうだーじゃないよ! 村長は俺という劇物で君らを教育しようとしてるからね? 可愛い子に旅させて、ちょっと痛い目に合わせようとしてる感じだからね?

 そして、俺にも、調子に乗り過ぎないようにって釘を刺してる。

 溜め息が出た。自分でもビックリするくらい、重苦しすぎた。

 

「分かりました。このまま試し飲みを続けます。カヌプ、パーデ。俺確実に血ぃ吐くけど、処置は全部ヘイリグさんにお願いしてるから。お前らは手を出さずしっかり見て、もし誰かが浴びた時に動けるよう、よく学んどけ」

「「はい!!」」

 

 覇気のある返事をもらって、俺はやっと覚悟を決めた。

 

 

 木箱の中にまだ3つずつ残る、古そうな血の色と濁った深緑色のポーション。それを目の前にしながらも、背中に浴びる視線の為に上がりかけた口角と高揚感を抑えた。そんな俺の横にヘイリグさんが立った。

 

「どちらから?」

「そうっすね……。時間を取らないらしい負傷からにしましょうかね」

 

 手に取ったのは古い血みたいな色をした“負傷”のポーション。

 旅の中で見つけた本には、こいつは飲んだり浴びたりした瞬間にダメージを与えるらしい。ダメージってどんな感じ? 浴びたところから痛みが走るのか? それとも治癒のポーションから作ってるから逆に作用して、浴びたところから皮膚が裂けたりするのか? 焼けたりすんのか? ボコボコと皮膚が泡立つのか? 穴が空くのか?

 

「ルゥパさん?」

「! ……それじゃあ、いただきます」

 

 さっさと飲めよって暗に言われたから、効果の予想を止めてポーションの蓋を取った。きらめくスイカが入ってるってのに生臭いそれを呷って──液体が染みた部分から鋭くて熱い痛みが襲ってきた!

 

「グフッ!!」

 

 痛みから来る拒絶反応が抑えきれず、たった2口飲んだだけで吐き出した。口の中も、喉も、その奥も痛い!!

 

「ガハッ!」

「ヒッ!」

「うっ……!」

 

 ポーションと一緒に吐き出した新鮮な血が緑の地面を赤黒く染める。ビチャッと汚い音の後にパーデとカヌプの悲鳴とうめき声が聞こえてきた。一応2人に背中を向けてたけど、表情は隠せても血の匂いは隠せなかったらしい。てか痛って! 痛って!! たった1口2口でこの裂けるような痛さとか、全部飲んだらどうなっちまうんだよ! ヒャッハー!!

 

「こら」

「ぐえっ」

 

 口を左手で覆って隠してたのに、笑ってるって見抜いたヘイリグさんに頭を叩かれた。爛れてるだろう内臓にもその衝撃が響いて痛くて思わず膝をついたら、流れるように顎をガシッと掴まれて、空を見上げさせられた。顎を掴んだ手は俺の血まみれの口に移動して、指つっこまれて無理やり口をこじ開けられた。ヘイリグさんのもう片方の手には、鮮やかな赤色の“治癒”のポーションが握られていた。

 

「まったく、痛みを楽しんでんじゃないですよ」

 

 えっ、それは誤解ですヘイリグさん。俺はこれが全部使われた時の影響力を知りたいだけでっ。今考えたけど。

 ズタズタのボロボロに傷つき、こじ開けられた口では抗議の声は上げられない。大人しく治癒のポーションを流し込まれるまま飲み込んだ。あ~、治癒のポーションおいひ~。ひんやりしてる気がする~。

 

 痛みが完全に引くまで地面にへたりこんで休憩してる俺の前で、ヘイリグさんがカヌプとパーデに講義してた。筒の形にした右手の中に左手の指を突っ込んで広げてたから、間違いなくさっきの、意識が薄い人への治癒ポの飲ませ方を指導してるんだろうな。うん、ちょっと乱暴でもまずは回復させることを優先するべきだから、ちゃんと覚えて、キモがらずやるんだそ、お前ら。

 それはそれとして。

 負傷のポーションは飲んでみた感じ、痛みが瞬時にきたわ。正確には、ポーションが染みたところでバチンッて表面が弾け破れたような衝撃と痛みが現れた。実際にそうなのかもしれない。よし、ドボドボ~っと。

 

「うはっ、すげぇ!!」

「このっ、ポーション狂い!」

「あたっ!」

 

 瓶に残ってた中身の大半を左腕にかけたら、ほんのちょっとの間の後にバチンッ!って皮膚が破れて縮んでめくれた! わーグロい!! 痛ぇ!! ついでにヘイリグさんに叩かれた頭も痛ぇ! そしてドバドバ適当にかけても傷を治して痛みを引かせてくれる治癒のポーション、やっぱスゲェわ。

 

 俺の奇行に完全にドン引きしてる5人のことは完全に放っておいて、次は“毒”のポーションの検証だ。

 出来上がったばっかりの時よりも落ち着いているけれど、やっぱり濁ってる深緑色のポーション。何かのポーションからの発展系ではなく、普通に奇妙なポーションに生のクモの目をいれて出来上がる“毒”のポーション。入ってんのがネザーウォートと生のクモの目だけだから、“弱化”のポーションよりも(プラス)の要素の香りが無い。さっきの“負傷”のポーションよりも飲むのに躊躇すんな。まあ飲むけど。

 ポーション瓶に口つけてグビグビっと~! ぐえぇっ、まっじぃ。あー、生臭ぇ。作って日にちがまぁまぁ経った“水中呼吸”とか“跳躍”のポーションとか、青くなったジャガイモで作った失敗作のポーションと似た感じがするわ~。

 

「ぷはっ……あれ?」

 

 効果が出る前に半分も飲みきれたなって思ってたら、お腹がギュウ~~って痛み出した!

 

「ぐっ!?」

 

 腹がグルグル鳴る。だんだん体の内側が熱を帯び始めてきて、指先が冷たくなって、額に脂汗をかく。は、吐き気が! 口の中酸っぱくなってきた!

 あーこれ、アレだわ。青くなったジャガイモで作ったあの失敗作だと思ってたポーションと同じやつだわ。あれも目的が目的なら立派にポーションとして成り立つやつだったんだ!

 

「うぼあっ」

 

 アーッ! 血ィ出たーー!! 気分の悪さ、腹の痛み、出血、見た目のインパクト。どれを取ってもアレの上位互換ですギャー!!! アレは泡は吹いたけど血は吐かなかったもん!

 しかも、しかもだ! これ、本の通り、()()する!

 

「ぐっ……、ふっぅぅ……」

「無理せず、横になってください」

「は、い……」

 

 ヘイリグさんに支えてもらいながら、頭を打たないよう、ゆっくり地面に横になる。その僅かな間にも、鼓動と一緒のリズムでやってくる突き刺さるような痛みと染み渡って馴染むような痛みの2種類が、身体を内側から蝕んでくる。

 

「ヴッ……ヴゥ……! ぐぁっ……!」

 

 感覚を開けてやってくる、突き刺すような痛みで身体が逐一跳ねる。染み渡っていくような痛みは液が表面を溶かしているのか、血は勢いこそ無いが、ダラダラと口から溢れていく。なんていうのか……。これで死ぬことは()()()()無さそうなのが、また悪質だな。トドメを差す存在の顔をじっくり拝めそうだ。

 にしても、これは、治癒ポで回復するよりも先に、牛乳で解毒すんのが先、だな……。横たわる俺を見下ろすヘイリグさんの手に、木のコップがあった。

 

「効果は十分に検証できましたか?」

「はい……」

「それでは牛乳を。口を開けてください」

 

 言われて、身体を無理のない程度に起こす。口元に寄せられたコップに口をつけて、牛乳をゆっくり飲んだ。傷ついた箇所に染みるらしくて痛いけど、コップ1杯分飲みきる頃には具合は良くなって、体に力が入るようにはなった。続けて充てがわれた治癒のポーションは自分で瓶を持って飲んだ。

 

「ふう……」

「次は浴びるんですか。性懲りもなく」

「はい。やっぱ食らうんだとすると、現実的に考えるとスプラッシュ化されたものだと思うんで」

「なら最初から飲まずに浴びていればいいのに……」

 

 最後の言葉が溜め息混じりだったのは、俺への苦言というより独り言に近かったからだろうな。どんなに言われたって、俺は止まらないもん。目標の為に。その為ならこの身をいくらでも犠牲にすることは、もうとっくに実証してみせた。

 

 “毒”のポーションを浴びた左腕は徐々に痛みだして、ポーションと同じ濁った深緑色に変色した。まるでゾンビのような肌に、トラウマを強烈に刺激されて叫び散らかしちまった。自分でやったことのくせに、まったく、情けねぇ話だぜ。

 ……でも、しゃーなくない? 首を撥ねた皆のことを、俺が殺したサータちゃんと神父さんのことを、今起こってることのように思い出してたから。意識半分位、今に無かったわ。

 

 ゾンビになるって、こんなに痛かったのかな。

 

 

 ……ま、まーーーアレよ、アレ!! の、残された人間って、こんなふうになっちゃうから、皆、村を全力で守れよー!!!

 

 てかよく考えたら、雷に撃たれた時とその後の方が痛かったわ。多分。あの時の俺、内臓まで全身大ヤケドしてたと思うし。うん。……うん。

 

 さて、デバフポーションの効果は全部、事故りつつも検証し終えた。次はどうしようかな。

 あ、そういやこいつらってグロウストーンダスト入れたら威力上がんのかな。跳躍のポーションみたいに。……検証したら、今度こそヘイリグさんにぶん殴られそう。い、いやでも、ね! 使わないからキラキラするかどうかだけ! あ、それなら他にも何か粉入れてみるか。小麦粉とか、砂とか火薬とか、レッドストーンダストとか! これを試すならバフポーションだけになりそうだけど。仕方ないな。

 あと、普通にこの辺りで取れる素材でポーション試作してみよ。どうせまだ次の行き先に宛てなんかないんだし。そもそもカヌプとパーデがまだ俺を手放してくれなさそうだし。

 

 

 

 その数日後。俺は、“本物”と邂逅を果たす事になる。

 

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