人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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※チート技②登場


35 視覚共有できるようになりました

 教会の2階部分にある、今は俺の拠点になっている客人用の部屋。鶏もまだ鳴かない日の出前で外は暗くとも、ランタンの灯りで部屋の中ははっきり見渡せる。この中で俺は、3度目の荷物の確認作業を行っていた。

 テント、釣竿と、焚き火台に、罠の材料。各種ツールに、松明と牛乳と、各種ポーション。作業台も用意して……。よし、必要なものは全部揃ってるな。インベントリの容量がデカくなって本当に良かった。こんだけの大荷物なのに手荷物が無いどころか、手ぶらで済んじまってるよ。雪玉ちゃんたち様さまだ。

 

 昨日でしっかり根回しを終えたから、今日は日の出と同時に砂漠に向かうつもりだ。それだけ早くに出ても、ヘイリグさんの足で1日かかるって言うんだからとんでもない距離だよな。あの人、俺よりほんの少し足が遅いだけだし。体力もそんな差は無いだろ。

 違いがあるとしたら、ポーションの性能差、か。

 

 インベントリから久しぶりにキラキラポーションを取り出して眺めてたところで、部屋のドアがノックされた。「どうぞ」と許可を出したらドアが開かれる。顔を覗かせたのはランタンを持ったヘイリグさんだった。

 

「おはようございます、ルゥパさん」

「おはようございます。忘れ物も、寝坊もありませんよ」

「ふふっ、そんな心配はしてませんよ。君はしっかりものですから」

「へへへっ」

 

 いくつになっても褒められるのは嬉しいよなぁ。

 ヘイリグさんが呼びに来たのは、包んだ朝食と複製した地図を渡す為だって。優しい。下の祈りの場所に降りてサンドイッチを受け取ると、地図について説明を受けた。

 

「北側にある緑の旗が立っている場所が、この村を指すものです。この東南側にある白い場所が砂漠で、赤い旗が立っている場所はよくウサギが出没するオススメポイントです」

「5箇所もあるんですね。罠の仕掛けがいがありますわ」

「ウサギは足で追いかけるには苦労しますからねぇ。人が近いと警戒して寄ってきませんし、そもそも毛の色が砂の色に近くて発見しづらいですし」

「おバカだから案外、ニンジンにまっしぐらに突っ込んでは来るんですけどね」

 

 でも捕まえようとすると抵抗するのは間違いない。苦労するくらいなら罠を仕掛けて簡単に捕まえた方がいい。その間に砂も火薬も回収したりフグを釣ってくれば時間短縮になるしな。石炭は途中の岩場でちょっと掘ればきっと出てくるだろ。

 ヘイリグさんから地図を受け取ったら、いよいよ出発の準備は整った。外に出ると空は明るくなって、鶏も威勢良く鳴き始めた。澄んだ空気が胸に入ると、自分まで綺麗な存在になった気分になる。

 

「それじゃあそろそろ、行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい。無事に帰ってきてくることを、村の皆が望んでいます」

「ありがたい話っすわ」

 

 こんなよそ者の帰りを待っててくれるなんて、本当に優しくない? 俺仲間判定されてる。

 ヘイリグさんとも教会の前で別れて、門を通って村の外に出る。地図を見て、門番さんにも尋ねて向かうべき方角を確かめたら、脚の健を伸ばして、俊敏のポーションを呷った。地平線から顔を覗かせたばかりのお天道様が、グロウストーンダスト入りのポーションをキラキラ輝かせた。フ~~~~ッ!! チカラみなぎるぅ~~~~!!

 

「んじゃ、行きますか!」

「行ってらっしゃ~い」

「はーい!」

 

 緩く手を振ってくれる門番さんに見送られながら、まずは道なりに、朝日に向かって走り出す。1歩翔けるごとに、どんどんスピードが乗り出して、景色がグングン流れていく! あーたのしー! これだよこれ~!!

 後ろで門番さんが「えーー!?!?」って叫んでるのすら楽しい。イタズラが成功したって感じだな!

 

 野を越え、山を越え、渓谷を越え。ポーションの効果が切れた(やっぱり普通のより効果時間が短かった)ところで朝ごはんを頂いたら、今度は雪玉ちゃんたちにお願いしてテレポートした。あんだけ早く移動したんだ。誰も俺についてこれてないハズ。おまけに周りに人気(ひとけ)もない! だから久々に、雪玉ちゃんと正面切ってお喋り出来るぜぇ!!

 

「砂漠までいっちょ、よろしくな!」

 

 外で自由に飛びまわるのが久しぶりな雪玉ちゃんたちは、くるくると、ビュンビュンと青空の下で飛び回っていた。嬉しいねぇ! 俺も嬉しい!

 

 ポンポンポンッとテレポートを繰り返し、途中で小さな洞窟を見つけて石炭を必要分だけ回収し、またテレポート。文字通りのトントン拍子で進んでいって、目的地の砂漠に着いたのは、お天道様がまだ天辺に着いてない時間帯だった。わー、とんでもなく早い到着じゃーん。まだお昼ご飯にも早い時間だぜ。ま、今日は食わずに働くつもりなんだけど。

 

「まずは、海辺を探そうか」

 

 空を飛ばずに俺の肩に乗る雪玉ちゃんに一瞥送ってから、もう一回地図を見る。ウサギ狩りポイントが乱立する地図の下の方に、青く塗られた広い場所が見える。つまりここから更に南に進めば、海がある! なんて都合がいいのでしょう! そこでフグを釣りながら、ウサギ捕獲用の罠を作ってりゃいいんだから!

 先を行く雪玉ちゃんたちを辿ってテレポートしてりゃ、あっという間に海が見えた。砂の丘から見る海は地図で予測していたよりずっと広そうで、穏やかそうだった。

 

「泳いでも良さそうなくらい、あったかそうだな」

 

 とは言っても、余分な着替えは持ってきてない。素潜りでフグを取るのは、最終手段として考えとくか。そんな風に算段を立てながら、ウッキウキで海へ向かう雪玉ちゃんたちに手を伸ばして、テレポートをした。

 

 

・フグ釣り

・ウサギ狩り用の罠製作

・砂回収

・火薬回収

 

 砂漠についたら、これだけやることがある。この中で最も優先順位が高いのは、スタークさんたちに報告してないフグ釣り。釣りって言ったら待ってる時間が長いくせに手が離せない狩りの仕方。1人で何本も釣竿を仕掛けるのも世話できないから難しい。だけど俺には、雪玉ちゃんたちがいる!

 海に釣り針を遠投したら、竿を砂に深く深く刺して、雪玉ちゃんに見ているように頼んだ。仕掛けた釣竿は、全部で5つ。数撃ちゃ当たるだろ戦法だ。

 

 釣りしている間は手が離せない? 砂に釣竿をぶっ刺しゃいい!

 魚がかかったかどうか見てなきゃいけない? 雪玉ちゃんたちに見ててもらえばいい!

 直ぐに釣り上げなきゃいけないから離れられない? テレポートすりゃいい!

 

 雪玉ちゃんがいれば、手間のかかる釣りもこんだけ効率化できるんだからスゲーよな! さて、次に手を付けなきゃいけないのは、罠製作だ。釣竿を仕掛ける前に立てたテントに戻ったら、直射日光が遮られて比較的涼しいその中でインベントリに手を突っ込んだ。

 

 ウサギ捕獲用の罠を作業台で試しに1台をこしらえたら、それを持って外に出た。と同時に、雪玉ちゃんがズイッと俺の顔まで飛んで寄ってきて、ビッ! と海の方を示した。

 

「おっ、かかった!?」

 

 これは釣れたって合図だろ!? テレポートするまでもない距離だから走り出すと、左から2つ目の釣竿の上で雪玉ちゃんが1人クルクル飛び回ってた。砂に足を取られつつも駆けつけて、刺さった釣竿を引き抜く。生き物がかかってる重さと抵抗を感じて、思わず笑みが溢れる。これでフグなら万々歳。他の魚でもお土産に……は、釣りするって言ってないからアレか~。リリースかなぁ。

 

「よーいーしょっと! おー! フグだ!」

 

 バチャバチャ抵抗する獲物がかかった釣り糸を反動つけて一気に引き上げれば、まんまる黄色のトゲトゲボディが釣れた。お目当てのフグだ!

 

「やった! 幸先良いぜ!」

 

 プク~っと膨れてピチピチするフグを海水入りバケツに入れて、インベントリに入れる。普通、生き物はインベントリに入れようと思っても入んないのに、魚に関しては入れられるの、なんか不思議だよなぁ。便利だからいいけど。さて、他に魚が掛かった竿も無いし、ウサギ捕獲用罠の出来を確認しますかー。

 気合を入れ直して今活躍した釣竿を振って釣り針を海に投げたら、ビンッ! て、別の釣り糸が引っ張られた音がした。おっ、もう次がかかったか! 持ってる釣竿をまた砂に刺して右隣の竿に駆けつけようとしたら、雪玉ちゃんが1人、ドポンッと音を立てて海に入ってった。えっ。

 

「えっ、ちょ、雪玉ちゃんって水の中に入っても大丈夫なの!? 溶けないの!?」

 

 いや雪じゃないから溶けないだろうけど! でも今まで見たことないことをイキナリしだしたら、ビックリするわ!

 かかった魚を釣り上げようと、釣竿に駆けつけて引き抜こうとしたら、雪玉ちゃんに手を体当たりで弾かれた。

 

「えっ、なんで」

 

 なんで釣りの邪魔をするのか分からなすぎてショックを受けてたら、ずっと俺の肩に乗ってくれている雪玉ちゃんが俺の顔の前に漂ってきて、眉間にピトッとくっついてきた。驚いて反射で目を閉じたら、瞼を閉じたはずなのに景色が見えた。砂ばかりの砂漠じゃない、一面真っ青な、水の中の世界だった。

 

「オゥエッ!?!!?」

 

 入ってない海の中の景色が見えて目を見開いたら、閉じる前と変わらない、いや雪玉ちゃんが視界の中央を陣取ってる砂漠の景色が見えた。な、なぁに今のぉ……。

 瞬きのたびに海の中がちらついて、ゾワゾワする。気持ち悪くなって口を手で覆って、つい目をキツく閉じたら、海の中の景色に、1匹の熱帯魚が現れた。

 

「ん?」

 

 正確に言えば見える範囲にいる熱帯魚は別に1匹だけじゃない。でもその黄色のシマシマの熱帯魚は、他の群れから外れて慌てたようにジタバタしていた。よく見ると、熱帯魚の口から糸が伸びていた。あれは、釣り糸? ジタバタ身体を左右に振って針から逃れようとする熱帯魚に近づいていったかと思うと、視界外から白くて小さい突起物が伸びた。左右2つの突起物は熱帯魚の口と針をそれぞれ掴むと、むいむいと器用に動かして熱帯魚の口から針を抜いた。未だにパニック状態の黄色い熱帯魚はすぐさま針からピューっと逃げていった。

 

「……」

 

 瞼を上げると、さっきまで激しく揺れていた釣竿がシンと静まり返っていた。いつの間にか俺の右肩に戻っていた雪玉ちゃんを左手に乗せて、正面に来てもらった。スイカの種みたいな黒いつぶらな目が俺をまっすぐ見据えてくる。

 

「ねぇ、雪玉ちゃん。今俺が目を閉じて見えた景色って、今海に潜ってる雪玉ちゃんが見ていた光景ってことで、いい?」

 

 俺からの問いかけに、雪玉ちゃんは目を閉じて頷いた。肯定だと認識すると同時に、全身が熱く沸きだした!

 

「それってつまり、雪玉ちゃんたちが見てる世界が、俺にも見えるってことー!? キャーステキー!」

 

 高い空からの景色も、地面からの景色も、人の大きさでは入れない場所も、雪玉ちゃんの目を借りれば見ることが出来るってことだ。なにそれステキすぎー! 俺無敵じゃーん!

 ただでさえ作業を手伝ってもらったり、インベントリの容量を増やしてくれたり、テレポートまでしてくれてるのに、果てには視覚共有までしてくれるなんて!

 

「本当に君らって、俺なんだなぁ!」

 

 出会った最初に指さされて『俺はお前だ』ってされたから、雪玉ちゃんは俺の身体の一種だと思ってたけどさ。まさかテレポート以外にも便利な能力があるなんてなぁ。

 

「もしかして、耳も鼻も感覚共有できたりすんのぉ? やること済ませたら試させてねー!」

 

 目の前の子にも釣りを手伝ってくれてる子達にも手を振って呼びかけたら、皆クルクル縦回転して頷いてくれた。協力的で助かるわー。

 ん? あれっ待てよ? 新しい力にビックリしてそっちに気が逸れてたけどさ。今さっき海に潜った雪玉ちゃんが、釣り針にかかった熱帯魚を逃がしてたよな。

 

「もしかして、フグ以外がかかったら、針から外してくれてたの?」

 

 釣竿の消耗を抑えたり、一々呼び出して俺の作業を邪魔するなんてことが無いようにって、気遣って手を加えてくれてたのかな。

 

「おわっ!? 冷たっ!?」

 

 色々考えてたら、濡れた雪玉ちゃんが勢いよくすっ飛んできた! ギリギリぶつからなかったけど、水しぶきが顔にかかってビビった。ふふっ、褒めてもらいに来たのかな?

 

「ありがとうね、雪玉ちゃん。次からもお願いします!」

 

 労って礼を言えば、海水濡れの雪玉ちゃんはグルングルン縦回転して『任せろ!』って主張してきた。頼もしいけど、水がかかるから、もうちょい落ち着こ?

 

 

 釣り場を雪玉ちゃんたちに任せて、テントに戻る。テントのすぐ横の砂をシャベルで掘り返したら、お試しで作ったウサギ捕獲用の罠を置いて、また砂を被せた。勿論、入口になる部分は見えるように。入口にシラカバで作ったトラップドアと感圧板を置けば、形は完成だ。

 

「うん、砂の重さにも耐えられそうだな。後はニンジンを中に置いときゃ、勝手にかかってくれるだろ」

 

 感圧板を手で押してトラップドアを開ければ、奥に行くに従って狭く暗くなる穴が見えた。警戒を緩める為に、罠の中に砂をちょっと入れておこうか。

 

 木の棒にロープ、布、スライムボール。トラップドアに感圧板、そしておびき寄せる為のニンジン。罠の材料は大体こんな感じ。木の棒をスライムボールでくっつけながら角度の偏った三角形の形に組み立てて、それを布で覆って、ロープでくくった。入口にはトラップドアと感圧板を置いて、罠の奥にはニンジンを丸々置く予定だ。

 ニンジンの匂いにつられたウサギが感圧板を踏んで、トラップドアを開けて入ったはいいものの、内側からは開けられない、布で覆われているから穴掘りもできないから逃げられないって作りだ。

 

「砂漠用の罠なんて初めて作ったから不安だったけど、流石ヘイリグさん」

 

 昨日のうちで、『砂漠でウサギ狩りは初めて。森で仕掛けるものと形は違うのか』って相談したら、この罠の作り方を教えてもらったんだ。トラップドアと感圧板なんて罠で使ったことも、そもそも発想すらなかったわ。森で使うやつもこれで改良したら餌の消耗が少なくて済むかもしれん。たまにあったのよね、餌だけ器用に奪われること。

 

 お試しで作ったそれをお手本に、テントの中で罠をこしらえる。10個作る頃にはフグも目標数釣れたから、もう日が傾いていたこともあって、今日は休むことにした。

 罠は明日、朝早く仕掛けて夕方に回収しよう。その間にクリーパー狩りもして、砂も大量に回収しよう。そうすれば雪玉ちゃんたちに頼ってテレポートした時間差を誤魔化せる。明日からはいよいよ、見張られてることを常に意識して行動しないとだしな。なんて後ろ向きに覚悟を決めてたら、飽きずにずっと肩に乗ってる雪玉ちゃんが俺の頬を突っついてきた。

 

「ん、なぁに?」

 

 そっちに振り向いたら、雪玉ちゃんはすい~っとテントから布を貫通して出て行った。俺もちゃんと出入り口から出てったら、冷たい風が頬を撫でた。そうか、もう日は沈んでたか。白の革コートを羽織り直したら、雪玉ちゃんたちがぽわぽわ~っと空に浮かんでった。釣られて空を見上げたら、暗くなり始めた空には星が瞬いていた。

 まだお天道様の残り火があって完全に暗いわけじゃないから、まだその輝きは絶好調じゃないだろう。うん、今日はもうすることないし、周りに村も人の気配も無いから、外で横になって星を眺めてようかな。

 

「今夜は皆で星空鑑賞会だな!」

 

 宣言したら、何人かの雪玉ちゃんが緩く縦回転して同意してくれた。宣言なんかいらんかったか!

 

 満月の日が近いこともあって、お天道様が完全にお休みになられた後も月が光を放って、周りの星を押しのけて輝いていた。それもまた美しい。昔、行商人一行の護衛の1人、サンダタさんと一緒に見張りがてら見上げた星空と同じくらい綺麗だった。そういやあの人たち、元気にしてるかな。特にアエデちゃん。そういや、あの時点で7歳だったよな。あれから大体3・4年経ってるわけで、今頃10・11歳だよな。あれ? もしかしてカヌプとパーデと同い年? あら。この3人、お友達になれたりするのかな。

 

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