人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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49 ベリーのお茶会~グロい話を添えて~

 作業着代わりにも羽織ってた白の革コートを脱いだら、今度はカフェに向かった。勿論、今朝挨拶したスニウさんがお菓子を作ってるお店だ。そこに俺が洞窟案内の約束をした1時間後に集まろうって今朝の女性陣と約束してて、少し早いけど店に入っとくことにした。

 カフェの手前まで案内してもらったら、レイグニンさんもお茶会にお誘いした。「このあとも色々加工作業がある」って言ってたけど、めんどくさそうだったから「ベリーの解説してもらえると助かります」って押したら、「そういうことなら!」っていい笑顔で受けてくれた。へっ、俺を変人扱いするお返しだ。後で家族か従業員に怒られろ!

 

 店の前にお花が飾ってたり、カラフルな屋根のあるテラス席があったりするお洒落なカフェ。朝に行った市場の中にあるそこがお菓子職人のスニウさんがやってるお店だって。外からでも甘い香りが漂ってきてますわ。これは女の子が好きそうだ。

 入ったことのないお店の華やかさに恐れ慄いて尻込みしてたら、店の中からこちらに手を振っている影が見えた。よく見たらその手はシーサンスさんのもので、他の2人も彼女と同じテーブル席に着いていた。いや早くね?

 

「俺、そんなに長く洞窟にいましたっけ?」

「俺の想定よりはずっと長くいたけど、中に居たのは30分位だったぜ。あの人らがお前との約束より早くカフェに来てるだけだな」

「そうっすか……」

 

 気になって想定時間を聞いたら、「5分で満足すると思ってた」とのこと。長いこと付き合わせてスミマセンでした。

 駆け足で店内に入ったら、テラス席のあるトコとは反対側の窓際の席にいるメデリーさん、シーサンスさん、ピユンさんの3人と合流した。

 

「スミマセン、お待たせしてしまって」

「大丈夫、遅れてないわよ」

「アタシ達が我慢できなくて先に来てただけー!」

「ルゥパさん、レイグニンも連れてきたんだねー。あ、スニウー! 注文いーいー?」

「かしこまりましたー」

 

 4人がけのテーブル席に2人がけのテーブル席を寄せてくっつけて、俺とレイグニンさんが腰を落ち着けたところでスニウさんがメモ用紙を持ってこちらに来た。本日のオススメは“グロウベリーパイ”と“グロウベリーの葉の茶”とのことなので、それを注文した。女性陣も追加で同じメニューを注文してた。

 

「俺たちが来る前は何を召し上がっていたんですか?」

「プリンとりんごジュースよ」

「これも美味しいから後で注文したらいいよ! どうせアタシらの奢りだし!」

「あはは……」

「え、ルゥパさんて貧乏?」

「旅では半自給自足だったんで……」

 

 自分の稼ぎで買えないの、やっぱ後ろめたい~! 恥かかそうとして俺がカウンター勝手に食らってる! ぐぇえ! 自業自得!

 恥ずかしさから背中を丸めて俯いてたら、俺から見て正面の席に座るピユンさんが身を乗り出した。

 

「違うよレイグニン! ルゥパさんはウチの村の半人前たちを鍛えてくれてるの! それにここに来るまでに使った俊敏のポーションもルゥパさんが改善したやつでね、実際に飲んだ人たち皆効果を褒めてたんだよ! だから私たちはルゥパさんからエメラルドは貰ってないし、なぜかルゥパさんはポーションを無償提供してくれてるから、エメラルドのやり取りがないってだけ!」

「そして、これはいつもお世話になってるお礼ってワケ!」

「へぇ、なんか修行みたいなことしてんのな、ルゥパさん」

「修行……言われてみれば」

 

 元から探求者って自分でも思ってたけど、なにか手伝いする代わりに施しを受けるって確かに修行してる聖職者さんみたい。エメラルドのやり取りしてないのが更にそれっぽい。旅をしてたらいつか修行で旅してる聖職者さんに巡り会えたりするんかな。今のところ自分の居場所見つけてる人しか会えてないけど。

 

「てか、子供鍛えるって、ルゥパさんってそんなに強いの? 確かに腕っ節よさげな体付きしてるけどよ」

「まぁ、ポーションを素材集めから出来るくらいには腕に覚えはありますよ」

「それって具体的にどれくらい?」

「ダイヤ剣2振りでクリーパーを爆発させずに屠れるくらい?」

「えぇっ!? ちょ、クリーパーって近距離戦厳禁なモンスターじゃん! それ信じられないんだけど!」

「ウチの子が何度も何度も話してたから、きっと本当だよ」

「実体験なの!?」

「レイグニン、うるさい」

「他にお客さんいなくて良かったー」

 

 俺の武勇伝にいい反応を見せてくれるレイグニンさんを、鬱陶しがるシーサンスさんとピユンさん。もっと気持ちよく驚いてもらってても俺は構わないんだけどなぁ。

 そんな風にちょっと騒ぎつつ話してたら、スニウさんが背の高い台車を押してやってきた。テーブルに載せられるお皿の上には、ホールからきっと6等分にカットされたグロウベリーパイが1切れ乗っていた。

 ふんだんに使われたグロウベリーは砂糖と熱によって艶やかにとろけていて、爽やかで甘やかな香りがパイ生地の香ばしさと相まって食欲をそそる。同時に来た葉の茶は実ほど甘い香りはしないが、乾燥と焙煎のおかげか香ばしい。当たり前だけど甘くはないらしく、添えられた砂糖かハチミツで自分好みに味を調えるらしい。パイが甘いならそのままでいい、のかな? それとも一体感の為にちょっと甘い方がいいのかな?

 まぁ、つべこべ考えず、まずは食べようぜ!

 

「いただきます!」

 

 フォークでひと口分切り分け、刺して口に運ぶ。収穫した時にはパツンパツンだったベリーは形は残っているもののクタクタのとろとろになってた。噛むと口の中で酸味のある果汁と甘さが溢れてきた。パイ自体も香ばしくて優しいお味。

 続けてお茶も頂く。葉っぱを乾燥させて煮出しているらしくて、色は透き通った赤茶色。香りから想像する味では無かったけど、甘い口内をさっぱりさせてくれる丁度いい渋さだった。つまり!

 

「おいしい!」

 

 自然と出てきた笑顔で言ったら、見守っててくれてたらしい方々に微笑まれた。ちびっ子か俺は。でもおいしい!

 ジャムとは違う、食感のある味わいに感動して夢中で食べてたから、白い皿の上がパイの欠片だけになった後で、スニウさんもレイグニンさんの正面の席に着いてたことに気が付いた。

 

「あれ? スニウさん、お店のことは……?」

「やっとこっち見たね。お店は今他にお客さんが居ないから、休憩でね。ちょっとお喋りするくらい許してよ」

「えっ、や、嫌だとかそういうワケじゃ……!」

 

 小首を傾げて許しを乞うスニウさんに両手を振って否定する。単に気になったから尋ねただけだもの! そんな慌てぶりが面白かったのかスニウさんが笑う。

 

「分かってるって! でも、意外だなぁ」

「いがい?」

 

 オウム返しした俺に「うん」と頷いたスニウさんは、身を乗り出して両手で頬杖ついて、ニンマリ笑った。な、何っ!? 優しげな顔立ちの人がするその表情は怖いって!

 

「ルゥパさん、こうして話してても度胸ありつつも臆病そうなのに、ポーションやモンスターが絡むと人が変わって、執着しちゃうんだってね!」

「エ゚ッ」

 

 どこまで、俺のことをこの人たちから聞いた?

 喉で悲鳴を上げたら、他5人にすげー笑われた。俺たち以外に誰もいない店内に響く笑い声が俺を萎縮させた。……雪玉ちゃんのことまで、話した? と、とりあえず苦笑いしとこ。

 目に浮かんだ涙を手の甲で拭ったシーサンスさんが俺の方をしっかり向いた。

 

「あーおっかしー。まさか話題にしないだろうだなんて、期待してたー?」

「残念だったな、さっき俺にあの変態行為を見られたのが運の尽きだ!」

「まぁ、興奮しちゃったんで仕方ないっすけど……。まさか、ポーション試飲会のことも話したんです?」

「話しちゃったね」

「見てないけど話聞いただけで狂気の沙汰だって思えちゃうアレもね」

「クモの目も軽々採取しちゃうところとかも!」

 

 何を話したのか聞いたら、メデリーさん、シーサンスさん、ピユンさんと順に答えてくれた。よくも、食事の場であんな、皮膚が破れて血まみれとかゾンビ色になったとかのグロい話ができたな。しかも笑顔で。ていうかさぁ……。

 

「自分の名前が出てるのに、まったく気付かないなんて……」

「あ、確かに。モンスターの気配なら誰よりも早く気付くのにねぇ」

「そうでもないですよ」

 

 魔女になってからは特に、敵意殺意を向けられることがめっきり減ったから、索敵能力が下がった気がしてんのよね。意識すればまだまだ健在だろうけど、油断してたら並みの人間より精度悪いと思う。

 葉の茶を一口飲んだレイグニンさんが「ねーねー」って呼びかけながら俺の右肩をツンツンつついてきた。

 

「自分の身体でポーションの効果を試すのって、怖くねぇの?」

「んー、作った者として、効果を自分で試すのは義務だと思ってますから。それに解毒として牛乳がありますから、さほど恐ろしくないですよ」

「でも、痛いんだろ? 皮膚が弾けたとか、毒に侵食されるとか、絶対痛いじゃん!」

「心配してくださって、ありがとうございます。そこは治癒のポーションがあるので!」

「でも……。俺が渡した素材で出来たポーションで、嫌な効果が出ちゃったら……」

 

 最初は単に疑問を抱えてるって感じだったレイグニンさんの表情が、みるみるうちに痛ましいものを見る顔つきになっていった。

 あぁ、心配にも、そういう種類があるのか。確かに嫌か、好意で渡したもので相手が苦しんだりしたら。

 

「……俺がポーションの研究をするのは、痛い思いをする為じゃありません。ゾンビから人間に戻す方法を、ポーションの側面から探す為です。その結果、痛い思いをすることがあるだけ。ハナハタ村に着いてから見つけたポーションの中には、低速落下なんていう楽しい効果もあったんですよ! だから、そんなに心配しないでください。レイグニンさんにも研究の手伝いをしていただいて、本当に助かっていますから!」

「……そう?」

「洞窟で俺がどれだけ興奮してたか、見てたくせに」

 

 睨むように笑って見せれば、不安そうだったレイグニンさんの顔から強張りが無くなった。ついでだ、お願いしとこ。

 

「スニウさんにも、ツテがあればスイートベリーの、葉や枝を融通していただけると助かるのですが!」

「実を忘れないでよ。自家栽培のものになるけど、それで良かったら是非、低木1本丸々持ってって!」

「わぁ太っ腹ぁ! ありがとうございます!」

 

 景気のいいスニウさんの宣言にちょっと大げさに喜んで見せれば、また笑いが店内に響く。せっかく美味しいもん食べに来たんだから、同情はいらんのよ。情報収集と協力要請はしますけどね! 今してなかったけど。

 初めて見るお菓子に目を輝かせていた俺とは違って、お喋りに花を咲かせていた彼女らの皿の上には1口2口分しか減ってないパイが鎮座していた。まだまだお喋りする気満々だろうな。俺を理由に。その証拠に、ピユンさんが俺用に追加注文してた。プリンだって。

 パイをフォークで切り分けたメデリーさんが「あっ」と小さく声をあげた。

 

「そういえばルゥパさん、一昨日だったかな、やっとゾンビと戦ってたよね。デバフポーションかけてたらしいけど、実験結果はどうだったの?」

「あぁ、結果としては、“ゾンビに負傷のポーションをかけると、傷んだ皮膚が回復し、活性化した”って感じですかね。近くに皆さんが居る状況で観察を続けるのはリスクが高すぎると判断し、全て切り捨てましたけど」

「なんで? そのままポーションを掛け続けたら、もしかしたら人間に戻せるかもしれなかったのに!」

 

 何に驚いたのか、目を見開いたシーサンスさん。確かに彼女の疑問はごもっともだし、冷静になった後で俺もそう考えた。もしかしたらこれが、俺の探し求めている“ゾンビから人間に戻す方法”なのかもしれない! って。でもね、今の俺はそれ以上に大事なもんを俺は背負ってるワケ。

 

「さっきも言ったけど、リスクが高いんです。戻せるかどうか確証が無いのに、移動中に検証することじゃないでしょう? 最悪、活性化するだけして、ゾンビのままシーサンスさんを仲間にしようと()()()いたかもしれませんよ?」

「う゛え゛ぇ……」

 

 もっともらしい想定を言えば、シーサンスさんは口にした苦いものを吐くように舌をべぇっと出して気持ち悪がった。実際には走らないかもしれないけど、走るかもしれない。ここも要検証だな。ハナハタ村から出たらやりたい検証が、また1つ増えた。

 

「まぁ後は単純に、俺自身がゾンビが嫌いすぎて、肌がピチピチになった奴らが心底気持ち悪くて許せなかったのでぶっ殺したって感じです」

「本音が過ぎるよ」

「復活させたいのか殺したいのか、どっちなんだよ」

「だって、ゾンビ嫌い歴の方が圧倒的に長いんですもん。3歳位からっすよ?」

「なっが」

「人生の大半じゃない」

「一応、神父さん、サグラッドさんからの教えで、これまで虐殺するようなことは控えてきましたけどね」

 

 ほんと、幼い頃から魔女になった直後まで、神父さんは俺を善き人間であれるように導いてくれてた。魔女になった今こそ、それからなるべく逸れないように常に意識しないとな。

 スニウさんがピユンさんに注文されたものを俺の前に置いた。プリンはしっかり固めに蒸されて、かかったカラメルが店内のランタンの明かりを受けて煌めいていた。

 

「さ、いい加減そんな血なまぐさい話はやめよう? ねぇルゥパさん、他に何か聞いておきたいことある?」

「俺からしたらあなたから始まったグロい話なんですけどね」

「心外だなぁ」

「ふふっ、すみません。そうですね、聞いておきたいのだと……、やっぱり、あのアイアンゴーレムについてでしょうか」

「「あ~~」」

 

 尋ねられたから質問したら、村の青年2人が同時に何度も首を縦に振って、誇らしげな声で唸った。聞かれるのが嬉しいらしい。腕組みまでしちゃったレイグニンさんがしたり顔をしていた。

 

「あのゴーレムはな、ウチの村の守り神みたいな感じでさ。俺らがガキの頃からずっと見守っててくれてるんだよ。花も好きだし、遊び相手にもなってくれるしで、子供らからの人気がすごいんだぜ」

「いつから居たのか、誰も分からないほど長生きしてるんだって。分かっているのは、たまに鉄を食べて体を維持してるってことかな」

「鉄、食べるんだ……。ハナハタ村にもお迎え出来ないんですかね」

「え? ウチの村の為に聞いてくれたの?」

「だって、更に防衛力が高まりますし。花も子供も好きなら居てくれてもいいんじゃないです?」

「確かにね」

 

 でも結局迎え入れてないってことは、出来ない何かがあるってことなんだろうな。どんな仕組みで鉄に命を吹き込んだのか、分からないから迎え入れてないんだ。そして、あの移動速度だ。俺自身も仲間には出来ないな。ずっと俊敏のポーション浴びさせるわけにはいかないし。ちょっと残念。

 

 そのあとも雑談をしてから、お店にいる皆へのお土産でパイを買って、スニウさんの家のスイートベリーの低木を提供してもらってから戻った。ベリー2種をまとめてゲット出来るわ、洞窟の素材もたくさん得られるわで、今日は素材の収穫が多くて、ご機嫌になっちゃうね!

 

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