人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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50 戻ってきてからも欠かさない

 ベス村に滞在した残り2日や帰りの道のりでは、それなりに事件みたいなのはあったけど、特筆するべきものは無かった。

 スタークさんにもいつか誘われた本気の手合わせをお願いされて断った話とか、スイートベリーやりんご、カボチャのパイとか色んなお菓子の感想だとか、ベス村の村長さんや年配の方々にアイアンゴーレムやゾンビについての話を聞いて回ったりしたこととか、まぁ色々あったんだけどね。あと、俺が目を付けてた金細工で緑色のガラス玉が填ったペンダントは無事?売れ残って、サータちゃん宛になけなしのエメラルドを払って買ったとか。軽い土産話くらいの、平和なことしか無かった。事件が無いって、平和って素晴らしいね!

 

 俺としては、ハナハタ村に戻ってからが本番だ。色々とポーションにしたい素材が集まり過ぎた! えへへ~、たのしみ~!

 1週間ぶりに戻ってきたハナハタ村は相変わらず周りを囲う鉄格子が物々しい。だけど一度門である鉄扉を潜れば、そこかしこに花々が咲き乱れる、華やかな村のままだった。戻ってきたんだなぁ。

 しみじみと村を見渡してたら、ロバを自警団に任せた女性陣がホテルに向かいだした。村で1番大きい建物で最早シンボルのようなホテルの前には、子供たちがいっぱい集まっていた。こないだ見たように、親子の再会を喜び合うんだろう。

 今回の遠征にはメデリーさんが居たから、お出迎えにはカヌプも来てるんだろうけど、まずは親子水入らずがいいはず。そう思って自警団さんたちに付いて行こうとしたら、「半人前たちが待ってるだろうから、行ってやれ」って背中押されちゃった。待ってるかな? 皆それぞれ村の手伝いしてると思うんだけど……。不安を抱えつつ女性陣に付いて行ったら、確かに鍛錬を頑張ってる半人前君たちが俺を見て「おかえりなさーい」って手を大きく振ってお出迎えしてくれた。やだー、俺結構人望あるー! 思わず雪玉ちゃんたちも俺から出てきてクルクル回って喜んでるー!

 ホテルの前に着く前に、母親さんのお迎えがあるカヌプ達を除いた、パーデを入れた頑張り屋さん達と雪玉ちゃんたちが俺を囲んでくれた。

 

「お帰りなさい、師匠!」

「おかえりなさい! ね、ね! 村の外ってどんな感じなの!? 面白いことあった!?」

「お話聞かせてくださーい!」

「うん、いいよ。って言っても、今までの自警団さん達や君らのお母さんお姉さん達から聞いた話と変わんないと思うけど」

「そうじゃないんですー!」

「カヌプの変わりに言っとくと、師匠から聞くから楽しいんです!」

「「「ねー!」」」

「可愛い奴らめ」

 

 思わずニヤッて笑っちゃったじゃんか。君らの分のパイもポーションの稼ぎで買っておいて良かったー! ホテルの食堂借りて食べような!

 カヌプがそう呼ぶから俺のことを“師匠”と呼ぶ少年少女たちにも、自由に飛びまわってるミツバチさんたちにも、一行が留守の間も村を守っていたスタークさんらにも挨拶したら、やっと教会に戻った。

 

「ヘイリグさん、今戻りました」

「おかえりなさい。1週間の旅、お疲れ様でした」

 

 日差し避けに麦わら帽子を被っているヘイリグさんは、教会の横の畑で野菜の成長具合を確かめていた。天辺から傾いてきてもまだまだ眩しいお天道様が緑の色を引き立てている。しゃがんでいたヘイリグさんが立ち上がって、腰に手を当てて伸びた。

 

「ふぅ……。初めてのベス村は、どうでした?」

「はい、楽しかったです! 後でパイのお供にお話させてください!」

「喜んで」

 

 焼きたてのベリーパイの感想だったり、初めてアイアンゴーレムを見たことや洞窟で初めての素材を採集した感想だったり、ゾンビに負傷のポーションをかけたら回復しやがったことだったり。

 半人前君たちやヘイリグさん宛にお土産で買ってきたパイの数よりも土産話の方がずっと多い。食べきる前に話しきれるか、それとも話に夢中になってパイがまったく無くならないか。その時にならないと分からないな!

 

 

 

 半人前君たちにも、ヘイリグさんや留守番を守ってたスタークさんドゥンさんにも土産話をたっぷり話した頃、満月の夜がやってきた。……インベントリの良いところって、保存が効くところよね。入れときゃ時間経過が無いってすごいよね。意味分かんない。解明する気もない。

 

「ふーん、スイートベリーのパイ、ねぇ」

「ベス村っていう、ちょっと寒めの地域の特産品なんですよ。それを食べながら、相談に乗ってくれません?」

「なんだ、土産話はしてくれないのかい?」

「相談の後でね」

 

 これで4回目になった、毎月恒例の魔女との会合。指定された素材の他にベリーパイを土産として持て成せば、いつもは意地悪な笑顔をする顔に感心が入り混じった普通の笑みを浮かべてくれた。食べ方は行儀悪いけど、紙に包んだまま手でかぶりついてもらおう。

 さて、ご機嫌取りも済んだところで、本題に入りましょうか。

 

「先輩、効果のあるポーションになる素材として、“人間”を素材にすることはありますか?」

「……物騒なことを聞くねぇ。せっかくのパイが不味くなる」

「相談はこれだけっすから。聞かなきゃ、俺自分が何をしでかすか、恐ろしくて」

「本当に見境無くしてんだね」

 

 骨粉を素材にした頃から危うかったのかもしれないけど、今まで忌避してきたゾンビ肉をポーションの素材として認識した辺りから、本格的に箍が外れてきた。自分が恐ろしいと自覚できただけ、まだ人間の理性が残ってると思っちゃうくらいには、ヤバい思考してる。やっぱ雷の衝撃は脳に深刻なダメージを与えてらぁ。

 だってさ、ちゃんとした人間のエキスをゾンビに注いだら、戻りそうじゃない?

 苦い顔の魔女は「それだけなら答えてあげよう」と言った。

 

「“人間”の身体を素材にしたポーションなんか、存在しないよ」

「!!」

「だから、共食いさせるようなマネは止めな。どうせ失敗するんだから」

「……教えてくださって、ありがとう、ございます」

 

 試す前に、誰かを手に掛ける前に聞けて、本当に助かった。これで誰のことも素材を見る目で観察することはなくなった。危なかった……。

 不味くなると言っていた質問に答えたその口をリフレッシュさせるように、魔女はスイートベリーのパイに齧り付いた。お気に召したようで、ラベンダー色の目を少し見開いた。

 

「それで、新しい村に行ったんなら、お前さんにとって目新しい素材もたくさんあったろう? どんな素材でポーションを試作するつもりだい?」

「色々ありますけど……。この辺りではまずお目にかかれなくて、今一番期待してる素材がありまして!」

「うん」

「それが、ゾンビ肉なんすよ!」

「本当に見境無いね」

 

 甘いものを食べたばかりの魔女にまた、苦い顔された。

 

 

 

 雪玉ちゃんとミツバチちゃんたちともイチャコラさせてもらった後で、いよいよ俺がやりたいことを本格始動することにした。

 会場は教会の作業場、今回はスタークさんドゥンさんは居ないけれど、そばでヘイリグさんが見学してる。

 

「改めて、今回集めた素材はどんなものがあるのかお聞きしても?」

「グロウベリーの実と葉と枝、スイートベリーの全部と、ツツジと、胞子の花と、ツタと、大小のドリップリーフと、苔と、ゾンビ肉」

「話を聞いて知っていましたが、最後が本当に異質ですね」

「修行や旅の中でゾンビ肉を食べたことがある人に言われたくないっすね」

「そういえば、そうでした」

 

 腹を壊すにしても、聖職者さんの間では食べ物判定なら、ポーションの素材にしたって文句言われる筋合いはないね! とはいえ、昨日の魔女の反応を見ると期待は薄いんだけど。でも、そんなの知ったこっちゃねぇ。俺の知的好奇心は止まらねぇ!

 

 ハナハタ村に戻った俺がやりたかったのは、勿論ポーションの開発だ。見たことのない素材が手に入ったらまず実験したくなるのは研究家の性だ。

 生まれついての魔女はポーションの全てを知っているらしいけど、そんなの、人間の頃からポーションにハマってる俺からすればどうでもいい。倫理観とか神父さんの教えが無ければ、もっと過激なことをしでかしそうで自分が怖い。こないだ魔女に相談したこととかまさにその極みって感じよな。いつか見た遺跡とか、今見つけちゃったら丸裸にしちゃいそう。ピラミッドも海低神殿も。……次、見かけて、人里が近くになかったらそうするか。失われた人間の記録の中にゾンビを人間に戻す為のヒントがあるかもしれない、っていう建前があれば、荒らすのも許してくれるだろ!

 そんな、救世主どころか最早破壊者な思考をしつつ、奇妙なポーションをセットした醸造台5つの土台にブレイズパウダーを置いて、稼働させた。素材は時間がある時に全部みじん切りにしておいたから、後はそれぞれ煮出すだけ。ベス村から帰ってきて魔女に素材を渡して相談に乗ってもらうまでの1週間で、ネザーにしつこく潜ってたっぷりネザーウォートも集めてきた。準備もやる気も満タンだ!

 

 

 張り切って実験に取り組んだけど、煮出した時点で結果は見えちゃった。机に体を預けて腕を組んだら、後ろで各種素材をみじん切りしてたヘイリグさんがこっちに回ってきた。

 

「どうでしたか?」

「……全滅ですね。ネザーウォートと反応してるものがありません。色が出てても、ただ水に溶け込んでるだけですね」

 

 煮出されたばかりで、まだ触れないくらい熱い丸底瓶。その中身の液体は、上の漏斗に入った素材の色にそれぞれ染まっていた。勘で分量入れたけど、今回は全部適量だったっぽい。色が綺麗に出てる。俺も成長してんな。って、そこじゃない。

 経験上、ポーションとして効果が現れるもので素材の色が出てるものは少ない。飲んで体に影響が出たとしても、それは素材そのものを口にしたのと一緒の効果。せめて、美味しいといいんだけど。

 

「それでも、3時間後には試飲会するんでしょう?」

「勿論。見守り役お願いしますね!」

「どうぞ、伸び伸びと。今朝牛乳を頂いてきたので、いくらでも倒れてもらって構いませんよ」

「やったぜ!」

 

 心強いヘイリグさんに頼って行った試飲会では、作った全14種類のポーション(仮)を試飲して、最後に取っておいたゾンビ肉ポーションで腹を壊した。やっぱり、ネザーウォートと反応してないからポーションにはなってないんだろうな。だけど! まだ、俺は諦めねぇぞ!

 

「この、液体、ゾンビにかけたら、どうなりますかね!?」

「迷惑がるだけじゃないですかね」

 

 憎しみと愛しさを込めて、お前らに同朋のエキスをぶっかけてやるよゾンビぃ!

 

 この少し後、砂を採取する為に砂漠まで出かけた時に林の中でゾンビに遭遇したから、例のゾンビエキスをぶっかけてやった。だけど、ヘイリグさんの予想通り迷惑がるだけで特に変化らしい変化は無かった。土が臭くなっただけだった。

 

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