人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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54 手袋縫いつつ秘密の吐露

 雪がチラチラ舞い散る季節になった。なったっつっても、ハナハタ村の辺りでは積もる程は降らず、雪が含んでる水分もさほど多くないから、お天道様が見えている間は雪の影はなくなっていた。

 それでも寒いもんは寒いんで、カヌプとパーデに教えるついでに俺も手袋を新調することにした。作業台ではモンスターの攻撃や衝撃から守ってくれる防具は作れても、寒さから守ってくれる防寒具どころか、普通の服さえ作れないからな。自分の手で作るしかないのよ。まぁ俺は寒さ対策というより、ガラスを回収する為の耐火グローブがへたってきたから作り替えるってだけなんだけど。ポーションは安くない。別に革も安くないけど。

 

 教会の奥の作業場では、暖炉で薪が燃やされて暖かさと明かりが部屋を満たしていた。その中でやっていた作業がひと段落したから、腰に左手を当てて右手で指差し確認する。

 

「手のサイズを測って、型紙を作った。必要な分だけの革も羊毛も準備できてる。その革も染色できて、乾いてる。さて! そろそろ本格的に手袋作ってくか!」

「「おー!」」

 

 音頭を取れば、石造りの作業場に少年2人の元気な声が響いた。やる気があってよろしい! 雪玉ちゃんも見守っといてね!

 今回作る手袋はカヌプとパーデがミトンタイプで、俺がショーティー、手首までの五指分かれたタイプ。2人とも革製品の手芸はあまりしたことないみたいだから、こういうところから成功体験を積ませていこう。

 

 手順としてはこう。型紙に合わせて羊毛、革に墨で枠を書き、墨が乾いたらナイフで切る。内側になる方に羊毛を縫い付けたら、手のひら側と甲側、親指部分を羊毛面を表にして端っこの革を縫い合わせたらひっくり返して、完成!

 これからの作業を大きく分けると5作業くらいになるんだけど、縫い付ける時間が結構あるし、いくら鞣しても革は硬い。気をつけながら作業しなきゃ、指先が直ぐに治癒のポーションのお世話になる。

 

「師匠の、ちょっとムズそうだな」

「丸くすればいいのにー」

「俺は手袋を何度か作ってるからな。ステップアップよ。指が分かれてる方が作業もしやすいしな」

「そっかー」

「冬くらいゆっくりしてればいいのに」

「篭もる程寒くなんないでしょ、ベス村ならともかく」

「そうだけどさ」

「ほらカヌプ、さっさとやろ。コレ着けて遊ぶって約束じゃん!」

「おう」

 

 パーデに促されて、お喋りしたがってたカヌプもペンを取った。俺も手を付けよう。

 集中するのは苦じゃないから、何かを作るこの時間は好きだ。今回は2人の面倒を見ながらだから突っ走っちゃダメだな。

 型紙に沿って革と羊毛シートに墨を付け、今度はその墨に沿ってナイフで切る。切り上がった革のパーツの数は片手分で3つ。両手で6つだ。羊毛合わせると12枚切ったのか。

 

「あれ? 2人とも、鋏で切ってんの?」

「うん、こっちの方が切りやすいし」

「ルゥパお兄さん、見て! 綺麗に切れたよ!」

「あら、美しい切り口。カヌプのも綺麗だな」

「「へへへー!」」

 

 羊毛はともかく、革は硬いはずなんだけどな。でも確かに、使い慣れた道具の方が上手く切れるか。それに鋏なら俺みたいにテーブルいっぱいに場所取らなくてもいいし。

 革と羊毛をそれぞれ切り出したら、太めの糸でその2つを縫い付ける。2人が安定して革と羊毛に糸が通せるようになったら、俺も縫い合わせた。

 暖炉の薪が燃え、爆ぜる音。針で革と羊毛シートを刺し貫き、糸を通す音。3人それぞれの呼吸音だけが部屋で立てられていた。作業していてふと気づくこの音が、この瞬間が穏やかで好きだ。

 雪玉ちゃんが見守る中、サッササッサとぬいぬい縫って、終わったら革の硬さに苦戦する2人を雪玉ちゃんと一緒に見守る。得意不得意の差なのか、若干パーデの方が進みは早かった。それをチラチラ見てるカヌプは作業こそ丁寧だけど、動きがぎこちない。怪我しないだけいいよ!

 

「やればやるほど慣れて早くなってくから、頑張れカヌプ」

「お、おう。……まだ、要らないから」

「フッ」

「雪玉ちゃん……」

 

 パーデが失笑したのは、カヌプの前で雪玉ちゃんが治癒のポーションを持って待機しだしたから。手つきが危ういのは分かるけど、まだ怪我してないから。心配性だなぁ。

 

 手の甲側ひら側と、親指部分。片手3パーツ分を両手分縫い終わるまで待とうと2人の作業を眺めてたんだけど、パーデがもう片手分に取り掛かり始めても、カヌプが一向に終わる気配が無い。手つきはさっきよりスムーズなのに。これでやっと確信した。2人が今日突然、手袋を作ろうと言いだしたのはそれだけの目的じゃないって。

 

「なぁ、カヌプ」

「ん? なに?」

「お前、他に用事があるんじゃねぇの?」

 

 ストレートに尋ねてみれば、カヌプの手が止まった。釣られたパーでも手を止め、カヌプと俺をキョロキョロと交互に見た。手元から目線を逸らさないカヌプはノロノロと手を動かしだした。

 

「別に、ねぇよ。これだけだよ」

「本当に?」

「逆になんの用事があるんだって」

「俺を引き止める説得を、しに来たのかなって」

 

 カヌプの手がまた、止まった。

 

 俺が新しい旅に出るまでおよそ4ヶ月を切った頃から、カヌプはスキあらば俺のところに来るようになった。つってもカヌプ自身が家の手伝いとか鍛錬とか勉強とか色々やることいっぱいだから、言葉の圧に比べたらそんなにベッタリしてきてるわけじゃないけど。遊んでおいでって言ってもここ最近は「師匠の近くで何してるか見てる」って言って、俺についてきて行動を後ろから観察してきてんのよね。それに付き合ってパーデも見に来てる。あれ? 弟子の行動として間違ってなくない? じゃあいいのか。いや、話が逸れた。

 つまり俺が言いたいのは、カヌプの作業の手が遅いのは、わざとだってこと。

 

「カヌプ、俺はお前が成長しようとどうだろうと、春になったら、この村を出るぞ」

「……なんでだよ、弟子が不出来なまま、放り出すのかよ」

 

 ほらやっぱり。出来ないフリして、出来るようになるまで付き合えって俺を引き止めようとしてたな。……そろそろ、打ち明ける頃合いかもな。

 

「最初から、1年っていう期限付きの約束だからな。1年で俺と同じくらい強くなろうだなんておこがましいし、第一、カヌプは俺の想定以上に成長してるしな」

「え……」

 

 不意打ちで褒めてやったら、やっとカヌプはこっちを向いた。顔赤くしちゃって。可愛いんだから。

 

「大人の忠告はちゃんと聞くし、なんで忠告されるのか考えてるし。教えたことはぐんぐん吸収するし、自分で発展させるし、俺の悪い誘導に引っかからない。何より、身体能力が出会った頃よりずっと上がって、太刀筋も真っ直ぐになった。守りたいものが自分の中で分かっていて、決まっているなら、何も心配は要らない。後は技術を磨いていくだけ」

「……待てよ」

「技術を磨くなら、その道の専門家が教えるのが一番だ。そしてそれは、俺じゃない。正確に言うなら、俺より相応しい人がたくさんいる。だって、ここは人がたくさんいるから」

 

 仮にハナハタ村が襲撃に遭って、生き残りがカヌプとパーデだけだった、みたいな状況なら、次の村まで連れて行った。その旅の中で色々教えたし、出来るようになるまで見捨てることは偲びないと思ってただろう。でも、現実はそこまで切羽詰まってるワケじゃない。まだ、守りたいものは、彼らを守ってくれる人はたくさんいる。

 

「そんな中で、俺に付いていこう、だなんて、まさか思ってないよな?」

「お、思うわけないだろ!」

「どうして?」

「ど、どうして?」

「前に俺に拒絶されたから、じゃないよな?」

 

 俺からの角度を変えまくった質問に振り回されるカヌプはこれ以上無いほど目を丸くした。ショックからまだ立ち直っていないだろうに、ポカンと開けた口からゆるゆると言葉を紡いだ。

 

「だ、だって、俺が守りたいのは、この村の人たちと、パーデだから……」

「カヌプ……!」

 

 守る対象として名指しされて、パーデは耳を赤くした。パーデはもじもじしてから、ニマニマと、だけど力強く笑みを浮かべた。

 

「ぼ、ボクも、村とカヌプを守れるように、強くなるから!」

「お、おう! 俺の背中はパーデに任せた!」

「お互い守ろうね!」

 

 俺と出会ったあの時、武器の一つどころか防具さえも身につけていなかったパーデの意識も、すっかり変わったなぁ。随分、感動的な話になってきたじゃないの。お師匠、泣いちゃう!

 2人に隠れて微笑む口を頬杖つく手で押さえてたら、何かを閃いたっぽいパーデが「そうだよ!」と声を上げた。

 

「ルゥパお兄さん、また旅に出てもたまには帰ってきてよ! 近く通ったらでいいからさ!」

「そうじゃん! あ! その、ゾンビから人間に戻す方法が見つかったらさ、絶対! ここまで教えに来いよ! な!」

 

 ──ああ、パーデもカヌプも、何も間違ったこと言ってない。筋が通ってて、この子達からすれば当たり前の約束の取り付けなのに。

 

「……ルゥパ兄ちゃん?」

「え? ど、どうしたの?」

 

 情けない。この程度の約束もできない自分が、情けない。

 

「ごめん。旅に出たら、もう、ここには戻ってこない」

 

 それでも、果たせない約束は、裏切る事しか出来ない約束は、俺を慕ってくれている可愛いこの子らとしたくなかった。

 晴れているのに雷が落ちたかのように、声も上げないまま目を見開いて固まる2人。それからだんだん、カヌプは眉を顰めて困惑した表情に、パーデは口をへにょらせて泣き出しそうな表情になっていく。でも、発言は取り消さない。ちゃんと、話すから。

 

「カヌプ、パーデ。こんな説話を聞いたことがあるか? “雷の日は外に出ちゃダメ。雷に撃たれると魔女になるから”って話。あれ、本当なんだぜ」

「ど、どういうことだよ」

「俺、雷に打たれて魔女になったんだよ。それから俺は、年を取ってない。髪を一度も切ってない」

「……え?」

「え、でも、自分で切るって……。恋人が切ってくれたからって」

「サータちゃんが切ってくれたのは本当だけど、ね。自分で切ってる話は嘘なんだよ」

 

 まぁ、そんな嘘、誰が見破れんだって話だけどさ。誰もそこまで俺のこと注意深く見てないよ。スタークさん達以外。

 俺を人間だと信じて疑ったことすらないだろうカヌプとパーデには、衝撃的だっただろう。でも、こんな機会じゃないと話しておけないから、しっかり告白した。村が滅びる直前に雷に撃たれたことと、ヘムスタッド村から出て5年6年経ってること。この村に来てからだけど、モンスターの魔女とも交流があること。そこでちゃんと自分が魔女であると確認できたこと。こんな感じの内容を、重たくなりすぎないよう、軽い調子で、要らない情報は削ぎ落として。一度はヘイリグさん達に話した内容だから、特につまずくことなく話せたと思う。

 話し終えた後の2人の反応は、それぞれ違った。カヌプは真顔に近くて、パーデは痛ましいものを見る目で俺を見ていた。

 

「……ねぇ、ルゥパお兄さん。雷に撃たれるのって、痛かった?」

「うん。死んだと思ったよ。きっと、あの熱と衝撃で生き残れた人間が、後天的に魔女になれるんだろうな」

「……だったら、まだボクは家に帰ってなきゃだね」

「俺だって2度目は死ぬだろうよ。だから、雷の音がしたなら、稲光が見えたなら、ちゃんと屋根のある場所に帰りな」

「はい。……」

 

 ちょっと説教臭い話をした後もパーデは何か言いたそうだった。だから促したら、こんな言葉が返ってきた。

 

「いくら身体が魔女になったからって、心まで魔女じゃないでしょ? ずっと見てるボクが言うよ。ルゥパお兄さんは、人間だよ」

 

 兄弟揃って同じこと言うなんて。流石に笑っちまったわ。ありがとう。

 さて、一番真剣に俺の話を聞いていたカヌプは、なんて言ってくれる? スッと視線をそちらに移せば、数拍置いて、口を開いた。目は、期待に輝いていた。

 

「心は人のまんまなんだと、俺も思う。なんだけど、さ……。魔女になって、変わったことって、あるの?」

「おー、変わったことねぇ。うん、色々様変わったぜ」

 

 俺への同情、慰めより、好奇心が勝っちゃったか。うん。スッゲー気楽。

 

「まず、食べなくてよくなっただろー? 睡眠も取らなくてもよくなったし、同じモンスターになっちまったからモンスターから狙われなくなった! あと、魔女と話も出来るようになったっぽい!」

「……本当に?」

「ほんとホント! 雪玉ちゃん見られて石投げられて村追い出された話しただろ? あのあと3年位雪山で山篭りしてたけど、殆ど飲まず食わずだったぜ。流石に暇な時は寝てたけど」

「はぁ……? 意味が分かんない……。3年も何してたんだよ」

「ポーションの素材になる金のニンジンときらめくスイカの栽培とか、金採掘とか、ネザーに潜ったりとか、まぁ色々」

「……逆に、なんでハナハタ村に来たんだ?」

 

 別に来たくて来たわけじゃないんだけど。君らに無理やり滞在させられてたんだけど。でも、ここじゃなくても人里に下りるのはやりたかったこと。だから、こう言おう。

 

「ゾンビは生きてる人間のところに集まるだろ? だから俺は人里に下りてきたし、実験したいのにあまりゾンビが現れないこの村を出たいんだ」

「……なんかぁ、複雑なんだけどー!!」

「だから、お前らのこと囮にしようとした俺のことなんて、尊敬してくれんな」

「でも! 守ってくれたし! 教えてくれたし! なんだこの気持ちー!!!」

「まぁまぁ! 縫い物でもして、精神統一しとけー」

「乱したの誰だよ! もー!」

 

 俺の秘密を知ったばかりの2人が作った手袋は、遠目に見たらそこそこの出来で、縫い目をよく見たら間隔がバラバラで微笑ましいものになっていた。治癒のポーション使わなかったから、やっぱこの2人器用だわ。

 

「パーデ、コレ着けて遊ぶって言ってたけど、何して遊ぶの?」

「かくれんぼ! 隠れてる間って寒いから、これで温まるんだー!」

「おー、いいじゃん」

「ルゥパ兄ちゃんも遊ぼうぜ!」

「いいぜ。じゃ、訓練場行くか!」

「「おー!!」」

 

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