人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
ハナハタ村を拠点にして9ヶ月が経とうか経たないかの頃、3回目のベス村訪問を行った。
前回はキツネの皮でスイートベリーの棘に耐性が出来るポーションを試してみた位だったけど、今回はどんなインスピレーションを受けれるかな。ってワクワクしながら1人でマネキンとして村の中を練り歩いてたら、逆に村の皆さんの格好が気になった。
「……灰色多くね?」
子供も大人も、男も女も関係なく。ハナハタ村の洋服がお気に入りだったはずの子達まで着ているもののの1部が灰色だった。なんか流行り変わった? うそ、ハナハタ村のが売れなくなっちゃう?
あんまりじっくり見ちゃうのは失礼だから、女性陣に頼まれた買い物をしながらチラチラ観察する。それで服の灰色の中に黄色や黒が見えるなと気付いたところで、少し遠くから声をかけられた。
「ルゥパ! こっちおいで!」
声の主はポーネさん。このベス村で服屋を営んでいる女性だ。手で招くポーネさんもまた、頭に灰色を被っていた。
「久しぶりだね。元気してたかい?」
「はい、おかげさまで。ところで突然なんですが、お尋ねしても?」
「あぁ、この帽子とか皆の格好のことかい? そうだろう、そうなんだろう?」
「その通りですけれど」
まだ聞いてないのに質問はそれに違いないと確信してるポーネさんは目を輝かせていた。知りたいのはそれなんだけどさ、あまりの押しの強さに苦笑しちまったよ。
「ここまで歩いてきて、皆さんの格好を見て気になってました」
「そうだろう! ふふふっ、これはね、ルゥパからヒントを貰ってデザインした、アイアンゴーレムをモチーフにした服や装飾品さ!」
張り切ってるポーネさんが自分の頭を指差して、白い歯を見せて笑った。灰色に染められた革と羊毛で作られた防寒用の帽子には、アイアンゴーレムの顔が可愛らしく簡略化されて描かれていた。あの巨体の厳つい顔が、こうも柔らかくなるなんて!
「メッチャ可愛い!!!!!」
「うわうるさっ!」
「俺も作ろ!!!」
「だからうるさいって」
確かに革なら、俺のコートみたいに染色して、絵を付けることも出来る。防具は防具としての考えしか無かった俺には無い発想だ。雪が降るとこの辺りは色の変化がなくなるとのこと。その環境だから家の中や服装は派手にしようっていう考えが生まれやすいんだろう。素晴らしい!
店番の手伝いを済ませてからまたポーネさんの店に行ったら、アイアンゴーレムの他にベリーをモチーフにした服や装飾品がいっぱいだった。華やか~。
「え! ケーキが描かれたカバン? 可愛いっすね!」
「ふふっ、そうだろう? モチーフをじーーーっとよく観察して、何度も何度も描いてきたからね!」
「最早香りまでしてきそうですよ!」
「止めな、そこまで褒めても値引きしか出来ないよ!」
「じゃあもっと褒めなきゃっすわ!」
「こいつめ」
調子に乗った俺に呆れたようにそう言い捨てたけど、気を悪くした様子は無かった。
こじんまりとした店内ではモチーフごとに区分けされているらしい。俺が見ていた左手前はケーキやスイーツ、入口側にはアイアンゴーレム。左奥にはベリーや自然モチーフで、右奥はシンプルに無地だったり。おしゃれから普段遣いまで取り揃えてる素敵な店だ。
「どんなのが人気なのかお聞きしても?」
「うーん、年とか性別によってまちまちだけど、今のところはやっぱり、アイアンゴーレムだね! 丁度1週間前くらいに売り始めたんだけど、飛ぶように売れてね!」
「ベス村の皆さん、アイアンゴーレム大好きですもんね」
「そうなんだよ。私も好きだしね。あの子を観察して絵を描くときも、暇さえあれば子供たちが『遊び相手になってくれ~』って囲んで構うもんだから、細かいところを見るのに苦労したよ」
「売れるのも納得ですね」
場所をアイアンゴーレムの雑貨売り場に移す。服にバックに靴、ネックレスにもモチーフは用いられていて、でもリアルとデフォルメと種類がある。……厳つくてカッコイイのと、逞しくて可愛いの、あの子等どっちが好きかな。
「おや、気に入ってくれた?」
「勿論! でも、俺が使うというより、弟子たちへお土産にどうかなって」
「弟子ぃ! あぁ、ポーションのかい?」
「いえ、普通に武力の方で」
「その一歩手前か。ふふふっ、治癒のポーションとの物々交換でもいいよ。どうせ買い取るから」
「いいんですか!? ありがとうございます! あとハナハタ村の人たちにもこのお店オススメしてきます!」
「新顧客ゲット!」
太いだろう縁を結べる可能性を得たポーネさんは力強くガッツポーズした。初めて喋ったときは少し高圧的だと思っていたポーネさんは、落ち着いてみればただ気のいいお姉さんだった。虫の居所が悪い人はいても、やっぱり性根から悪い人なんてこの辺りにはいないんだろうな!
「あ、そうだ。俺、次回のベス村訪問で最後になりますので」
「ええっ!? そうなのかい!? もう次の旅に行っちゃうのかい!?」
「3ヶ月とちょっと後ですけどね」
「えぇ、どうしよう。あんたのポーションにすっかりハマってたのに……」
「えっ、メッチャ嬉しい」
俺のポーション、何がいけないのか未だに「ちょっとクセがある」って言われ続けてるから、それ込みだとしても気に入ってくれてて嬉しい。決心揺らぎそっ! ……ま、揺らいだって結局、出ていくことには変わりないんだけどな。
「ねぇ、次の拠点はこの村にしないかい? ここら辺はイヤだけどゾンビ出るから、研究できるだろう?」
「すみません。次に行きたい場所はもう決まっているので」
「そうかい……」
惜しんでくれるのは、嬉しいけど。嬉しいから、寂しいけれど。
「大丈夫ですよ。近いうちに、ハナハタ村でポーションが作れる人間が増えるんで」
「……仕方ないね。あんたはあんたの目的があるし、自分がいなくなっても困らないようにしてくれてんだ。大人しく見送らせてもらうよ」
「ご理解、ありがとうございます」
ポーネさんに頭を下げながら思う。これから何度も別れを告げ、惜しまれ引き止められつつも、最後は激励されていくんだろうと。人間と関わっていく限り、それは避けられない痛みだ。でも、俺がただの人間だったらと思わずにはいられない。それなら、あと5年も10年もハナハタ村でゆっくり、いやしないだろうけど、それが出来る欠片くらいの可能性はあっただろうに。
肩で大きく溜め息吐いたポーネさんが「よし!」と言って手を打ち鳴らした。
「客を連れてきてもらうお礼だ。弟子の数だけ持って行きな! 半額にしてやるよ!」
「いいんですか!? ありがとうございます! じゃあ20品……いや、たまに来る子も合わせると30品?」
「ちょちょ、そ、そんなにいるのかい!? 人望厚いね! しかし困ったな……。よし! 追加で作るから、今日は注文って形でよろしく!」
「ありがとうございます! あ、ポーションの素材のあまりでウサギの皮があるんですけど、使います?」
「ああ! 貰えるなら貰っとくよ!」
「良かった!」
こういった遣り取りも、あと3ヶ月とちょっとしたら、暫く出来なくなるのか。でも、仕方ないよな。俺の顔を知らない土地に行かないと、なんだからさ。
ポーネさんからポーションとウサギの皮と引き換えに安めに手に入れた、アイアンゴーレムの靴や帽子やバッグ、その他雑貨。それらを鍛錬を頑張ってる弟子たちにお土産にしたら、メチャクチャ喜んでくれた。皆、このモチーフになったアイアンゴーレムみたいに、逞しく強くなれよ!
「え……?」
「なんでむしろ、怠惰な人間がこんなふうに横着しないのさ。一種の思考停止なんだろうけど、発酵したクモの目だってすぐ作れるのに」
「嘘だ!?」
「試してみてから疑いな」
満月の夜恒例の魔女との密会。今回のおやつはパンプキンパイだ。それを手で食べながら俺がベス村に行ってた間にドゥンさんがした大発見を、まるで自分が見つけたかのようなテンションで話したけど、魔女はとっくの昔に知っていた事らしい。呆れられてメチャクチャショック受けてる。
魔女が帰ってから今回も変わらず隠密してたスタークさんとドゥンさんと一緒に帰りながら、さっきまで話してた事を報告した。主にドゥンさんに。
「ドゥンさん……。あなたが見つけた『金のニンジン、作業台で作れる大発見』は、魔女にとっては常識中の常識だったらしいです……」
「……嘘だろ」
「知らなかったのが信じられない、とのことです……」
「歴史に残る大発見だと思ったのに……!」
今まで小さい金塊を混ぜた畑にニンジンを植えて作っていた金のニンジン。耕す作業が2倍になるのを嫌がったドゥンさんがヤケクソで作業台で作れないか試したら出来ちゃった。作業効率は上がって骨粉の消費は減る! そんな画期的な方法が、俺たちの知らない世界では常識だったなんて。発酵したクモの目も材料は同じだけど作業台を使えば時間を置かずに作れるとのこと。そんなー!! 最初にデバフポーション魔女から習った聖職者さん、この辺りは教えられてなかったんですかー!?
大発見に沸いてた2人が揃って肩を落としている横で、スタークさんは気まずそうにしてた。この人も発見には勿論喜んでたけどね。
「教えてくれても良かったのにな」
「あまりに当たり前すぎて、教える発想が無かったらしいです」
「自分の常識、誰かの非常識って言葉があるんですから、確認くらいしてくれても……。浮かれてた自分が恥ずかしいです……」
「それめっちゃ分かりますドゥンさん。俺も故郷で新しいポーションできた! って浮かれてたら神父さんに『あぁ、自分で導き出したんですね』って軽く躱されたことありますもん」
あの時のことは何度思い出しても恥ずかしくて顔が熱くなる。あの時の繰り返しをしちまったのか。プロに向かって。っうわぁあああ。
人生に刻まれた黒い記録に頭を抱えてたら、気まずそうに首の後ろに手をやっているスタークさんが小さく溜め息を吐いた。
「……まぁ、あれだ。大発見の再発見、ってことにしようぜ」
「……」
「……」
「な、なんだよ、2人揃って黙って、こっち見んなよ」
「いや……」
「たまにはスゲー良い事言うじゃないですか」
「たまにはってなんだお前ら。いや、別にいつも良い事言ってるとは思ってないが」
「そうだよな」
「ウゼェ」
でも、今の言葉、“大発見の再発見”には、今俺、救われた気がする。そっか、いいんだ。てかそもそも、俺の旅ってそういう目的だったじゃん。
俺の探しているもの、見つけたものは既に誰かが見つけているかもしれない。でも、それを再発見して広げるのが、俺の旅の目的じゃん。じゃあ、誰かの大発見を俺らが再発見したっていいし、恥ずかしく思う必要なんてないじゃん。黒から灰色になったわ!
「ぶぇええええええ」
「いったい、君はどうして、あんな汚いものに手を出すんですか!」
「気になったから……」
「でしょうね!!」
灰色といえば。ってなって、こないだ偶然手に入れたウィザースケルトンの頭を使ってポーション作ってみた。削り粉はネザーウォートと反応しなかったから単に水にエキスが溶けてただけなんだけど、飲んだら衰弱状態になった。バチンバチン内側から身体が痛めつけられてて、死にそう。ヘイリグさんに怒られて悲しい。でも止めらんねぇー!