人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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57 また出会いが人助けじゃん

 ハナハタ村を卒業してから新しく足を踏み入れた土地は、ベス村に少し似た気候のようだった。海から少し離れるとなだらかな斜面はあるものの草地が広がり、奥には雄大な山々が連なっている。気温もハナハタ村に比べて少し低いくらいで、過ごしやすかった。この気候なら、きっと近くに村の1つや2つあるだろうな。素材は村で取引する必要があるものは足りてるから、寄る必要性は無いけど。

 

「水辺近くに拠点立てたら、山行って金採掘するかぁ!」

 

 ポーションの素材にとかピグリン対策の装備にとかで、何かと入り用の金。腐るほどあっても困らないんだから、まだ開拓されてない今がチャンスだ!

 

 谷の横穴から地下に潜って、金を中心に鉄・石炭・レッドストーンダスト・エメラルドを掘りまくった。時間を忘れて夢中で採掘しまくってたから、地上に戻った時にはすっかり夜になってた。

 星が綺麗だなーとか、月が眩しいなーとか思ってボケーっと歩きながら眺めてたら、遠くでゾンビが叫んでんのが聞こえた。

 明るいうちに雪玉ちゃんが散歩がてら辺りを探索してくれたから、近くに人里が無いことも、山が険しいことも雪があることも分かってる。なのに声が聞こえた方には、遠目に見ても分かるくらいゾンビが何かに集合してた。ゾンビがあんな状態になるのは、大抵、人間がいる時。

 

「こんな時間に外に出るとか、何考えてんだ?」

 

 複数のゾンビに囲まれて困ってるだろう人間を助けに、治癒のスプラッシュポーションを引っつかんで走り出した。

 

 自慢の肩で瓶を投げて、地面で割れて飛び出た液体がそこら一帯に広がる。途端に4体くらいのゾンビたちが皆一様に叫び声を上げて、体を溶かして、土に還った。サータちゃんと神父さんの断末魔が耳に蘇って、吐きそうになった。

 苦しめて、ごめんなさい。いつか、治す方法を、見つけるから。だから、人を、生きてる人を、巻き込まないでください。同じ苦しみを与えようとは、しないでください。

 こないだ太陽の下で、治癒のポーション使って苦しい延命させてた癖に、何を。

 

 横槍が入ったことに驚いたのか、ダイヤ剣と鉄縁の盾を構えたソイツは鉄のヘルメットの隙間から覗く真っ赤な目を丸くしてた。人を惹きつける、力強くて生命力溢れる瞳だった。

 ソイツの周りの地面に矢が落ちてることから考えて、きっと近くにスケルトンが居やがる。既に視認されてたら意味無いの分かってるけど、逃げる為に赤い目の美しい人の腕を引っつかんで、透明化のスプラッシュポーションを2つ真下にぶん投げて、地上側の拠点に向かって走り出した。ひとまず林ん中に逃げ込めぇ!

 

「な、なんだっ、誰だ貴様!?」

「黙ってついて来い! 死にてぇのかっヒィイッ!!!」

 

 喋ったと同時に背後から飛んできた矢が、俺の顔スレスレを過ぎて地面に刺さった。ぅわぁあああぁあっ! 久しぶりに襲われたァ!! 怖いよぉ!!

 もぉー! 言わんこっちゃねぇじゃんかぁっ! さっさと静かに逃げんぞ! 俊敏のスプラッシュもおまけだァ!

 

 明かりがあったらそこに人が居るって判断しても良さそうなもんなのに、ゾンビもスケルトンもクリーパーも、明かりがあるとそこに近づいてこないっていう性質がある。まー、それも少人数の話で、自分たちが集団ならそれでも構わず村を襲撃するんだけど。

 まぁ例外はどうでもいいとして、外を松明、中をランタンで明るくした洞穴拠点に戻ってきた。本来人間に敵対するモンスターが誰もこっちを見てないのを目視で確認してから、ドアを開けて、奥に人間を押し込んだ。ポーションの効果で俺の目から見ても透明だから、重たい空気を押してるみたいな、なんか不思議な気分になったわ。

 

「ここは……?」

「俺の拠点です。ひとまず夜明けまではここに避難していってください。はい、牛乳」

「え? あ、ありがとう?」

「それで透明化解いたら、楽にしてください」

 

 身体と装備を透明化する為に2つポーション使ったから、身体の分だけ透明化解除して、装備分は自然に解けるのを待とう。まさか装備を牛乳漬けにして臭くさせるわけにはいかないしな。インベントリに入れときゃ大丈夫っしょ。

 拠点、とは言ったものの、洞穴を活用したここには、テーブルと椅子しかない。さっきまで素材集めに行ってたから、盗まれたり壊されたら普通にショックなものは置いてない。壁も天井も石が剥き出しなのも手伝って、無機質で殺風景だ。雪玉ちゃんが居たりランタンの灯りがあるからまだ見た目暖かいかもしれないけど、かまどで火を焚いてやっと本当に暖かい。この横に作業台とチェストも置いてっと。

 

「怪我、は治癒のスプラッシュを浴びたでしょうから大丈夫でしょうけど、他に不調はありませんか?」

「いや、特に……。あの、ありがとう。助けてくれた上に、避難まで」

「どういたしまして。あのまま見過ごすのは、俺には出来なかったんで」

 

 子供たちの時みたいには、反射的に動いたりはしなかったけど。魔女になってそろそろ5年経つし、倫理観が魔女に寄ってきたんかな。

 大釜にバケツで水を入れたら、台所回りのセットは完了。後はベッドを設置すれば1晩はやり過ごせる拠点の完成だ。

 

「そういえば、名乗ってませんでしたね。俺は──うおっ、めっちゃ美人」

「今更なんのお世辞を……」

 

 不躾な俺の発言に溜め息を吐いた美人さん。呆れ顔まできれいだなんて、すごいな。

 赤い瞳の美人は目鼻立ちもハッキリして、耳の下辺りで短く切り揃えられた金色の髪は眩くて、肌はお天道様の光を吸ってんのかってくらい白い。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでるプロポーションからは彼女の自信を感じる。そう、彼女。俺が連れ去ってきたのは、女性だった。……女性が、ゾンビに囲まれるなんて。怖かっただろうに。暫くは事情聞くのは控えよう。

 

「失礼しました。まさか女性だとは思っていませんでしたので」

「声で分かりそうなもんだがな」

「もう、耳が節穴ってことで」

 

 ハスキーなお声だし、比較的男性らしい口調も手伝って、勘違いしてたわ。まぁ男だろうが女だろうがどうでもいいし。扱い方は変えなきゃかなとは思うけど。

 

「では改めて。俺はルゥパ、旅人です。ゾンビから人間に戻す方法を探しています」

「ほう! それは大層な目標だ! ポーションを惜しげもなく使っているところから、旅の聖職者だと当たりをつけていたのだが、それではないと?」

「そうですね。ポーションの技術は確かに聖職者に師事していただきましたが、俺自身はそんな高尚な存在ではないですよ」

 

 なんなら、魔女だしな。まだまだ人間の精神は保ててるとは信じてるけど。

 拠点にたった1つしかない木の椅子に腰掛ける彼女は、人の道を外された俺とは違って神々しく見えた。

 

「私はシターシュ。“国”を建てるものだ」

「クニ? ……お恥ずかしながら、教養がなくて。シターシュさん、クニとはなんでしょう?」

「なんだ、と言われると難しいな。私も()から教えてもらうまで知らなかったからな」

 

 うわっ、美人は失笑までキマってカッコいいのか。不覚にも嫉妬しちゃった。俺が同じ笑い方しても誰の感情も動かせないだろうからな。

 話が長くなりそうだったから、夜食にポトフを煮込みながら聞いた。『国とは住民・領土・主権を持つ地域のことだ』って説明してくれた。けど、ちょっと難しくて考えるの止めちゃった。簡単に言ったら、村の拡大版だって。具体的には違うらしいけど。大きく違うのは、そこに住むなら一定量のエメラルドか農作物を(おさ)に納めないといけないとのこと。その見返りに防衛力の強化や道の舗装、子供が生まれたら手厚い保障をするらしい。んー、よく分かんない! 今まで通りな気がしちゃう! 働くところの保証って言われてもなぁ……。う~ん。

 

「長く熱く語っていただいたのに申し訳ないのですが、俺にはまだ理解の及ばない概念のようです」

「やはり、理解者はなかなか簡単には増やせないものだな……」

 

 頭抱えさせるの、本当に申し訳ない。でも、分かんないもんは分かんないっす。まー、それはそれとして。

 

「それじゃあ、シターシュさんは移住先を探して、たった1人で下見に出てるんですね。夜に外に出るのは褒められた行為ではないですが、それ程腕に覚えがあったなら、俺の手出しは余計だったかもですね」

 

 何も知らない俺にも熱く語れる理想が、信念があって、夜の外にも果敢に挑める度胸がある。それでも1人にゾンビ4体はヤバいしスケルトンもいたから、助けたことは間違ってないとは思うけど。でももしかしたら対処できてたのかもしれないな。

 シターシュさんはニッコリ微笑んで、首を横に振った。

 

「いや、1人では無いし、私自身はさほど腕に覚えはないよ」

「え? ……え、じゃあ、シターシュさん、俺たちその人を置いてきちゃったってことっすか?」

「まぁ、そうだな」

 

 人の気配がシターシュさん以外になかったから迷わず連れてきちゃったけど、もしかして、俺、誘拐した感じになってない!?

 

「そ、その人は、あの場に……?」

「ああ、勿論。だが、心配は要らない。奴は強いからな」

「心配はそこだけど、そこだけじゃないんすよ」

 

 その人の安否も当然気になるし、もしも、遠くから見ていたら? 俺、恨まれてね?

 外から、ゴロゴロと嫌いな雷の音が聞こえてきた。そんな、さっき空を見上げた時は晴れてたのに。でも確かに風は強かったし、雲の流れも早かった。雨雲っていうか雷雲を連れてきたのか。困るわぁ。

 シターシュさんに一言言ってからドアを押し開けて外を、空を見上げた。肌を撫でる風は湿気を帯びていて、ここにもすぐに雨が降ると予兆させるものだった。朝までには止むといいんだけど。

 

 明日の天気を憂いていたら、雷が雲の中を縦横無尽に駆け抜け、ビカビカと地上を照らし──頭部が異様に大きいヒト型の影を顕にした。

 1拍置いて耳を劈く雷鳴が轟いた。すぐさまドアを閉じて、そこを黒曜石で塞いだ。今の!! 叫ばなかったの!!! 褒めて!!!!!

 

「どうした?」

「シターシュさん、今すぐあなたの後ろの石を掘って、避難してください」

「おい、何があった」

「見た事のないモンスターに視認されてしまいました。頭が大きいから、もしかしたら知恵がついててあのバリケードを突破するかもしれません」

「頭がデカい、か……」

 

 もしかしたらアイツ、俺が獲物を横取りしたと思って追いかけてきた? さっき矢で攻撃してきたのは、スケルトンじゃなくてアイツか? そうでもないと、魔女の俺に敵意を剥き出しにしてくるモンスターなんて居ないだろ!? は? やば、なんかどちゃクソ怖いんだけど! 装備まで透明化してたのにどうして追いかけてこれたんだよ!!

 

「スプラッシュの負傷や弱化、毒のポーションを投げるかもしれませんから、浴びないように、さぁ早く!」

「それは、そのモンスターが?」

「いや俺が」

「あなたがっ!?」

 

 弱らせてから切る方がこの拠点を壊さずに済むから、なるべくそうしたい。だから影響が出ないように早く避難して欲しいのに、シターシュさんは椅子に優雅に腰掛けたまま、動こうとしない。危機管理能力はたらかせて!? そう願って急かすのに、彼女は微笑みを絶やさない。

 

「今外にいるのは、カボチャを被っていなかったか?」

「は? か、カボチャ? そう、だった、かもしれないっすけど……」

 

 シルエットしか見えなかったからアレだけど、言われてみればソレっぽかったかもしれないけど……。いやいやいや!? 不意を突かれて時止まっちゃってたけど、ソレ今聞くこと!?

 

「それがどうしたって話ですよ! っ、いや、待てよ? シターシュさんは、あのモンスターのことを、対処を知っているってことですか?」

「そうだな。よーく、知っているよ」

「早く教えてください! 俺が相手します!」

 

 俺がテンパってるのに、シターシュさんは相変わらずニコニコしてる。焦る俺の耳が、拠点にしている洞穴の壁の石が外から掘られていく音を捉えた。バカ正直にドアから入ってこない! ドアの先の黒曜石より周りの石の方が柔らかいのを知っている! しかもこの音、ツルハシを使ってる!? どこまで頭脳派なモンスターなんだ!?

 やっぱり動かない彼女を背中に庇って、相棒のダイヤ剣と弱化のポーションを構える。石が掘られる音はすぐそこまで来てる!

 

「シターシュさん! あのモンスターの対処は!?」

「そうだな、豚肉のステーキが好物だからそれを渡せば大体怒りは収まる」

「やっべぇウサギ肉しかねぇ!!」

「『そういうのじゃない』とは言わないのだな」

 

 あ、うっかり。

 そんなくだらない遣り取りをしてる間にも、洞穴の石壁の見える場所に、ヒビが入り始めた!

 

「シターシュさん、早く!」

「なに、そんなに焦らなくても大丈夫さ」

 

 信じられない速度でヒビが入っていく石壁が、ついに突破された。

 ツルハシを持ったソイツは、やっぱりさっき見た頭が巨大なヒト型だった。たくましい肉体に暗い赤色のコートを纏ったソイツは白い手袋を填めた手で、ツルハシの柄を憎しみを込めて握っていた。そして、ランタンの灯りで照らされて見えた頭は、確かにカボチャだった。

 

「ソイツは、私のツレだからな」

「……ぅえっ?」

 

 突然の暴露に狼狽えてシターシュさんの方を向いたら、モンスターが身動ぎした気配がして、気を引き締める間も無く飛びかかられた!

 

「ぐっ!」

 

 ダイヤ剣(相棒)で斬撃を受け止めたけど、あまりに重たくて1、2歩下がらされた。相手の剣もダイヤ剣な上、職人魂の輝きをきらめかせている。その太刀で一撃喰らえば、恐らく見た目より酷い傷を負わされるだろう。背後にシターシュさんがいるから、意地でも引かない。向こうも引かないからガチガチと鍔迫り合いが始まった。

 近くで見てやっと、カボチャに穴があるのに気が付いた。不器用に丸くくり抜かれた2つの円に、ガタガタしてる横一文字に掘られた穴。その3つで人の顔のようになっていて、丸い穴の奥から赤い目が、興奮して血走った真っ赤な目が俺を捉えていた。めちゃめちゃ怒ってんじゃーんっ!!! ヒエーーーッ!

 そ、そういや、こんなこと言ってたような!!!

 

「う、ウサギ肉しか持ち合わせないですけど、ステーキ食べていきますかっっっっ!??!!!?」

「……はぁ?」

「フハハハハハッ!!」

 

 咄嗟に飛び出た、ひらめきというよりトチ狂った発言。それは目の前の男の意表を付いて、シターシュさんを笑わせた。空間を震わせるような豪快な笑い声に毒気を抜かれたのか、カボチャ頭の男は下がって、剣をインベントリに仕舞った。ずっと笑っていたシターシュさんも目尻に浮かんだ涙を指で拭うと、やっと椅子から立ち上がった。カボチャ頭の男が彼女に駆け寄って肩を掴んだ。

 

「お嬢……っ!」

「ヨシト、この方は私を助けてくれたんだ。心配は要らない」

「…………!」

「彼の無害さは、話せば分かる」

 

 カボチャ頭の男は殆ど口を開くことなく、目ヂカラだけで主張しているらしい。無口な人なんかな。でもアクティブだし、もしかして、喉が今おかしいのかな。あ、だから俺がシターシュさんが連れ去る形になった時、呼び止める声が無かったのか。彼女を呼ぶ声も今、大分ガラガラしてたしな。

 

「シターシュさん、お連れの方に治癒のポーションはいかがです? 俺が作ったので宜しければ」

 

 カボチャ頭さんへの説得を続けていたシターシュさんへ、開いた壁を黒曜石で埋めてからそう尋ねると、カボチャ頭さんがこっちにバッと振り向いてメチャクチャ驚いてた。シターシュさんは相変わらずニヤニヤ笑ってる。

 

「どうして?」

「え? だってお連れの方、声ガラガラでしたよ? あの、カボチャ頭さん。治るのに時間がかかっても美味しい方がいいなら、ハチミツ入りのホットミルクも用意できますが、どうします?」

「フッ、フフフッ……!」

「シターシュさん?」

 

 声が出なけりゃ自己紹介もできない。だから選択肢を出して提案したら、シターシュさんは肩を震わせて笑ってるし、カボチャ頭さんは腰に手を当てて大げさに俯いていた。あ、人の首だ。

 

「フフフ……、どうだヨシト! 言った通り、彼は善人だろう?」

 

 えっなに突然。照れるじゃん。ちょっと俺の心臓に悪い発言の後はまた笑い出すシターシュさんの横で、カボチャ頭さんがアイデンティティっぽいカボチャを脱いだ。黒い短髪に適度に焼けた肌。切れ長でシターシュさんより濃い赤色の瞳を持った男性だ。

 

「うわっ! しっかり人間だ!」

「ブフォッ!!」

「……っ!」

 

 心の声が口から出ちゃったら、シターシュさんは吹き出して更に笑っちゃったし、カボチャ頭だったさんもついに笑った。声は出てないし、ちょっと顔も赤い。見立て通り、体調が優れてなかったんだろうなぁ。

 

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