人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
1ヶ月ぶりの満月の夜、俺はやっぱりいつもの林に来ていた。
今回もストーカーしてくる気ィ満々のスタークさんとドゥンさんの事なんか一切気にかけず、透明化した上に雪玉ちゃんの力を借りてテレポートしてやって、例の場所にあっという間に着いた。
「あれ? チェストが、無い?」
しかし来たはいいものの、前にはあった背の高い草が無くなってて、前は砂利も混ざって荒かった土も元に戻っていた。見落としてるのか? って思って詳しく見渡したら、すぐ近くの木に矢が刺さってて、その棒部分に紙が括り付けられているのを見つけた。ナニコレかっこいい。俺もいつかやってみたい! 紙を解いて開けば、魔女の文字で文章が書いてあった。
「『キノコが群集する開けた場所に』……? 方角くらい書いてくれよ」
先輩、スタークさんたちに場所がバレてるのが嫌だったんだなぁ。まぁ落ち着かないもんね。あ、そうだ、このメモもヘイリグさんにあげよっと。解読の助けになるだろうし。
さて、この分かりづらい集合場所、さっさと探し当てないとな。
「雪玉ちゃん、目ぇ貸してね」
俺の周りを漂い、光度を最低まで落としてくれている雪玉ちゃん達にそうお願いすれば、彼ら彼女らはクルクル縦回転してから方々に散っていった。あ、スタークさんとドゥンさんには見つかってくれるなよー。
自分の足でも探し回りつつ、左目に雪玉ちゃんたちが見ている景色を見て回る。瞬き2回で別の雪玉ちゃんの視界に切り変わるの便利~。そんでそれっぽい、キノコがあるけど開けた場所を見つけてくれたら、その子を直接視界に捉えてからテレポートするだけでいい。いやホントに便利だな。
「っと。あれ?」
小さくポンッと音立てて、ついでにキラキラ光をほんのり散らしてテレポートする。出てきた先は開けた場所の端っこの木のそばで、左目だけでは見えなかった範囲に魔女の影を見た。肌が白いから暗い森の中にいると顔だけ浮いて見えて怖いな。暗視ポ飲んでるから林の中も別に暗闇じゃないんだけどさ。
俺が来たと察知したらしい魔女が、透明化しているはずの俺のもとに……って、さっき光散らしたんだから分かりやすいよね。これでも最初の頃よりは光抑えられてるんだけどな。こないだなんてマグレで音も立てず光も散らさずに出来たし。
牛乳を飲んで透明化を解除してから、今日も今日とて装いが真っ黒い魔女に向き直る。満月の光のお陰で、開けたこの場所は明るく見渡せた。
「居たんですね」
「そりゃ居るだろう。で、素材は?」
「こちらに。そちらのインベントリに投げるのもアレなんで、チェストに入れますね」
「そりゃそうだ。こっちだよ」
優雅に振り返った魔女の背を追うと、まさかの広場の中心に連れてこられた。ちゃんと荒い土の下に埋めてるのに、場所が悪すぎるでしょ。てか居るつもりならわざわざチェストを地面に埋めなくても……。
中心に来た魔女は俺に向き直ると、ニヤッとしたり顔をした。
「ここからなら、いくら林に紛れても話し声が聞こえないだろう?」
「あ、なるほど確かに。でも大丈夫そうっすよ。彼らに聞いたら『何喋ってるか、言葉が分からなかった』って言ってたんで」
「へえ、お前さんは分かるのに、真性人間には伝わらないんだねぇ」
「……これも、雷に撃たれた影響っすかね」
俺は人間で魔女。でも、どちらでもないとも言えてしまう状態ってか? あ゛ーーーー。
浮かんじまった後ろ向きな考えをついでに仕舞っちまおうと、チェストにお遣いの品をぶち込んでいく。
「あ、そういや、このメモの文字も人間には読めないみたいっすよ」
「そりゃあ、喋る言葉が違うなら扱う文字も違ってくるだろうよ」
「それで、村の聖職者さんが興味持って、今解読中っすよ」
「……いつか、お前さんに付いてきて接触してきそうだねぇ。あー嫌だ嫌だ」
「やっぱり1人の時間が好きなんすね」
「お前さんと違ってね」
だって人の力を借りなきゃ素材集めしにくいもん。……そういや、魔女もモンスターなのに、どうやって素材集めしてんだろ。クモの目メチャクチャ必要じゃん。今回のお遣いの品の中に砂糖あるし、俊敏のポーションが作れる。意外とモンスター狩りが好きなのかな。走りにくそうな格好だけど。
「そういや、レッドストーンダストの使い道、分かりましたよ」
「ふぅん、ヒントも無しによく見つけたね」
「砂なんかを取りに砂漠に行った時に、移動で違和感覚えたんすよ。なんか走れる長くね? って。──レッドストーンをポーションに混ぜると、その効果時間が伸びるんですね?」
話題の粉をチェストに仕舞いながら言えば、見下ろしてくる魔女はニヤリと笑う。正解らしい。やったぜ!
「ついでに言えば、元から効果が即効性な“負傷のポーション”や“治癒のポーション”には意味が無い上に、ポーションとして成功すらしないですね」
「手当たり次第に試したんだねぇ」
「研究家なんで」
「小麦粉とか花粉でも試しました」って言ったら、めっちゃ笑われた。やっぱ意味ないんだ。
チェストに仕舞ったばかりの素材が魔女のインベントリに仕舞われていくのを見てたら、大事なことを思い出した。
「そういや先輩、お名前なんて言うんですか? あれ? そういえば俺名乗ってましたっけ?」
「うんにゃ? 別に興味無いから聞いてないし、聞いてたとしても忘れたけど」
「俺も大概だけど酷いっすね。改めまして、俺はルゥパっていいます」
「ふぅん、変な名前だねぇ」
「喧嘩売らないでくれます?」
「一度聞いたら忘れない名前ってことさ」
「ってことは俺やっぱり名乗ってなかったってことか」
遠まわしの指摘に辟易しつつも、魔女が名乗ってくれるのを待つ。が、魔女は言いたくなさそうに顔を顰めていた。
「……えっ、もしかして、純正魔女には名前が無いんですか?」
「そんなことはないさ。確かに、呼ぶ相手なんていないから無くても困らなかったけどね。……あたしの名前は、ヴァード。けど美しくはない響きで呼ばれたくないから、今まで通り『魔女』か『先輩』で呼びな」
「分かりました、先輩」
別に悪くない響きだと思うけどなぁ。なんて思うのは、同類に会って感性がそちらに引きづられているからなのか。それとも元々そんなセンスなのか。まぁ磨いてないんだから自分のことオシャレだなんて思ってないけど。オシャレ意識してんならコートになんか刺繍の1つでもしてんじゃない?
「お互い名乗ったところで、雑談と行こうか? お前さん、最近あの村で面白いことをしているようだね?」
「えー……。どっから覗いてんすか……」
「たまたま、川釣りをしていたら聞こえてきたのさ、お前さんの奇声がね」
「そんなに響くもんなのか……」
この林の中にある川っていったら、ちょっとした谷になってる大きめの川のことだろ? あそこから村まではそこそこ距離があったはずだし、それでも聞こえるって……。いや絶対これ耳が良くなるポーションあるでしょ。そうじゃないと俺がひたすら恥ずかしいんだけど!
ヒッヒッヒ……と笑いやがる魔女に、恥ずかしさを堪えつつ説明しようと息を吸った。
「最近、自警団の人に頼まれて、彼らのことも鍛えてるんですよ。ネザーで素材集めが出来るように、それ以前に生き延びられるようにって。奇声はー、アレっすね、ガストを模倣してたら出てきた声っすね」
「ふぅん。それじゃあ、この辺りのネザーにあの村の人間どもが蔓延るってことか。素材が横取りされちまうじゃないか。嫌な話だねぇ」
「そういう話なら、少なくともあと半年は安泰っすよ。あの人らが今ネザーに行ったら、ソウルサンドに沈みますから」
「なら今のうちに、ありったけの素材を集めておかないとねぇ」
「根絶やしにされたら困るんで、ご遠慮下さい」
「放っておいても湧いて出てくるだろうに」
少しダルそうに失笑した魔女が、インベントリからでっかい椅子を取り出してキノコが潰れるのも厭わず土の上に置いて、それに腰掛けた。座席部分には牛革が貼ってあって、膨れていたから中に羊毛でも詰め込まれてるんだろうな。座り心地良さそう。てか、腰据えて話そうって、どんだけだよ。絶対人間好きじゃん先輩。
「で? どんな風に苛めてやってんだい?」
「苛めてないっすよ。ぬっちゃぬちゃのソウルサンドの上を何度もダッシュさせたり、俺が投げる石を剣で打ち返させたり小石を盾で防がせたり、射撃訓練とか、俺がモンスター役になって放つ殺気の察知の仕方とか、気配の殺し方とかっすよ」
「まぁまぁやること多いじゃないか」
「それに各種モンスターの特徴を覚えさせてテストしたり、金の防具作らせたりとか」
「……容赦ないねぇ」
「容赦したら彼らがネザーで死ぬんすから、俺だって必死になりますよ」
小さい頃から神父さんに鍛えられた俺がネザーデビューしたのは大体15歳頃。体力作りからスタートしたからそんなもんだったけど、1人きりで何もかも出来るようにって目標を俺が達成できるように凄く厳しく鍛えられた。だから俺が課してるメニューなんて甘っちょろいも甘っちょろい。多分俺が旅立った後でヘイリグさんにもっと厳しくされるだろうな。実地訓練は大変だぞ~。
「具体的にはどんな訓練をしてやってるんだい?」
「具体的……。ピグリンに敵対しちゃった時のやり過ごし方として金塊を瞬発的に落とさせたりとか、装備の早着替えさせたり、マグマに落ちないかつ素早い足場の並べ方とか、その時にやってくるガストなんかの火の玉への対処とかっすかね。あと互いに追いかけっこさせたり? 後は、村の子供たちにやっている訓練の難易度高めた感じとかっすかね。焚き火の上で鎖渡りやらせてます」
「最後に恐ろしい発言したね、お前さん」
「ちなみにこれは村の聖職者さんの提案です」
「人間って魔女より恐ろしいね」
「言っちゃえば火炙りっすからね」
その人間より恐ろしく残酷で平等に理不尽なのがネザーだと思うけど。あ、こっちの世界の生物にとってね。あいつら火炎耐性持ってるのが大半だったはずだし。だから、更なる理不尽に負けない為にも、多少の残酷さや厳しさは俺らも持ってなきゃなのよ。いわゆる愛のムチってやつ!
俺が村の自警団に課している鍛錬を話終えたところで、魔女が折りたたんだ紙を渡してきた。次のお遣いのメモらしい。さっそく中身を見て、物珍しいものが無いことを確認してインベントリに仕舞った。ら、椅子に深く腰掛け直した魔女が「そういえば」とニヤニヤしながら切り出した。
「前にいたあの2人、とうとう間に合わなかったねぇ?」
「……気にかけててくれたんすね」
「別に、そんなんじゃないよ」
俺の発言が気にくわなかったらしい魔女が下に伸びた大きめの鼻を鳴らして不満を表した。
「集合場所を変えたのはあの2人がうざったいからだと思ってたんすけど、まさか話題にしてくるとは思いませんでした」
「それもあるけどね。あたしゃ聞き耳立てられてお喋りを続けられるほど、豪胆じゃないんだよ」
「話題にしたら寄ってきそうですけどね。──あぁ、ほら」
動物とも、モンスターとも違う気配が魔女の後ろの林の中から感じ取れる。それが2つあるんだから、先ずスタークさんとドゥンさんで間違いないんじゃないか? 俺の指摘で気づいたらしい魔女が吐き気を催したように顔をしかめて舌を出した。やっぱり人間嫌いかぁ。それとも堂々と正面から来いって? 言葉通じないから難しいと思いますよ?
聞き耳立てられるのがよっぽど嫌らしい魔女は手早く椅子を回収すると「それじゃあね」とだけ言って2人のいる場所の正反対の林に向かって歩いていった。多分、次の満月の夜も集合場所を探す所から始まるんだろうな。
「魔女、帰っちゃったんで、俺達も戻りましょっか」
「……俺達、まだ気配が漏れ出てんのか」
「いったい、どうすれば……」
「透明化で油断してんじゃないんすか? 魔女にバレてるようじゃ、まだまだネザーには向かわせられないっすね」
ま、さっきのは俺が話の流れで言っちゃったとこもあるんだけど。それでも直ぐに察知されちゃったんだから、やっぱり未熟っすね。
人間、もっと魑魅魍魎に警戒して気配消してけ~?