人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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34 根回しは大事

 うわ~、どうしよう。最近この子ら調子上がってきてんのに、ここで流れを止めちゃうなんて勿体無さすぎる。こういうのは勢いが大事だと思うんだよなぁ。

 どうしよ。誰に穴埋めお願いしようかなぁ。ヘイリグさん? いやここはスタークさんとドゥンさん? 自警団にお願いした方がヘイリグさんより手加減してくれそうだし、よし、そっちにしよう。

 

「師匠? どうしたの、考え事?」

 

 鍛錬のせいで林の中に散らばる矢を回収してたら、近くに来たカヌプが俺の顔を覗き込んできた。あ、カヌプ達にも俺が村をしばらく空ける事を伝えとかなきゃ。

 

「まぁ、そうだな。お前らにも関係あることだから、矢を回収し終わったら言うわ」

「ん、分かった」

 

 なんかご機嫌になったカヌプは矢を回収する手を早くした。これ、良い話されると勘違いされてねぇか? なんか、申し訳ねぇな。確かに悪いことばかりの話ではないにしても。

 この後、皆の前で『明日から最低3日間は素材集めの為に村を空ける。これから頼むけど、自警団かヘイリグさんに俺の代わりをお願いするから』って連絡したら、ザワつく心が予期した通り、少年少女たちからブーイング食らった。そうだよな、俺でもこんな直前に知らされたら怒るもん。

 半人前くんたちからのお叱りの声を受けつつ、一人前が揃う自警団に向かった。今度はドゥンさんもスタークさんも揃って詰所に居た。

 

「こんにちは、スタークさん、ドゥンさん」

「おお、ルゥパか」

「こんにちは。カヌプたちへの鍛錬が終わったんですね」

「はい、ついさっき。あ、団員さんから聞きました。2人とも俺の為にファントムの死骸を取っててくれたんですよね。ありがとうございます、すぐ活用しますね!」

「お、おう……。本当に見境無いんだな」

「無駄にしてくれないなら、夜中に飛び出した甲斐があるってものですよ」

「ドゥン、お前なぁ……」

 

 挨拶ついでに2人が手配してくれたファントムの死骸の礼を伝えたら、なんかスタークさんが自慢げなドゥンさんを呆れた目で見てた。見られたドゥンさんも彼から顔を逸らして肩を竦めた。あ、ドゥンさんなんかやらかしたな~? あ、まさか。

 

「そういえば、自警団の団長も副団長も詰所や訓練場にいないなんて、ちょっとおかしな話ですよね。何かあったんです?」

「ゥエッ!?」

「ハハッ、ウチはお前の村よりは大分警戒がゆるいから、よくあることだ。長い間空けるようなことはしないようにしているがな。けど、今朝は訳が違うな」

「へぇ、スタークさんは?」

「俺は夜の見回り明けで、朝は仮眠を取っていた」

「じゃあ、昨夜ファントムを討伐したのはスタークさん?」

「ああ」

「そうだったんですね。それじゃあ、ドゥンさんは?」

 

 俺からの問いかけに、気まずい笑顔で冷や汗をたらりとさせるドゥンさん。若干責めるように揶揄ってると、ついには顔を逸らされた。

 

「……昨夜、一晩中、レッドストーンの活用法を模索してました」

「よ! レッドストーン狂い!」

「あなたほど重症じゃないです!」

「でも俺は寝坊しませーん!」

「どうせポーションで元気の前借りしてんでしょ!」

「バレたか」

「分かりやすいなお前」

 

 椅子に腰掛けて何かの書類を見てるスタークさんが薄く笑って俺を見た。俺も呆れられてる? あ、今更か。

 てか、昨日の夜ファントム呼んだのって、絶対ドゥンさんじゃん。もしかしてこの村にファントムがよく来る(らしい)のって、この人の研究ゆえの夜更かしのせいじゃない? 初対面の時はあんなに仕事ができそうなしっかりものな感じ醸し出してたのに。だんだんポンコツさが出てきたなぁ。これはこれで親しみが持てて俺は好きだけどね。

 腕組みをして不機嫌顔になっちゃったドゥンさんが「で、ご要件は?」って語気を強めて聞いてきた。そうだった、そうだった。

 

「実は俺、明日から最低でも3日かけて村の外で素材集めしてこようと考えてるんです」

「それはまた、急な話ですね」

「最低3日ってことは、砂漠か? 素材は何を集めてくる気だ?」

「ウサギや火薬、それから大量の砂ですね。跳躍のポーションやスプラッシュ用の瓶を作りたいので、デバフポーションの量産の為にも、なるべく早いうちに集めてきたいんです」

 

 嘘は吐いてない。他にも石炭とかフグだとか、本物の魔女との邂逅だとか、言ってないことがあるだけだ。それらを加味してももっともらしい事を言ったのに、スタークさんは納得してなさそうだった。そもそも疑り深い人だけどさ。だけど、要件はこれじゃない。

 

「先に頼みたいことを言っておきますと、俺が村を開ける間、カヌプたちの午後の鍛錬相手をして欲しいんです」

「はぁ、なるほどな」

 

 よし! 話の腰は折られなかったぞ! 俺に話を遮られてむすっとした表情になるスタークさんの前で、ドゥンさんが腕組みを解いて両手を腰に当てた。

 

「見回りの際に少しだけ見かけましたが、かなり真剣に取り組んでいるようでしたからね。あの様子だと、ルゥパさんの急な決定はかなり渋られたのでは?」

「ははっ、しっかり怒られました。でも真剣だからこそ、そろそろあの子らの相手してくれる人を増やしたかったんです。だからいい機会だと思って」

「俺らが協力することに異論は無い。いいだろう、こちらから明日、暇そうにしているヤツを3人ほど送り込もう。手順はパーデから聞き取るが、何かお前の方で心がけていることがあれば教えて欲しい。紙に書き起こしてくれていると尚助かるんだが」

「分かりました。夜までに書いて、詰所に届けますね」

「ああ」

 

 良かったー。ちょっと前倒しになっちゃうけど元々考えてた事だから、受け入れてくれて助かったわ。それじゃこのまま綺麗に立ち去って──

 

「それで、なんでこんな急に素材集めに動く? もっと前もって言えただろう?」

 

 ま、逃がしてくれないわなー!

 部屋の奥で椅子に深く腰掛けるスタークさんに向けて、意識して笑みを見せた。

 

「俺が思いつきで動くことなんて、これまで何度もあったじゃないっすか。あのデバフポーション試し飲みとか。今更っすよ。今回に関しては本当に急で申し訳ないですけど、スプラッシュ用の瓶が入り用になったので……」

「急に必要になったのはなんでだ?」

「そりゃ、デバフポーションを使いやすくする為っすよ。特に“弱化”と“鈍化”。弱らせて足も遅くさせれば、クモの目の回収がしやすくなりますからね」

「それ、貴方に必要ですか?」

「えっ」

 

 なんか、ドゥンさんのあまりに純粋な疑問の声に思わず言葉が詰まった。子供みたいに首を傾げて聞いてこないでよ、緊張が解ける。ドゥンさんのせいで気が抜けちゃったら、スタークさんの目が鋭くなった。

 

「確かにそうだな。今でも特に不自由している感じじゃないし、わざわざカヌプやパーデたちの不興を買ってまで急ぐ必要があるようには、思えないな」

 

 ……あーあ。スタークさん、その目は、あからさますぎ。気遣うのやーめた。

 

「……これ、まだ、言いたくなかったんですけどね」

「なんだ?」

「俺、スプラッシュポーションを投げる練習を、カヌプたちにさせようって考えてるんです」

「スプラッシュを? それはまた、どうして? あの2人は喜びそうですけど」

「ほら、ポーションを使うことに楽しさを見出せば、そこからポーション自体を作りたい、ポーション職人になりたいと思ってくれる子が出てきてくれるかもしれないじゃないですか。……ヘイリグさん、後継者探しに苦労してるみたいなんで、これで助けになれればと思って」

「「ぐっ」」

「強くなるのって、時間かかるじゃないですか。だから一刻も早い方が良いと思いません? 俺、1年しかこの村に居座らないつもりなんですし」

「「……」」

 

 言葉に詰まったスタークさんは、深い深い溜め息を吐いた後、「分かった。そういうことなんだな」って言って、話を切り上げた。へっ、俺の勝ちだぜ。

 ヘイリグさんが後継者探しに苦心してるのも、彼らがクモの目を剥ぎ取れないからってこの話から降りたのも事実。だからこそ、これ以上こっちが突かれないように、向こうの痛みが増すように言ってやった。この手、あんまり使いたくなかったけど、あんまりしつこいからやっちまったわ。引き際を間違えるとこうなるって、俺も勉強しとこ。

 

 疑り深いスタークさんの追求を躱して、明日の準備をする為に教会に戻った。その帰り道で、風に乗ってすごく甘い香りが鼻をくすぐった。香ばしさも感じる。……あ、これ、ハチミツを煮詰めて砂糖にしてんな? 俊敏のポーション作ろうとしてる? アレ、ハチミツの状態じゃ出来なかったもんなぁ。……も、もしかして、付いてくる気かっ!? 朝に話をした時にはそんなふうじゃなかったのに! くそっ、油断した!

 

 気持ち足早に教会の作業場に戻ると、中でヘイリグさんがかまどでハチミツを煮詰めていた。中ではより一層濃厚なハチミツの匂いが充満している。甘いものが苦手な人だったら噎せちゃうなコレ。

 

「ただ今戻りました」

「お疲れ様でした。ちょっと遅かったようですけど、あの子たちの相手をした後、どこかへ寄っていたんです?」

「ええ、自警団へ。ほら、朝にお話しましたけど、俺明日から村の外へ素材集めするって言ったじゃないっすか。だからその間、カヌプたちをお願いしますって依頼してきたんです」

「なるほど、それで。あの子たちのことをどうするんだろうって気になっていたんですが、ちゃんと考えているようで安心しました」

「あはは……」

 

 行き当たりばったりすぎるもんなぁ、今の俺。頼りなく見られるのも仕方ないわな。

 ヘイリグさんが出来上がったらしい砂糖を鍋から皿に移し替え、粗熱を取る作業に入った。ハチミツ由来のそれはサトウキビから作ったものより濃い香りがして、少し茶色がかっていた。って、忘れるところだった!

 

「あっ、そうだ! あの人らには悪いんですけど、自警団だけじゃちょっと不安なので、ヘイリグさんも見ててくれませんか?」

「え? ええ、構いませんが……」

「ありがとうございます!」

「でも、君の素材集めに同行しなくて大丈夫ですか? いくら道が出来ているからって、そこそこ冒険ですよ?」

「嘗めてるわけじゃありませんが、俺も冒険の心得はありますから。途中で気になるものができて、寄り道するかもしれませんし、それに地図も貸していただけるんでしょう? 迷いませんよ」

「そうですか……。分かりました。なら今作ったこの砂糖で、俊敏のポーションを作っていってください。私は地図を複製してきます」

「いいんですか? ありがとうございます!」

「どういたしまして」

 

 ヘイリグさんが作業場の更に奥にある倉庫に入ってったのを、その扉がしっかり閉じられたのを確認してから、グッと拳を握った。よっしゃ! これで俺が心配する要素は無くなった! 後は準備をするだけ! えっとぉ、俊敏のポーションを作って、グロウストーンダストで強化して? 自警団の為に俺がモンスター役で心がけていることを紙に書き起こして? テントとか色々用意して? 明日の朝には今朝仕込んだぬか床を確認して……。結構やることあんな。まぁでも、みんなを騙してる心労に比べたら何でもないし、明日からは暫く1人だ。久々に雪玉ちゃんたちとイチャイチャ出来るのを励みにして、取り組もう。

 

「まずは、ポーションつくっか!」

 

 粗熱をとっている最中の茶色がかった砂糖を見下ろしながら、背筋を伸ばした。窓からはほんの少しオレンジがかった陽の光が入ってくる。もう少しで、夕方になる。夜にはメモを詰所に持ってかないといけない。急がねぇとな。

 

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