人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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※強い捏造が含まれます。ご了承ください。
※チート技③登場


56 異空間を持てるようになりました

 強化した俊敏のポーションでハナハタ村から疾走したその足で、沼地にやって来た。ソウルサンド程じゃないけどぬかるんでて少し歩きにくい土壌に、生えてるオークの木の葉っぱにはツタが絡まり垂れている。茶色のキノコも白い斑点のある赤色のキノコも生えて、キノコが生えるほど栄養豊富故か生存競争に負けた枯れ木もところどころにあった。

 心なしかくすんだ沼にはスイレンの葉が浮かび、沼の中で水草が揺蕩っている。その中を魚が泳いでいる。空気まで雨が降ってないのにジメジメ感が強い気がする。流石湿地だわ。そんな中で映えるヒスイランの鮮やかな水色がホント癒し。

 

 魔女と密会を重ねていても、彼女の拠点に行ったことはなかったから、場所は分からない。教える素振りもなかったから、恐らくこの辺りに魔女は1人だけなんだろう。雪玉ちゃんにも協力してもらって、魔女の小屋を探した。

 2回瞬きして雪玉ちゃんの目を切り替えつつ、自分の足でもしっかり探し回る。鬱陶しく行く手を阻むツタを払いながら進んでると、ある雪玉ちゃんの目が、小屋を見つけた。これに違いない! 直感を信じてその雪玉ちゃんにテレポートした。

 

 その小屋は、俺が作るとしたらまず思いつきもしないものだった。

 わざわざ沼の上に建てられたそれは、万が一水位が上がっても浸水しないように高い足場の上に拵えられていた。そして端から見ても子供部屋よりは広くてもそこで暮らすのは辛くね? ってなる小ささだ。あそこは単に作業場で、他に寝泊りする所があんのかな。確かに、プライベート空間は見せたくないよな。あれ? ガラスが嵌ってない窓から黒猫がこっち見てね? あの子が魔女の猫のミィちゃんかな。……ん? 魔女、お留守か?

 

「先パーイ! 俺が、ルゥパが来ましたよー! 先パーイ!!」

 

 キョロキョロと辺りを見渡しても魔女の姿が見えなかったから、大声で小屋に向かって呼びかけた。でも声は鬱蒼とした木々に吸い込まれるばかりで、魔女からの返事はなかった。小屋の窓辺からコチラを除く黒猫が迷惑そうにジト目で睨んできた。ゴメンて。

 

「先パイ、どこにいるんだろう……」

 

 満月の夜じゃないから、会ってくれない? 小屋の中に猫がいるから、拠点を変えたわけじゃないだろう。それじゃあ単に、素材集めに出たのかな。

 

「ちゃんといつ来るか、伝えておいたんだけどなぁ。……ん?」

 

 まだ戻ってきてなかった雪玉ちゃんの目を借りてたら、沼の水面が揺れた。波紋がどこを起点にしているのか追って見たら──さっきまで誰もいなかった沼地の中に、魔女の姿があった。

 

「…………ヒュォアッ!?!?」

「なんだい、その情けない声は。お前さんらしいといえば、お前さんらしいけどね」

「いやいやいやいや!! どっから今出てきました!? 絶対そこにいませんでしたよね!?」

「うるさいよ」

 

 小屋の手前に突然姿を現した魔女は、床が高い小屋の下にバシャバシャ向かうと、ピョンッと水の中からジャンプして、小屋の軒先に足をつけた。

 

「嘘じゃん!? そこ先パイの背より高いのに!? 先パイ、そんなにジャンプ力あったんすか!?」

「だからうるさいよ。ウチのミィが嫌がるでしょうが。それにジャンプ力なら、お前さんもそこそこあるだろうに」

「いつ見たんですか。てかポーション飲んでないなら、そこまでっすよ……」

 

 小屋に登る為だけに跳躍のポーションを飲むなんていう無駄遣いはしないだろう。この仮定が真なら、生まれついての魔女は足腰が凄まじいってことになる? う、羨ましくなんてないんだから!

 

「何をグズグズ考えてるんだい。指導してやるから、一度上がってきな!」

「あ、はい!」

 

 沼は底が見える程で浅いとはいえ、コートを濡らしたくない。だから雪玉ちゃんに小屋まで飛んでもらって、テレポートした。

 

「お邪魔します」

 

 着地して魔女に挨拶したら、なんか嫌な顔された。お前も沼に入って濡れろって? やなこった!

 

「ふん。まぁ、お前さんがここを見るのはこれっきりだろうからね。どうでもいいさ」

「え? それ、どういう意味っすか?」

「ルゥパ。この小屋の中を見て、お前さんはどう思う?」

「無視しないでくださいよ。……中ァ?」

 

 ドアの無い入口から中を覗き込む。小屋の中は沼の外から見た通り、人一人が暮らすとしても小さな空間だ。ベッドは見えなかったから俺と同じで眠らなくていい体か、作業場なだけなのか。ある設備は大釜と作業台しかなくて、大事な醸造台の代わりにか赤色と茶色のキノコが床に生えてた。それらに加えて白い斑点の赤いキノコが飾られた窓際の植木鉢と黒ニャンコと雪玉ちゃんがいると、中はギュウギュウだった。チェストも小さい方の1つしか置いて無いし、一番大事なはずの醸造台が無い! っていうか、雪玉ちゃんとの探索でも、外には畑の1つも見当たらなかった!

 

「先パイ……」

「ん?」

「どこから、素材を持ってきているんですか? どこに、仕舞っているんですか? どこで、ポーションを作っているんですか?」

 

 ザワザワする心の赴くままに尋ねれば、魔女のニヤニヤ顔が更に色濃くなった。入口から入ってくる光が逆光となって、より怪しく見えた。

 

「気になるかい?」

「……気になります」

「なら、沼に入りな!」

「ううぉえっ!?」

 

 魔女は素早く俺の腕を取ると、年老いた風貌に反して力強く引いて、自分ごと俺を小屋から引きずり出した!

 

「おわっわっ!? ぬ、沼に入れって、どういうことっすか!?」

「まずは黙って、ついて来な!」

「やだっ、濡れたくなーい!」

 

 つい本音が飛び出したが、魔女は構わず笑って、小屋から飛び降りた! 腕を引かれる俺を巻き込んで! バッシャーンって派手に音と水しぶきが上がった!

 人の背よりも高い位置から落下したけど、水が緩衝材になって特にダメージはなかった。ただ、めっちゃ濡れた。もー! コート染色したばっかりだったのに! あぁ、自覚してるよりもショックすぎたみたいで、目の前が歪んでるわぁ。頭もクラクラして、まるでネザーポータルをくぐってるみた~い。……え? や、この感覚って、転送そのものじゃね? どういうこと!?

 

 目眩が収まってからしっかり目を開けたら、世界の色が、大変なことになってた!!

 

「おわーーーっ!? 空がグロウベリー色ー!? 太陽がイカスミ色ー!? 地面がライラック色ー!? 水がタンポポ色ー!!? ギャーーーッ!!??」

「お前さんはいちいち叫ばないと物事が認識出来ないのかい?」

「予告も無しに知らない異世界に連れてこられりゃ、叫び散らかすでしょ!? なんなんすか、この世界!!」

「だから、黙って観察しな。お前さんが得意なことだろう?」

「うっ、はい……」

 

 分からなすぎて混乱してるから、説明して欲しかったのにな……。目が痛くなる色彩な世界をしっかり見渡すと、そこは農場だった。

 畑にはニンジンとスイカが植わっていて、畑の奥にはサトウキビが青々と逞しく育っていた。木の柵で作った囲いの中では色んな柄のウサギたちがのびのびと飼育されていた。その奥にはラージチェストと金ブロックの2つの山がそびえ立っていた。今取り上げたものたちは色がおかしくなかったから、外から連れ込まれたものなんだろうか。

 

「農場、兼、野ざらし倉庫?」

「そうだね。あたしはそんな風に利用してるよ」

「あの……ここは?」

 

 落ち着いてちゃんと観察したから、そろそろ正解教えてくれるかな。期待を込めて尋ねたら、魔女はニヤッと笑った。

 

「ここは、魔女だけが開ける異空間。生まれついての魔女なら知らないはずがない、使わないはずがない空間なのさ!」

「ズッッッッッル!?!」

 

 いやでも、これで疑問が晴れた。小屋の周りに畑が無かったのも、小屋の中にチェストが殆ど無かったのも、かまども、醸造台すら無かったのも、この空間があったからだったんだ!

 ひとり考えて納得してたら、魔女が大きな鼻を満足げに鳴らした。

 

「ポータルは作らなくても、身体を腰まで水に浸からせて、この異空間を意識すれば転送される」

「おお!」

「しかもだ! この空間はネザーのようにポータルを変えると出てくる場所が変わるなんてことはない! 空間が私について来てるのさ!」

「おお!!」

「空気も時間も外と同じように流れているし、空間は無限大に広がっている! 季節は無いけど暑くも寒くも無い過ごしやすい気温で常に一定! 変化の無いつまらない景色だけど、倉庫替わりなんだから欠点にはならない!」

「おおお!!」

 

 聞けば聞くほど便利で仕方ない! わざわざ黒曜石で囲まなくても異空間に渡れるし、この中で何をしても外には何も影響ないんだろ?

 

「最大の欠点を上げるとするなら、地下が無いことだね。地面を掘っても直ぐに岩盤で、だから鉱石の素材も無い。モンスターもスライムだけは湧いちまう。まぁでもスライムだけなら素材にもなるから、あたしは気にならないよ」

「特に脅威ではないですもんね。俺たちには襲ってこないし。ほんと、濡れる以外は魅力的っすね。こんな便利な空間、後から魔女になった俺にも備わってますかね?」

「さぁ? 人間から魔女になったヤツなんて初めて会ったから知らないよ」

「そうっすよね」

 

 俺だってこうなるなんて思ってなかったもんなぁ。俺自身が研究対象だな。……沼以外の水辺からでも入れるんだろうか。入れなかったら、それはそれで困るぞ。

 

「お前さんに教えることはもうコレだけだから、ゆっくり観察して、仕組みを探ってみな」

「はい! ……えっ? これ、だけ? え、他にポーションに関することとか教えてくれないんですか!?」

「今までの素材集めでヒントを与えてきただろう? あれで大体のポーションは作れるよ。それに、あたし自身がお前さんの目標の到達点の答えを知らないんだから、教えられるのはコレだけさ」

「そ、そうなんすか……?」

 

 金のニンジンの事件があるから、その辺信用出来ないんだけど。作ってるところ見させて欲しいんだけど。なんかこの調子だと、見れなさそう。そんなぁ。

 

「後は、お前さんが自分で好きに実験・研究して探求していきな。この辺りじゃあの村とさほど取れる素材に違いは無いし、何より金を奪われたくないもんでね」

「あー、じゃあ直ぐ行かないとっすねー」

 

 少なくとも1週間はここでお世話になるつもりだったけど、金のことを出されたら早めに離れるしかないな。縄張り争いでお互い殺しあいたくないし。ピグリンか俺らは。

 

 先パイ魔女の異空間から出たら、さっそく俺だけで異空間に入った。本当に入れたことに大興奮して、目の前の光景を見てテンションが下がった。

 

「アハハ……。見事に、何もねぇじゃん」

 

 今の俺の目の前に広がるのは、足元のタンポポ色の泉以外、グロウベリー色の空にライラック色の地面がのっぺりと広がる世界。開けたばかりの俺専用の異空間には、当たり前だけど本当になんも無い。充実した魔女の異空間とはかけ離れた、メチャメチャ寂しい光景だけど。

 

「自分好みにカスタマイズ出来る、ってことだろ?」

 

 前向きにとらえりゃ、そういうことじゃん? 持ち運べる農場兼倉庫とか、めっちゃイイじゃん!!

 

 雪玉ちゃんの力を借りて、広い畑をこしらえた。海まで飛んで検証の為に腰まで浸かって意識したら、ちゃんと異空間に飛べた。ただ、入るときはコレ気を付けないと、通りすがりの人とかに『いつまで経っても出てこないんだけど!』って心配されそう。周りは気をつけなきゃね。

 海、というか砂漠にまで行ったついでにウサギの(つがい)も3組誘拐して囲いに放った。大量の砂と一緒に。ウサギたちはびっくりして暫く落ち着いてなかったけど、ニンジンをあげたら落ち着いて、奇妙な世界にも順応してみせた。ストレスで死なれたら困ってたから、本当に良かったわ。

 サトウキビは魔女からハナハタ村卒業記念にお裾分けしてもらった。後は牛をどこかで勧誘すれば、不足分は殆ど無いはず! 贅沢を言えばネザーポータルもこの異空間で開ければ良かったんだけど、いくら火打石打って火花飛ばしても、周りの土が焦げるまで試しても開かなかった。残念。

 

 

 時間にして6時間程、ずっと異空間の観察や農場の設置を雪玉ちゃんと協力してやってた。それで魔女の小屋の軒先で見慣れた色の夕焼け空を眺めながら一息ついてたら、背中蹴られて沼に落とされた!

 

「どわぁああっ!? プゴゴッ、ぶばっ! こ、殺す気かぁっ!!」

「ふんっ、言っただろうが。お前さんに教えることは、もう何も無いって。あの空間に入れるようになったんなら、さっさと出て行きな!」

「だからって何も、小屋から蹴り落とさなくてもいいだろ! この高さ見えてねぇの!? ボケて忘れてんのかぁ!?」

「油断しきってるお前さんが間抜けなんだろうが! さ、行ったいった! あたしゃミィと静かに暮らすんだよ!」

「送り出すんならもっと穏やかにしてくださいよぉ!」

 

 もう! 一応、さっきも言ったけどサトウキビをお裾分けしてくれたから、本当に俺のことがウザったいワケじゃないと思うけどさぁ。ホント、意地悪な魔女だ。

 沼から上がって、小屋の方に振り向く。魔女は黒猫と一緒に俺を見ていた。

 

「ありがとうございました、先パイ!」

 

 手を大きく振って礼を叫べば、魔女はニヤッと不敵に笑って、俺に手を振り返してくれた。

 

 思い返せば、俺、今日で2回もお別れしてんだなぁ。ちょっと寂しいけど、これも全部、俺の望む発見の為。神父さんの願いの為。よっしゃ! 前に進もう!

 

 

 

 雪玉ちゃんに海を渡ってもらって、人目がないのを確かめてからテレポートした。新しく足を踏み入れた大陸で初めて迎えた夜では、僅かながらモンスターが湧き、その中にはゾンビもいた。近くに村も無ければ、居た痕跡になる松明もなかったのにも関わらず、だ。

 襲う対象になる人間がいなくても湧くというのに、いったい、どうして。

 

「ハナハタ村で、なんでゾンビは湧かなかったんだろ」

 

 ゾンビに負傷のポーションをスプラッシュで浴びさせて経過観察しながら、離れたばかりの村に思いを馳せた。

 ちなみに観察結果は、“ゾンビに負傷のポーションを何度かけても、人間に戻ることは無かった”。やっぱりゾンビの癖に元気になって、肌のハリが良くなるばっかりだった。ゴキゲンなそいつが気に入らないから木の柵で囲んで、登ってきたお天道様に焼いてもらった。燃えてる時も負傷のポーションかけて回復させてたけど、お天道様のちからはポーション以上らしくて、ポーションをかけるのを止めた途端にゾンビは焼け死んだ。貴重な記録が取れたわ、ありがとな。

 




 今回のチート技はウィッチに関しての考察から発生しました。ポーションを使用して攻撃してくるのにウィッチの小屋には大事なはずの醸造台が無いことから、インベントリとは違う異空間をそれぞれ持っているのではないかと考察しました。え? ゲームだから描写は省略されてるだって? 知らんがな。
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