人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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33 お遣い内容と鍛錬内容

ファントムの皮膜 × 3

フグ × 3

ウサギの足 × 4

砂 × 30

石炭 × 10

 

 メモにあった魔女からのお遣いは、この5つだった。ものの見事に村の中で回収できないものばっかりなんですけど。石炭はワンチャン? でも炭鉱夫さんたちの邪魔をするわけにはいかないしなぁ。これ、残り5日で集めてこれるか?

 ……いや、俺が全部集める必要なんて、あるのか?

 

 お天道様がしっかり顔を出して暫くした頃、俺は額縁にクワが飾られている店の扉を開ける。カウンターの奥にいた店主さんが商品の鉄の斧から顔を上げて俺を見ると、嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。

 

「おっ、いらっしゃい! 君がウチに来てくれるなんて、こないだ鐘を買ってくれた以来じゃないか? もう来ないかと思ってたよ」

「え、どういう意味っすか?」

「ヘイリグさんみたいに、殆ど1人で集めて作るもんだと思ってたからね」

 

 そうなのか、ヘイリグさん。だとすると期待は薄いなぁ。この村の中で扱ってないから、1人で素材集めてポーションとか作ってんだろうから。

 

「で、ウチに来たってことは、何かご入り用なんだろう?」

「はい。もしあったらいいなって思って来たんですけど……。ファントムの皮膜って、取り扱ってます?」

「ふぁ、ファントムの皮膜ぅ?」

 

 あ、この反応だと取り扱ってないな。

 

 昨夜、別れる直前。魔女が俺のことを『人間と魔女の狭間の子』と言っていた。あれで閃いたんだけど、別に俺1人で全部揃えなくてもいいよね。狭間にいるなら、しっかり共生した方がお得じゃん。いうて、ヘムスタッド村にいた頃と変わらない感じでいるだけなんだけど。つまり、協力してもらえるところは協力してもらおうって魂胆だ。しょっぱなコケてるけど。

 道具屋の店主が無精ひげの生える顎に手を添えた。

 

「うーん、ファントムはこの村に入ってくる唯一のモンスターだから集めやすいだろうけど……。しかし、ファントムを素材にしようとは、流石はポーション研究家だな!」

「それほどでも。あの、もし取り扱ってるとしたら、どの店になりますかね」

「んー? 誰も買わなくて採算取れないし、商売することはないんじゃないかな? やってて教会だろうけど、無いからウチに来てるんだろ? なら討伐してる自警団に直接取引してきた方が確実じゃないかな?」

「そうですか……」

「ま、昨日も来てたくらいにはよく村の中に入ってきやがるモンスターだし、心配しなくても直ぐ手に入るよ」

「それはいいのか、悪いのか……」

 

 おいおいおい……! また俺の知らないところで襲撃かよ……! でも、誰からも暗い雰囲気は感じられなかったし、多分、大丈夫だったんだろう。生きてりゃ治癒のポーション浴びてどうにか出来るから。

 てか、うわー、村に絶対夜ふかししてる人いるじゃんこれー。で、でも、その人が健康的になっちゃったら俺が素材回収出来ないし……! この思考、裏切ってる感覚半端ねぇな。

 

「相談に乗っていただいてありがとうございました。とりあえず自警団の詰所に行ってみます」

「うん。次来る時はなんか買っていきなよ?」

「あっ、すみません。そうします!」

 

 親切な道具屋の店主とお別れすると、次は宣言通り自警団の詰所に向かった。ファントムが出たら俺も狩りに参加させてもらえるかの交渉だったり、他にも素材を買い取らせてもらえるかどうか聞いてみたりしようと思って。あわよくば、どっかのチェストの肥やしになってないかもチェックさせてもらおうとも企んでる。

 

 その詰所に寄る途中、背後からこちらに向かって走る音が聞こえてきた。軽快で、リズムの整った複数の足音からは、緊急性は感じられなかった。気になって振り返るのと、俺に声が掛かるのは同時だった。

 

「師匠ー! おはよー!」

「おはようございまーす!」

「カヌプ! パーデ! おはよう!」

「今日また俺たち、手伝いと鍛錬頑張るからな!」

「だから午後はまた遊んでねー!」

「いいぜー!」

 

 負荷として干し草を背負ってランニングしながら、俺に声をかけてきたカヌプとパーデは、手短に要件を伝えると、そのまま走り去ってった。……すっかり自立しちゃって。俺の方がちょっと寂しいぞ。そりゃ俺から『基礎は村の人間から習った方が郷土愛が芽生え、深まって良い』って言ったけど。今のカヌプに「俺と修行の旅に出たいか?」って聞いたら、迷いなく断られそう。迷いなくってところが肝な。

 そんな感傷に浸りつつ、詰所へとたどり着いた。けどドゥンさんもスタークさんもいなくて、詰所の掃除をしてた団員さんにとりあえず相談してみた。

 

「ファントム? あー、確かに昨日、5匹くらい襲撃してきたわ」

「大丈夫だったんですか? 俺が知らないって事は、夜だったんですよね?」

「そうだな。でもものの10分くらいで射撃部隊が全滅させたから、とくに被害は無いぜ。ああそうだ! ルゥパ、こっち来いよ」

 

 ただでさえパッチリしている目を更に大きく開いた団員さんが俺を手招きして、詰所の奥の倉庫に連れてこられた。そして、手前の方に無造作に置かれてあるチェストを開けるよう促された。団員さんのニヤニヤ顔が気になるけど、一先ずチェストを開けると、なんてこと! ファントムの死骸がご丁寧にしまわれてあった! しかも、ちゃんと血抜きまでされた、割と綺麗な状態で!

 

「こ、これ、どうしたんですか?」

「それは、昨夜スタークとドゥンがお前の為にって。あんなポーション狂いなら、クモ以外のモンスターも素材にするだろうからってさ」

「スタークさん、ドゥンさん……!」

 

 あの2人は俺のことをよく分かってくれてるぅ!

 

「ただし! これを受け取るからには、あの2人のやる気を持続させること! だってさ」

「了解っ!」

 

 正直、ポーション要求される方が気楽なんだけどなぁ。まぁそんな事は言いませんよ。俺じゃ1匹見つけるのも苦労するだろうファントムを、殆どご好意で5匹分くれたんだから。でも暗視のポーションくらいはお礼にあげようか。

 

 ホクホク顔で教会に戻って、今度はヘイリグさんに相談する。ウサギ狩りと砂回収しに行くからって言って、この辺りの地図を見せてもらった。この村から見て南の方に砂漠がある。ヘイリグさんも採集によく向かうっていうそこは、まぁまぁ離れた場所だった。けど、強化した俊敏のポーションを使えば1日でたどり着けないことはないだろう。人目がなければ雪玉ちゃんにも協力願えるしな。村から出る期間としては成果によるけど、最短で3日かな。って考えると、午後の子供たちとの遊び兼鍛錬、どうしようか。

 

 3日以上開けている間のことを悩みつつ、迎えた例の時間。今回もカヌプとパーデと一緒に集まってきてくれた少年少女たちといっしょに今日遊ぶのは、かくれんぼ。ただし鍛錬の要素も取り入れているそれは、勿論ただの遊びじゃない!

 

 場所はバランス能力やジャンプ力を高める訓練場のある広場。ここのジャンプ飛距離を高める訓練場のそばには、広めの林がある。もちろんここも村の敷地内だからモンスターは湧かない安全地帯だ。

 林の外に置かれた1つの鐘。それの横に立つ俺の目の前には、全員で14名居る少年少女たちが綺麗に並んで立っていた。まるで小さな自警団だ。規模も、身長もな。

 

「改めてルールと狙いを説明するよ。今日やるのは『かくれんぼ』。かくれんぼは隠密能力や狩りでの集中力、そしていざとなった時の瞬発力を鍛えることを目的にしている。今回は俺がクリーパー役で、君らは逃亡者及び、撃退者。弓矢解禁後は自分の身を守るのは勿論、あらかじめ驚異を排除する為にも、そして味方が俺に狙われてるのを見つけたら、容赦なく俺に矢を放て。いいな!」

「「「はい!!」」」

「元気とやる気があってよろしい!」

 

 立ち並んで俺の説明を聞く彼らの手には背丈に合わせた弓が握られている。今は各自のインベントリにしまわれている矢は、矢尻の部分が火打ち石からスライムポールに改造されている。半人前くんたちの為に矢師に依頼して作ってもらったものだ。これなら撃たれても打撲で済む。

 

「範囲はこの訓練場の林、村の敷地ギリギリまで! 開始から5分は隠密オンリー、それ以降は弓矢を解禁する。俺に捕まったらそこで弓矢の練習な!」

「「「分かりました!!」」」

「君らの勝利条件はクリーパー役の俺に3発入れること! 敗北条件の全滅をする前に、この白いコートを目掛けて、矢を打ち込んで来い!!」

「「「はい!!」」」

 

 男女関わらずハキハキと力強く返事する半人前くんたち。彼ら1人ひとりの目に宿る覚悟と熱意を確認できたところで、俺は右腕を天高く掲げた。

 

「それではこれより、かくれんぼを開始する! 散!!!」

 

 掲げた右腕を宣言とともに胸元にまで勢いよく下ろし、流れるまま横に払う。途端に少年少女たちが背後の林に向かって散り散りに走り出した。うん、今日も反応は良し! それぞれがポジションに着くまで少しの猶予を与えるついでに、俺自身も気分を作っていく。今回はクリーパーだったな。なら、足音を立てず、息を潜め、決して走らず、やる時は盛大に。さぁて、気配を殺して行きますか。

 気配を殺した途端、林の中から困惑のざわめきが聞こえた。まだ俺林の中に入ってねぇぞ? まだまだだなぁ。子供だろうと、モンスターは容赦しないぜ?

 自身も林の中に紛れ込み、少ししてから弓矢を構える。狙うはさっきまで俺が隣に立ってた鐘。スライムボールの矢尻でも当たれば金色に輝く鐘はボーンと低い音を鳴らしてくれた。──今から5分間。カヌプたちにとっては隠れ生き延びる時間。そして俺にとっては、クリーパーになりきっての、狩りの時間だ。

 

 風が吹く。風に撫でられる木々が囁き、緊張の匂いを俺に教えてくれる。ああ、素晴らしい。俺が近くにいると分かった子達は、皆一様に俺の背より高い木の上に居る。今は弓矢を使っちゃダメだから撃ってこないだけで、対処が分かっているから俺は不利だな。そうだ。クリーパーは距離を取れば、ロックオンされてたって爆発してこない。だから木に登ったりブロックを積み上げたりして、高い場所や遠くから矢を飛ばせば撃退できる。前に教えたこと、ちゃんと覚えてるな! 初手不利でどうしたもんか!

 周囲で一番隠密が上手い子を見上げる。しっかり顔を見てにっこり笑ってやれば、面白いように顔を引きつらせた。いたずらしてすっきりしたところで、別の、俺を認識していないだろう子達の所に向かう。誰か油断して、ちょっと低い位置に居ないかなー。

 

 なんて思ってたら、いたわ、ちょっと油断してる子。俺に背後から近づかれて気が付いてない、女の子。選んだ木が悪かったね。その低さじゃ、クリーパーの爆破範囲だ。

 爆発する代わりに、彼女が登っている木を思いっきり蹴飛ばしてやる。それで折れたりなんかはしないけど、突然の衝撃と音は爆発に匹敵する心臓への負担だろ。その企み通り、不意をつかれたらしい少女は短く悲鳴を上げ、足を滑らせて落ちてきた! ギリギリでなんとか受け止め切れた。俺に抱っこされてる少女は顔を青くさせていた。落下とか驚かされたこととか、色々ビビったもんねぇ。地面に下ろしてから、竦んでる肩を叩く。

 

「はい、アウト。次はもっと高いところに上りな。それじゃ、弓矢の練習しておいで」

「はい……」

 

 肩を落とした少女はまっすぐ林から出て行く。時間が勿体無いから見送らないけど、この子の行き先は干草の俵を的にした射撃訓練場だ。かくれんぼが終わるまでそこで訓練がてら時間潰ししててもらう。

 さて、次は君だ。

 

「っ!?」

「まだ、5分経ってないよ」

 

 木の後ろに隠れていた少年の胸ぐらを掴んで、引っ張り出す。こーら、振り切って逃げるくらいの気概は見せなさい!

 背後から気づかれないように追って、時間になったら狙うつもりだったか。だけどね少年。クリーパーは隠密能力が高けりゃ、察知能力もそこそこ高いのよ。てか弓装備なんだから、こんな半径3m以内に入ってくるんじゃありません!

 

「アウト。威勢がいいのはいいけど、返り討ちにされたら意味ないだろ。ましてや相手はクリーパー。撃退できないなら追うんじゃなくって逃げなさい。さ、行ったいった」

「はぁい……」

 

 やる気が悪い方にはたらいちゃった少年を送り出したら、数歩歩いてからまた気配を消す。今で大体3分経ったかな。……あと1人、いけたら御の字か。

 真剣にやる子達ばかりだから、吸収速度も上達速度も凄まじい。そんなに日にちが経ってるわけじゃないにも関わらず、俺が教えたことの8割は皆理解して実践しようとしてくれる。だから、5分経って少年少女らの弓矢を解禁した途端、四方八方から矢が撃ち込まれた。

 

「いってぇ!」

 

 飛んできた矢は7本。当たったのは3本。うん。彼らの勝利条件は満たしてる。残り12人か。大分残したな。

 

「矢を3本受けた! かくれんぼの1回戦は君らの勝利だ!」

 

 こちらが負けを認めて鍛錬の区切りを宣言すると、嬉しそうな歓声がそこかしこから降ってくる。こういう時は無邪気だなぁ。

 

「続けてやる? 次はクモ役に俺、なるけど」

 

 難易度を上げて続きをするかとお誘いすれば、半人前くんたちの中でも威勢のいい子は「やります!」ってすぐさま答えた。今日の彼らは調子がいいらしい。この勢いで3回戦まで行くつもりだろうな。

 

 ま、そんなに甘くないけど。

 

「きゃああっ! 来ないでぇ!!」

「くっそ、すばしっこい! 当たらねぇ!」

「なんでそんなに早く木に登れんだよっ!」

「うわっわっ! お、落ちるっ!」

 

 クモは足が速くて、木登りも得意だ。いくら軽くてもあの巨体で体当たりされたら大人でも一溜まりない。体当たりを3発受けたり背中を地面に付けたら退場だ。

 俺が矢を3本受けた時点で、残り、5人。

 

「なっ、ど、どこから狙って!?」

「なんで弓構えながら動けるんだよっ!」

「走ってないのに、当たんない!」

「くっそ、3発目当たった!!」

 

 スケルトンは走らないけど、総じて狙撃の名手。距離も高さもヤツの射線の妨げにはならない。こちらは俺の矢を3発受けたら退場。消費がえぐいな。

 残り、2人。互いに、既に2発受けている。

 

「……やっぱり残るか、カヌプ、パーデ」

 

 声をかけるも、2人は答えてくれない。当たり前だ。スケルトンは喋らない。よって答えないのが正解だ。

 気配はない。匂いは感じるから間違いなく林の中にいる。向こうも、なるべく俺のことを見ないようにしてるな。けど、残念。

 

「っ!?」

「撃ったら場所を変えなきゃ、パーデ。居場所を教えてくれたようなものなんだから」

 

 俺が絶えず動き回ってるから、探している最中で居場所を捉えてないとでも思ったか。甘い。奴らはどこまでズル賢いか分からないんだ。厳しめにいくぞ。

 

「なぁ、そう思うよな。カヌプ」

 

 問いかけに答えるように矢が飛んでくる。それをひらりと躱して、飛んできた方を見る。すると面白いことに、カヌプは全身を晒して俺に構えた矢を向けていた!

 

「どうせバレるなら、正面切って退治してやるよ!!」

「おっとこらし~」

 

 それも1つの方法だ。この鍛錬で近接戦闘が認められていれば、尚更カヌプの作戦は効果的だ。

 でも、現実には弓矢しか攻撃方法は認めていないし、長時間弓を扱っていたから疲労が溜まっていたんだろう。カヌプの放った矢は、俺の手前で落ちた。

 

「惜しかったな」

 

 カヌプが俺が放った矢を太ももに受けて、3回戦は終わった。少年少女たちの全滅で、彼らの負けだ。

 

「くっそ~! また負けたァ!!」

「次は、次こそはボクらが勝つからね!!」

「何度でもかかってこい!」

 

 悔しがれるってことは、それだけ努力してるってことだ。自分と大切な人の為に、頑張れよ、少年少女。

 

 とは言ったけど、今回のルールだと回数重ねるごとに人数減ってってるから、明日は減らない形式でまた同じルールでやってみても……あ、俺明日から素材集めに村の外に出るんだった。

 

 

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