人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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赤石狂いな副団長視点


36 居ぬ間の会議

 ポーションを飲んだルゥパさんが人知を超えた速度で村から飛び出していったと報告を受けた為、団員による遠征の計画は中止となりました。元々彼の足が早いことは知っていましたが、ヘイリグさんよりも速く走られては、今から追っても間に合うわけがない。見たいものが見られないなら監視の意味が無い。私は元々追跡には反対派だったので、追跡中止は良い報せと言えるでしょう。

 まったく、村長とスタークはいつまでルゥパさんを疑っているのやら。まぁ彼らは大切な身内がよそ者の彼によく懐いていて、旅に連れて行かれないかどうか心配なのは分かりますが。それにしたって警戒しすぎですよ。

 

 ジャガイモの収穫を終えて、約束した時間になったら教会に向かった。誰にでも開かれている教会の戸は、十字架の紋章入りの長いのれん。優しく吹いている風に揺られる紫色のそれを手で避けて中に入れば、教会の礼拝所には既にスタークとグロート村長、神父のヘイリグさんが居て、それぞれ長椅子に腰掛けていた。どうやら私が最後のようですね。

 

「すみません、遅くなりました」

「いや、時間通りだ。今日は遅刻しなかったな」

「うるさいなぁ」

 

 一言多いスタークを睨んでから、ほか2人に挨拶しながら私も空いている長椅子に腰掛けた。

 予定していたメンツが集まったところで、村長が改まって背筋を伸ばして、目つきを鋭くした。穏やかな朝に合いませんねー。

 

「それではこれより、会議を行う。議題は、“旅人・ルゥパの処遇について”だ」

 

 溜め息を堪えた自分を褒めたい。しかし形骸的にもこの会議は私の勝利で収めなければ、ここがいつまでもルゥパさんにとって居心地の悪い村のままですからね。くだらないですが、力を尽くさせていただきますよ。

 

「質問をよろしいでしょうか」

 

 私より先に手を挙げたのはヘイリグさんだった。その目つきは普段より鋭く、背筋に冷たいものが走りました。どうやら強者は、私と同じ考えらしいですね。流れ弾くらいましたけど、頼もしい限りです。……そんな目、見た事無いんですけど。怖っ。

 

「なんだ?」

「ルゥパさんの処遇とは、一体どういう意味でしょう。まさか、未だに疑っているのですか。ルゥパさんが村に仇なす者だと」

「落ち着けヘイリグ。そうであるかどうか、その上で扱いをどうするのかを決めるのが、この会議だ。あまり感情的になってくれるな」

「……………………分かりました」

 

 眉間にシワを寄せ、目を強く瞑ったヘイリグさんは村長に宥められて、じっとり不服気味に了承した。ここまで負の感情をあらわにするヘイリグさんも珍しいですね。懐(教会)に入れてまで監視していたあなたも、ルゥパさんに絆された1人ですか。

 村長が組んでいた腕を解き、両手を膝の上に置いた。

 

「では、処遇を決めるにあたり、この2週間近くルゥパをよく観察しているお前ら3人の意見を聞こう。まずは、ドゥンから」

 

 村長から指名され、他2人からも目を向けられる。さて、先制パンチを食らわせてやろうか。

 

「はい。私が見た限り、彼は信頼に値する人間です。スタークから案内役を任され、ルゥパさんの狙いを探っていた私ですが、早々に敵かどうか疑うのは馬鹿らしいと判断しました。あなた方も見たでしょう。失ったものが多すぎる彼の怒りを、絶望を、涙を。防衛力を計った真意を誤魔化しつつ同情を誘うにしても、嘘だとすると話が大袈裟な上に演技力が高すぎる。なにより、何かを策略している人間にしては、彼は落ち着きがなさすぎるでしょう」

 

 ん? 庇いたかったはずなのに、最終的に貶したような……。あ、じゃあ、こう締めましょうか。

 

「それに、何らかの目的でこの村を滅ぼそうとしているのなら、半人前のあの子たちを立派にしようとしますか? 確かに彼のやり方は我々とは違っていて、幼い身内が彼の元へ通っている貴方がたの不安は分かります。しかし我々も彼も、彼らに与えたい愛は一緒ではないですか。何を恐れる必要があります。愛に満ち、好きなことに無茶をするほど夢中で、己の失態を公にして教訓とするように勧める彼を、信用してもいいじゃないですか」

 

 情に訴えたところで、私は発言を切り上げました。ふふふ、どうだ。この空気で反対意見なんてとてもじゃないが言えないでしょう。2対1で劣勢な中、お前はなんと言って私たちの意見に対抗する?

 村長に指名されたスタークは小さく溜め息を吐いた後、口を開いた。

 

「俺から言わせてもらえば、それでも信用ならん。いくら得意だからといって目の前にいて見失うほど気配を消せるなんて、まず人間じゃない。それに神父とクモの目を回収したあの夜。モンスターどものヘイトは全て、神父に向いていた。そんな不自然な話があってたまるか」

 

 あの夜の光景は私も望遠鏡を通して見ていました。確かに、モンスターたちの狙いは当然のようにヘイリグさんにのみ向いていた。それから守るようにルゥパさんが弓矢で撃退していましたが、見方によっては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にも受け止めることが出来ました。そして、望遠鏡越しの我々の視線という気配を、彼は察知していたらしい。なんて恐ろしい索敵能力でしょう。……恐れ知らずのモンスターにそれが必要かどうかは、知りませんが。それらから身を守らねばならない人間にこそ、必要な能力な気もします。私は得られてませんけど。なんならウサギとかの野生動物の方が持ってそう。

 

「そして今回の、いきなりの素材集め計画。目の前にファントムっつーヤツにとって垂涎の素材があるにも関わらず、それを差し置いて既存の素材を、ロクな事前の下調べもせずに集めに走った。ファントムのことを知った時点では計画を俺らに言っていなかったのにだ! それをヤツは自分で『思いつきで動いているから』と言っていたが、それでもヤツの中である程度順序立てて行動していたはずだ」

 

 それはそうだろう、普段は地図を持たずに旅をしているらしいにしても、この村で過ごす内で全て行き当たりばったりに過ごすわけは無い。……確かに、そこは私も不自然に思いました。彼が突拍子もない事を言い出すのは、彼にとって未知のものに対峙したとき。対して素材集めなんて、一番穏やかに計画が立てられそうなイベントです。

 

「今回砂を回収してくる目的が、『スプラッシュポーションを半人前たちに使わせて興味を持たせること、そこから神父の後継者を発掘すること』だというのが真意なら、もっとずっと前に俺たちに伝えることが出来たはず。そして昨日いや一昨日、アイツは1人で村の外にキノコやクモの目といった素材集めを行ったばかりだった。……他の村人たちの不興を買わないよう、自警団の誰も出て行ったアイツの尾行はやれなかった。その間に、ヤツは誰かと会っていたんじゃないか?」

「だ、誰かって?」

 

 今素材集めに出ているのは、その“誰か”の入れ知恵だと? じゃあ、それは、誰だ?

 スタークは前のめりになると、深刻な顔をして口を開く。

 

「魔女、だ」

「……それは、ここから大分離れた湿地帯にいるという?」

「ああ。ルゥパも魔女も、ポーションを使うという点で共通している。ヘイリグさん、昔いたんですよね。魔女に弟子入りした聖職者が。あんたがルゥパに教えたアレが、そうなんですよね?」

「ええ。かつてモンスターに弟子入りしたポーション狂いな聖職者が、デバフポーションのレシピを授かり、広めてくれました」

「こうした前例があるなら、そしてそれをヤツも聞いているのなら。同じくポーション狂いなルゥパがモンスターに弟子入りすることも不思議じゃないだろう?」

 

 ぐ、ぐえっ、メチャクチャな筋書きなはずなのに、ちょっと説得力あるのは何なんだ。あ、ポーション狂いなのが事実だからか。魔女のことも立地的にも無くはない話だし。だが、まだ指摘できるところはある。

 

「今回の素材集めもただの建前で、本当は魔女と情報を共有しているのかもしれない。その魔女と接触したのも今回が初めてではない可能性もある。カヌプとパーデと接触する前から交流があり、あの脱走事件を利用して村に潜入した、とも考えられる」

「潜入して、いったい何を調べようって言うんだ」

「さぁ?」

「さぁって……!」

「モンスターの考えている事なんて、俺らの知るところじゃないだろう」

「はぁっ!?」

 

 こいつっ、まさかルゥパさんのことをモンスターだと思ってんのかっ!? モンスターだから気配を人以上に消せるし、クモ狩りの時にヘイリグさんを囮にしたと!? ……い、いや、落ち着きなさいドゥン。このモンスターは、ルゥパさんに指示している魔女のことを言っているだけ。早とちりするな。それに村長が「感情的になるな」と言っていました。ここで煽られては負けです。

 

「そ、そうですねぇ。もしかしたらモンスターだって、人間と仲良くなりたいのかもしれないですしね。魔女が入っても受け入れてもらえるかどうか、ルゥパさんが潜入調査しているって線も……」

「俺が言っているのは、アイツ自身が何かしらのモンスターだってことだ」

「~~~~っ!!」

 

 こいつ本当に、意味の分からないことを!!

 

「お前、忘れたのか!? 毒のポーションを浴びて自分の皮膚がゾンビ色になった時の、ルゥパさんの半狂乱を! あんなトラウマ抱えてる人が、絶望を抱えて、それでも希望を見つけようとしている人が、モンスターなわけあるか!」

「落ち着けドゥン。あまり騒ぐと他の村人たちが聞きつけてくる」

「す、すみません」

 

 思わず立ち上がってスタークの意見を否定してしまったが、その剣幕を村長に窘められてしまった。……騒ぎにしたくない、知られたくないなら、こんな窓も戸も開かれてる教会で会議なんてしなきゃいいのに。いや、騒がれるのが嫌なだけで、情報が流れるくらいならいいと思ってるんでしょうけど。

 私が長椅子に腰掛けたと同時に、村長はスタークの意見も切り上げさせた。「何が言いたいか分からん」からと。痛み分けじゃゴラァ。

 

「スタークが覚える違和感は俺もその通りだと思う。しかしハナコという前例を思えば、モンスターと断定するのは少し勇み足だ。その辺りも含めて、ヘイリグ、貴方の意見も聞きたい」

「分かりました」

 

 意見を求められたヘイリグさんは居住まいを正すと、我々を、特にスタークを見据えた。

 

「まずは、ルゥパさんが人であるかどうかについてですが、私個人としては、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「っえぇ!?」

 

 嘘だろ!? 貴方さっきルゥパさんのことを庇っていたじゃないですか! 仇なすものではないと言っていたじゃないですか! どうして、そんなことを言い出すんですか!?

 今現在ルゥパさんに一番近い距離感のヘイリグさんによる予想外の発言に村長のみならずスタークまで息を飲んでいた。スタークは己の発言に自信がなかったんだろうか。敗色濃厚と思っていたら、意外なところから援護が来て驚いている。しかし驚愕度合いで言ったら私も負けていませんね。情けない話ですけど。

 

「ルゥパさんと共闘した時。武器を持つ彼からは人間の気配がしませんでした。背中を預けるたびに悪寒が走り、モンスターを討伐する彼の表情は殺戮を楽しむ狂人のものでした。そしてスタークの言った通り、襲撃してくるモンスターたちのヘイトは私にのみ向かっていて、ルゥパさんはそれに気づいていながら指摘の1つもせずに利用していたようでした。それは彼が、自分だけでは大量のモンスター討伐が不可能と判断し、私を囮とすることでそれを実現させていたから。少なくとも私はそう解釈しています」

「……ヘイリグを囮にしなければ討伐できないと考えたのは、自分自身がモンスターで、奴らを引き付けられないから、と?」

「ええ。私が見る限り、ルゥパさんは人ならざるものだと断定していいでしょう」

「そんな……」

 

 まずい、まずい! 強力な賛同者だと思っていたのに、スタークよりルゥパさんの事を人間じゃないと、モンスターだと意見してきた! このままじゃ彼が、ルゥパさんが、この村にいられなくなる!

 一旦言葉を切ったヘイリグさんは腕組みをして、深く溜め息を吐いた。

 

「しかし、それがなんだというのでしょう」

「え?」

 

 眼光を鋭くしたヘイリグさんの発言に戸惑う声は、誰のものだったのか、全員のものだったのか。不満げなヘイリグさんは足まで組んだ。

 

「彼がこの村でしたこととは、なんだったでしょう。クリーパーに狙われたカヌプとパーデを救ってくれました。半人前さんたちの鍛錬を引き受け、やる気を引き出してくれました。外の世界を夢見る子達へ己の経験を話聞かせてくれました。彼は彼でやりたいことをこなしながら、ですよ」

 

 ルゥパさんがモンスターであるとする主観的な証言をするのと同じように、ヘイリグさんはルゥパさんの行いを端的に話していく。あ、そういえば、ヘイリグさんは最初から、ルゥパさんを人間だとは言っていなかったなぁ。

 

「さて、我々は彼から何か不利益を被りました? 彼のせいで命の危機に瀕しましたか? 彼に何か騙されましたか? 彼は何かを奪おうとしましたか? そんな事はなかったでしょう? 結果は真逆でしょう? なのになぜ、恐れる必要がありますか」

 

 人間かどうかなんて、ヘイリグさんにはどうでもいいんですね。モンスターであると言ったヘイリグさんの発言に驚いた己の浅ましさが恥ずかしくなってきます。

 ヘイリグさんは発言に1拍置いて、足を組むのを止めた。

 

「それにルゥパさんは、元は人間だったのでしょうし」

「え? ど、どういうことだ?」

「人間が、モンスターに……?」

「ああ、有り得ない話ではないのか」

「そうなんです。人間がゾンビに噛まれると同胞になるのは、周知の事実ですからね」

 

 あ、そうか。スタークと一緒になって不思議がってしまったけれど、とっくの昔から前例はありましたね。この村の周辺にゾンビが滅多に湧かないから忘れていましたよ。

 

「つまり、ヘイリグさんはルゥパさんが人間から、ゾンビ以外のモンスターになってしまったと考えているんですか?」

「ええ。何がきっかけか、種族が何であるかは、まだ分かりませんが」

「本当に最初からモンスターだったという線は無いのか?」

「残されてはいますが……。私が彼を元人間と考える理由は、ルゥパさんの師が、私の師の師であるから。その師、サグラッド神父の教えを色濃く継いでいるというのは、彼がこの村の半人前さんたちを鍛錬しているという面から証明されています」

「ヤツが性根からモンスターで人間を殺したいなら、わざわざ強くして抵抗できるようにはしないから、か」

 

 ヘイリグさんの言葉を続けたスタークは納得したように頷いた。元々ルゥパさん容認派の私からも言うことはありません。場の空気は、完全にヘイリグさんに掌握されていました。

 

「ルゥパさんはモンスターでしょう。しかしそれでも私は彼を人間として扱いますし、皆さんにも警戒を解いていただきたいです。ルゥパさんはきっとそれを望んでいますし、そう扱われて当然だと、私は思います」

 

 「私から申し上げることは、以上になります」と、ヘイリグさんは締めた。それぞれの意見を聞き遂げた村長は腕を組んで考え込んでいますが、きっとヘイリグさんの意見を重用することでしょう。

 ああ、なんてことだろう。結果としてルゥパさんの居場所は守れましたけど、まるで議論に勝てていませんね、私。2対1ではなくって三つ巴だったみたいですね。まあ、あれ以上心配性で疑り深いスタークと喧嘩にならなかったのだから得したとも思えますし、反省して次に生かしましょう。

 

「なあ、ドゥン」

 

 自警団の詰所へ向かう道すがら、どこか遠くを見ていたスタークが話しかけてきました。

 

「なんですか?」

「ルゥパが書き起こしてくれた、特訓のやり方があるだろ?」

「はい」

「……あれ、ウチも取り入れるか」

「! ははっ、いいですね! ついでにクモの目の処理方法も、またヘイリグさんに習いに行きます?」

「そ、それは、また……」

「奇遇ですね、私ももう少し先にしたいです」

「気持ち悪いもんな」

 

 人を、そのものを何であるかと判断するには、よく観察する必要があると今回の会議で思い知りました。となると、ルゥパさんのことを真に見極めるには、彼が何をしているのかを知り、実践してみるのが近道でしょう。何も知らずに決め付けるなんて、今の我々は愚か者ですね。

 

「体幹、鍛えないとだなぁ……」

「俺はジャンプ距離だな……」

「にしても私たちって、腕っ節だけですね」

「半人前からやり直すか!」

「初心忘れるべからずってやつですね!」

 

 ルゥパさんが帰ってきたら、彼ともっとお喋りしてみましょうか。話し合うのは基本的で、大事な相互理解ですもんね。

 

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