人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
砂漠に来て2日目で、ウサギはなんと5匹も狩れた。取れる足の数は20本! 前足でもポーション作れるからホント無駄にならない! てか、朝に罠10個仕掛けて、夜にはその半数に獲物かかってるとか、ウサギ狩るの楽すぎじゃ~ん。流石ヘイリグさんオススメの狩場だわ。魔女から頼まれたウサギの足の数は4つだから、魔女に納品する1匹分を合わせて最低3匹かかってくれてたら良かったのにね。俺運良すぎじゃね? これで『砂漠で寝るのが辛かったんで早々に切り上げてきましたわ~』なんていう
1匹を他の影に隠しつつ1晩かけて血抜きをやって、夜が明けたら魔女のお遣い分と俺の分を仕分けてインベントリに仕舞った。後は村に戻ってからファントムを捌いて~……。そういや、ファントムの皮膜って言ってたけど、生でいいのかな。干した方がいいのかな。……あんまり魔女に数を傾けると、数が合わなくて不審がられるしなぁ。てか、あっちに数が割れてるのに、魔女に持ってけるのか? ……ま、なるようにしかならんわな。
そんなことを考えながら、
どうしよ、月1で砂漠に来ようかなぁ。でも恒例行事にしたらヘイリグさんついてくるよなぁ。でも魔女からのお遣いは月1で必ずある訳で、消耗品のスプラッシュ瓶の為の砂とか毎回必要でしょ。あーあ。まーたひっそりしないとじゃん。
自分でテンションを下げつつ、行きより長く感じる村までの道のりを走り抜けた。
途中で適当にパンを貪りつつ走り続けて、ハナハタ村に戻ったのは夕方頃。キラキラ俊敏のポーションでもやっぱりテレポートには負けるんだなぁ。村の周りに広がる平原に入ったところでポーションの効果が切れたから、後は歩くことにした。均された土道に沿ってトコトコ歩いて、やっぱり見慣れない、異様な鉄格子を見上げる。あれのおかげで村人たちの命が守られてるんだなぁってしみじみしてたら、2人いる門番さんたちがこっちに手を振ってるのが見えた。やっぱ白い革コート着てると目立って認識されやすいんだな。こっちからも手を大きく振ってから、駆け寄った。
「ただ今戻りました!」
「おかえり! 想像してたより早かったな。ウサギそんなに一気にかかったのか?」
「いやアレでしょ、ルゥパのことだし、自分の足で追いかけて!」
「流石に俺でもそれはムリっすよ! 本当に運が良かったんすよ」
「それで、何匹かかったんだ?」
「4匹っすね」
「1日でそれは大収穫だな!」
「それ早く皆に伝えてこいよ! ビックリされるぜ!」
「はい! 褒められてきます!」
仲が良さそうな門番さんたちに通されて、何の障害も無くハナハタ村の中に入れた。3日ぶりの花畑の村は、変わらず長閑で美しかった。……涙が出そうだ。
「おかえりなさい!」ってお店から牧場から畑から声をかけられながら教会までの道を歩いてってたら、布屋さんの前でスタークさんとパーデの母親のオプレさんに「あの子達、訓練終わって今ホテルでお風呂入ってるから、明日いっぱいお話してあげてね」って言われた。スプラッシュ瓶作ったりファントムの処理だったりカヌプたちの相手をしたりと、明日は大忙しだな!
無事に教会に戻ったら、作業場の隣の部屋のダイニングキッチンにヘイリグさんはいた。何かを刻んでたヘイリグさんは顔を上げて、笑顔で迎え入れてくれる。切っていたのはどうやらただのニンジンとジャガイモ。下拵えは下拵えでも、ポーション用じゃなくて料理っぽい。
「ただ今戻りました!」
「お帰りなさい。てっきりカヌプ君たちに捕まってると思いましたけど」
「ちょうど今あのこら、ホテルの風呂に入ってるらしいです」
「ああ、なるほど。少し前に鍛錬終わったばかりでしたね。それなら君も入ってきたら如何でしょう? 積もる話はその後でゆっくり」
「はい、是非!」
それなら、きっとホテルに行ったらまたたくさんの人に絡まれるよな。嬉しいけど、今日は疲れたからなぁ。ここで済まそうか。
「……あー、結構お腹すいてるんで、ここのを使いますね。ヘイリグさん、今日の夕食はなんですか?」
「君が帰ってきた記念に、牛ステーキですよ」
「ありがとうございます! しっかり身体洗ってきます!」
「ごゆっくりどうぞ」
一旦部屋に戻った俺は上下ともあと1枚脱いだら下着な格好になると、タオルと垢擦り布を持って教会の裏に回った。
教会の作業場の裏には、いつでもお湯を沸かせる大釜がある小さな小屋がある。ホテルに大浴場ができてから、村の各家庭にも小さい沸かし装置が出来たらしい。とは言っても、湯船はあってもあそこみたいに大きくはないらしいから、ホテルの大浴場の人気は廃れないだろうな。ちなみに教会裏の小屋には身体にかけるやつしかない。ゆっくりできるお風呂じゃないですヘイリグさん。
でも、はちみつとハニカムから作ったっていう石鹸はすごくいい。頭も体もスッキリするし、香りも甘くて気分がいい! これもやっぱりハナコさんが伝えたんだって。『どうやって身体洗ってたのよ!』って叫びながら教えてくれたらしいけど、そんなの水かお湯で、体は垢擦り布で擦ってたに決まってるじゃんねぇ?
ガッツリ身体を擦って洗って風呂から上がったら、ダイニングキッチンにヘイリグさんの他にカヌプとパーデが居た。椅子に並んで座ってベイクドポテトをもりもり食べてる2人は風呂上がりでホカホカしてる。そして俺を見つけるとパァッと笑みを咲かせた。駆け寄ってくんの可愛いけど、手に持ったポテト皿に置きな?
「師匠! おかえり!」
「おかえりなさい!」
「うん。いい子に修行してたか?」
「勿論!」
「あのね! 昨日からお仕置きの手伝いはしなくて良くなってね!」
「だから、もっと身体鍛えてんだ! あっそうだ! スタークの兄ちゃんがさ、あの鍛錬のやり方真似するって!」
「実用的で面白いって!」
「そうなの? いやぁ、鼻高々ですわ~!」
キッチンの方からは野菜とバターのいい香りがしてくる。夕飯はステーキって言ってたから付け合せかな。ふふっ、お腹がすく幻を感じ始めたわ。この子等も風呂上がりってことはまだ夕御飯食べてないってことだよな。なら早く帰さないと俺が怒られるな!
「そんな頑張ってる君らに、お土産を渡そう!」
「え! 本当!?」
「そんな気を遣ってくれなくても……!」
「素直に受け取ってくれパーデ。欲しかった素材の副産物だからさ」
俺がインベントリから引っ張り出したのは、革袋2つ。中身はウサギ肉が2つづつだ。ちょうど持ってってくれそうな子達が来てくれて助かったわ!
「運動したら肉食べな! これは足が欲しくて狩ったウサギの肉。今日はメニュー決まってるだろうから、明日にでもシチューかステーキにして食べたらいいよ」
「い、いいの!?」
「やったぁ! ボク、ウサギ肉好きなんだ!」
「気に入ってくれて良かった。ほら、インベントリに入れてお母さんたちに渡しておいで」
「「うん!」」
元気に返事した2人にウサギ肉を2つづつ渡す。俺とヘイリグさんの分がなくなったワケだけど、まだまだ背が伸びる子供に食わすのが一番だろ!
とまあ、体よく弟子たちを家に帰したら、料理を続けるヘイリグさんに「騒いでスミマセン」と謝罪する。きっとあの子らもちゃんとヘイリグさんに許可取って居座ってたとは思うけどさ。
「ん? 構いませんよ? あの子達も貴方の無事を確認したらすぐに帰るつもりだったみたいでしたし」
「そうっすか……。あ、あと、あの子等に全部渡しちゃったんで、ヘイリグさんへのお土産が、なくなっちゃったんすけど……」
「おや、全てあの子達に向けてだと思っていましたよ。それに、スタークくんたちから聞きましたよ。集めた砂でスプラッシュ瓶を作って、それを半人前くんたちの鍛錬で使うらしいですね。その心意気で十分嬉しいです。期待していますよ」
「えっ、あの人バラしたのかよ。あの人たちの方が気まずくなるだろうに」
「ですから、心を入れ替えるそうですよ」
「そうなんすか!? うわ~、こりゃ明日確かめにいかないと!」
「揶揄うの、間違いでは?」
「まっさか~! それよりも、早くステーキ焼きましょ!」
「それもそうですね」
ニンジンのグラッセを作っていたかまどの隣に設置され、既に火がかけられ余熱されている燻製器。しっかり温まったそれに筋切りがなされた牛肉を中におけば、ジュ~っといい音が鳴った。あ~、絶対旨いわ~!
牛ステーキに付け合せのニンジンのグラッセとベイクドポテト、それからパンが2つ。結構ボリューミーな夕食だな。ありがてぇや。
旨い旨いと3分の1ほど食べ進めたところで、ヘイリグさんが話を振ってきた。話題は勿論、この3日間のこと。
「君のことですし有言実行するとは思っていましたが、本当に3日で帰ってくるとは。素材集めは恙無く済んだのですか?」
「はい。ヘイリグさんが貸してくれた地図のおかげで迷わず砂漠に辿り着けましたし、印が書かれた狩場に罠を仕掛けたら効率よくウサギがかかってくれました。あの簡単な罠で4匹も! 本当に助かりました、ありがとうございましたヘイリグさん!」
「お役に立てたようで良かったです。狩場と狩場の間は結構距離がありますが、君の足の速さやスタミナ、加えて俊敏のポーションがあれば何の障害にもならなかったでしょうね」
「それはヘイリグさんも同じでしょう?」
なんたって、この人もネザーに単身探索して帰って来れる強い人なんだから。そんな意識も込めて挑発的に笑って言えば、ヘイリグさんも失笑して「そうですね」と肯定した。ヘイリグさん、あんまり走るイメージ沸かないけど。
「それでは、ポーションをかなりの量飲んだのでは?」
「まぁ、そこそこ。でもポーション酔いには慣れてるんで」
「そうですか……」
まあ、魔女になってからポーションの飲みすぎで気分が悪くなった事なんて無いんですけど。人間だった頃もよくポーション酔いしてたから嘘じゃないけどさ。胸はムカムカするし頭はクラクラするし、酷いと目が回る。表面上は1人旅してるから、酔わなくなって嬉しいんだけどな。
なんて考える俺の正面に座るヘイリグさんの表情は、心配の色になっていた。
「いざという時に動けないと大変な目に遭いますから、なるべく体調は崩さないようにしてくださいよ? 貴方が帰ってこなかったら、悲しむ人は多いんですから」
「……はい」
この村の人たちは、俺が3日村を空けただけで通りすがりに「おかえり」って言って手を振ってくれるような優しい人たちだ。ヘイリグさんの言葉はきっと、お世辞じゃない。そう思い至って、胸にあったかいものがじんわり広がって、言葉は続けられなかった。
照れて下を向く俺に、ヘイリグさんが「そういえば」って切り出してきた。その声色は楽しそうで、どこか悪戯だった。
「3日前、村から出発した際、君はとんでもない速さで走り去ったそうですね。門番担当さんから頼まれて私も走ってみましたが、俊敏のポーションを使っても、君ほどの速さではなかったそうです。……君は、どんな方法を使ったんですか?」
「……ヘイリグさん、本当に知らない感じすか?」
「知らない?」
俺の知らないポーションをいっぱい知ってたヘイリグさん相手だから、見せびらかすのも怖くて出来なかったけど、この感じなら。いやまだ俺から答えを引き出そうとしているだけかもだけど、聞きたいなら聞かせてやりゃあいいよな!
ずっと持ってたナイフとフォークを置いて、インベントリに手を突っ込んだ。
「俺、旅の中でポーションの研究を色々してるんすけど、その中で見つけたんすよ」
取り出したのは、俊敏のポーション。しかし普通のそれと違うのは、中でキラキラと金色の粉が揺蕩っている点だ。
「完成したポーションにグロウストーンダストを入れると、効果が強化されるんすよ!」
「へぇ! そんなことが!」
「はい! とは言っても効果時間は短くなりますし、強化出来るものと出来ないものがあるので、一概に強いとは言えないんすけどね」
「それでも、とても素晴らしい発見ですね!」
「ありがとうございます!」
やったー! 褒められたー! いままで誰にも見せたことなかったから、俺自身と雪玉ちゃんにしか褒められてなかったもんなぁ、強化ポーションちゃん。ほかの人にも受け入れられて、褒められるなんて、ホント報われた気分だよ。
「なるほど、それで……。参考までに、強化できなかったポーションの種類を聞きたいのですが」
「試した中で出来なかったのは、暗視と水中呼吸と耐火っすかね。出来なかったのは、ほら、グロウストーンダストを入れてもこんなふうに、粉が黒くなって瓶の底に溜まっちゃうんです」
カトラリーを置いたヘイリグさんに成功例と失敗例(暗視のポーション)の2つを渡す。両手に持った輝きの違うポーションを興味深げに見比べていたと思ったら、2つの間から俺を見据えてニコッと笑った。うわ怪しい。
「コレを見つけた時の話も興味深いですし、失敗作を保存して置けるそのインベントリの容量も気になりますね」
「元々でかいって言ってるでしょ! 失敗作も見た目が悪くなるだけで効果が変わらないんすから、捨てないんすよ」
「はぁ、効果は変わらないんですか。それなら確かに、捨てるなんて勿体無いですね」
「でしょ」
はー、油断ならねぇな。ずっと俺の失言狙ってやがるぜヘイリグさん。
ポーションを返してもらったその後は、ステーキを食べ進めながら話をしてもらった。今度は村でこの3日間に起こった出来事だったり、カヌプとパーデたち半人前くんたちの鍛錬の様子や相手してくれた自警団のこととかね。
村の生活自体は変わったところはなんも無い、平和そのものだったって。鍛錬では俺のやり方に慣れた半人前くんたちが慣れてない自警団さんたちを翻弄しまくってたって。それも3日目の今日の段階ではなんとかついて行けてたらしい。半人前くんたちに嘗められないようにって家業そっちのけで頑張ってるんだってさ。そこまで気負わせてスミマセン。でもその様子見て対し、コレを機に基礎だけじゃなくてこっちの鍛錬も自警団にお願いしようかな。……カヌプとパーデが許さないかなぁ。あの子達、あくまで俺から教わりたいみたいだしね。
それにしても、皆、元気そうで良かった。
本当に、良かった。
Minecraftが大幅アップデートしましたね。
今作では1.18をベースにプロットを書いているので、1.19の要素はあまり取り入れません。ご了承ください。